5章
あなたは生活上の問題に対処できる
「人生は問題でいっぱいだ」と人々は言います。あなたもそうお考えかもしれません。
2 金銭上の問題で多くの人は心を悩ませています。例えば,請求書,インフレ,不安定な職業,適当な家を見付けることなどの問題があります。夫婦間の深刻なトラブルや家庭の問題は珍しくありません。多くの若い人々の間では,性,アルコールあるいは麻薬が問題となっています。年配の人々は健康の衰えからくる問題を抱えています。このような事柄すべては有害な感情的緊張やストレスを生みます。
3 あなたは生活上の問題にどれほどうまく対処しておられますか。うつ病が広まっているというニュースや自殺のニュースは,これらの問題に対処できない人が多いことをはっきりと物語っています。しかし,逆境に面しても平衡を失わない人が大勢います。それはなぜでしょうか。
4 後者に属する人々は,聖書に記されている人類の創造者の助言により頼むことを学んでいるのです。心理学者であれ,結婚問題のカウンセラーであれ,あるいは新聞の身の上相談の欄の担当者であれ,人生について神ほど知っている人は一人もいません。神は最初の人間を創造されたので,人間の身体や精神や感情のつくりをことごとくご存じです。(詩 100:3。創世 1:27)エホバは,わたしたちの心の中で起きていることや,わたしたちが色々な物事を行なう理由を,短命な人間よりもよく知っておられます。―サムエル前 16:7。
5 さらに神は,今の世の中でわたしたちが遭遇する諸問題を,わたしたちのだれよりもよくご存じです。ほんの数年などではなく,人類の最初から,エホバは人類の問題を,そのすべてを観察してこられました。聖書には次のように述べられています。「エホバは天から見つめ,すべての人の子をご覧になった。……地に住むすべての者を注視された。神は……そのすべての業を考え計っておられる」。(詩 33:13-15,新)ということは,わたしたちがどんな問題を抱えていようと,それにどう対処すれば成功するか,あるいはしないかを神はご存じだということです。
6 神は,寛大にも,わたしたちが神の知識と経験から恩恵を得られるようにしてくださっています。聖書には神の助言が記されています。しかもそれは,わたしたちの置かれている境遇や住んでいる場所にかかわりなくわたしたちの必要に適合するように述べられているのです。詩篇 19篇7-11節(新)にはこう書かれています。「エホバの律法は完全で,魂を引き戻す。エホバの諭しは信頼に値し,経験のない者を賢くする」。
7 人が抱える二つの深刻な問題,つまり,はなはだしいストレスと孤独を克服する上で,それらの諭しがどれほど役立つかを少し考えてみましょう。それらの問題に対する聖書の実際的な助けを考慮したのち,金銭,結婚,麻薬に関係した,他の一般的な問題を調べることにしましょう。
ストレスにはどのように対処できるか
8 激しいストレスは経験したことがない,と言う人はまずいません。個人の問題,例えば金銭,家族,性,犯罪に関する問題が増加すればするほど,ストレスは一層強くなります。最近のある新聞の報道によれば,今の時代を一番よく特徴付けているのは,行動の仕方でも,服のスタイルでもなく,「ひどい緊張感」です。
9 ストレスが寿命を縮めることさえあるということをあなたはご存じでしたか。次の報告に注目してください。
「『20世紀の殺し屋』と呼ばれているストレスは,主に現代生活の様々な心理的要求に起因する。ストレスから来る身体的な病気のために,毎年少なくとも何千万人という大勢の入院患者や死亡者が出ている」― アフリカのニュース雑誌,トゥー・ザ・ポイント。
「ストレスが非常に強いときや長期間にわたるときには,体は,皮疹や普通のかぜから心臓発作やガンに至るまでの様々な病気にかかりやすくなる」― アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル紙。
