「御心が地に成るように」(その13)
バビロンのネブカデネザル王が昔の世界の統治者になつて第2年目に,ヱホバ神は『世界強国の行進』を予めに告げました。これは私たちの聖書研究の手引『御心が地に成るように』の本の第4章の題です。このことを前もつて示すためにヱホバ神は預言的な夢を送りました。しかし,夢を見たネブカデネザル王は,その夢を忘れてしまつたのです。ヱホバの預言者ダニエルは,災の状況を救つてバビロンの賢人に及ぶ災を避ける為に用いられました。バビロンの賢人たちは,その夢を想起することもできず,また解釈を与えることもできなかつたのです。ダニエルは,秘密が解き明かされた誉を神に帰しつつ,その夢を詳細に説明しました。ネブカデネザル王は,一つの大きな金属の像を夢に見ました。その像の頭は,金で,胸と手は銀,腹とももは青銅すなわち銅,そしてすねは鉄,足と足ゆびは粘土のまじつている鉄でできていました。しかし,一つの石が人手によらずに切り出されて,その像を撃つたとき,その像の全部はまつたく滅亡してしまいました。金の頭はネブカデネザル王であると,ダニエルは説明しました。それでは,どういうことになりますか。金の頭の下にある体は,ネブカガネザル王の下にある静止の制度を現わし示しましたか。ただすねと足と足ゆびのところだけに預言的な意味があるのですか。
偶像についてのネブカデネザルの夢
9 (イ)いつネブカデネザルは世界の見える統治者として支配し始めましたか。(ロ)何時彼は最初の預言的な夢を見ましたか。誰たちはその夢を解き明かすことができませんでしたか。
9 ヱホバ神の模型的な国が荒廃して,その油注がれた2人の王がバビロンに捕われてから,ネブカデネザル王は世界の目に見える統治者,聖書歴史上の第3番目の世界強国の頭として,ヱホバ神の妨害なしに統治し始めました。キリスト前607年の秋にネブカデネザルは,『七つの時』を始めました。それは人類を支配する正しい政府が最高の神により立てられる時までの2520年間つづくものでした。この重大な事実について,ヱホバ神は世界支配者として統治し始めた第2年,すなわちキリスト前606年から605年にバビロンの王に告げ知らせました。ヱホバ神は一つの夢をバビロン王に与えて,このことを知らせたのです。ところが,王は目が覚めてからその夢を思い出すことができませんでした。しかし,忘れた夢の恐ろしさは,彼から離れず,ネブカデネザル王は,『この世の神』悪魔サタンの僕たちである魔術士,博士,法術士,そして職業家のカルデヤ人たちを召して,その夢の解き明かしをするよう命じました。彼らは,先ずその夢がどんなものであるかと問い尋ねました。その夢を告げることのできなかつた王は,非常に怒つてバビロンの賢人をひとり残らず殺せという命令を発したのです。この中にはダニエルと彼の3人の友だちも入つていました。―ダニエル 2:1-13,新口。
10 ダニエルは,どのようにその夢と解き明かしを学びましたか。彼はどのような言葉を述べてヱホバ神を賛えましたか。
10 刑執行者に面したダニエルは,王に会うことを求め,そしてその夢について学んでその解き明かしを王に告げ得るため刑執行の猶予を願い求めました。それから,ダニエルと3人の友はヱホバ神に祈りを捧げたのです。祈りに対する答は来ました。そして,世界的に重大な秘密は夜のまぼろしの中にダニエルに啓示されました。感謝の念を持つたダニエルはヱホバを賛えて,次のように語りました,『神のみ名は永遠より永遠に至るまでほむべきかな。知恵と権能とは神のものである。神は時と季節とを変じ,王を廃し,王を立て,知者に知恵を与え,賢者に知識を授けられる。神は深妙,秘密のことをあらわし,暗黒にあるものを知り,光をご自身のうちに宿す。』(ダニエル 2:12-22,新口)それで,その大きな秘密のことを知りましよう!
