難解な出版物
人々の間には,分かりやすさではなく,いかに“知的”な響きがあるかによって,書物を評価する傾向が見られます。米国ペンシルバニア大学のマーケティングの教授J・スコット・アームストロングは最近,実例を挙げてこれを示しました。アームストロング教授は経営学の教授20人に,文の難易度の異なる経営学の10種類の雑誌の評価を依頼しました。「果たせるかな,最高の評価を受けたのは最も読みにくい雑誌で,最低の評価を受けたのは最も読みやすい雑誌であった」と「今日の心理学」誌は述べています。
評価の高い雑誌が理解しにくいのは,取り組んでいる概念が複雑なためかどうかを調べるため,アームストロングは,意味を変えることなく文章の各部分を読みやすい形に変えてみました。長い文を短くし,分かりやすい言葉を使い,余分な言葉を取り除きました。
人気の高かったある雑誌にはまず次のように書かれていました。「当誌は次のように結論する。[銀行の]顧客を列にとどめておく確率を大きくするには,業務員は,平均取り扱い時間に対して顧客が当初抱いている個人的推測を短時間にすぎないという印象に変えるべく努力するか,取り扱いに要する時間の価値が大きなものであることを顧客に納得させるよう努めるべきである」。
これを次のように変えました。「[銀行の]お客さんにあまり長く待たないですむと思わせることができれば,並んで待ってもらいやすくなるだろう。別の方法は,待つことによって自分が大きな益を得るとお客さんに思わせることである」。
次に,32人の教授から成る別のグループに,こうしたサンプルを四つ,出所を知らせずに評価してもらいました。「ここでも再び,教授たちは易しい文章を難解な文章よりも低く評価した」と「今日の心理学」誌は伝えています。アームストロングは自分の得た結論を要約して,「納得させることができなければ,混乱させよ」という態度が見られると語りました。
大体,難解な出版物を作り出す面で責任を負っているのは特に法律,宗教,医学の分野で記事を書く人です。「編集者は医師の英語に泣かされることがある」と,メディカル・ワールド・ニューズ誌の編集長アルフレッド・D・バーガーは書いています。バーガーは,医学生を教える一講師が「ひどく汗をかく」という表現ではなく,「発汗過多」という言葉を用いると言って譲ろうとしなかったことがあると語りました。
同編集長の説明によると,「先輩(医学実習生と教授団)の使う難解な言葉を覚えたいという自然な気持ち」から,難解な医学専門語は医師用語となっています。バーガーはさらにこう言葉を続けています。「なまけ心を捨てることだ。より厳密な意味を持つ言葉,たとえばtest(テスト),operation(手術),method(方法),technique(技術)などを選ぶより,“procedure”といった幅広い意味のあるもったいぶった専門語を使う方がたやすい」。
バーガーはさらに次のようにも語っています。「専門外の人に分からない用語」を使おうとする意図的な努力も一つの要因であり,「それによってその言葉を使わない人より自分が頭がよくて学識に富んでいると感じ,初学者に分からないことを話すようになる」。
ニューイングランド医学ジャーナル誌の中でソール・ラドフスキー博士は次のことを認めています。「医学専門誌を見たところ,優れた科学に優れた書き物の伴うことはめったになく,多くの場合,分かりやすい書物を望むのは高望みであることが分かる」。同博士は,一例としてある研究者の次のような文を引き合いに出しました。
「我々は可溶性粒状刺激物に対する患者の多形核白血球反応を調べるため化学的発光分析を用いた。オプソニン作用を受けたおびただしい数の粒子に対する食菌作用が続行している間,患者の多形核白血球には化学的発光反応の鈍りが顕著に認められた」。
科学者が言わんとしていたのは,血液の中の異物を攻撃している時,患者の白血球は通常ほど輝きを発さないということです。
込み入った概念を込み入った言葉で説明することでさえ少しも正当化できません。それは,自分を印象付けようとしているか,自分の言いたいことをはっきり説明する能力に欠けているかのいずれかです。
「容易に理解できることばを出さないなら,何を話しているのかどうして人にわかるでしょうか。あなたがたは,実際には空気に話していることになるのです」― コリント第一 14:9。