「御心が地に成るように」(その15)
異教のローマ帝国が世界支配をしていたキリスト前2年の10月1日頃,『最高至上者の御心を実施する王』は生まれました。祭司ザカリヤの子ヨハネは,地上で彼の先駆者でした。御使ガブリエルはエルサレムの宮であらわれ,年老いたザカリヤがこの先駆者の父親になると告げました。ザカリヤの年老いた妻エリサベツが妊娠して6ヵ月目に,御使ガブリエルは,ダビデ王を先祖に持つナザレのユダヤ人の処女マリヤに現われました。マリヤはダビデ王の永遠につづく王なる相続者の母になるべく選ばれたとガブリエルは彼女に告げました。彼女はヱホバの聖霊の働きによつて子供をはらむでしよう。それで生まれてくる聖なる子供は,実際には神の子です。マリヤは,従順にもこの神の取りきめに同意しました。
第6章
最高至上者の御心を実施する王
1,2 どんな世界強国の支配中に約束された御国の相続者は生まれましたか。ガブリエルの言葉によると,彼の前には何がある筈でしたか。
ローマ帝国が聖書の歴史上第6番目の世界強国として支配を行つていたとき,長く約束されていた神の御国の相続者はキリスト前2年の10月1日頃人間のあいだに生まれました。その天的な御国の相続者は,実際に天から下つてきたのです。地上に生まれてくる前に天でどんな出来事があつたかは,知らされていません。しかし,彼がこの地上に生まれる前に大切な予備の出来事がありました。王である彼に全くふさわしく,ひとりの先駆者がいて,人々のあいだに彼を紹介したのです。ダビデの家系に属する約束された王として生れる時よりも約15ヵ月前に御使ガブリエルは将来の先駆者の父親に現われました。エルサレムにあつたヱホバの聖所,いわゆるヘロデの宮の第一の聖所で現われたのです。その場所で祭司ザカリヤはヱホバに香をささげ,崇拝者たちは外にある宮の庭で祈つていました。ガブリエルは次のように述べたのです,
2 『恐れるな,ザカリヤよ。あなたの祈が聞き入れられたのだ。あなたの妻エリサベツは男の子を産むであろう。その子をヨハネと名づけなさい。彼はあなたに喜びと楽しみとをもたらし,多くの人々もその誕生を喜ぶであろう。彼はヱホバaのみまえに大いなる者となり,ぶどう酒や強い酒をいつさい飲まず,母の胎内にいる時からすでに聖霊に満たされており,そして,イスラエルの多くの子らを,ヱホバなる彼らの神に立ち帰らせるであろう。彼はエリヤの霊と力とをもつて,みまえに先立つて行き,父の心を子に向けさせ,逆らう者に義人の思いを持たせて,整えられた民をヱホバに備えるであろう。』― ルカ 1:13-17,新世。
3 いつガブリエルはマリヤに現われましたか。彼女の環境はどのようなものでしたか。
3 宮奉任の週が終つて後,年老いたザカリヤは家に帰り,彼の年老いた妻エリサベツは,ヨハネと呼ばれる子どもをはらみました。エリサベツが妊娠して6ヵ月目に,御使ガブリエルはエルサレムから約60マイル北にあたるガリラヤの地のナザレの町につかわされました。彼は,ダビデ王の家系に属するヘリの娘,マリヤという名のユダヤ人の処女に現われました。(ルカ 3:23-31)彼女はヨセフという名の大工の許婚でした。ヨセフもダビデ王の家系に属しますが,彼の系統はエルサレムの最後の王より一つ前の王,すなわちエコニアもしくはエホヤキンを通しての家系です。