11 ダニエルは,王のまえでヱホバをどのように賛えましたか。そしてなぜ彼の言つたことは私たちにとつて最大の重要性を持つていますか。
11 ダニエルは王の前に連れて行かれ,バビロンの賢人全部を救うことになりました。彼の言つたことは,今日の私たちにとつて非常に重要なものです。彼は次のように言いました,『秘密をあらわすひとりの神が天におられます。彼は後の日に起るべき事を,ネブカデネザル王に知らされたのです。……王よ,あなたが床におられたとき,この後どんな事があろうかと,思いまわされたが,秘密をあらわされるかたが将来どんな事が起るかを,あなたに知らされたのです。』(ダニエル 2:27-29,新口)私たちは,ネブカデネザルの夢の成就に関係する非常な時代に生活しているのです!
12 ダニエルが王の心に思い起させた夢は何でしたか。
12 ダニエルは,この忘れた夢を王の心に思い起させたとき,自分自身の知恵を否認しました,『王よ,あなたは一つの大いなる像があなたの前に立つているのを見られました。その像は大きく,非常に光り輝いて,恐ろしい外観をもつていました。その像の頭は純金,胸と両腕とは銀,腹と,ももとは青銅,すねは鉄,足の一部は鉄,一部は粘土です。あなたが見ておられたとき,一つの石が人手によらずに切り出されて,その像の鉄と粘土との足を撃ち,これを砕きました。こうして鉄と,粘土と,青銅と,銀と,金とはみな共に砕けて,夏の打ち場のもみがらのようになり,風に吹き払われて,あとかたもなくなりました。ところがその像を撃つた石は,大きな山となつて全地に満ちました。』(ダニエル 2:31-35,新口)びつくりしたバビロンの王は,その描写を認めました。しかし,その全部は何を意味しましたか。
13 金の頭は誰であるとダニエルは解き明かしましたか。そしてなぜ?
13 『これがその夢です。今私たちはその解き明かしを,王の前に申しあげましよう。』とダニエルは,自分自身および彼と共に祈りを捧げた3人の友だちを代表して語りました,『王よ,あなたは諸王の王であつて,天の神はあなたに国と力と勢いと栄えとを賜い,また人の子ら,野の獣,空の鳥はどこにいるものでも,みなこれをあなたの手に与えて,ことごとく治めさせられました。あなたはあの金の頭です。』― ダニエル 2:36-38,新口。
14 象徴的な金の頭であるネブカデネザルが目に見えない一支配者を代表するなら,その体の金属の部分は何を表わし示しますか。どの程度までこれは預言的な像ですか。
14 ネブカデネザルは個人的にその頭であつたという意味でしたか。あるいは,解き明かしを述べたダニエルは,実際にはネブカデネザルにむかつて語らず,バビロンの王により代表された見えざる支配者,真実の金の頭である,別の者に語つていましたか。そして,金の頭の下にある金属の体は,表面に現われない秘密の頭の下にあるいくつかの層の制度を代表しましたか。又は,ネブカデネザル自身の下にあるそのような数層の制度を代表しましたか。もしそうなら,その像は,鉄のすねと,一部が鉄,一部が粘土である足をのぞいて,すでに存在していましたか。もし,そうならこの夢の像は,主としてすでに存在しているものについての静止の絵であつて,鉄のすねと足の部分をのぞいては,預言的ではないことになります。さらに,金の頭としてのネブカデネザルが表面に現われない見えざる者を代表したのであるなら,銀の胸と腕は,その見えざる頭の下にあつて,制度の一番高い層を表わし示しました。青銅の腹とももとは,その制度の次の位の層を表わし示しました。そして,鉄のももと一部が鉄,一部が粘土の足は,その制度の一番下の層を表わし示したにちがいありません。このいちばん低い層すなわち鉄の層は,すくなくともその一部がすでに発達していました。すると,どういうことになりますか。
15 その見地から金の頭がネブカデネザルを示すものである故,その像の他の金属の部分は何を示しますか。
