だれに復活の希望があるか
「海はその中にいる死人を出し,死も黄泉もその中にいる死人を出し……それから,死も黄泉も火の池に投げ込まれた。この火の池が第二の死である」― 黙示 20:13,14。
1,2 (イ)人間の大きな敵はどんな力を持っていますか。それはだれですか。(ロ)その者はどなたによって滅ぼされますか。そのかたのどんな行いによって,それは成し遂げられますか。
人間の最も大きな敵は死をもたらす力を持っています。この者は間もなく滅ぼされます。これは1900年前のイエス・キリストの死によって成しとげられるすばらしい事の一つです。それ以前にイエスは天において栄光を持つ神の子でした。しかし天の父の力あるみ手の下に自らを低くしたイエスは天の栄光を捨て,神の力により血肉を持つ人間となって生まれ,エルサレムのダビデ王の子孫,従って族長アブラハムの子孫の一人となりました。ダビデ王の家系に属するユダヤ人の処女マリヤによって,イエスはアブラハムの子孫の一人と同じ者になったのです。西暦33年の過越しの日にイエスは死にました。その日はユダヤ人が過越しの羊をほふる日でした。イエスは,「死の力を持つ者」悪魔に仕えた人間の手にかかって羊のようにほふられ,彼らの仕わざを妨げようとはせずに死につきました。イエスの死によってもたらされる救いに関し,次のことが書かれています。
2 「このように,子たちは血と肉とに共にあずかっているので,イエスもまた同様に,それらをそなえておられる。それは,死の力を持つ者,すなわち悪魔を,ご自分の死によって滅ぼし,死の恐怖のために一生涯,奴隷となっていた者たちを,解き放つためである。確かに,彼は天使たちを助けることはしないで,アブラハムの子孫を助けられた」― ヘブル 2:14-16。
3 イエス・キリストはその犠牲の死によってどこに下りましたか。詩篇 16篇10節はイエスにどう成就しましたか。
3 このように神のみ心に従って犠牲となったイエス・キリストは,シェオール(陰府)またヘーデース(黄泉)すなわち死んで土の塵の中に横たわる人間一般の墓に下りました。しかし全能の神は,忠実なみ子が永久にシェオールに留められることを許さず,またその肉体が記念の墓の中で朽ちるのを許しません。3日目に神はイエス・キリストを死からよみがえらせて,ダビデ王の書いた詩篇 16篇10節を成就させました。クリスチャン使徒パウロは詩篇 16篇10節を引用して次のことを述べています。「そは他の篇に『なんぢは汝の聖者を朽腐に帰せざらしむべし』と言へり,それダビデは,その代にて神の御旨を行ひ,終に眠りて先祖たちと共に置かれ,かつ朽腐に帰したり然れど神の甦へらせ給ひし者は朽腐に帰せざりき」― 使行 13:35-37,文語。
4 なぜイエス・キリストは死をもたらす者悪魔を滅ぼすことができますか。イエスはどのようにその事をしますか。
4 全能の神はイエス・キリストをシェオールからよみがえらせ,「死の力を持つ者」サタン悪魔よりもはるかに強い不滅の霊者にしました。復活したイエス・キリストは,死をもたらした悪魔を神の定めの時に滅ぼします。イエス・キリストは神から油そそがれた王として統治する1000年の間に,悪魔をはじめすべての悪鬼の活動を封じるため,悪魔と悪鬼どもを捕えて底のないところに束縛します。
5 (イ)その事は何時起きますか。このようにして何が逃げ去りますか。(ロ)さばきの日のどんな幻がそのとき成就しますか。
5 この事は,天の戦士イエス・キリストと天使たちが,政治支配者の治めるサタンの地上の組織を滅ぼすハルマゲドンの戦いの直後に起きます。(黙示 19:11–20:3)こうして象徴的な天と地は,白い大きな御座すなわち神のさばきの座の前から追われて逃げ去り,「新しい天と新しい地」に場所をゆずらなければなりません。(黙示 20:11; 21:1)クリスチャン使徒ヨハネの見た幻が成就するのはその時です。「また,死んでいた者が,大いなる者も小さき者も共に,御座の前に立っているのが見えた。かずかずの書物が開かれたが,もう一つの書物が開かれた。これはいのちの書であった。死人はそのしわざに応じ,この書物に書かれていることにしたがって,さばかれた。海はその中にいる死人を出し,死も黄泉もその中にいる死人を出し,そして,おのおのそのしわざに応じて,さばきを受けた」― 黙示 20:12,13。
