世界展望
未開拓森林地帯の作物
● かつては零細企業として知られていたものが,主に前科者やしたたか者の経営する年間100億㌦(約2兆6,000億円)の大企業にのし上がっている。その企業とは一体何だろうか。マリファナの栽培であるとニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。その主要な生産地域はカリフォルニア州北部,ハワイ州,オレゴン州,ケンタッキー州,ミズーリ州,アーカンソー州,オクラホマ州,ワシントン州,アイダホ州などである。最大の規模で栽培を行なっている者たちは,ほとんどが公共の土地である未開拓の地域を用い,種なしマリファナとして知られている,1本で2,000㌦(約52万円)ないし3,500㌦(約91万円)の価値のある,特別に強力なマリファナの改良品種を栽培している。カリフォルニア州北部の栽培者たちは,彼らの栽培地をそれと知らずに通り抜けたハイカーやハンターを射殺したり,仕掛け地雷で傷つけたりした。「いなかでは毎日のように人々が殺傷されている」と,その地方で最大の新聞の一つ,「ユカイア・デーリー・ジャーナル」紙は述べている。アイダホ州法執行局の局長,ジョン・ルーニーは栽培者について,「彼らはもうヒッピーのようなタイプの者たちではない。マリファナ栽培を一つの企業とみなすしたたかな連中である。この仕事に本腰を入れており,何としても投資物件を守ろうとする」と述べている。
まき不足
● サイエンス誌は,ロンドンに本拠を置く国際環境開発研究所の一部であるアーススキャンが最近発表した報告書の大要をまとめ,「貧しい人々が料理や暖房に使う燃料のまきの供給が不足しており,減少しつつある」と述べた。10年前に初めて一般の注意が喚起され,その後第三世界の多くの国々や支援機関が植林や他のさまざまな計画を促進すべく努力を傾けてきたにもかかわらず,この不足は続いている。需要の見込みは,木の「植わった地域を現在のざっと5倍,アフリカの幾つかの地域では20倍以上に増やす必要のあること」を示唆している。結論としてアーススキャンは,「本当に貧しい人々にとって,かつてはただで手に入れることができたまきの枯渇は,食糧,水,住居など不十分な量を供給することも非常に困難になっている基本的必需品に燃料も仲間入りをすることを意味する」と述べている。
宇宙競争
● 昨年の11月,二つの漂流衛星を回収する目的でスペースシャトルのディスカバリーが打ち上げられた二日あとに,アリアン V 11号ロケットが大した前宣伝もなく仏領ギアナのジャングルから打ち上げられ,2個の電気通信衛星を軌道に乗せた。うち1個は米国のある会社のものだった。タイム誌はその打ち上げを「不吉な成功」と呼んだ。なぜだろうか。それは,これまでも打ち上げに成功し,今回も成功した結果,アリアン宇宙ロケット ― 欧州宇宙機関が開発したもの ― は,宇宙における利益を争う,スペースシャトルの主要なライバルになったからだ。アリアンの大きな魅力は,衛星の打ち上げ成功率がシャトルよりも高いことにある。また,アリアン・ロケットによる衛星打ち上げ料金はスペースシャトルと十分競争してゆける価格になっており,これも顕著な問題になっている。シャトルによる衛星打ち上げ料金は今年の10月に80%の値上げが予定されているからなおさらである。
大都市における売春
● 「かつては9㌔にわたるハリウッドのサンセット大通りを,大勢の売春婦のグループがぶらついていたものだが,最近のある金曜日に警官の1回のパトロールで目についたのは3人だけであった」。8か月前には「約80人であったのがここまで減少した」と,ニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。逮捕者は一晩に30人ないし40人であったのが7人ほどに減った。なぜだろうか。警察が効果的できめの細かい街頭パトロールを行なう上にコンピューターを利用するので,売春婦は偽名が使えないからだ。コンピューターで顔形,前科,偽名,指紋などを照合するからである。前科のあることが確認された者は,より長い懲役刑を科せられた。