胎児でさえ影響を受けます。夫との不和や失業の恐れなどから,妊娠している女性にストレスが生じると,おなかの子供の身体や精神や感情に障害をきたすことがあるのです。
10 ストレスは,また,他の様々な問題を生むので有害です。ストレスのために欠勤することが多くなり,したがって金銭的な問題が増えるということはよくあることです。また,ストレスは暴力を生みます。それは,夫婦の間にさえ生じます。ある夫は次のように書いています。
「わたしの緊張といら立ちは日増しに大きくなります。人さえ見ればあたりちらしたい気持ちです。その犠牲になるのは大抵妻です。わたしは前後不覚になるまで酔っ払ってしまいたいような気持ちですが,そんなことはなんの益にもなりません」。
11 ある程度のストレスを感じるのは正常で,必ずしも悪いとはかぎりません。朝起きる時にも野球の熱戦を見る時にも,ストレスはあります。有害なのは激しい,長期間にわたるストレス(もしくは苦しみ)です。むろん,自分にかかってくる圧力の中には,他の人々や自分の生活の事情が関係していて避けられそうに思えないものも少なくないことでしょう。それにしても,有害なストレスをなんとかする方法はないものでしょうか。ストレスをよりよく処理できるなら,健康に影響するような他の問題を減らすことができるかもしれません。
12 かつて存在した最も偉大な教師の一人として世界的に認められている人,イエス・キリストは,ストレスに対処する秘けつを教えてくださいました。神の戒めの中で最も大切な戒めは何かと尋ねられた時,イエスはこうお答えになりました。『あなたは,心をこめ,魂をこめ,思いをこめてエホバを愛さねばならない。そして,あなたは隣人を自分自身のように愛さねばならない』。(マタイ 22:37-39)この言葉を実行するのです。そうすればストレスに対処するのが容易になります。
13 例えば,配偶者や親族に対して親切にするなら,平和な関係が促進されることはまず間違いありません。温かく幸福な雰囲気が生まれ,緊張は弱まります。確かに,聖書のこの助言に従えば,ストレスを緩和する上ではっきりした結果が得られます。
14 そうなるのは家族の場合だけではありません。自分にして欲しいと思うとおりに人にも同じようにするという『黄金律』を含め,愛を示すようにという聖書の助言を実行するなら,他の人から一層好かれるようになります。(ルカ 6:31)そのことは職場や学校や地域社会において実際に起きています。いくらかの衝突はあるにしても,それが少なくなることは確かです。その結果,ストレスを感じることが少なくなることは容易に理解できます。
15 ストレスを緩和し,それに対処する上で聖書の勧めが役立つことは科学者の間でも認められています。ストレスの影響に関する一流の権威者の一人であるハンス・セリエ教授(モントリオール大学)は,次のように助言しています。
「ストレスに対処するには,麻薬その他に頼るよりもほかにもっと良い方法があると思う。それは,生活の中で起きてくる様々な出来事に対する態度を変えることである」。
セリエ教授は,「人々が生活の規準となし得る行動哲学」の必要と,その哲学が,「いかなる発見よりも人類一般に多くの益をもたらす」ということを強調しました。40年間ストレスを研究した末,その根本的な解決策は結局愛にあると言うのです。
16 聖書の勧めに従って愛を示すことが,日々の生活においても非常に実際的であるのはなぜでしょうか。なぜ効果があるのでしょうか。セリエ博士はこう語っています。
「ストレスの有無の原因となる二つの大きな感情は愛と憎しみである。聖書はこのことを繰り返し強調している。それはわたしたちが,生来持っている利己心をどうにかして改めなければ,他の人に恐れや憎しみを抱かせるということである。……人に憎まれるのではなく愛されるようにすればするほど,自分自身安全であり,ストレスも少なくなる」。