6 14万4000人の弟子たちは,なぜその幻に含まれていませんか。
6 黙示録 20章13節には,「海はその中にいる死人を出し,死も黄泉もその中にいる死人を出し」と述べています。ヘブル書 2章16節に「アブラハムの子孫」と呼ばれている人々,すなわちイエス・キリストの直接の追随者となった14万4000人はこの中に含まれていません。この「アブラハムの子孫」によって,地のすべての国民は永遠の祝福を獲得します。(黙示 7:3-8; 14:1,3。創世 12:3; 22:18)19世紀前にシェオール(陰府)すなわちヘーデース(黄泉)は,死んだイエス・キリストを出しました。イエスの霊的な兄弟である14万4000人の忠実な追随者は,「第一の復活」と呼ばれる復活に与ってイエスに似る者となります。
7,8 (イ)彼らの復活は何時始まりましたか。(ロ)黙示録 20章4-6節は,彼らの復活をどのように描いてますか。
7 聖書の示すところによれば,この人々の復活は西暦1918年すなわちイエス・キリストが天において王の位につき,敵の只中で支配を始めてから3年半後に始まりました。(詩 110:1,2。ヘブル 10:12,13。黙示 14:13)ゆえに黙示録 20章は,海と死と黄泉(ヘーデース)が死人を出すことを述べる前に,イエス・キリストの霊的な追随者である14万4000人の復活についてまず次のことを述べているのです。
8 「また見ていると,かず多くの座があり,その上に人々がすわっていた。そして,彼らにさばきの権が与えられていた。また,イエスのあかしをし神の言を伝えたために首を切られた人々の霊がそこにおり,また,獣をもその像をも拝まず,その刻印を額や手に受けることをしなかった人々がいた。彼らは生きかえって,キリストと共に千年の間,支配した。(それ以外の死人は,千年の期間が終るまで生きかえらなかった。)これが第一の復活である。この第一の復活にあずかる者は,さいわいな者であり,また聖なる者である。この人たちに対しては,〔火の池で象徴される〕第二の死はなんの力もない。彼らは神とキリストとの祭司となり,キリストと共に千年の間,支配する」― 黙示 20:4-6,14; 21:8。
「第一の復活」
9 (イ)これはキリストの共同相続者14万4000人がヘーデース(黄泉)すなわちシェオール(陰府)に行かないという意味ですか。(ロ)イエスがペテロに告げたマタイ伝 16章18節の言葉によれば,たとえどんなものでも,14万4000人に勝つことができませんか。
9 先に述べた通り,黙示録 20章13節は,イエス・キリストの共同相続者14万4000人のことを述べていません。しかしこれら14万4000人は死んでヘーデース(黄泉)またシェオール(陰府)に行く事がないという意味ではありません。また海で死んで陸に葬られない場合があるとすれば,やはり海に死んでいる人々の一人となるのです。それで「第一の復活」に与るために,ヘーデース(黄泉)また海における死からよみがえされる事が必要です。岩であるご自身の上に教会すなわち会衆を建てることについて,イエス・キリストが12使徒に告げた言葉はその事を示しています。「我この磐(ペトラ)の上に我が教会を建てん,黄泉(ヘーデース)の門はこれに勝たざるべし」。(マタイ 16:18,文語)ご自身が死から復活してのち,イエスは使徒ヨハネに与えた幻の中で次のことを言われました。「わたしは初めであり,終りであり,また,生きている者である。わたしは死んだことはあるが,見よ,世々限りなく生きている者である。そして,死と黄泉とのかぎを持っている」。「耳のある者は,御霊が諸教会に言うことを聞くがよい。勝利を得る者は,第二の死によって滅ぼされることはない」。それで復活があるのです。―黙示 1:17,18; 2:11。
10 (イ)14万4000人の共同相続者のために,イエス・キリストはどのように死と黄泉の力を破りますか。(ロ)さばきに関して,黙示録 20章4節は14万4000人のことをどのように描いていますか。
