キリスト教世界 ― 神と戦う者
1-3 (イ)キリスト教世界は神と戦っているということを聞くと,多くの人はどうして不思議に感じますか。(ロ)使徒パウロやペテロの警告を考えると,それはどうして不思議ではありませんか。
キリスト教世界,すなわちキリスト教を奉じていると称する諸国民の領域は,実際に神と戦っているのでしょうか。キリストの名をにない,神との契約関係にあると唱える組織そのものが,こともあろうに,信者たちに神への不従順を説き,誤導しているとは,理屈に合わないように聞こえます。
2 しかしながら,クリスチャンの使徒パウロが当時のクリスチャン会衆内のある人びとについて,『偽使徒またたばかりの働き人にして,おのれをキリストの使徒によそおへる者ども』と述べていることを考えれば,さほど不思議ではありません。パウロは続けて,『これ珍しき事にあらず,サタンもおのれを光のみ使いによそおへば(なり)』と述べました。―コリント後 11:13,14。
3 そのうえ,パウロも,使徒ペテロも,使徒たちの死後に生じようとしていた著しい背教について警告しました。その結果,多数の自称クリスチャンが『悪鬼の教え』に従って,偽善的にも偽りを語るであろうと,それらの使徒は述べました。そのような人びとは,『敬虔の形』を取りますが,『その徳を捨てる』のです。そして,『弟子たちを己がかたに引き入れんとて,曲がれることを語り』,また,「甘言をもて[弟子たちであるクリスチャン]をあざむき」,「自分たちをあがなってくださった主を否定」するのです。―テモテ前 4:1,2。テモテ後 3:5。使行 20:30。ペテロ後 2:1-3,口語。テサロニケ後 2:3-12。
4,5 エゼキエルに対する幻の中で神が明らかにした事がらの幾つかをあげなさい。わたしたちはどうしてそれらの事がらに関心を持つべきですか。
4 同時に,神との契約関係にあった国民であるイスラエルに起きた事がらを調べてみると,著しい類例,そうです,今日のキリスト教世界の状態のひな型を見ることができます。神がご自分の預言者エゼキエルに見させた事がらは,『〔事物の諸体制の終わり〕に遭える我らの〔警告〕』を成すものの一つでした。―コリント前 10:11〔新〕。
5 エゼキエルは,身は800㌔余り隔たったバビロンにありましたが,幻の中で移されて,エルサレムのエホバの神殿を視察するために連れて来られました。彼は最初に,中庭の門の入口で『ねたみの像』という偶像を見ます。次いで,イスラエルの指導者たち70人が奥の間で忌まわしい獣や,はうものの彫像に香をささげているさまが暴露されます。それだけでもまさに憎むべきものでしたが,エホバはさらにエゼキエルに,『なんじ身をめぐらせ またわれらがなすところの大いなる憎むべき事どもを見ん』と語りました。―エゼキエル 8:13。
神の反逆者に対する崇拝
6,7 イスラエルの女たちはタンムズ神を拝し,そのために泣きましたが,この偶像の神タンムズとはだれですか。
6 次いで,奥の中庭にはいったエゼキエルは,『そこに婦女ども座してタンムズのためになきおる』と伝えています。―エゼキエル 8:14。
7 このタンムズとはだれですか。バビロニア人およびシリア人によれば,それは植物の神でした。西南アジアでは植物は土地に適した洪水を伴う雨季に成育し,乾季の間に枯死します。植物が枯死することは,タンムズの死を表わすと考えられました。そして,タンムズの偶像崇拝者たちは,毎年,暑さの最もきびしい時に,タンムズの死を嘆き悲しみました。雨季が戻って来ると,植物が再び成長することによって象徴されるように,タンムズは下界から戻ると考えられました。
8,9 「二つのバビロン」と題する本は,タンムズとニムロデの間にどんな関係があることを認めていますか。ニムロデは何を行ないましたか。
8 イスラエル人はいったいどうして偶像を崇拝するよう誘われたのでしょうか。なぜそのような崇拝の習わしに従ったのでしょうか。タンムズ崇拝の歴史と背景を考慮すると,それはいっそう明らかになります。アレキサンダー・ヒスロップ博士は自著,「二つのバビロン」の中で,タンムズを,ノアの日の洪水後およそ180年を経てバビロンの都を建設したニムロデと同一視しています。