17 ストレスを生じさせる別の原因は怒りです。だれでも時には怒ります。そのことは聖書も認めています。しかし聖書はこう助言しています。「怒ることに遅い人は力ある者に勝り,自分の霊を制している人は都市を攻め取る者に勝る」。(箴 16:32,新。エフェソス 4:26)したがって,神の忠告は,怒るとしてもかんしゃくを起こすとか,『かっとなること』のないようにということです。その忠告を無視する人は,ひどい言葉を口走ったり,暴力を振るったりすることがよくあります。その結果,時には体を害したり,人に悪く思われるようになってストレスが長く続きます。ですから,怒りに関する聖書の賢明かつ実際的な助言に従えば従うほど,ストレスに対処することはやさしくなります。
18 もう一つ例を挙げるなら,聖書は変化に富む,平衡の取れた生活を奨励することによって,わたしたちがストレスを少なくするよう助けてくれます。いつも猛烈に働いている人がいるかと思えば,めったに働かない人もいます。いつもまじめな人がいるかと思えば,まじめになったことのない人もいます。そのような極端は十中八九問題を引き起こし,ストレスを生む結果になります。しかし,伝道之書 3章1-8節の言葉を読むと,神は,あらゆる活動には時があると述べておられます。聖書は,生活に対するもっと平衡の取れた,そして現実的な見方を示しています。労働は怠惰の反対ですから良いことです。聖書は,いくらかくつろいで労働の実を楽しむことも勧めています。(伝道 3:12,13; 10:18。箴 6:9-11)しばらくの間,人生の意味や人生をいかに生きるべきかなどをまじめに考えることはためになります。しかし,家族や友人と共にくつろぐのも価値のあることです。平衡に関する聖書の助言にどれほど従うかによって,ストレスの問題はずっと少なくなることでしょう。
孤独の苦しみに対処する
19 トロントに住むヘンリー・レヘルというソーシャルワーカーは,「孤独感は万人に共通のものである。通りを歩いている人をだれでもいいから呼び止めて,『あなたの孤独感について話してください』と言うなら,その人はとめどもなく話し続けるだろう」と言いました。5万2,000人を対象に行なわれたある世論調査で,40%余りの人は,「寂しさを感じることがよくある」と答えました。孤独感は,ほとんどの場合,不安を生み,幸福を損なっていました。孤独感はまた人を選ばないので,老若男女を問わずだれでも襲われます。やもめのように独りで暮らしている人を孤独な人の典型と考えがちですが,一番寂しい思いをしている人の中には,心の通わない結婚生活を送っている人もいます。
20 不倫な関係によって寂しさを締め出そうとしたり,アルコールで孤独感を紛らわそうとしたり,あるいはむやみに物を食べて寂しさを忘れようとしたりする人は少なくありません。それでも原因はなくなりません。その要因の一つは大都市の発達です。大都市では,人々に囲まれてはいても非常に孤独を感じることがあります。結婚の破綻も問題を大きくしています。テレビでさえ,会話を閉ざして,人をさらに孤独にしているように思われます。
21 孤独感を克服するにはどうすればよいでしょうか。問題を簡単にするつもりはありませんが,聖書は孤独によりよく対処する上でだれにでも役立つと言えるでしょう。なぜ聖書は役に立つのでしょうか。一つには,孤独感は多くの場合,抑うつ状態や自尊心の欠如を招きます。創造者との良い関係を培うことは,そのような人が元気を取り戻すのに役立ちます。神が自分に関心を持っていてくださるということを認識すると,自信が持てるようになり,人生に対してずっと積極的な見方ができるようになります。(マタイ 18:10)聖書はさらに,孤独感を解消する上で役立つ生き方の大要をクリスチャンのために述べています。