10 復活したイエス・キリストは,「死の力を持つ者」悪魔を滅ぼします。死と黄泉(ヘーデース)のかぎを持つイエスは,ご自身の霊的兄弟14万4000人から成る忠実な会衆に黄泉(ヘーデース)が打ち勝つことを許しません。西暦1914年,天で王の位についてのち,イエスは死と黄泉(ヘーデース)の力を破り,死についている会衆の成員を解放して「第一の復活」に与らせます。目に見えない,この霊的な復活によって,14万4000人は天においてイエス・キリストの共同相続者になり,サタン悪魔が底のない所につながれる1000年のあいだ,キリストと共に王となり,祭司となり,さばき人となります。これらの人々は「大きな白い御座」の前に立ってさばかれるのではありません。それとは反対に,黙示録20章4節によれば,位についたこの人々に「さばきの権が与えられて」います。こうして黄泉(ヘーデース)に死んでも,この人々の死は「第二の死」という言葉が表わすような永遠の死ではありません。
11,12 ヨハネ伝 6章39-54節において,イエスは死と黄泉がイエスの弟子たちに永久に打ち勝たないことを,どのように保証しましたか。
11 死と黄泉(ヘーデース)が,イエスの忠実な弟子に永久に勝つことはありません。イエス・キリストはこの事を重ねて保証しました。人々を復活させるために神から用いられるイエス・キリストは,忠実を守って死んだ弟子たちの死が永遠の死とならないようにします。イエスは次のことを言われました。
12 「わたしをつかわされたかたのみこころは,わたしに与えて下さった者を,わたしがひとりも失わずに,終りの日によみがえらせることである。わたしの父のみこころは,子を見て信じる者が,ことごとく永遠の命を得ることなのである。そして,わたしはその人々を終りの日によみがえらせるであろう」。「わたしをつかわされた父が引きよせて下さらなければ,だれもわたしに来ることはできない。わたしは,その人々を終りの日によみがえらせるであろう……〔信仰によって〕人の子の肉を食べず,また,その血を飲まなければ,あなたがたの内に命はない。わたしの肉を食べ,わたしの血を飲む者には,永遠の命があり,わたしはその人を終りの日によみがえらせるであろう」― ヨハネ 6:39,40,44,53,54。
13 イエスはその友ラザロに関連して,どんな力を示しましたか。どのように?
13 地上においてさえイエス・キリストは,将来の復活の力を示す奇跡を行ないました。イエスは,その愛する友ラザロがシェオール(陰府)に下って4日目に,彼をそこからよみがえらせました。その直前にイエスはラザロの姉妹マルタにむかい,「わたしはよみがえりであり,命である。わたしを信じる者は,たとい死んでも生きる。また,生きていて,わたしを信じる者は,いつまでも死なない」と言われました。それからイエスは記念の墓の入口から石を取りのかせ,ラザロを墓の中から生命によび返しました。この奇跡によって,マルタは期待していたよりも早く,兄弟のラザロをとり戻すことになりました。マルタはイエスにむかい,「終りの日のよみがえりの時よみがえることは,存じています」と言ったからです。―ヨハネ 11:24-44。
14 後にラザロはどうなりましたか。しかしラザロに関しては,何を期待できますか。
14 言うまでもなくラザロはその後死にましたが,おそらくイエス・キリストの忠実な弟子として死んだことでしょう。それでラザロはシェオール(陰府)すなわちヘーデース(黄泉)に戻りました。しかしヘーデースが忠実なクリスチャン会衆の成員であるラザロに勝つことはありません。イエスがベタニヤに来られ,4日間の死の眠りからラザロを呼びおこした時,黄泉はラザロに勝たなかったからです。しかしこのたびは,神の国の王として治めるイエス・キリストが,クリスチャン会衆の他の成員と共にラザロをよみがえらせます。その後ラザロが再び死ぬことはありません。―ヨハネ 11:26。
15 「第一の復活」という言葉から,復活全般に関して何がわかりますか。コリント前書 15章20-23節は,その事をどのように証明していますか。
15 黙示録 20章5,6節は「第一の復活」のことを述べていますから,全体として見るとき,復活には順序のあることがわかります。14万4000人の弟子たちの復活すなわち栄光ある,天への霊的な復活について述べたコリント前書 15章20節から23節は,その事を明らかにしています。「キリストは眠っている者の初穂として,死人の中からよみがえったのである。それは,死がひとりの人によってきたのだから,死人の復活もまた,ひとりの人によってこなければならない。アダムにあってすべての人が死んでいるのと同じように,キリストにあってすべての人が生かされるのである。ただ,各自はそれぞれの順序に従わねばならない。最初はキリスト,次に,主の来臨に際してキリストに属する者たち……である」。