しかし,最終的にダビデ王に合同する前に,ヨセフとマリヤの家系はゾロバベルとその父サラテルで合つています。その両人ともグビデの子孫です。それでマリヤから産まれてくる者は,ソロモン王およびダビデの他の息子ナタンを通してのダビデ王の子孫となります。ルカ伝 3章34-38節は,アブラハムから『神の子アダム』にいたるまでのマリヤの先祖も述べています。その順は次のとおりです,(1)アダム,(2)セツ,(3)エノス,(4)カイナン,(5)マハラレル,(6)ヤレデ,(7)エノク,(8)メトセラ,(9)ラメク,(10)ノア,(11)セム,(12)アルパクサデ,(13)カイナン,(14)サラ,(15)エベル,(16)ペレグ,(17)レウ,(18)セルグ,(19)ナホル,(20)テラ,(21)アブラハム。アブラハムからのヨセフの家系とマリヤの家系は次頁の表の通りです。
4 ガブリエルはマリヤに何を告げましたか。彼女はそれに対してどのように答え応じましたか。
4 ガブリエルは,なんとすばらしい便りをダビデ王の遠い子孫であるマリヤにもたらしたのでしよう! 『恐れるな,マリヤよ,あなたは神から恵みをいただいているのです。見よ,あなたはみごもつて男の子を産むであろう。その名をイエスと名づけなさい。この者は偉大な者となり,最高者の子と呼ばれるであろう。ヱホバ神は父ダビデの座位を彼に与え,彼はヤコブの家の永遠の王となるであろう。彼の御国には終りがない。』まだ大工のヨセフと結婚していないマリヤは,人間の父なしでこのような誕生はどうしてあり得るだろうかと尋ねました。ガブリエルは,次のように答えています,『聖霊があなたに臨み,いと高き者の力があなたをおおうでしよう。それゆえに,生れ出る子は聖なるものであり,神の子と,となえられるでしよう。』マリヤは従順な態度でこう言いました,『見よ! ヱホバのはしため! あなたの言はれた通りのことがこの身に成りますように。』― ルカ 1:26-38。新世。
5 マリヤがエリサベツを訪問してあいさつをした時に何が生じましたか。
5 マリヤは直ちに神の子イエスをはらみました。聖霊は彼女の上に来て,最高者の力は彼女をおおつたからです。マリヤは妊娠中の親族,祭司ザカリヤの妻エリサベツのところに急いで行きました。ガブリエルはエリサベツがヨハネをみごもつていると告げたのです。マリヤが彼女とあいさつをするとすぐに彼女の胎内にいたヨハネはおどり,そしてエリサベツは『聖霊に満たされ』ました。彼女はマリヤにこう告げました,『あなたは女の中で祝福されたかた,あなたの胎の実も祝福されています。主の母上が私のところにきてくださるとは,なんという光栄でしよう。ごらんなさい。あなたのあいさつの声が私の耳に入つたとき,子供が胎内で喜びおどりました。』― ルカ 1:39-44,新口。
6 それでエリサベツと未だ産まれていないヨハネは何を認めましたか。これは詩篇 110篇1節とどのように調和していましたか。
6 御霊の働きを受けたエリサベツは,マリヤの子供が自分の『主』であると認めました。同じ聖霊の働きを受けて,エリサベツの胎内にいたヨハネもマリヤの子を自分の『主』と認めました。それよりも幾世紀も前にダビデ王も詩篇 110篇1節で同じことを認めました。霊感を受けていたマリヤ自身も,これから誕生する子の天的な御父であるヱホバ神をあがめました。彼女はヨハネの生まれる頃までエリサベツのところに居り,それからナザレに帰りました。―ルカ 1:46-56。
