世界展望
武器の売上高
発展途上国に兵器を最も多く売ることができるのはだれかということで,米国とソ連が張り合っている。米国の売り上げは1988年に66%上昇して92億㌦(約1兆2,880億円)になり,同じ時期に47%減少して99億㌦(約1兆3,860億円)になったソ連の水準とほぼ肩を並べた。発展途上国に対する武器の売り上げ全体の3分の2近くは,この両国が占めている。フランスと中国がそれに続き,昨年いずれも,発展途上国におよそ31億㌦(約4,340億円)相当の武器を売った。最大の市場になっているのは中東で,過去4年間に売られた兵器全体の3分の2が中東向けだった。
トンネルの偉業
カナダのロッキー山脈に最近完成したマクドナルド山鉄道トンネルは,全長14.6㌔に及ぶ北米最長のトンネルとなった。完成までに,2チームから成る500人の労働者と4年6か月の期間を要した。同鉄道の主任建設技師であるロン・タナカによれば,労働者たちは二手に分かれ,山の両側から作業を始めて中央で出会ったが,その狂いはわずか30㌢だった。このトンネルは5億㌦(約700億円)をつぎ込む事業の一環として造られたもので,その事業にはほかにもショーネシー山を貫く1.8㌔のトンネル,五つのおもな橋,1,229㍍の高架橋が含まれる。この事業の目的は,ビーバー谷流域のこう配を2.2%から1%に減らすことである。そうすれば,西行きの貨物列車に補助機関車を付け足す必要が無くなる。かつて貨物列車がロジャーズ峠を越えてビーバー谷に行くには,3,000馬力の補助機関車を6両必要とした。
角のないサイ
野生生物の保護にあたるナミビアの当局者は,密猟を防ぐ窮余の一策としてサイの角の切断を始めた。そうすれば,密猟者にとってサイは無価値なものになるからである。環境保護論者たちは,サイの角は毛が固まってできたもので神経がなく,そのような処置を施しても,人が手のつめを切るのと同じで痛みがないと主張している。角のないサイは肉食動物や他のサイに対して無防備になるが,絶滅寸前の種となったアフリカのクロサイの乱獲を阻止するためにはこうした非常手段が必要のようだ。過去10年足らずのうちに,アフリカのクロサイは1万5,000頭から3,500頭に減少した,と「アフリカ野生動物」誌は伝えている。またナミビアでは,100頭ほどが生息しているにすぎないと考えられていたが,今年に入って最初の5か月間で少なくとも16頭が密猟者の手に落ちた。クロサイの角は薬効があるとされるために珍重され,最近は2本で5万㌦(約700万円)という高値で国際的にやみ取り引きされている。
新しいSOS
遠距離通信が行なわれるようになって間もないころから使われていた,モールス符号によるSOSの信号が,少なくとも船舶に関しては消え去ろうとしている。1993年から,船舶は「ボタン一つで[通信衛星を経由して]遭難信号を送る」非常用位置通報装置を装備することになる,とインタナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は伝えている。この新システムは1999年以降世界中で義務づけられることになっており,沿岸警備隊もこれを使えば,コンピューターの端末から,危険に面している船舶の名前と正確な位置を読み取れるようになる。しかしモールス符号も依然有用である。同紙はこう述べている。「1985年にメキシコ市の地震が電気系統をほぼ全壊させた時,アマチュア無線家たちはモールス電信を使って助けを求めた。このような場合,モールス符号の信号によって連絡が取れる。声のメッセージを送るよりも送信に要する電力が少なくてすみ,送信の際に信号がひずんだとしても,ずっと容易に調整ができるからである」。
供養の費用
親族がほとんど,あるいは全くいない年配の日本人の中には,死後の供養と墓の管理をしてくれる人がいないことで深刻に悩む人が少なくない。しかし,幾つかの寺が悩みの解消に乗り出した。ただし有料。東京のある寺は,寺が続くかぎり,おもな仏事の際には必ず故人の遺骨を運び出して供養すると言っている。料金は50万円である。近くの埼玉県にある霊園は,50年間の供養と墓の管理を70万円で行なうと約束している。『料金を払って供養してもらう』サービスを求める人々から,すでに申し込みが来ている。
飲むべきか飲まざるべきか