15 その見地から見ると,目に見える諸王の王ネブカデネザルは,金の頭で象徴され,その金の頭の下にある金属の体は,ネブカデネザルの下にある目に見える制度を象徴します。その制度はすでに存在しており,すくなくとも大部分は運営されているものです。すると,金の頭の下にある銀の胸と腕は,ネブカデネザルのすぐ下にある政府の制度の層を象徴します。青銅の腹とももとは,上にある銀の層に従属する政府の制度の層を象徴し,政府の頭であるネブカデネザルと直接の結びつきを持つていません。そして,鉄のすねと一部が鉄で一部が粘土である足は,いちばん低い層の政府の制度,すなわち政府の頭からはいちばん遠くに離れたところを象徴します。しかし,このことは何を意味しますか。
16 それでは,この像に関してダニエルとその3人の友たちはどのような係わりを持ちますか。そして,彼らは目に見えない制度のどんな部分を表わし示すことになりますか。
16 このことは次のことを意味するかもしれません,すなわちダニエルやその3人の友そして恐らくは少数の他のバビロン人の官吏が,銀の胸と腕によつて象徴されたということです。なぜそうですか。なぜなら,ダニエルがその夢を正しく解き明かして直ぐ後に,『王はダニエルに高い位を授け,多くの大いなる贈物を与えて,彼をバビロン全州の総督とし,またバビロンの知者たちを統轄する者の長とした。王はまたダニエルの願いによつて,シャデラクとメシャクとアベデネゴを任命して,バビロン州の事務をつかさどらせた。ただしダニエルは王の宮にとどまつていた。』(ダニエル 2:48,49,新口)その結果,ダニエルと彼の3人のユダヤ人の友だちは,将来に滅ぼされるその像の銀の胸と腕により象徴されました。実際のところ,彼らは又力のある制度の最上位の銀の層を目に見えるように表わし示しました。それは,金の頭なるネブカデネザルにより表わされた見えざる支配権力の下にあるものです。このことは,金属の像の意味についての正しい理解でもなく,又正しい解釈でもありません。なぜなら,ダニエルとその3人の友たちは,夢に出て来た像が滅びるように,滅びをうけるこの制度の一部ではないからです。
17 その金属の像は,大部分が静止の象徴であるというより,何を表わし示しますか。そして,ネブカデネザルは,どのように象徴的な金の頭ですか。
17 そうではありません! その象徴的な偶像は,預言的な部分が下肢のところだけにある静止の状態を示すものではありません。それは頭から足にいたるまで進歩的であり,預言的なものです。ネブカデネザルは,偶像の下の部分,つまり鉄の足あたりのところで代表されるのではありません。ネブカデネザルが下の方であつて,同時に偶像のかしらであるわけには行きません。ネブカデネザルは,天の神のゆるしによりバビロンの世界強国で王の王になりました。天の神はネブカデネザルがエルサレムとその聖所を滅ぼすことを許したのです。彼はその象徴的な像の金の頭です。
18 その金の頭は,更にどんな大きな意味をとりますか。それで,その頭は何時存在するようになりましたか。
18 彼はバビロン帝国を支配する支配者の王朝の頭ですから,金のかしらです。それで,金の頭は実際のところネブカデネザルから始まるバビロンの世界強国の王朝を象徴しています。聖書は,その王朝内の他の2人の名前を述べています,すなわちエビルメロダクとベルシャザルです。(列王紀略下 25:27。エレミヤ 52:31。ダニエル 5:1-30)ネブカデネザルは,キリスト前625年に即位してから43年間,つまりキリスト前607年にエルサレムとその聖所を滅ぼして後25年間統治したと伝えられています。エビルメロダクはネブカデネザルのすぐ後の後継者としてキリスト前582年に統治し始めました。ベルシャザルaはキリスト前539年にネブカデネザルの王朝に終りをもたらしました。そのとき彼は非業な死をとげたのです。(ダニエル 5:30,31)それでキリスト前607年にエルサレムが滅亡してネブカデネザルが世界の支配者になつたとき,象徴的な偶像の金の頭は実在するようになりました。その出来事の後に『七つの時』は始まつたのです。
19 その金属の像は,バビロンの世界強国が永続しないことをどのように示しましたか。そして,ダニエルの解き明かしは,このことをどのように述べましたか。
