7ホ 「旧約聖書」(Old Testament)と「新約聖書」(New Testament)という表現
コリント第二 3:14 ― ギ語,ἐπὶ τῇ ἀναγνώσει τῆς παλαιᾶς διαθήκης(エピ テーイ アナグノーセイ テース パライアース ディアテーケース)
ラ語,in lectione veteris testamenti(イン レクティオーネ ウェテリス テスターメンティー)
1611年 |
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ジェームズ王欽定訳 |
1950年 |
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クリスチャン・ギリシャ語聖書 新世界訳 |
今日,ヘブライ語とアラム語で書かれた聖書を「旧約聖書」(Old Testament)と呼ぶのが一般的な習わしとなっています。これはラテン語のウルガタ訳と英語のジェームズ王欽定訳のコリント第二 3:14の読み方に基づいています。クリスチャン・ギリシャ語聖書は一般に「新約聖書」(New Testament)と呼ばれています。コリント第二 3:14のディアテーケースという語は,その語が出て来るギリシャ語本文の他の32か所の場合と同じく「契約」(covenant)を意味している点に注目できます。―付録7ニ参照。
ラテン語テスターメントゥム(属格,テスターメンティー)の意味について,エドウィン・ハッチは自著,「聖書ギリシャ語論文集」(Essays in Biblical Greek,オックスフォード,1889年,48ページ)で次のように述べています。「後期通俗ラテン語に関する言語学に無知であったため,初期ラテン語の訳やウルガタ訳でこの語[ディアテーケー]の訳語となった“testamentum”[テスターメントゥム]は,『[遺言としての]誓約』(testament)または『遺言』(will)を意味するとかつては考えられていた。しかし,この語には実際には『契約』(covenant)という意味もあった。もっとも,その意味だけしかなかったわけではない」。同様に,「英語の読者のためのさまざまな著者による聖書註解」(A Bible Commentary for English Readers by Various Writers,チャールズ・エリコット編,ニューヨーク,第8巻,309ページ)の中で,W・F・モールトンは次のように記しています。「古期ラテン語による聖書翻訳において,testamentum[テスターメントゥム]はこの語[ディアテーケー]の一般的な訳語となった。しかし,この語は遺言(will)というような意味を考えることの不可能な箇所でしばしば用いられているので(例えば,詩編 83:5で,神の敵たちが『神に対してテスタメントを取り決めた』などと詩編筆者が言うとはだれも思わないであろう),ラテン語のtestamentum[テスターメントゥム]がギリシャ語の広い使用法にこたえるため,意味をふえんして用いられたことは明らかである」。―詩編 25:10と詩編 83:5の脚注参照。
上記のことと照らし合わせると,ジェームズ王欽定訳によるコリント第二 3:14の「旧約(old testament)」という訳は正しくありません。現代の多くの翻訳者はこの箇所を「古い契約(old covenant)」と正しく訳しています。使徒パウロはここでヘブライ語・アラム語聖書全体のことを言っているのではありません。また,霊感によって記されたクリスチャンの書が「新約」(new testament)を成すと述べているのでもありません。使徒は,モーセによってモーセ五書の中に記録され,キリスト教時代以前の聖書の一部を成したにすぎない古い律法契約について語っているのです。その理由により,彼は次の節で,「モーセが読まれるときにはいつも」と述べています。
したがって,ヘブライ語・アラム語聖書を「旧約聖書」,クリスチャン・ギリシャ語聖書を「新約聖書」と呼ぶべき正当な根拠はありません。イエス・キリストご自身,聖なる書物の集合体を「聖書」と呼ばれました。(マタイ 21:42; マルコ 14:49; ヨハネ 5:39)使徒パウロはそれを「聖なる書」,「聖書」,「聖なる書物」と呼んでいます。(ローマ 1:2; 15:4; テモテ第二 3:15)ローマ 1:2の霊感の表現と調和して,英文新世界訳の表題には“the Holy Scriptures”(「聖なる書物」の意)という表現が用いられています。