9 ニムロデはノアの曾孫でした。創世記 10章1,6,8-12節(新)によれば,ニムロデは「エホバに逆らう強力な狩人」として知られるようになりました。a 彼は宗教の関係しているバベルの塔の建築を指導しました。それは,人びとが広がって地を満たすようにとの神の命令をはばむためでした。この命令に人びとが従ったなら,地上の至る所に真の崇拝のとりでが確立されていたことでしょう。(創世 9:1)しかし,ニムロデは,その仲間にとって英雄のように見えました。ユダヤ人の史家ヨセハスは述べます。「[ニムロデは]その政治を徐々に専制政治に変えていった。神への恐れの気持ちから人びとを引き離すには,人びとを自分の権力に絶えず依存させる以外にないと考えたのである。彼はまた,もし神が再び世を水で流し去るつもりであれば,神に仕返しをしてやる,と語った。洪水も達しえないほどに高い塔を建てようとしたのはそのためであった!…今や大衆は喜んでニムロデの決意に従い,神への服従を臆病とみなし,塔を建てたのである」―「ユダヤ古代史」第1巻,4章2,3節。
10 バビロニア人はどうしてニムロデ(つまりタンムズ)のために泣きましたか。
10 宗教的伝説は,ニムロデはノアの神エホバに対する反逆のために処刑されたと述べています。ニムロデの追随者はその非業の死を悲劇または悲運と考え,彼を神格化しました。そして,毎年,陰暦のタンムズの月の第1もしくは第2日にその死を記念し,その時,偶像崇拝をする女たちはニムロデの偶像のために泣きました。こうしてみると,バビロニア人の熱狂的な崇拝者たちがニムロデのために泣く理由がわかります。また,学者たちがニムロデをバビロニア人の主神マルドゥクと同一視している事実を考えると,当時バビロンの進貢者で,その時代のこの世界強国に併呑される危険にひんしていたユダヤ人がタンムズ崇拝を行なうよう誘惑された理由も理解できます。
11,12 (イ)エルサレムの神殿における崇拝にどうして異教の十字崇拝を取り入れる試みがなされたのでしょうか。また,それはどのようにしてキリスト教世界の宗教に取り入れられましたか。(ロ)その習わしはどうして忌むべきものですか。
11 タンムズ(Tammuz)は,その名の最初の字母で表わされました。その昔の発音はタウで,それは十字を意味しました。「十字の印」はタンムズの宗教的象徴でした。それで,異教の偶像崇拝の一つである十字崇拝を,エルサレムのエホバの神殿に取り入れる試みがなされました。
12 しかし,このこととキリスト教世界とにはどんな関係がありますか。同世界では神に逆らってタンムズ崇拝が行なわれていますか。では,まず最初に,キリスト教世界の「十字架の印」についてはどうですか。同世界の宗教家は,キリストは十字架(実際には杭であった)の上で死んだと主張しており,十字架はキリスト教の主要な象徴と考えられ,中には十字架に礼をしたり,接ぷんしたりする熱心な信心家さえいます。バビロンから帰還した後,ユダヤ人の間では,人間を処刑するのに用いられた杭は,忌むべきもの,人目につかぬよう覆い隠すべきものと考えられました。12世紀のユダヤ人の権威者モーゼ・マイモニデスはこう述べます。「だれかがかけられた材木は埋められるが,それは悪名がその木とともに残されて,『これはだれそれがかけられた木だ』と言われるようなことがないためである」。ところが,キリスト教世界は,ほかならぬイエスが拷問を受けて殺されたときの道具とされるものを実際にあがめているのです。
政治に介入する
13,14 (イ)ニムロデは何の創設者でしたか。(ロ)バビロニア人がニムロデの行なった狩の点でニムロデに適用した「狩人」という語にはどんな重大な意味がありましたか。