19 夢に見た偶像には金の頭だけがあつたのではありません。その下には,いろいろの層の金属で構成された体がありました。それで金の頭で代表される王朝は,永続しません。世俗の歴史は,ネブカデネザルからベルシャザルにいたるまでの王統に属する他の王たちを記しています。エルサレムが滅亡してから後バビロンの世界強国は,キリスト前539年まで,わずか70年にも満たない年月だけつづきました。バビロンの世界強国がこのように終結することについて,ダニエルはその解釈の中で更に次のように語りました,『あなた(すなわちあなたの王朝)の後にあなたに劣る一つの国が起ります。』(ダニエル 2:39,新口)この国は,銀の胸と腕でもつて予めに示されていました。それでは,その偶像のこの部分は,どんな国を象徴しますか。
20 どのような仕方の中にこの銀のごとき『国』は後でしたか。そして,どのような面で金の頭の国より劣つたものでしたか。バビロンの征服者については,何が予めに告げられましたか。
20 これはメデア人とペルシャ人の『国』すなわち世界強国でした。『あなたの後に』という表現は,時間を指します。そして,別の支配権がネブカデネザルの王朝の後を継ぎ世界の支配をにぎるということを彼に想い起させます。それは後に来るものでした。『あなたに劣る』という表現は,バビロンの世界強国とくらべて新しい世界強国の水準または質を指します。それは金の頭よりも低いもので,金よりも価値が少い金属である銀でつくられていました。メデア人とペルシャ人によるこの世界強国は,この世的に非常に輝かしい文明をつくり上げ,それはバビロンの文明と比較してすこしの遜色もないものでした。しかし,エルサレムにあつたヱホバ神の模型的な国をくつがえすという非常に顕著なはなばなしさを持ちませんでした。メデア-ペルシャが世界強国になり,聖書の歴史中第4番目の世界強国になる前に,ペルシャ人のクロス王はメデアとペルシャの合一に成功し,その後に小アジアの西方にあつた強力なリデアの国を征服しました。クロスはバビロンを攻めて,天にも達する程の高い地位からバビロンをつき落すであろうと,ヱホバの予言的な言葉は予めに告げました。このペルシャ人の征服者に対してヱホバは復興の業をするようにとの目的を持つておられましたが,彼はその後にそれをする者として用いられます。―イザヤ 44:28。
21,22 バビロンをクロスの手中に渡したのはヱホバであることを証明して,イザヤはそれよりもずつと以前に何と語りましたか。
21 世界強国のバビロンをクロス大王の手中に渡したのは,実際に最高の神でした。それはたしかな事柄で,預言者イザヤは約200年むかしに次のように語りました。
22 『われヱホバわが受膏者クロスの右手をとりてもろもろの国をそのまえに降らしめ,もろもろの王の腰をとき,扉をその前にひらかせて門をとづるものなからしめん。われなんじのまえに行きて,けわしきを平らかにし,銅の門をこぼちくろがねの関木を立ち切るべし。我なんじに暗きところの財宝とひそかなるところに蔵せるたからとを与え,汝に我はヱホバ,なんじの名を呼べるイスラエルの神なるを知しめん。わが僕ヤコブわが選みたるイスラエルのために我なんじの名を呼べり。なんじ我を知らずといえどわれ名をなんじに賜いたり。我はヱホバなり。我のほかに神なし一人もなし。なんじ我を知らずといえども我なんじを固うせん。しかして日のいづる所より西のかたまで人々我のほかに神なしと知るべし。我はヱホバなり。他にひとりもなし』。―イザヤ 45:1-6,13。
23 (イ)クロスの軍勢は,どのようにバビロンの城壁内に入りましたか。バビロンを占領したとき,誰がペルシャ人といしよにいましたか。(ロ)一つの音信は,ベルシャザルの祝宴をどのように恐怖に変えましたか。
23 キリスト前539年の10月6日-7日の夜には,バビロンの門は不思議にも開け放たれたままでした。それで,征服を企てた軍勢はユフラテ河の乾いた河床を行進し,河の埠頭を通つてそそり立つバビロンの城壁内に入ることができました。イザヤを通して述べられたヱホバの預言は,エラムとメデアの戦士がクロスと共にバビロンを征服すると予めに述べていました。(イザヤ 13:17-22; 21:2,9)これにたがわず,クロスの叔父にあたるメデア人ダリヨスはこの軍勢に参加して,バビロンに対する勝利の行動に加わりました。そのとき預言者ダニエルは,バビロンの市中にいたのです。彼はエレミヤを通して述べられた預言をも含めて,神の預言を研究していました。エレミヤもバビロン又はセシャクの滅亡を同様に告げていたのです。(ダニエル 9:1,2。