若い人は尋ねる…
どうしてあんなことをしてくれたのだろう
「私はジーナを姉として尊敬していました。a よく映画に連れていってくれたり,宿題を手伝ってくれたりしたんです。姉が問題を持っていたなんて,クリスチャン会衆から追放されるという発表があった夜まで知りませんでした。ショックでした。信じられませんでした。問題を持っていることなど,私には一言も話してくれませんでした」― テリー。
「兄はビルといいます。兄のことは深く尊敬していました。楽しくおもしろく,人好きのする人でした。家族で食事をする時は,おなかがよじれるほどみんなを笑わせることもできました。でも,普段はとても怒りっぽい人でした。金持ちでわがままな子たちとぶらぶら時を過ごすようになり,麻薬にも手を出しました。そのためビルのかんしゃくは次第にひどくなり,そのうち両親とけんかをするまでになってしまいました。一度など,母をこづき回すところを見ました。ある週に,家族で初めてのキャンプ旅行を計画していました。僕は本当に楽しみにしていました。ところが,ビルが行き先も告げずに家出してしまったんです。ビルがどうなるかと思うと恐ろしく,心配でした。でもやはりビルに対して腹が立ちました。父が旅行をとりやめなければならなくなったからです。いつもビルが何もかもめちゃくちゃにしてしまったからです」― ドン。
兄や姉が反抗したり,家出したり,逮捕されたり,何か家族の恥になるようなことをしたりすると,心が痛みます。
あなたは年上の兄弟(兄か姉)をしばしば模範と仰いできました。それで,その兄や姉が,尊敬されている立場から転落してゆくのを見るのは,衝撃的な経験となるかもしれません。自分のことまで心配になり,『自分もそうなるのだろうか』と考える場合さえあるかもしれません。
憤りも強い感情で,これとも闘わねばならないかもしれません。あなたや家族をさんざん苦しい目に遭わせるので,あなたは反抗的な兄や姉に憤りを感じます。「母も父もどうしてよいか途方に暮れ,うんざりしていました」と,ドンは述懐しています。親の注意が ― あたかもあなたなどいないかのように ― 専らわがままな兄や姉に向けられることも,憤りの種になるかもしれません。親の注意を引くために,少しくらいぐれてみたい気持ちになることさえあり得ます。
逆に,親が反抗的な兄や姉を厳しく懲戒するのを見て,親に対し憤りを覚えることもあるでしょう。『そこまで厳しくしなくてもよいのでは』と思うかもしれません。親が兄や姉をしかるのを聞いてうんざりすることもあります。兄や姉がいま満喫しているように思える自由な生活は楽しいだろうなと考え,ひそかにうらやましく思う若者さえいます。あるいは,友達にそのつらい状況を説明しなければならないのが恥ずかしいと思うだけの場合もあります。
では,兄や姉が時としてこちらを裏切るようなことをするのはなぜでしょうか。また,自分の生活が必要以上に影響されないようにするには,どうしたらよいでしょうか。
兄や姉が時に失敗する理由
「すべての者は」― 大いに尊敬される兄や姉でさえも ―「罪をおかしたので神の栄光に達しない」と,聖書ははっきり述べています。(ローマ 3:23)そして若者は,自分の感情や衝動を抑えることを学んでいない場合が多いため,特に悪行に陥りやすいのです。それで聖書は,「愚かさが少年[つまり若者]の心につながれている」と述べています。(箴言 22:15)ですから,兄や姉の失敗でどんなに心が痛むとしても,その悪行が自分個人に向けられたと思い込む根拠は恐らくないでしょうし,あたかも自分が悪行に陥ったかのようにむやみに恥ずかしく思う理由もないでしょう。
兄や姉を育てる面で,親にいくらかの失敗があった可能性もあります。甘やかし過ぎて,きちんと懲らしめなかったのかもしれません。(箴言 13:24; 29:15,17)あるいは,何かの点できちんと模範を示さなかったのかもしれません。たとえそうだとしても,兄や姉の問題に関する親の責任を追及しようとして,親と激しく言い争ってみたところで,ほとんど何も成し遂げられないでしょう。
子供をしつける面で親の側に失敗があったというよりも,それにこたえ応じるべき兄や姉の側に失敗があったということのほうが恐らく多いに違いありません。
親はどのように感じるか
親の気持ちを考えれば,兄や姉がぐれたときに,親が特に打ちひしがれるわけが理解しやすくなります。親は,子育てに多くの時間と努力と感情をつぎ込んできました。もし子供が悪いことをすれば,親は育て方が間違っていたのだろうかと考えたり,そのことで罪悪感を抱いたりしてしまうものです。