13 しかし,エゼキエルが経験するであろうとエホバが述べたように,わたしたちもまた,キリスト教世界におけるタンムズもしくはニムロデ崇拝と関係のあるこれらの事がらよりもなおいっそう忌むべき事がらを見ることにしましょう。聖書はニムロデについてこう述べます。『彼の国のはじまりはシナルの地のバベル,アツカデ,およびカルネなりき その地より彼はアッスリヤに出でニネベ,レホボテイリ,カラおよびニネベとカラの間なるレセンを建てたり これは大いなる〔都市〕なり』。(創世 10:10-12〔新〕)したがって,ニムロデはエホバ神の意志に逆らって諸都市および政治的支配体制を創設しました。ノアの日の大洪水後,あらゆる偽りの宗教がバビロンから派生しました。創世記 10章8,9節(新)は,「[ニムロデ]はエホバに逆らう強力な狩人であった」と述べています。
14 古代のバビロニアやアッシリアの習慣によれば,「狩る」という語は,野獣を狩ることだけでなく,人間を獲物として捕える軍事行動にも適用されました。ですから,ニムロデは,戦いをして人間の血を流す者となりました。
15 十字の印およびニムロデの行なった狩の点でニムロデとキリスト教世界との間にはどんな関係が見られますか。
15 ニムロデに関するこうした詳細もキリスト教世界になんとよくあてはまるのでしょう。キリスト教世界もまたニムロデ同様,独自の宗教制度を確立しました。それは普通,聖書と調和するものと考えられていますが,実際には古代バビロンの宗教上の教えと調和しているのです。キリスト教をローマ帝国の国教とした支配者はコンスタンチヌス皇帝でした。教会史家であるカイザリアのユーセビウス司教によれば,コンスタンチヌスは,「太陽が傾きはじめた正午のこと,『これによって征服せよ』と[ギリシア語で]しるされた十字形のトロフィーが太陽の上にあるのを目のあたりに見た」と語ったとのことです。もちろん,それは彼の政治目的に「神聖な」是認なるものを付与するのに役だたせようとする試みでした。次いで,その十字の印は彼の配下の将兵,つまり太陽神崇拝者たちの軍隊の使う盾につけられました。
16,17 キリスト教世界の教会は宗教と政治を結びつける点で,どの程度までニムロデの例に従ってきましたか。
16 ニムロデと同様,キリスト教世界はその活動を宗教だけに限定せず,世の政治とかかわりを持ち,できる場合にはいつでも,教会と国家との連合を画策し,何をすべきかを国家に命ずるよう努めてきました。そして,同世界の政治上の皇帝や王たちは「神の恩寵によって」支配する,と唱えてきました。史家H・G・ウェルズは,教皇レオが「神聖ローマ帝国」の皇帝シャルルマーニュに戴冠させたことについて述べ,「皇帝になってもらいたいとシャルルマーニュに懇請し,思わず自ら彼に王冠を戴かせたレオ3世(795-816年)」と書いています。(「世界小史」1944年3月版,233ページ)
17 キリスト教世界は支配者たちを王位につかせたり廃位させたりしてきただけでなく,同世界の司教・大司教・教皇たちは物質でできた「玉座」につけられてあがめられ,今でも司教管区や教皇庁に「君臨している」と言われています。こうした行ないと,コリント前書 4章8節にあるクリスチャンの使徒のことばとを比べてみてください。
18 イエスの手本とキリスト教世界の僧職者のそれとを対比させなさい。
18 教会諸制度の中では,この世の政治家は顕著な立場を与えられ,重視されています。これと,地上で人間の手で王とされることを拒んだイエス・キリストの手本とは何と対照的なのでしょう。ローマ総督ポンテオ・ピラトに向かってイエスは言いました。『わが〔王国〕はこの世のものならず,もしわが〔王国〕この世のものならば,わがしもべら我をユダヤ人にわたさじと戦いしならん。されどわが〔王国〕はこの世よりのものならず』。(ヨハネ 18:36〔新〕)これに反して,キリスト教世界は,政治に参加するのは教会員の義務であると主張しています。時には,また所によっては,どの候補者のために投票すべきかを教会員に命令しようとする場合もあります。そして,教会の僧職にありながら,大統領あるいは首相その他の政治上の支配者として職務についている人さえいます。
殺人の罪
19 キリスト教世界は流血行為の点でニムロデの例に従ってきましたか。