16 また黙示録 20章は,復活の順序に関して何を示していますか。
16 黙示録 20章もまたこの順序を示しています。それによれば,まずイエス・キリストの共同相続者14万4000人が幸いにも第一の復活に与って生命によみがえり,ついで地上の永遠の生命の機会を得る他の死人が海と黄泉(ヘーデース)から救われます。
「まさりたる復活」
17 ヘブル書 11章35節にある「まさった復活」という言葉は,だれにあてはまりますか。
17 イエス・キリストの死と復活の前に生存した人々について,ヘブル書 11章35節は興味深いことを述べています。「女は死にたる者の復活を得,ある人は更にまさりたる復活を得んために免さるることを願はずして極刑を甘んじたり」。(文語)
18 ヘブル書 11章はだれの信仰のわざを述べていますか。またその人々の復活が保証されていることを,どのように述べていますか。
18 この章は,バプテスマのヨハネからアベルにまでさかのぼる「多くの証人」の偉業を述べています。アベルはアダムとエバの子カインの弟で,エホバの忠実な証人となった最初の人です。(ヘブル 11:4から12:1)これら昔の信仰の人々が復活することは確かです。ヘブル書 11章を書いたクリスチャンの筆者は,これらの人々が「死人の中から人をよみがえらせる」神の力を信じていたことを証ししており,またクリスチャンの読者にむかって,この章の終わりに次のことを述べているからです。「さて,これらの人々はみな,信仰によってあかしされたが,約束のものは受けなかった。神はわたしたちのために,さらに良いものをあらかじめ備えて下さっているので,わたしたちをほかにしては彼らが全うされることはない」― ヘブル 11:19,35,39,40。
19 どんな意味において,その人々の復活は,「わたしたち(14万4000人)をほかにしては」あり得ないのですか。
19 イエス・キリストの忠実な弟子14万4000人は,イエスご自身と同じく,死から復活して「全うされ」ます。これらのクリスチャンをほかにして,すなわち彼らが天において「全うされ」る前に,クリスチャン時代以前の「多くの証人」が復活することはありません。イエス・キリストの忠実な共同相続者14万4000人の与る「第一の復活」は,時と質と重要さにおいて第一のものだからです。
20 (イ)それは14万4000人の復活にくらべて「まさった復活」ですか。(ロ)どんな意味において,それは「まさった復活」ですか。
20 ゆえに昔の「多くの証人」の受ける「まさった復活」が,天において神の国を相続する14万4000人の復活にまさることはありません。しかしそれは預言者エリヤとエリシャの手でよみがえらされた人々の復活にまさっています。それはイエス・キリストや使徒たちの手でよみがえらされた人々の復活にさえ,まさっています。a それはどのようにまさっているのですか。これら神のしもべたちがよみがえらせた人々は,再び死んでヘーデース(黄泉)またシェオール(陰府)に下ったからです。それはなぜですか。「異邦人の時」の支配が西暦1914年に終わった後になって,み子イエス・キリストによる天の神の国の支配が始まったからです。いまは設立された天の神の国の下で,昔の「多くの証人」の「まさった復活」があるのです。天の王イエス・キリストが「死と黄泉のかぎ」を用いてこれら昔の証人を黄泉(ヘーデース)すなわち陰府(シェオール)から呼び戻すとき,彼らは二度と死なないでしょう。それはなぜですか。
21 これら昔の証人は,復活ののち,なぜもう死ぬ必要がありませんか。
21 敬虔な信仰と従順を保ち,「いのちの書」に名前を留めることによって,この人々は完全な人間にまで次第に高められます。そして最後には,楽園となった地で完全な人間とって永遠に生きることのできる生命の報いを得ます。彼らは「火の池に投げ込まれ」ません。このような人は復活した時から信仰の人であり,従って完全な人間を目ざして歩みも容易なものとなるに違いありません。
22 ダニエル書 12章13節は,ダニエルに何を保証していますか。それは何時のことですか。
