おとなのためのベビー・フード
マーケットでミルクを買うとき,あなたはおそらく,それが赤ちゃんの食物であるとは考えないでしょう。しかし実際にはそのとおりで,ミルクは赤ちゃんの食物です。にもかかわらずミルクはおとなの食物として人気を得,料理や種々の飲物に使われています。しかしこの赤ちゃんの食物は,ほんとうにおとなにもよいのでしょうか。
わたしたちに一番なじみの深いミルクは,なんといっても牛乳でしょう。しかしほかの動物のミルクを人々が使いなれている国もあります。たとえば地中海周辺の国々や,ノルウェー,スイス,ラテンアメリカ,およびアジアとアフリカの一部では,ヤギ乳に人気があります。北極地方の人々は,馬やトナカイの乳を用います。スペインやイタリアでは羊の乳が好まれます。インドとかフィリピンでは水牛のミルクがふつうに使われており,南米ではラマのミルクが使われます。
どんなミルクを使うにせよ,ミルクは危険です。なぜかというと,ミルクは病原菌に汚染しやすく,また病原菌の急速な繁殖にうってつけの培養基だからです。結核,波状熱,腸チフス,敗血性扁桃腺炎,しょう紅熱,ジフテリアなどの病気は,ミルクによって広がることもあるのです。
ミルクの保護
それで,もしミルクを使うとすれば,きれいなミルクだけを使うことがたいせつです。ミルクを買って帰ったならば,冷たい場所におかねばなりません。これは,バクテリアの急速な繁殖を防ぐのに必要です。汚れた容器に入れたり,ハイやほこりにさらすことは,好ましくない細菌を招くおそれがあるので禁物です。
ミルクの会社は,容器の消毒やミルクの低温殺菌によって消費者の保護に努めます。低温殺菌というのは,ミルクを摂氏62度に熱し,30分間処理することです。大部分の細菌は熱で死滅し,ミルクは使用に比較的安全な状態となります。しかし細菌と胞子を完全に殺してしまうには,濃縮ミルクや練乳の場合と同じ方法で殺菌しなければなりませんが,それにはずっと高温が要求されます。ところが多くの人は滅菌ミルクの味をきらいます。
熱で殺菌すると,ミルクの中のビタミンCとB1の量が減り,有用な乳酸菌を破壊するという理由で,ミルクの低温殺菌に賛成しない人たちもいます。ビタミンB1は,含有量の15パーセントも破壊されます。一方,生ミルクはビタミンを多く含みますが,危険な細菌を含む可能性も大きいのです。ミルクを安全なものにするには,たしかに特別の注意が要求されます。
ミルクは完全食品ではありませんが,必要なものが一番よくそろっている食品で,約50の異なる物質を含んでいます。しかし,銅とか鉄,ヨード,マンガンなどの,成長に必要な成分が数個欠けています。
母乳と牛乳とを比較すると,大きな相違のあることがわかります。母乳に含まれるビタミンCは,牛乳の2倍ないし3倍で,乳糖も1.5倍です。一方,カゼインと灰分は牛乳のほうに多く含まれています。これは授乳のさいに考慮すべき事柄です。
たとえ乳糖を加えて改造しても,牛乳は母乳に代わるものとはなりません。蔗糖は乳糖と同じものではありません。したがって,蔗糖を使っても,牛乳中の糖分は母乳に近いものとはならないのです。ですから赤ちゃんの必要を最もよく満たすのは,母乳であって,牛乳ではありません。また,乳房から直接に飲めば,乳は空気にさらされることがないために,赤ちゃんは母乳中のビタミンCをそっくり摂取しますが,これが空気にふれると,ビタミンは酸化によって破壊されるのです。
ミルクはおとなにもよいか
多くの医師は,ミルクを,子供の食物であると同時に,おとなの食物でもあるとしてすいせんし,おとなは,料理に使われるものをも含めて一日に0.5㍑,子どもは1㍑かそれ以上飲むことをすすめます。そしてミルクは,カルシウムを最も多量に含む食物と考えられています。彼らの意見によると,適量のミルクを飲むことは,成長期の子どもと妊娠中の女性にとってとくに重要です。
他方,ミルクはおとなにはよくない,と言う人たちがいます。J・I・ロディル著「健康な生活のための百科事典」は,幼児期以後のミルクの使用に反対しています。「アレルギー,身長ののびすぎ,抗生物質含有量などは,われわれの反対理由のほんの一部にすぎない」と同書は述べています。別の本で同著者は,ミルクは関節炎,副鼻腔炎,かぜ鼻カタルなどの一因となる,という考えを述べています。
このように,ミルクがおとなによいかどうかについては,意見がまちまちです。ミルクを飲んで,よくない反応を経験する人があることは,否定できません。しかしミルクにはたしかに,たん白質,脂肪,炭水化物,ミネラル,そして,いく種類かのビタミンが含まれていますから,栄養のある食品には変わりありません。
また,人間に動物を食べることを許した人間の創造者は,イスラエル人に約束した土地を望ましいものにしたもののひとつとして乳をあげ,「乳と密との流るる地」と語っておられます。(出エジプト 3:8)聖書には,アブラハムがおとなの訪問者に牛乳をすすめたことまでしるされています。(創世 18:8)ですから,神がミルクを人類の食物のひとつとして準備されたことは確かです。
ミルクを使うといろいろおいしい料理ができ,またさまざまな食品がミルクから作れるので,ミルクは人の食事に,興味をひく変化を添えます。こうして,この赤ちゃんの食物は栄養のあるおとなの食物としても,広く使われているのです。