アルコールを毎日“普通に”摂取することで,本当に健康が損なわれるのだろうか。損なわれる,と主張しているのは,ドイツ連邦共和国のウルム大学神経学病院に勤めるH・H・コルンフーバーである。アルコールを毎日摂取すると,脂肪を処理する肝臓の機能を弱め,肥満することになる。他の副作用としては,脈拍数の増加,血圧やコレステロール値の上昇がある。ドイツの新聞「フランクフルター・アルゲマイネ」は,調査によって,「健康が損なわれ始める境界線は,アルコールを少ししか摂取しない人と多く摂取する人の間にあるのではなく,ほどほどにアルコールを摂取する人と全く摂取しない人の間にあることがはっきり」示された,と述べている。
チェルノブイリの後遺症
1986年4月に起きたチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故により,地表のかなりの部分に放射性粒子が放出された。その発電所周辺の汚染地域では動植物に遺伝的な異常が現われている,とインタナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は伝えている。同紙によれば,ソ連の新聞「レニンスコイ・ツナムヤ」は,その地域で異様に大きな松の木や,幅が18㌢ ― 普通の約3倍 ― もある葉をつけたポプラの木が生育していると述べている。放射能によってガンになる人が増えているだけではなく,科学者たちは今,その事故で漏れた同位体の中には半減期の長い(33年)ものもあるため,遺伝的な病気・奇形・流産・未熟児の誕生が今後の世代に増加することを懸念している。
死の危険があるつまようじ
ニューヨーク・ポスト紙によれば,米国では毎年つまようじに関係した事故が平均8,176件報告されている。同紙は一例として,それで死亡した28歳の男性のケースを挙げている。その人は,熱と悪寒と出血の治療を求めていた。医師たちは緊急に手術を行ない,腹部の動脈につまようじが刺さっているのを発見した。その患者は6か月前につまようじを飲み込み,そのことを忘れていた。つまようじを飲み込んだために窒息死したり,それが患者の腸,特に結腸に刺さって死亡したりする事故が起きている。医師たちは,「万一そうしたものを飲み込んだら,直ちに適切な処置をとる必要がある」と,力説している。
宇宙のごみ
1957年10月4日にソ連の最初の人工衛星スプートニクが宇宙に打ち上げられて以来,合計1万9,287個もの人工の物体が軌道上を,おもに地球のまわりを回ってきた。NASA(米航空宇宙局)は,1988年6月30日現在で,まだ7,184個が残っていると報じた。これらの物体の大半は,用の済んだロケットから出た破片だった。しかし英国の雑誌「宇宙飛行ニュース」は,1,777個のペイロード(ロケットに積んだ観測機器など)が宇宙の軌道を回っているが,そのうち機能し続けているのは5%だけであると伝えている。
影響力の低下
米国の大学生を対象にして行なった最近のギャラップ調査で,80%近くの人が,宗教は生活の中で重要な役割を果たしていると答えたが,69%の人が婚前交渉は悪くないとみている。アトランタ・ジャーナル・アンド・コンスティテューション紙によると,その調査を委託した「クリスチャン放送ネットワーク」の論説委員は,「神を信じていながら,その信仰が個人の生活や習慣,あるいは性に関する態度や行動にそれほど影響を与えていないように思えるのは残念だ」と語った。
中国での自殺
中国では自殺が変死の原因のトップを占めるようになり,中国政府は事態を憂慮している。チャイナ・デーリー紙によれば,毎年「およそ14万人が自殺している」が,そのうちほぼ9万8,000人が女性である。それほど多くの女性が自ら命を絶つのはなぜだろうか。おもな要因として挙げられていたのは,夫が妻の「心理的,感情的必要」にこたえていないという点である。研究者のシャン・ガンナイは,「統計からすると,自殺する女性の半数は,家庭のいざこざや結婚の失敗が原因で死を選んだ」と語った。もう一つの要因として挙げられていたのは,産業化である。生活のペースが速まっていることに加え,産業化によって,「新旧の社会的価値観や道徳規準の間に対立」が生じている。ガンナイは,自殺予防の一助として,むつまじい関係の見られる温かで愛情に満ちた家庭生活を推奨している。