19 また,「エホバに逆らう狩人ニムロデ」の犯した理不尽な流血行為についてはどうですか。ニムロデのしたことは,キリスト教世界に対するほんの小規模な原型にすぎませんでした。キリスト教世界もまた,壮大な規模で,「狩人」として肉の武器を取って軍事行動に参加してきました。キリスト教世界の成員は自分たちの間で,またいわゆる無神論者や異教徒との間で人類史上きわめて血なまぐさい戦争を行なってきたのです。そのすべてはキリストにならった行ないではなく,バビロン的で,ニムロデに通ずるものです。
20 昔行なわれたタンムズのために泣くという行為とキリスト教世界の信心家の行為との類似点となっている現代の事実を述べなさい。
20 それらの戦争で人命が奪われたため,キリスト教世界の女性がどれほど泣かされたかは計り知れません。毎年守られている記念日には,戦争で肉親を失った遺族は墓地を訪れて,戦死した将兵の墓を美しく飾ります。キリスト教世界の国家主義を奉ずる愛国心の強い成員は,偉大な将軍や将官の死を悼み,またそれら将軍は,葬儀の行なわれる教会でほめたたえられます。このすべては,教会が戦時中,初年兵募集所および宣伝センターとして利用されてきた隠れもない事実と全く合致します。こうした政治および軍事上の行為のすべてがキリスト教世界の「神の家」(つまり教会)と結びついていることを考えると,エゼキエルの時代に至高の主である神の神殿の奥の中庭に座してタンムズのために泣いたイスラエルの女たちのことがいみじくも思い起こされます。
21,22 キリスト教世界の歩みはどのようにしてキリスト教の敵を生み出し,共産主義や進化論を生み出す肥よくな風土を実際に整えるものとなりましたか。
21 キリスト教世界の行動は聖書の神エホバのみ名を高めましたか。いいえ,むしろ,それは非難をもたらし,またキリスト教の奉じられていない土地の人びとにキリスト教に対する憎しみや敵意をいだかせてきました。キリスト教世界は神を偽って伝え,キリスト教にもとる行動を取ったため,共産主義を生み出す肥よくな風土を整えてきました。
22 そのうえ,進化論はその最強の支持者の何人かを,ほかならぬキリスト教世界のただ中で得てきました。それはなぜですか。なぜなら,キリスト教世界は,三位一体・地獄の火・予定説・戦争にかんする教えなどの独自の,ばかげた偽りの不合理な教理や,政治への介入,また高等批評に対する少なからぬその信頼のゆえに,聖書を矛盾した,ばかげた,不正確な本のように思わせてきました。同世界の著名な僧職者の多くは,事実,進化論を支持するほど極端に走っています。
23 キリスト教世界は,神のメシヤの王国にかんする良いたよりをふれ告げる人たちに対してどんな態度をとってきましたか。同世界は神の裁きにさいしてどんな立場に立ちますか。
23 キリスト教世界の宗教組織は同世界内のすべての国で,神のメシヤの王国にかんする良いたよりをふれ告げるわざに反対してきました。教会の僧職者は政治支配者を動かしてこのわざを禁止させるよう共謀し,エホバの証人を逮捕させたり,証人たちに対する暴徒行為を扇動したりしてきましたが,エホバの証人は,聖書を勉強してそのほんとうの教えを知ってもらうために,すべての人を訪問しているのです。ニムロデ崇拝を行なっているキリスト教世界は,実際のところ,大いなるバビロンつまり偽りの宗教の世界帝国の一部です。そして,同世界に関係している人たちすべてに対して神はこう命じています。『かれの罪にあずからず,彼の苦難をともに受けざらんため,そのうちを出でよ』― 黙示 18:4。
24,25 その歩みのゆえにキリスト教世界は最後にはどうなりますか。同世界の教会の会員となっている人はどうすべきですか。
24 神と戦ってきたキリスト教世界の長い歴史の終わりは近づいています。同世界は神のみ名と神のみ子の名を自ら負い,また神とそのみ子に最大の侮辱をもたらすことによって神を侮ってきました。しかし,『神は侮るべき者にあらず,人のまくところは,その刈るところとなる』のです。(ガラテヤ 6:7)キリスト教世界は神と戦うがゆえに,その存在を失うという代償を払うことになります。
25 あなたはキリスト教世界の教会の会員ですか。では,真のクリスチャンの助けを得て,ご自分のために聖書を調べ,殺人の罪を負っているキリスト教世界を捨ててください。命を得るために,真の神とそのメシヤの王国に頼ってください。
[脚注]