世界展望
依然として続く飢きんの脅威
◆ ザ・ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると,広範に及ぶ飢きんの脅威は依然として去っていない。今年中に,1,000万人ないしは3,000万人が飢きんのために死亡する恐れがある,と同紙は見ている。1973年の穀物生産高は前年より2,000万㌧多かったものと思われる。しかし,備蓄穀物の量はこれまでの20年間で最低であった。著述家ロイ・L・プロスターマンは,開発途上国が大きな影響を被るものと考えている。同氏はこう語っている。「来年(1974年)中に,アメリカ人が出すごみかんの中には,アジアとアフリカで多数の人を救うに足る食物がはいっているだろう,といっても少しも誇張ではない」。
悲惨な事態に向かう経済の動向
◆ 最近,世界的な経済家たちはよりよい通貨体制を確立すべく努力している。しかし中には,今ではもう遅すぎると考えている人もいる。「通貨と信用」という本(ニューヨークのマクロ出版社発行)にはこう書かれている。「たとえすべての国家が近いうちに,貿易および通貨の新体制を採用することに同意したとしても,それが実際に履行されるまでにはおそらく数年を要するだろう。それに少なくとも,世界にはそのような時間が残されていないことがますます明らかになっている。すでにわれわれは,取り返しのつかないところまで来ているのかもしれない。悲惨な事態に向かう傾向は,逆行できないほど深刻なものなのかもしれない」。
インフレの結んだ実
◆ アメリカの農産物の卸売価格は,昨年8月に23%という記録的な上昇を示した。労働省によると,アメリカ全体のインフレ率は今世紀最悪のものに近い。インフレは,万引きや従業員による盗みの急激な増加などを含む,数多くの他の問題を引き起こした。ザ・ウォール・ストリート・ジャーナル紙は,「自分の定収入が食品価格の上昇についてゆけない固定収入の年配者による万引」が増えている,と伝えている。中には,安い値段の品物の値札をはずして,高い値段の品物に付けるような者もいる。あるデパートの警備責任者はこう語っている。「値札をつけ変えることは[万引ほど]不正なことではないと思っている人がいる。自分たちはうまくやっているにすぎないと彼らは考えている」。
世界各地の牛肉
◆ 1ポンド(約450グラム)のロインロース(牛の腰肉の上等な部分)を買うのに1ドル79セント(約465円)も払わなければならないとこぼしているアメリカの主婦たちは東京の牛肉の価格に肝をつぶすであろう。東京では,ロインロース1ポンドが12ドル86セント(約3,344円)もする。他の都市におけるロインロース1ポンドの価格は次のとおりである。ボン,3ドル84セント(約998円); ブリュッセル,2ドル78セント(約723円); コペンハーゲン,3ドル57セント(約928円); ロンドン,2ドル59セント(約673円); パリ,2ドル29セント(約595円); ローマ,2ドル88セント(749円); ストックホルム,4ドル3セント(約1,048円)。他方,ブエノスアイレスではロインロース1ポンドを74セント(約192円)で,またブラジリアでは82セント(約213円)で求めることができる。
教会員の数が減少する理由
◆ 教会に行くのをやめる人がいるのはなぜだろうか。最近号の「プレスビテリアン・レイマン」誌上に教会の衰退に影響していると思われる事項が列挙されていた。その中には次の点が含まれている。「(1)全米教会会議(資金面では長老派教会に大きく依存している)は,われわれの教会のある当局者と同じく,市民的不服従という考えを是認した。(2)……無神論者を自任する人が1969年のわれわれの総会の席上に……現われた。(3)われわれの教会はかなりこうかつな手段を用いて,[彼の]組織に5万㌦(約1,300万円)を譲渡した。(4)われわれの教会は「社会的な論争となっている問題に対する公式の態度を表明し,かつそうした態度を政治的に推進することを目的として」首都に事務所を開設した。(5)われわれの,教会と社会に関する審議会は『性機能と人間社会』という本を発行し,その中で,婚前の処女性と夫婦間の貞節を,われわれの社会における中産階級の白人新教徒が持つ「教養人の慣習』であるとして片づけている」。同記事が,「われわれの教会は深刻な事態に見まわれている」と述べているのも当然である。