7 ザカリヤは自分の子ヨセフの誕生したときどんな預言を語りましたか。大工のヨセフは,身ごもつているマリヤと結婚せよと,どのように励まされましたか。
7 エリサベツの子供は産まれました。彼女の夫はその子の名前をヨハネと呼び,それから聖霊に満たされて自分の子ヨハネに次のことを預言しました,『幼な子よ,あなたは,いと高き者の預言者と呼ばれるであろう。ヱホバのみまえに先立つて行き,その道を備え,罪のゆるしによる救をその民に知らせるのであるから。これは私たちの神のあわれみ深いみこころによる。』(ルカ 1:57-78,新世)一方,大工のヨセフはマリヤが身ごもつているのを知りました。彼は,マリヤが不道徳な行いをしたと考え,結婚の取り極めを解消しようと思いました。それは,マリヤが一般の人々から淫行の刑罰を受け,石打ちされて殺されるよりは良いと考えたのです。しかし,或る晩ヨセフは一つの夢を見ました。その夢の中で御使は,マリヤと結婚すべきであるとヨセフに告げました。なぜ? 『その胎内に宿つているものは聖霊によるのである。彼女は男の子を産むであろう。その名をイエスと名づけなさい。彼は,おのれの民をそのもろもろの罪から救う者となるからである。』目を覚ました後,ヨセフはその言葉に従つてマリヤを自分の家に連れて行きました。―マタイ 1:18-25,新口。
8 どんな事が生じたためにイエスはナザレに生まれませんでしたか。羊飼たちは,どのように神の子の誕生について証者となりましたか。
8 神の子イエスは,そのナザレの地で誕生しませんでした。彼が誕生する前にヨセフとマリヤは60マイル南方のベツレヘムに行くことが必要でした。そこはユダヤの地にあるダビデ王の出生地です。ローマ帝国の最初の皇帝カイザル・オウガスタスは,ローマ帝国内にいるすべてのものは,それぞれの家族が始まつた場所で登記せよと命じました。それでユダヤ人の月の暦でエタニムと呼ばれる第7ヵ月目,すなわちキリスト前2年の10月1日頃,神の子イエスはベツレヘムで生まれました。冬の雨はまだ始まつておらず,羊飼たちは夜ベツレヘムのまわりの野原で,羊の群れを守つていました。光が奇跡的に照りかがやき,その中にひとりの御使が現われてこう言いました,『恐れるな。見よ,すべての民に与えられる大きなよろこびを,あなた方に伝える。きようダビデの町にあなたがたのために救主がお生れになつた。このかたこそ主なるキリストである。あなた方は,幼な子が布にくるまつて飼葉おけの中に寝かしてあるのを見るであろう。それが,あなた方に与えられるしるしである。』するとたちまち,『おびただしい数の天の軍勢』がその御使いといつしよになるのを羊飼たちは見ました。天の軍勢は,神をさんびして言いました,『いと高きところでは神に栄光があるように地には善意者のあいだに平和があるように。』羊飼たちは生まれて間もない幼な子を見出し,神の子の誕生についての証者となりました。それから,他の者たちにこのことを証しましたが,ユダヤの悪い王ヘロデにこのことを知らせませんでした。―ルカ 2:1-20,新世。
9 しかし,イエスは何処で生長しましたか。そして,ザカリヤの子ヨハネはどんな仕事をしましたか。そして,なぜ?