エレミヤ 25:12-26; 50:1–51:64)強国のバビロンが倒れてその最後の王ベルシャザルが殺された夜,ベルシャザルと多数の君主たちは,市の城壁の内部にいて絶対に大丈夫と感じ祝宴をしていました。しかし,ベルシャザルの食堂の壁にヱホバが人の手をもつて奇妙なアルハベットの文字を書かせたとき,その祝宴は恐怖に変りました。遂に預言者ダニエルは召されて,壁の上の文字を読んで解釈するように命ぜられました。霊感を受けたダニエルは,その奇蹟的な言葉が,ヱホバの預言者イザヤとエレミヤによりずつと以前に言われたことをたしかめるものであると知りました。ダニエルは,イスラエルの神,彼の神がその言葉を書いたのであると告げました。彼は次のように言いました。
24 ダニエルは,その音信をどのように読み,また何と解き明かしましたか。
24 『それゆえ,彼の前からこの手が出て来て,この文字が書きしるされたのです。そのしるされた文字はこうです。メネ,メネ,テケル,ウパルシン(ペレスという言葉の複数)。そのことの解き明かしはこうです。メネは神があなたの治世を数えて,これをその終りに至らせたことをいうのです。テケルは,あなたがはかりで量られて,その量の足りないことがあらわれたことをいうのです。ペレスは,あなたの国が分かたれて,メデアとペルシャの人々に与えられることをいうのです。』
25 その夜,その音信はどのように成就しましたか。そして,世界支配のどんな変化が起りましたか。
25 その夜の終らぬ中に,壁の上に手で書かれた預言は成就し,ヱホバの言葉と預言者ダニエルの言葉は証明されました。『カルデヤ人の王ベルシャザルは,その夜のうちに殺され,メデア人ダリヨスが,その国を受けた。この時ダリヨスは,おおよそ62歳であつた。』(ダニエル 5:24-28,30,31,新口)バビロンを支配したネブカデネザル王朝の最後の王が死んだとき,この夢に見た偶像の金の頭は,世界強国としての存在を中止しました。象徴的な銀の胸と手であるメデア-ペルシャは,聖書歴史の第4番目の世界強国として支配を握るようになつたのです。それはキリスト前539年でした。
26 ユダヤ人の復興についての予言は,いつそしてどのように成就しましたか。そして,バビロンの荒廃はすぐに始まりましたか。
26 叔父であるメデア人のダリヨスが死んでペルシャ人のクロスがペルシャ帝国の唯一つの頭になりました。彼はイザヤが予めに告げた復興の業をいたしました。キリスト前537年b,クロスの勅令はそのときバビロンに捕われていたユダヤ人に対して発せられました。それで忠実なユダヤ人の残れる者は,自分の故郷に戻つてヱホバの聖所とエルサレムの聖都を再建することがゆるされたのです。バビロンは永久に荒廃するであろうとヱホバは預言しました。しかし征服されたバビロンの都はすぐには荒廃せず,クロス王はこの都から支配しました。
27,28 (イ)ネブカデネザルの夢に見た像の銀の胸と手は,何を表わしましたか。(ロ)キャンビセスは,どのようにペルシャ帝国を拡大しましたか。クセルクセス1世とアルタシャスタ1世は,2人の著名な聖書人物と,どんな結びつきがありましたか。
27 ネブカデネザルが夢に見た銀の胸と手は,ひとつの『国』,すなわちクロス大王から始まる王統を表わしました。彼はしばらくの間,叔父であるメデア人ダリヨスと共同の支配をしました。彼の王統は,200年以上もつづいたのです。このペルシャ王統には,聖書中にその名が述べられている者よりも,はるかに多くの者がいました。クロスはアリアン族の者,すなわち人間家族のヤペテの支族に属する者で,初めて世界の支配者になりました。世界支配者としてのクロス大王は,9年間統治して,キリスト前529年にはキャンビセス王がその後を継ぎました。この王はキリスト前525年にエジプトを征服してペルシャ帝国を拡大しました。キリスト前522年に横領者が彼の後に続きました。それはガウマタという名の古代ペルシャの僧で,スメルディスであるふりをしたのです。彼の支配期間は,8ヵ月に足らず,ダリヨスという最初のペルシャの王により殺され,ダリヨスは,キリスト前521年に王になりました。