22 寂しい人はよく,「忙しくしていなさい」と言われます。それもある程度良いことですが,聖書はもっと現実的で実際的な助言を与えています。その助言がクリスチャンたちに勧めているのは,人のためになることを活発に行なうことです。そうすることは幸福を生み出します。(使徒 20:35)ドルカスの場合はその一例です。この婦人は他のクリスチャン,特にやもめたちのために着る物を作ることに時間を用いました。その努力は彼女たちを物質面で援助することになりましたが,孤独感を克服する助けにもなったことでしょう。その上にドルカス自身も人々から愛され,孤独を感じなかったに違いありません。ドルカスについては使徒 9章36節から42節をお読みください。
23 多くのクリスチャンにとって以前から非常に報いのある活動となっているのは,他の人が神と聖書について学ぶのを援助することです。事実,使徒パウロは,そのことをより多く行なう自由があることは独身の人の一つの利点であると述べています。独身者にとってもその活動が孤独感を克服する上で役立つことは言うまでもありません。(コリント第一 7:32-35)パウロ自身がその代表的な例です。使徒 17章1-14節を読むなら,パウロが,特に激しい反対に遭ってもたゆむことなく,テサロニケ市で多くの人を援助することに専念した様子がうかがえます。そして,その結果として,テサロニケ第一 2章8節に述べられているように,パウロとその人たちとの間に親愛の情が生まれたことに注目してください。他の人に聖書を教えることに励むのがどれほど報いのあることかを証言できるエホバの証人は今日幾十万もいます。
24 また,エホバの証人は多くのグループに分かれて定期的に集まり,聖書を学びます。学んでいる間に,温かいクリスチャンの交わりを楽しむのです。多くの都市生活者が知っている通り,確かに,人々に囲まれているということ自体は孤独の問題の解決にはなりません。しかし,そうした集会に出席する人々は,他の人に純粋の関心を示すようにという聖書の勧めを真剣に実行しようとしているクリスチャンに囲まれているのです。(フィリピ 2:4)集会は励ましの多い楽しい時です。出席者は神への短い祈りに加わりますが,その祈りは,自分が決して独りでないことに気付かせてくれる,と多くの人は考えています。(ヨハネ 16:32)あなたもぜひエホバの証人の集会に出席してください。そうすれば,大勢の人が聖書の助言に従うことによって,孤独の問題や,金銭あるいは家族の関係した問題に対処する点でどれほど助けられているかを,ご自分の目で見ることができます。
[研究用の質問]
生活上の問題に対して楽観的になれるどんな理由がありますか。これには神がどのように関係していますか。(1-7)
ストレスの問題はどれほど深刻ですか。(8-11)
ストレスに対処する上で聖書の助言はどのように役立ちますか。(12-14)
科学者たちは愛に関する聖書の助言について何を知りましたか。(15,16)
ストレスに関して聖書の助言はそのほかどのように役立ちますか。(17,18)
孤独はどれほど深刻な問題ですか。(19,20)
孤独に関して聖書のどの助言は,どのように役立ちますか。(21-23)
交わりにはどんな価値がありますか。(伝道 4:9,10)(24)
[45ページの囲み記事]
人生の中でも特に“ストレスの高じる”状況
順位 人生の出来事
1 配偶者の死
2 離婚
3 夫婦の別居
4 懲役刑
5 近親者の死
6 自分の身に及ぶけがや病気
7 結婚
8 解雇
9 破綻していた結婚関係の回復
10 退職
11 家族の成員の健康の変化
12 妊娠
13 性の悩み
14 家族の成員が新たに増えること
15 仕事の調整
T・ホームズ及びR・H・ラーン両博士の研究 ―「現代における成熟」に基づく。
[50ページの囲み記事]
「エホバの証人は,その独自の会衆生活において,信頼と受容とからなる偽善のない社会を形成している。……エホバの証人は,以前の生き方に代わる生き方を[人に]与えるが,それは信者が主体性と自尊心を得,受け入れてもらえる社会と将来への希望を見いだす道を開く」―「現代アメリカの宗教運動」。
[41ページの図版]
インフレ
病気
不安定な職業
家庭の問題
住宅問題
[49ページの図版]
ドルカスのように,人のためになることをするなら,孤独にならないですむ。