9 イエスは,ヘロデ大王の死ぬ時まで南方のエジプトに連れて行かれました。その後,彼はナザレに帰つたのです。このナザレの場所で彼は生長し,養父のヨセフの大工職を手伝いました。この期間中にヨハネの両親は死亡し,ヨハネは神の目的に従いユダヤの荒野で生活していました。荒野でいなごと野蜜とを食べながら彼は30歳になりました。それから神はヨハネをつかわして洗礼を行わせ始め,ダビデの御国相続者なる神の子イエスの先駆者としての行いをなさせました。(ヨハネ 1:33,34)それで(西暦)29年の春,すなわちカイザル・オウガスタスbの後継者『テベリオ皇帝の在位の第十五年』にヨハネはユダヤの荒野で伝道を始め,罪を悔い改めたユダヤ人たちにヨルダン河で洗礼を施しました。ヨハネの父親である祭司ザカリヤは,彼について次のように預言しました,『ヱホバのみまえに先立つて行き,その道を備え,罪のゆるしによる救をその民に知らせる。』それですから,十戒の下にいたユダヤ人たちにその罪を悔い改め,その悔い改めを象徴するために洗礼を受けるようにと告げたことは適当なものでした。―マタイ 3:1-11。ルカ 3:1-6,新世。
10 ヨハネは,何が来ることについて発表しましたか。ヨハネは,自分が神の子の先駆者であることをどのように知り,示しましたか。
10 ヨハネは,また神の御国の来ることを宣明し始めました。彼は『悔い改めよ,ダビデの国は近づいた』と言いましたか。ヨハネがその言葉を伝道したなら,ローマの皇帝とユダヤのローマ総督ポンテオ・ピラトは,暴動を引き起したというかど,およびラエサ・マジェスタス(『害を受けた王位』)の律法を破つたという理由で,ヨハネをつかまえたことでしよう。しかし,ヨハネは何を伝道しましたか。こうです,『悔い改めよ,天国は近づいた』(マタイ 3:1,2,新口)ヨハネは神の子の先駆者であり,かりに神の子に洗礼を施さないことがあろうとも,神の子を確認する特権を持つであろうと,神は彼に告げました。ヨハネの母親エリサベツが告げなかつたとするなら彼の父親は,御使のガブリエルが聖所内で語つたこと,すなわちヨハネが先駆者になつて預言者エリヤのごとく『整えられた民をヱホバに備える』と告げました。それでヨハネは,ヱホバの御子が彼のところにきて,確証を受けるということを期待していました。彼は悔い改めたユダヤ人たちに次のように語つたのです,『私は悔い改めのために,水でお前たちにバプテスマを授けている。しかし,私のあとから来る人は私よりも力のあるかたで,私はそのくつをぬがせてあげる値うちもない。このかたは,聖霊と火とによつてお前たちにバプテスマをお授けになるであろう。』― マタイ 3:11,新口。ルカ 1:17。
11 イエスはヨセフに対する彼の真実の間柄をどのように知りましたか。また,自分がダビデと結ばれた御国契約の王なる相続者であると,どのように知りましたか。
11 そのときイエスは,父親の異る弟たちや妹たち,および母親といつしよにナザレで生活しており,大工の仕事を行つていました。しかし,いつまでも大工の仕事をするのではないということをイエスは知つていました。彼の母親は,神の聖霊が彼女にのぞんでイエスを妊娠したのであり,彼は神の子であると告げました。彼の養父であるヨセフも,自分がイエスの父親ではなく,彼は聖霊によつてマリヤに宿つたとイエスに語りました。マリヤは又彼に御使ガブリエルの言葉をも告げました,すなわちヱホバ神は地的な先祖ダビデの座位をイエスに与え彼はヤコブ(すなわちイスラエル)の家を永久に治め,彼の国は決して終らないとガブリエルは言つたのです。それでイエスは,自分こそヱホバが永遠の御国に関してダビデと結んだ契約の王なる相続者であると知りました。
12 御国の相続者として出現すべき時はいつであるとイエスは知りましたか。
12 しかし,いつ彼は御国の業に入るべきですか。彼はいま30歳に達しました。イエスは自分の考えだけで始めることはできません。祭司ザカリヤの子ヨハネは彼の先駆者であるという御使ガブリエルの言葉はイエスに告げられていました。それですから,先駆者を先ず出現せしめ,約6ヵ月のあいだ先駆せしめて来るべき者を告げ知らせねばなりません。するとある日,ヨハネは悔い改めていたユダヤ人に洗礼を施して『天国は近づいた』と宣明し始めたという知らせがナザレのイエスのところに来ました。その知らせを聞いたイエスの心は深くゆり動かされたにちがいありません。そして,いまこそ,御国の相続者として彼が現われる時は近づいたのです!