28 このペルシャのダリヨス1世は,ギリシャに対する戦役を開始しましたが,マラソンの戦いで大敗北を受けました。彼の後は,クセルクセス1世,すなわちアハシュエロスがキリスト前486年,485年に王となりました。彼は聖書に述べられている王妃エステルの夫です。(エステル 1:1-3; 3:7)彼もギリシャ征服に出かけましたが失敗してサモピレで敗北し,キリト前480年のサラミスの海戦で海軍は大敗北を受けました。彼の後継者はアルタシャスタ1世です。彼の右腕は左腕よりも長かつたのでロンギマナスというあだ名を受けました。このアルタシャスタの20年目,すなわちキリスト前455年に,彼はユダヤ人の酒つぎネヘミヤをユダヤの地の総督となし,エルサレムに行かせてその城壁を再建させました。ネヘミヤがエルサレムの城壁を再建したとき,ダニエル書 9章24-27節に述べられている『七十週』年の計算が始まりました。この週年からメシヤなるキリスト,すなわちナザレのイエスの出現と死の年月が分ります。―ネヘミヤ 1:1; 2:1-18。
29 どんな王の統治と共にペルシャの世界強国は終りましたか。誰によつて次の世界強国は設立されましたか。
29 それから,次の順序です。クセルクセス2世。ダリヨス2世(ペルシャ人)。ムネモンと言われたアルタシャスタ2世。オカスと言われたアルタシャスタ3世。(キリスト前338-336年の)2年間統治したアルセス。そして最後にコドマナスと呼ばれたダリヨス3世です。彼の支配は,キリスト前331年に急に終了しました。ネブカデネザルが夢に見た偶像の銀の胸と腕で象徴されたペルシャの世界強国は終りました。その年にアッスリア帝国の首都がかつてあつたニネベに近いガウガメラの戦いでペルシャ王は敗北したのです。彼は誰に敗れましたか。次の第5番目の世界強国,すなわちマケドニヤ帝国又はギリシャ帝国を設立したマケドニヤ人に敗れたのです。そのマケドニヤ人は,アレキサンダー大王です。
第5番目,第6番目,そして第7番目の世界強国
30 ダニエルは,その解き明かしの中で,このマケドニヤ帝国すなわちギリシャ帝国をどのように予め告げましたか。それはどのように『全地を治める』ものになりましたか。
30 ネブカデネザルが夢に見た金属の偶像についての研究で,いま,『その青銅の腹ともも』のところに来ます。偶像のこの部分は,ひとつの国または王統を表わし示すと,預言者ダニエルはネブカデネザルに告げました。ダニエルはこう言つています,『あなたの後にあなたに劣る一つの国が起ります。また第三に青銅の国が起つて,全世界を治めるようになります。』(ダニエル 2:39,新ロ)アレキサンダーは,マケドンの王フイリップ2世の息子でした。フィリップ2世は南方のギリシャ全土に勢力を伸ばし,ギリシャ人の都市 ― 国家制度を終了させました。アレキサンダーは,父親の野心を実行し,東方のアジアにあつたペルシャ帝国征服に出かけました。このアレキサンダー大王は,ダニエルの預言の中で予めに告げられていたのです。アレキサンダー大王は,ペルシャの王ダリヨス3世に対して次から次に勝ちつづけ,キリスト前331年にはバビロンの都を奪い取り,ガウガメラの戦いでダリヨス3世を撃ち破りました。その敗北によつてペルシャの世界強国は崩壊し,マケドンのアレキサンダーは世界の支配者となり,聖書歴史の第5番目の世界強国をつくり上げました。キリスト前327年,アレキサンダー大王はインドの西の部分をも征服しました。彼の帝国は,以前のどの帝国よりもずつと大きいものです。この見地に立つと,この青銅の王国は,『全世界を治める』ものでした。
31 帝国設立を図つたアレキサンダーの遠征のため,何が国際的な言語になりましたか。これはどんな良いたよりを全地にひろめる正しい手段となりましたか。
31 アレキサンダー大王は,世界支配者になつて8年しか生きず,キリスト前323年にバビロンで死にました。彼の軍事征服の期間中いわゆるコイネ・ギリシャ語すなわち普通のギリシャ語が発達しました。聖書のクリスチャン・ギリシャ語はその言語で書かれたのです。アレキサンダーの帝国および彼が設立したギリシャ植民地は広大な地域にわたつたので,コイネ・ギリシャ語は,国際的な言語になりました。それですからキリストの使徒の時代,キリストの支配する神の御国の良いたよりを,当時の世界のあらゆる場所にひろめるためコイネ・ギリシャ語を使用することは適当なものでした。