● 昨年ニューヨーク市の警察が売春のかどで逮捕した者の数は1万7,000人で,そのほとんどが街娼であった。しかし懲役刑を科されたのは逮捕者の5%にすぎなかった。売春婦の半数近くは数時間で釈放され,残りは罰金を科された。伝えられるところによると,売春は屋内で何の妨げも受けずに繁盛している。豪華なアパートのドアの背後に隠れた売春宿を根城にして働く売春婦たちもいる。またエスコート・サービスを通して仕事をする売春婦たちもいれば,紹介という手段により独立して働く売春婦もいる。彼女たちは性的記事を載せるタブロイド判新聞や深夜の有線テレビ,またエスコート・サービスという名目で電話帳などに広告を出す。
● メルボルンでは,商業地区や工業地区での営業許可を得ているマッサージ・パーラーで売春が行なわれることはあるが,路上で売春のあっせんをすることは依然非合法とされている。西ドイツでは,売春宿や街頭での客引きなどは,コントロールド・ゾーンでは法律で許されている。ハンブルク,アムステルダム,チューリヒなどでは毎年多数の観光客が赤線地域に引き付けられる。非常に繁盛しているある売春宿の主人は,「この世が続く限り,売春はなくならない」と言う。
私生児ブーム
● ニューヨーク・タイムズ紙の伝えるところによると,「[1983年に]ニューヨーク市内で生まれた赤ん坊のうち,婚外関係から生まれた子供は3人につき一人を上回る」。これは20年前の私生児出生率の3倍である。その記事によると都市計画者たちはそのことを憂慮しているが,「道徳上の理由からではない」。その子供たちは,「貧困な生活を送り,教育を受けるにも,職を見つけるにも,また大人としての責任を果たすにも苦労する可能性が大きい」と考えるからである。専門家によると不道徳の劇的な増加は,ニューヨーク市内に住む低所得の家族の率が高くなり,婚外関係によって子供を持つことに対する一般の人々の態度が寛容になってきているからだ。社会学者のケネス・B・クラークは別の理由も挙げ,「若い人々は実際ほかに何もすることがないのだ。仕事もない。性と麻薬以外には生活における楽しみはほとんどないと言ってよい」と述べている。
よみがえったうわさ
● 「そのうわさは最初1982年にプロテスタントの根本主義者たちから出て急速に広がった。今回うわさをまいた最大で単一のグループ……はローマ・カトリックの尼僧や司祭たちであった」と,ウォール・ストリート・ジャーナル紙は伝えている。どんなうわさだろうか。家庭用品メーカーとして米国最大手のプロクター・アンド・ギャンブル社の社長が,自分はサタン崇拝者で,会社の「月の中の人」の商標にはサタンのしるしが含まれていると言ったといううわさである。2年前に同社は,うわさの出所を探ったり,教会指導者たちから推薦状を取りつけたり,6件の告訴を正式に行なったりしてそのうわさを公に否定することにおおわらわになり,うわさはようやくにして消えた。ところが昨年の9月にそのうわさは再燃した。ペンシルバニア州西部に住む一人の尼僧が,自分の郵便受けにその話を書いたビラ ― 送り主不明 ― が入っているのを見つけ,その写しをほかの人たちに送った。その結果,1984年10月だけでも5,000通の質問状が同社に舞い込んだ。そのうわさが事実でないことを知らされた時,うわさを広めた人々の多くは恐縮してわびた。「ところがある人々はそのうわさを信じていて,どんな証拠を出されても忘れようとはしない」と同記事は述べている。
犬のためのCPR
● 「あなたの犬が,えさを入れる皿のところからふらふら歩いて来て気絶し,死んでしまった。あなたはどうするか」と,ウォール・ストリート・ジャーナル紙は問いかける。米国アリゾナ州,フェニックス市に住む獣医のゲイバー・バイド博士は,蘇生させなさいと言う。同博士は約200人の愛玩動物飼育者と獣医たちに,「犬のためのCPR」(犬のための心肺機能救急蘇生法)に関係した訓練を施してきた。受講者たちは息を短く犬の鼻孔から吹き込むことによって息を吹き返らせる方法を教わった。また,ある教育機器メーカーは蘇生アニー人形 ― 心肺機能救急蘇生講座の一部で使われる ― の犬版を作り,蘇生ドッグと名づけた。その会社の代表は,「毛や配線その他すべてがそろっていて」完ぺきなものだと言っている。気道に詰まっている物を除くことについてバイド博士は,「食物を取り去るのに決して指でしないように」と言っている。犬はかみつくからだ。