13 そのとき,どんな預言的な週が始まりましたか。イエスは何処に行きましたか。それは彼に何をしてもらうためですか。
13 イエスは十分に成熟した男子の年,30歳に達しました。ダニエル書 9章24-26節に予めに告げられた69週年は,終つて,ネヘミヤがエルサレムの石垣を再建したときから計算する70週年は,まさに始まろうとしていました。イエスは今こそメシヤ,すなわちキリストとして現われる正しい時であると認識しました。彼がベツレヘムで生まれたとき,御使はこのキリストについて語つたのです。イエスは大工の道具を店に残して,店と家から出ました。彼は南方に向かつて歩き,ヨルダン河の堤で天の御国の近づいていることを述べていた自分の先駆者ヨハネのところに行きました。イエスは大いなる王ヱホバの都であるエルサレムに行かず,また大祭司アナスによつて油を注がれてユダヤ人の王になるため,ヘロデの宮にも行きませんでした。彼は,祭司の子である自分の先駆者のところに行きました,それは地的なイスラエルを支配する王になり聖なる任命油で油注がれるためではなく,水による洗礼を受けるためでした。―マタイ 3:13。マルコ 1:9。
14 なぜヨハネは,イエスに水の洗礼を授けることをちゆうちよしましたか。
14 洗礼者ヨハネは,イエスを見てよろこびました。しかし,なぜイエスは水による洗礼を受けたいと願い出ましたか。ヨハネは,自分が罪人であるユダヤ人たちに洗礼を施していたということを知つていました。それらのユダヤ人たちは,モーセを通してイスラエルの国民に与えられたヱホバ神の律法に反する罪を悔い改めていたのです。イエスはそのような悔い改めを必要とした罪人ではありません。ヨハネは,イエスが神の子であり,聖霊によつてマリヤにはらまれた聖なる者であると知つていました。全くのところ,ヨハネはまだ母親の胎内にいて生まれて来る前の時でも,マリヤの胎内にいたイエスを『主』と認めて,胎の内でおどりよろこんだのです。それですから,ヨハネはイエスが洗礼を受けることを押し止めてこう言いました,『私こそあなたからバプテスマを受けるはずですのに,あなたが私のところにおいでになるのですか。』
15 ヨハネの反対は,どのように克服されましたか。ヨハネは,イエスに洗礼を施して後,彼についてどんな確証をしましたか。
15 イエスはどのようにヨハネの反対に打ち勝ちましたか。イエスは次のように言われました,『今は受けさせてもらいたい。このように,すべての正しいことを成就するのは,我々にふさわしいことである。』ヨハネはイエスの言葉に従い,その時の両人にふさわしい事柄をいたしました。彼は御国契約の相続者であるイエスに洗礼を施しました。この間イエスは祈りを捧げ,罪を告白することはしていなかつたのです。そのときヨハネは神の御子を確認しました。それは人間的な意味で確認したのでなく,霊的な意味ですなわち人間の胎内に産まれたこととはちがう意味で確認したのです。何が生じましたか。
16 この確証はヨハネにどのように来ましたか。どんな面でそれを理解すべきであると,彼はどのように知りましたか。
16 『イエスはバプテスマを受けるとすぐ,水から上がられた。すると,見よ,天が開け,神の御霊がはとのように自分の上に下つてくるのをごらんになつた。また天から声があつて言つた,「これは私の愛する子,私の心にかなう者である。」』(マタイ 3:13-17。ルカ 3:21-23,新口)これは奇跡的な出来事であつて,ヨハネはこれこそ自分の待つていた事柄であると,後日弟子たちに語りました,『私は御霊がはとのように天から下つて,彼の上にとどまるのを見た。私はこの人を知らなかつた。しかし,水でバプテスマを授けるようにと,私をおつかわしになつたそのかたが,私に言われた,「ある人の上に,御霊が下つてとどまるのを見たら,その人こそは,御霊によつてバプテスマを授けるかたである。」私はそれを見たので,このかたこそ神の子であると,あかしをしたのである。』― ヨハネ 1:32-34,新口。