22 たとえば預言者ダニエルがいます。「ペルシャの王クロスの第三年」に,神の天使はこの「終りの時」に関する驚くべき預言をダニエルに告げました。この預言はダニエルに対する天使の次の言葉で終わっています。「しかし,終りまであなたの道を行きなさい。あなたは休みに入り,定められた日の終りに立って,あなたの分を受けるでしょう」。(ダニエル 10:1から12:13)b ヘブル書 11章33節に「彼らは……ししの口をふさぎ」と述べられた人々の中にダニエルも含まれているに違いありません。ダニエルは神の国の下に復活し,「立って」その分を受けます。―エゼキエル 14:14,20; 28:3。マタイ 24:15。c
23 (イ)アベルは殺された時,どこに下りましたか。(ロ)大洪水の前あるいは後に消滅した記念の墓に葬られていた人々はどうなりますか。
23 昔の「多くの証人」の最初の者アベルは,兄カインに殺され,葬られてシェオール(陰府)に下りました。アベルが記念の墓に葬られたかどうかは,聖書にしるされていません。(マタイ 23:35。ルカ 11:51。ヘブル 12:24。創世 4:8-11)アベルの時からノアの時代の世界的洪水の時に至るまで,多くの記念の墓が作られましたが,それらは破壊的な洪水によってまずたいていは流されてしまいました。しかし全知の神エホバは洪水前にヘーデース(黄泉)すなわちシェオール(陰府)に下った人々を知り,「〔アベル,エノクのような〕義者」も「不義者」も共に覚えています。エホバは,イエス・キリストによる御国の下で,ヘーデースまたシェオールに死人を出させます。紀元前2370年の洪水から今日に至るまでの間に消滅した多くの墓や記念の墓についても,同じ事が言えます。
ゲヘナ,「ヒンノムの谷」
24,25 (イ)死んで別の場所に行く人があることを,イエスはどのように語りましたか。その場所に行くことは何を意味しますか。(ロ)マタイ伝 23章13-33節において,イエスはこのような人々がだれであることを明らかにしていますか。
24 西暦33年のこと,「義人アベルの血から……バラキヤの子ザカリヤの血に至るまで,地上に流された義人の血」について語ったイエスは,当時の人々のうち,死んでヘーデース(黄泉)またシェオール(陰府)に行かず,別のところ,すなわちゲヘナに行く人があることを語りました。この理由でそのような人々は「わざわい」です。それはどんな人々ですか。マタイ伝 23章の中で,イエスはそれがだれであるかを明白にしています。
25 「わざはひなるかな,偽善なる学者,パリサイ人よ,なんぢらは人の前に天国を閉して,自ら入らず,入らんとする人の入るをも許さぬなり。わざはひなるかな,偽善なる学者,パリサイ人よ,汝らは一人の改宗者を得んために海陸を経めぐり,既に得れば,之を己に倍したるゲヘナの子とするなり。わざはひなるかな,偽善なる学者,パリサイ人よ,汝らは預言者の墓をたて,義人の碑を飾りて言ふ『我らもし先祖の時にありしならば,預言者の血を流すことにくみせざりしものを』と。かく汝らは預言者を殺しし者の子たるを自ら証す……蛇よ,まむしのすえよ,なんぢらいかでゲヘナの刑罰を避け得んや」― マタイ 23:13-15,29-33。
26 このような者はなぜゲヘナの子であり,ゲヘナのさばきを受けるようになりましたか。イエスはその事をどのように示していますか。
26 ゲヘナの子,ゲヘナのさばきにあう者とされたこれらの宗教的な人々は,悔い改めなかったユダヤ人の学者,パリサイ人とその改宗者でした。彼らは悔い改めることをせず,天国にはいるのを拒絶しました。イエスは次のように言葉をつづけて,その事を示しました。「それだから,わたしは,預言者,知者,律法学者たちをあなたがたにつかわすが,そのうちのある者を殺し,また〔杭〕につけ,そのある者を会堂でむち打ち,また町から町へと迫害して行くであろう。こうして義人アベルの血から,聖所と祭壇との間であなたがたが殺したバラキヤの子がザカリヤの血に至るまで,地上に流された義人の血の報いが,ことごとくあなたがたに及ぶであろう。よく言っておく。これらのことの報いは,みな今の時代に及ぶであろう」― マタイ 23:34-36,〔新世〕。
27 使徒行伝の示すところによれば,このような者の中には,ゲヘナのさばきを逃れた人がありましたか。