増える脱税行為
◆ 米連邦政府は,個々の脱税者のために1年で少なくとも60億㌦(約1兆5,600億円)の被害をこうむっている。当局者の話によると,問題はますます増えている。当局側のまちがいにも一部責任がある。一般の人びとは納税法にとまどっている,と担当官吏は語っている。しかし今や,さらに大ぜいの人びとが故意に不正を働いている。なぜだろうか。監査を受ける確率が10年前のわずか三分の一にすぎなくなっているからである。政治上の理由に基づいて税金の支払いを拒否する人もいる。官吏による不正行為が他の人びとにまで波及している。政府の監査官S・ウルフはこう語っている。「公衆の道徳的性格は,政府と産業界の中に見られる事がらによってのみ害される」。
“疫病”は相い変わらず人類を悩ましている
◆ 「昨年の9月初めまでに,イタリアでは800人のコレラ患者が報告され,そのうち20人以上が死亡した。ナポリ市の下水排出口の近くの,汚染されたムラサキイガイの養殖場がコレラの主要発生源とみなされ,これらの養殖場は破壊された。レモンや酒はコレラの予防によいと考えられているため,レモンは1㌔1,430円にもなり,酒類は箱単位で売れた。世界保健機構の報告によると,アフリカで過去2年間に発生したコレラ患者約8万人のうち2万人が死亡し,報告されていない死亡者も多数いる。コレラ患者は脱水状態になって死ぬ前に,1時間に普通約1㍑の体液を失う。
メキシコを襲った災害
◆ 自然の力は,人間が小さなものであることを再度明らかにした。メキシコでは過去30年の間に,非常に大きな破壊力を伴う幾つかの洪水が低地帯や,南部および南西部の地方を襲い,多大の物的損害を与えた。そして,昨年の8月28日には,震央付近の地震計の針が振り切れてしまうほどの,強い地震が2万8,000平方㌔の地域を揺るがした。約6分間というこの地震の継続時間は,メキシコの地震の記録では最長であった。プエブラ州では,ビルや個人の家屋が倒壊した。この地震で,少なくとも500人が死亡し,4,000人が負傷した。
猛威を振う性病
◆ 1973年8月5日付のボストン・グローブ紙はこう報じた。「アメリカでは15秒ごとに1人,あるいは1日当たり5,000人が性病にかかっている。若者の間にまんえんしている性的な傾向からすると,高校生10人につき1人が性病に感染しており,卒業までには5人に1人がこの病気にかかるものと見られている」。確かに,一般に「まんえんしている性的な傾向」は避けるべきである。
最新のアメリカ犯罪報告
◆ 昨年の8月8日に,米連邦捜査局(FBI)は過去17年間ではじめて,重要犯罪の発生件数が減少したことを発表した。それによると,減少は2%であった。しかしながら,批評家は犯罪報告書の正確性と資料網羅の完全性について疑念を表明した。法務長官エリオット・リチャードソンはその点を認め,こう語った。「発生した犯罪の一部だけが,なんとか警察に届けられているにすぎないことは,広く一般に認められているところである」。アメリカでは昨年,総計589万1,900件の犯罪が届けられた。
1972年の天候
◆ スイスのジュネーブで出された世界気象機関公報の最近版には,1972年の天候が世界じゅうどこででも異常であったことが示されている。アイルランドの6月は,6月としては100年来の寒さであった。モスクワはこれまでになく暑い夏を経験したが,そのように暑くなる前,ソ連の河川は普通より1か月も長く氷におおわれていた。スペインでは,同年の年間降雨量は1859年以来最も多かった。オランダ,ドイツ,フィンランドおよび日本では暴風雨が吹き荒れ,人命が損なわれたり,家屋,船舶,樹木などに被害が出たりした。インドでは,酷暑のため750人が死んだ。ホンコンでは豪雨があり,悲惨な地すべりが生じた。オースラリアは厳しいかんばつと洪水の両方に悩まされた。