17 (イ)それでイエスは何に産み出されましたか。彼は何の相続者になりましたか。(ロ)彼にあつて,いま,ユダヤ人の中には何が見出されましたか。
17 この神の御業によりイエスは神の御霊によつて産み出されました。それはマリヤの胎から産まれるということでなく,神の霊的な子『新しい創造』になるためでした。そして,目に見えぬ天における霊者としての生命を前途に持つようになりました。この行いによつてイエスは油を注がれたのです。それはイスラエルの大祭司が油の角で油を注いだのではなく,ヱホバ神が聖霊によつて油を注いだのです。ダビデ王の家族に人間として生まれることにより,また王室に属する大工ヨセフの養子になることにより,イエスはダビデ王の相続者になりました。それは,御国についてのヱホバの契約に一致しており,自然のもの道理に合うものでした。しかし今や天から産み出されて神の子と言われ,そして神の聖霊によつて油そそがれたイエスは,神が油を注いだ者すなわちキリストになりました。彼は,パレスチナの約束の地にあつたダビデ王の地的なイスラエル人の国よりも大きくて高い国の油注がれた相続者になりました。イエスはその天的な御国の相続者になりました。たしかに,メシヤなる彼,『油注がれた君』は,(西暦)29年のその年に来ました。それは69週年の終りであつて,ダニエル書 9章25節を時間通りに正確に成就したのです。真実に御国相続者なる彼によつて,『天の御国』は近づきました。全くのところ,それはユダヤ人の中にあつたのです。―ルカ 17:21。
18,19 なぜヨハネは,悔い改めの象徴としてイエスに洗礼を施しませんでしたか。それでは,なぜイエスは水による洗礼を受けるようになりましたか。
18 それでは,イエスの受けた水の洗礼は何を表わし示しましたか。彼が悔い改めをした罪人であることを示したのではありません。彼は神の律法を完全に守つたからです。永遠の生命を欲してイエスに『先生,それらの事はみな,小さい時から守つております』と告げたユダヤ人以上に,イエスははるかにすぐれた仕方で神の律法を守りました。(マルコ 10:17-20,新口)ヨハネは,イエスを神の聖なる人間の子と認めていました。それで彼は罪についてのイエスの悔い改めの象徴としてイエスに洗礼を施したのではありません。イエスをヨルダン河の水の下に没したとき,ヨハネがどんな言葉を用いたかは,聖書は告げていません。しかし,イエスはなぜ洗礼を受けに来たかを知つていました。それは天におけるごとく地上でも天的な御父のみこころを行うためでした。
19 使徒パウロは,主なるイエスについて次のごとく語り,そのことをこのように説明しています,『雄牛ややぎなどの血は,罪を除き去ることができないからである。それだから,キリストがこの世にこられたとき,次のように言われた「『あなたは,いけにえやささげ物を望まれないで,私のために,からだを備えて下さつた。あなたは燔祭や罪祭を好まれなかつた。』そのとき,私は言つた,『神よ,私につき,巻物の書物に書いてあるとおり,見よ,御旨を行うためにまいりました。』」ここで,初めに「あなたは,いけにえとささげ物と燔祭と罪祭と(すなわち,律法に従つてささげられるもの)を望まれず,好まれもしなかつた。」とあり,次に「見よ,私は御旨を行うためにまいりました」とある。……この御旨にもとづきただ一度イエス・キリストのからだがささげられたことによつて,私たちはきよめられたのである。』(ヘブル 10:4-10,新口)使徒パウロは,洗礼を受けたイエスに預言的な詩篇 40篇6-8節を引用していました。
20 それでは,イエスはそこで何を象徴しましたか。そして,彼が洗礼を受けたとき彼の意志は死んだかどうかについて何が示していますか。