それで,兄や姉の問題で一番大変な時には,親があなたのことをかまってくれないように見えるとしても不思議ではありません。マイロン・ブレントン著,「十代の子供の反抗期を乗り越える方法」はこう説明しています。「反抗的な子供は親の世界の中心にいて,親に感情的エネルギーを非常に多く費やさせるため,ほかの子供たちは無視される。ある麻薬中毒者の子供の母親は,『上の娘のことしか目に入らず,下の娘や夫のいることさえ忘れていた』と述べた」。
親がこのように反応するとすれば,それは公平なことではないかもしれません。しかし,そうなるのも理解できるのではないでしょうか。聖書は,ダビデ王が息子アブサロムの反抗と死に面した時の様子を伝えています。ダビデは非常に取り乱し,一時的に平衡を失って,ただ「我が子アブサロム! アブサロム,我が子よ,我が子よ!」と叫ぶ以外にほとんど何もできませんでした。(サムエル第二 19:4-6)事態が収まってくると ― 時がたてばそうなるものですが ― 親は徐々に平衡を取り戻し,前よりも十分にあなたの世話ができるようになります。
『自分も同じことをするのだろうか』
これは,多くの若者にとって大変気になる問題です。特に,兄や姉が味わっている“自由”に多少なりとも興味を持っているなら,そうでしょう。
まず知っておくべきなのは,兄や姉を尊敬してきたとしても,あなたには依然として神のみ前に正しいことを行なう責任があるということです。ヤコブ 4章17節には,「正しいことをどのように行なうかを知っていながら行なわないなら,それはその人にとって罪なのです」とあります。(ガラテア 6:5と比較してください。)兄や姉がいま持っているうわべだけの自由をうらやむのは,全く愚かなことです。詩編作者アサフは,一時そのようなねたみを自分で感じました。しかし,反抗的な罪人に臨む結果を注意深く調べた後,そのような者たちが「滑りやすい地に」いるという結論に達しました。災いから間一髪で逃れたのです。(詩編 73:18)悪行が心痛をもたらすことを知るために,自分で悪行を経験する必要はありません。―ガラテア 6:7,8。
もう一つ知っておくべきなのは,兄や姉が行なうことは決して,あなたが将来行なうことの予告編ではないという点です。(最初に登場した)テリーは,「私は姉がしたことをするつもりはありません。姉とは違います。二人は別の人間なんです」と述べましたが,そのとおりです。
例えば,ヨセフに関する聖書の記述を考慮してみましょう。ヨセフの10人の兄のうち,見倣うに足る良い手本をヨセフに示した者は一人もいませんでした。しかし,ヨセフは兄たちのつまらない手本に影響されませんでした。義の原則をしっかり守り,「兄弟たちの中からより出された者」となって,数々の特権や祝福を得ました。―申命記 33:16。創世記 49:26。
同じようにあなたも,兄や姉がどんな歩み方をしようと,「語ることにも,行状にも,愛にも,信仰にも,貞潔さにも,忠実な者たちの手本とな(る)」よう努力できます。(テモテ第一 4:12)あなたの忠実な努力がきっかけとなって,兄や姉は自分の生き方を改めるようにさえなるかもしれません。
兄や姉の失敗から学ぶ
このつらい状況から何かの益を得るよう努めましょう。例えば,兄や姉は「悪い交わり」― 悪い言葉を使い,麻薬を使用し,アルコール飲料を乱用し,不道徳な行ないにふける若者たち ― を求めたのでしょうか。(コリント第一 15:33)あなたも,自分が付き合っている人たちをもっとよく観察する必要があるかもしれません。
あるいは,兄や姉が親の助言にどう反応したかについて考えてみましょう。食ってかかるような態度を示し,強情で,反抗的だったでしょうか。もしそうなら,あなたも時々,親に口答えしたり,親から言い付けられたことをする時にぐずぐずしたりすることはないでしょうか。『父と母を敬う』面でもっと良心的になれるでしょうか。―エフェソス 6:2。
これは易しいことではないでしょう。しかし,あなたと家族はこの悲しい経験を乗り越え,何らかの良い結果を得ることになるかもしれません。その間も,兄や姉が自分の行動の間違いを悟って生き方を変えるという希望を決して捨てないようにしましょう。(ルカ 15:11-24と比較してください。)家族の者は裏切るようなことをするかもしれないとしても,エホバは決して「あなたを離れず,決してあなたを見捨てない」ことを絶対に忘れてはいけません。(ヘブライ 13:5)それで,エホバに対する忠節を第一としなければならないのです。神を喜ばせたいという願いは,たとえ愛する兄や姉が違う生き方を選んだとしても,あなたが清く貞潔な生き方をする動機となるでしょう。
[脚注]
a 一部の名は仮名です。
[24ページの図版]
親の気遣いは反抗的な兄や姉に集中することが多い。その結果,悪いことをしていない子供はなおざりにされていると感じるかもしれない