32 青銅の腹とももで表わし示された国は,なぜアレキサンダーの死と共に終了しなかつたのですか。誰によつて彼の国は次第に併吞されましたか。
32 アレキサンダーがキリスト前323年に死んだときに,青銅(銅)の腹とももで表わされた『国』が終つて,象徴的な像の鉄の部分が生じたわけではありません。アレキサンダーの2人の息子と彼の弟は,アレキサンダーの後継者でしたが,14年経たぬ中に殺されました。アレキサンダーの帝国は分裂して,彼の4人の将軍はそれぞれアレキサンダーの帝国の一部ずつを支配しました。アレキサンダーの死後50年も過ぎない中にギリシャ人の諸帝国は設立され,それぞれの帝国には,その王統がありました。これらギリシャ人の帝国の一つは,マセドンにあり,別の帝国はシリアに,そして今一つの帝国はエジプトにありました。後者の二つの帝国は,エジプトと中東および東方のインドに達するまでのアジアをギリシャ化しようと努力をしました。この期間の中にヱホバの預言者のヘブル語聖書はその当時の平俗のギリシャ語に訳されました。それで初期クリスチャンたちの用いたギリシャ語70人訳と呼ばれるものができ上つたのです。時経つ中にイタリー,ローマの隆盛の力はこれらのギリシャ人の帝国を併呑しました。先ずマケドニヤの帝国,次にシリアの帝国,そして最後にはエジプトの帝国をキリスト前30年に併呑したのです。
33 次のこの世界の強国は,ダニエルの解き明かしの中で,どのように予めに告げられましたか。なぜ二つの鉄の足は,分裂を意味しませんか。
33 その年にエジプトのギリシャ人帝国はローマに服属し,エジプトはローマ総督の支配するローマの国になりました。おそくとも(キリスト前30年)のその年までに,ローマは支配的な世界強国すなわち第6番目の世界強国になりました。ネブカデネガルが夢に見た金属の偶像からも分るように,世界強国の行進はいまや鉄のすねにまで下つてきました。ネブカデネザルの夢を解釈したダニエルは,このことを彼に予め告げ,次のように言いました,『第四の国は鉄のように強いでしよう。鉄はよくすべての物をこわし砕くからです。鉄がこれらをことごとく打ち砕くように,その国はこわし砕くでしよう。』(ダニエル 2:40,新口)鉄のすねが二つあつたという事実は,すねによつて象徴された世界強国が東と西に分けられたとか,又は北と南に分けられたということを意味しません。丁度,銀の腕が二本あつてもペルシャの世界強国は政治的に二つの反対の部分に分裂していなかつたことと同様です。聖書の歴史上,第6番目の世界強国であるローマ世界強国は,いろいろの変化を通つて,それ以前の金,銀,青銅(銅)の帝国よりも強いことを証明しました。打ち砕く力と能力という点では,それは本当に鉄のようでした。
[脚注]
a 現在の世界にベルシャザルを紹介したのはダニエル書です。それは現代考古学が聖書の『高等批評家』を打ち破つて,ベルシャザルの歴史的実在性を証明したときよりずつと以前の昔です。例えば1929年,エール大学東洋連続研究15巻は次のように言つていました。
『ベルシャザルに関する楔形文字は,彼の果した役割について多くの光を投げかけたので,歴史上における彼の立場は明白に示されている。地位と名声においてベルシャザルはほとんどナボナイダスと同等であつたことを示す書き物はたくさんある。最後の新バビロン支配の大部分は,2人による支配であつたことは,確実な事実である。ナボナイダスはアラビアのテマにあつた王宮から最高の権威を行使し,ベルシャザルは母国の地とも言うべきバビロンを勢力の中心地として共同統治者のかたちで行つた。ベルシャザルが力のない副王でないことは明白である。彼には「王権」がゆだねられていた』― 前述の連続研究第15巻,『ナボナイダスとベルシャザル ― 新バビロン帝国の最終的な出来事の研究』の第14章『楔形文字でないものがベルシャザルについて述べるものの意味』の186頁を見なさい。この本は,レイモンド・ヒイリップ・ダグハーテイ,ウイリアム・エム・ラハンの書いたものです。ラハンは,アメリカ,コネチカット州,ニュー・ヘイベン,エール大学のアッスリア研究とバビロン文学の教授,かつバビロンの収集品の管理者です。
b ワーナー・ケラー著『歴史としての聖書』(1956年)を見なさい。ロンドン版では200頁。ニューヨーク版では313頁。