20 イエスは,その水による洗礼により自分自身すなわち全身をヱホバのみこころを行うために献げたことを象徴しました。それはモーセを通して与えられた律法が要求する以上に神に献身したのです。彼が水の洗礼を受けたとき,そしてヨハネにより水の下に没せられたとき,イエスは地的な生涯の過去の状況については象徴的に死にました。彼の意志は死んだのではありません,彼がヨルダン河から引き上げられたとき,彼は意志の力を持ちつづけていたからです。イエスは,その後にこう語りました,『私の食物というのは,私をつかわされた方のみこころを行い,そのみわざをなし遂げることである。』『私自身の考えでするのではなく,私をつかわされた方のみ旨を求めているからである。』『私が天から下つてきたのは,自分のこころのままを行うためではなく,私をつかわされたかたのみこころを行うためである。私をつかわされた方のみこころは,私に与えて下さつた者を,私がひとりも失わずに,終りの日によみがえらせることである。私の父の御こころろは,子を見て信じる者が,ことごとく永遠の生命を得ることなのである。そして,私はその人々を終りの日によみがえらせるであろう。』そして,不忠実なユダによつて裏切られるすこし前,神に捧げた祈りの中でイエスは次のように言いました,『わが父よ,この杯を飲むほかに道がないのでしたら,どうか,みこころが行われますように。』『しかし,私の思いではなく,みこころが成るようにして下さい。』― ヨハネ 4:34; 5:30; 6:38-40。マタイ 26:42。ルカ 22:42。またコリント前書 7章37節をも見なさい。
21 弟子たちに『みこころが行われますように』祈れと教えたイエスは,なぜ偽善者ではありませんでしたか。
21 イエスが苦しみの杭にかけられて実際の死という洗礼を受けた日まで,彼は絶えず自分の意志の力を行使して神である御自分の父のみこころと一致させました。(ヨハネ 21:22)神に次のように祈れと弟子たちに教えたイエスは,偽善者ではありませんでした,『御国がきますように。みこころが天に行われるとおり,地にも行われますように。』― マタイ 6:9,10,新口。
[脚注]
a 『ヱホバ』は,すくなくとも聖書のルカ伝をヘブル語訳にした印刷本9冊の中にあります。
b カイザル・オウガスタスは西暦14年8月19日に死にました。それで『テベリオ皇帝の在位の第十五年』は西暦29年8月18日に終りました。そのときよりも前に約30歳の洗礼者ヨハネは,伝道を始めました。
[296ページの表]
(正式に組んだものについては出版物を参照)
ヨセフの家系 マリヤの家系
21 アブラハム アブラハム
22 イサク イサク
23 ヤコブ ヤコブ
24 ユダ ユダ
25 パレス パレス
26 エスロン エスロン
27 アラム アルニ
28 アミナダブ アミナダブ
29 ナアソン ナアソン
30 サルモン サルモン
31 ボアズ ボアズ
32 オベデ オベデ
33 エッサイ エッサイ
34 ダビデ ダビデ
35 ソロモン ナタン
36 レハベアム マタタ
37 メナ
38 メレヤ
39 アビヤ エリヤキム
40 アサ ヨナム
41 ヨサバテ ヨセフ
42 ヨラム ユダ
43 (アハジャ) シメオン
44 (エホアシ) レビ
45 (アマジャ) マタテ
46 ウジヤ ヨリム
47 ヨタム エリエゼル
48 アハズ ヨシュア
49 ヒゼキヤ エル
50 マナセ エルマダム
51 アモン コサム
52 ヨシヤ アデイ
53 (エホヤキム) メルキ
54 エコニヤ ネリ
55 サラテル サラテル
56 ゾロバベル ゾロバベル
57 (歴代志略上 3:19-21によるとハナニヤ)
58 レサ
59 ヨハナン
60 アビウデ ヨダ
61 エリヤキム ヨセク
62 シメイ
63 マタテヤ
64 マハテ
65 ナンガイ
66 アゾル エスリ
67 ナホム
68 アモス
69 サドク マタテヤ
70 アキム ヨセフ
71 エリウデ ヤンナイ
72 エレアザル メルキ
73 マタン レビ
74 ヤコブ マタテ
75 ヘリ(マリヤの父)
76 ヨセフ ヨセフ(ヘリの義理の子)
77 イエス(養子) イエス(マリヤの子)