ヨーロッパのエイズ
● ヨーロッパでは,定期的にデータを提供している10か国で,「エイズ患者が8か月間に100%近く増加した」と,「罹患・死亡率週報」は伝えている。1983年の10月までは215人と報告されていたが,1984年の7月15日までにその数は421人に増加した。「ヨーロッパ10か国の患者のうち87.4%は男子の同性愛者,3.4%は血友病患者,そして1.4%は麻薬乱用者が占めている」ということである。しかし,ヨーロッパで見られる,カリブ海やアフリカから来ている患者のほとんどについては,知られている危険な要素は何も検知されていない。
“耐震”都市
● アルジェリアの町シェリフ(エルアスナン)は,これまで少なくとも6回地震で破壊されている。伝説によると一番古いところでは5世紀に破壊されている。19世紀には2度破壊された。同じ都市がまた1936年に,それから1954年に破壊され,住民47万人が家を失った。最近では1980年に起きており,3,000人の死者が出た。その原因は主に,1954年の地震のあと建てられた高層のコンクリートのアパートが倒壊したためであった。今回同市は,浅い土台の上に建てられる2万3,000戸の平屋のプレハブ住宅で再建された。「今度地震があったら,家々は金属製の箱のようにはね回るだけだろう」と,シェリフの市長ラシード・アートウフは言っており,これで犠牲者が少なくなると確信している。
危険な模造品
● 米関税局によると,模造品の生産は年間190億㌦(約4兆9,400億円)― 4年前は45億㌦(約1兆1,700億円)― の事業になったばかりでなく,今日の模造品の中には命取りになる危険の潜む物が以前より多くなっている。「模造の[有名ブランドの]シャツなどは話は別である。そういう物は体の害になることはない」と,サンフランシスコにある国際模造抑止連合の会長,ジェームズ・バイコフは言う。「しかし,模造のブレーキライニング,病院で使う人工心臓や薬剤となるとそうはいかない」。英国では模造のブレーキシューが利かなかったことが原因で一連の死亡事故が起きた。また,模造の薬剤で少なくとも12人が死亡した。アメリカ医師会は,模造の精神安定剤や二流品のアンフェタミンについて警告を与えている。
マンガにあらざるマンガ
● 「大人のための新しいマンガはとてもマンガと言えるようなものではない」とトロント・スター紙は述べている。「ヌードと激しい暴力行為が絵の大部分を占め,ストーリーはディズニーよりもサドに負うところが大きく,古いタブーをすべて破っているので,検閲されそうだと騒がれている」。これらのマンガは大抵上質の紙に目立つ色で印刷され,一部平均2㌦(約520円)で売られていて,十代後半から二十代の読者層を対象にしている。しかし子供たちもそういうものを買っている。トロントのある書店の主人は,当局の検閲があるかもしれないことを心配して,そういう雑誌は店に置かないことにしている。その理由としては,それらの雑誌にもられている「暴力行為や流血行為,破壊行為,人間性の無視などがあまりにも多いこと」を挙げている。
「あらゆる事柄を意味する」
● 「PMS[生理前症候群]は生理の始まる前に……[多くの女性の]気分を不愉快にするあらゆる事柄を意味する言葉になっている」。このように,カナダ,トロント市のグローブ・アンド・メール紙は,このほどトロントで行なわれたPMSシンポジウムの席上で心理学の教授アンソニー・クレアー博士が行なった説明を要約している。「従来PMSとされている症状があり,医療を必要とするほど激しい症状のある女性の数は約……5%である」と同博士は断言している。また,PMSの症状を訴える女性の多くは,PMSではなく実際にはストレス,役割紛争,あるいは夫婦間の問題に悩まされており,それが生理周期によって悪化したり,生理周期のせいにされているのであるとも述べている。PMSの問題が初めて明らかにされたのは1931年のことであったが,その原因は「相変わらずあいまい模糊としている」とクレアー博士は述べている。