27 パリサイ人の中にも,クリスチャン使徒パウロとなったタルソのサウロのように悔い改め,天国を閉ざすことをやめた人もありました。(使行 7:58; 8:1-3; 9:1-30; 22:1-5; 23:6。ピリピ 3:4-6)使徒行伝 2章10節,8章27-39節にも,割礼を受けた改宗者のことが出ており,また使徒行伝 6章7節は「エルサレムにおける弟子の数が,非常にふえていき,祭司たちも多数,信仰を受け入れるようになった」ことを述べています。宗教的な偽善を捨てたこれらの人々は,クリスチャンの信仰に忠実に留まり,こうしてかつてはゲヘナのさばきを受ける身であったにもかかわらず,それを無事に逃れることができました。彼らは「蛇……まむしのすえ」悪魔を宗教的な父とした者たち,「悪魔でありサタンである龍」のすえでないことを証明しました。―ヨハネ 8:44。黙示 20:2。
28 ギリシャ語のゲヘナという語は何から出ていますか。原語を文字通りに訳すと,どんな言葉になりますか。
28 ゲヘナとはいったいどんな場所であり,またそれは何を象徴していますか。ギリシャ語の「ゲヘナ」は,「ヒンノムの谷」を意味するヘブライ語のゲー・ヒンノムを音訳した言葉です。ギリシャ語の言葉ゲヘナの音節「ゲ」は,「谷」を意味するヘブライ語のゲー(גיא)に相当し,残りの部分「ヘナ」はヒンノムに相当します。ヒンノムはさばき人ヨシュアの時代にいたある人の名前でした。
29 ゲヘナははじめ何でしたか。ヨシュア記 15章8節,18章16節によれば,そこで何が行なわれましたか。
29 ヒンノムの谷という名称が聖書の中にはじめて出てくるヨシュア記 15章8節を読むと,それはベニヤミンとユダの支族の領地を区切る境界線であり,エルサレムと関連しています。(ユダの)境はベンヒンノム〔ヒンノムの子〕の谷に沿って,エブスびとの地,すなわちエルサレムの南のわきに上り,ヒンノムの谷〔ヘブライ語でゲーヒンノム,ラテン語でゲ・エンノム〕の西にある山の頂に上る。これはレパイムの谷の北の果にあるものである」。ギリシャ語七十人訳はこれをオノムのファランクスすなわちオノムの裂け目(割れ目,小谷,峡谷)と呼んでいます。ヒンノムの谷は,ベニヤミンの支族の境界に関連してヨシュア記 18章16節にも出ています。
30 ゲヘナはイスラエル人によってどのように悪用されましたか。そのような悪用を防ぐために,何が行なわれましたか。
30 昔のエルサレムの西および西南にあったヒンノムの谷は,背教のユダヤ人によって悪用されるようになりました。歴代志下 28章3節はエルサレムのアハズ王に関して次のことを述べています。「ベンヒンノムの谷〔ゲー・ベネノム,七十人訳〕の谷で香をたき,その子らを火に焼いて供え物と(した)」。(また歴代下 33:6。エレミヤ 7:31,32。32:35)ヒンノムの谷がバアルの偶像崇拝に使われ,この偽りの神に人身御供をささげるために用いられたので,忠実なヨシヤ王はこの谷をわざと汚しました。列王紀下 23章10節はヨシヤ王について次のことを述べています。「王はまた,だれもそのむすこ娘を火に焼いて,[偽りの神]モレクにささげ物とすることのないように,ベンヒンノムの谷にあるトペテを汚した」。d この谷は現在ワディ・エル・ラバービと呼ばれています。
[脚注]
a 列王紀上 17:17-24。列王紀下 4:17-37; 13:20,21。マタイ伝 10:8; 9:18-26。ルカ伝 7:11-15。ヨハネ伝 11:38-44。使徒行伝 9:36-41; 20:7-12。
b ダニエル書 12章2節は,霊的にのみ死んでいたクリスチャンが,西暦1918年以後,宗教的に死んだ状態から目ざめたことにも適用されています。―黙示録 11:7-13とくらべて下さい。
c ギリシャ語七十人訳において,ダニエル書 12章13節にある「立ち上る」という語はアナスタセイです。クリスチャン・ギリシャ語聖書において「復活」を意味するアナスタシスは,この語から出ています。
d ネヘミヤ記 11:30,エレミヤ記 19:2,6を見て下さい。ヒンノムの谷は霊感のヘブル語聖書中に13回出ています。
[334ページの地図]
(正式に組んだものについては出版物を参照)
エルサレム
ヒンノムの谷
ベニヤミンの支族
ユダの支族
レパイムの野