聖書の13番目の書 ― 歴代誌第一
筆者: エズラ
書かれた場所: エルサレム(?)
書き終えられた年代: 西暦前460年ごろ
扱われている期間: 歴代第一 9章44節の後: 西暦前1077年-1037年
1 歴代誌第一はどんな点で神聖な記録の肝要で有益な書の一つと言えますか。
歴代誌第一は無味乾燥な単なる系図の一覧表ですか。それはサムエル記や列王記の書の単なる繰り返しにすぎませんか。決してそうではありません。ここには神聖な記録の啓発的で肝要な部分があるのです。つまり,これは書かれた当時,国民とその崇拝を再組織する上で肝要なものでしたし,また現代を含め,後の時代のための聖なる崇拝の型を示す上でも肝要で,有益なものです。歴代誌第一には聖書全巻の中に見られる,エホバに対する,最も美しい賛美の表現の幾つかが収められています。この書はエホバの義の王国を予想させるすばらしい事柄を述べているので,その王国に望みを置く人々すべてにとって,この書を研究することは有益です。ユダヤ人もクリスチャンも昔から,この歴代誌の二つの書をこの上なく大切にしてきました。聖書の翻訳者,ヒエロニムスは歴代誌第一および第二を大変高く評価していたので,これら二つの書を「旧約聖書の要約」とみなし,「これらの書は極めて重要なものであるゆえに,自分は聖書に通じていると考えていながら,これらの書について知らない人は,自分自身を欺いているにすぎない」と断言しました。a
2 歴代誌が書かれたのはなぜですか。
2 歴代誌の二つの書は元来一つの書,もしくは巻き物だったようですが,後に便宜上二つに分けられました。歴代誌はなぜ書かれたのでしょうか。その背景を考えてみてください。バビロンへの流刑は77年ほど前に終わりを告げました。ユダヤ人は自分たちの国に再び定住しました。しかし,エルサレムの再建された神殿では,エホバの崇拝から逸脱しそうな危険な傾向がありました。エズラは裁き人,ならびに神の律法や王の法律の教師を任じたり,エホバの家を美化したりする権限をペルシャの王から与えられていました。ただ正式に認可された人だけが祭司職に就いて奉仕できるようにしたり,部族の相続権を確認して,祭司職に対する支持が得られるようにしたりするには,正確な系図が必要でした。王国に関するエホバの預言から考えても,やはりユダおよびダビデの家系の明確で信頼できる記録を持つのは肝要なことでした。
3 (イ)エズラはユダヤ人の内に何を吹き込みたいと願っていましたか。(ロ)彼はなぜユダの歴史を際立たせましたか。また,清い崇拝の重要性をどのように強調しましたか。
3 エズラは復帰したユダヤ人をその無関心な状態から奮起させ,自分たちは確かにエホバの契約によって与えられた愛ある親切を受け継ぐ者であるという認識を彼らに吹き込みたいという熱烈な願いを抱いていました。ですから,歴代誌の中で,エズラは自国民の歴史,および最初の人アダムにまでさかのぼる人類の起源に関する完全な記述を彼らの前に提示したのです。ダビデの王国が焦点となっていたので,エズラはユダの歴史を際立たせ,10部族の王国の絶対に正当化し得ない記録をほとんど全部省略しました。そして,ユダの最も偉大な王たちを神殿の建造あるいは修復に携わり,神への崇拝の点で熱心に率先した人物として描きました。彼はその王国の倒壊をもたらした宗教上の罪を指摘する一方,回復に関する神の約束をも強調しました。エズラはまた,神殿やその祭司たち,レビ人たち,歌の教師たちその他に関する多くの詳細な点に注意を集中して,清い崇拝の重要性を力説しました。イスラエル人にとって,流刑から帰還した理由 ― エルサレムにおけるエホバの崇拝の回復 ― に焦点を合わせた歴史的な記録を持つのは,非常に励みになることだったに違いありません。
4 エズラが歴代誌の筆者であることをどんな証拠が裏付けていますか。
4 エズラが歴代誌を書いたことを示すどんな証拠がありますか。歴代誌第二の終わりの2節にはエズラ記の冒頭の2節と同じ表現が見られ,歴代誌第二はエズラ 1章3節で完結している一つの文の真ん中で終わっています。ですから,歴代誌の筆者はエズラ記の筆者でもあったに違いありません。このことはさらに,歴代誌とエズラ記の文体,言葉遣い,用語,およびつづり字が同じであるということによっても裏付けられています。これら二つの書に出てくる表現の幾つかは聖書のほかの書には見当たりません。エズラ記を書いたエズラはまた,歴代誌をも書いたに違いありません。ユダヤ人の伝承もこの結論を支持しています。
5 エズラにはどんな霊的および世俗の資格がありましたか。
5 この信頼の置ける正確な歴史を編さんするのに,エズラよりも勝った資格のある人はいませんでした。こう記されています。「エズラは,エホバの律法を調べ,これを行ない,イスラエルで規定と公義を教えるよう心を定めていたからである」。(エズラ 7:10)エホバは聖霊によってエズラを援助されました。ペルシャの世界支配者はエズラの内に神の知恵を認め,ユダの管轄地域における広範な民政権を彼に委任しました。(エズラ 7:12-26)こうして,神および皇帝からの権威を授けられたので,エズラは入手できる最善の文献を用いて,その記述を編さんすることができました。
6 わたしたちが歴代誌の正確さに対する確信を抱けるのはなぜですか。
6 エズラは非凡な研究者でした。彼はそれぞれの時代の信頼できる預言者たちや,公式の記録官や公の記録の保管者たちによって編さんされたユダヤ人の歴史に関する古い記録を徹底的に研究しました。彼の調べた文書のあるものはイスラエルおよびユダ双方の公文書,系図上の記録,預言者たちによって記された史的著作,および部族もしくは氏族の頭の所有していた文書類だったのかもしれません。エズラは少なくとも20のそのような情報源を挙げています。b それらの資料を率直に挙げることにより,エズラは同時代の人たちに,望むなら資料を確かめることのできる機会を誠実に与えましたが,これはエズラの言葉の真実性と信ぴょう性を支持する論拠に相当の重みを加えるものとなります。今日,わたしたちは,エズラの時代のユダヤ人が確信を抱いていたのと同じ理由で,歴代誌の書の正確さに対する確信を抱くことができます。
7 歴代誌はいつ書かれましたか。だれがこれを信頼の置ける書とみなしてきましたか。どんな時期のことを扱っていますか。
7 エズラはペルシャの王アルタクセルクセス・ロンギマヌスの第七年,すなわち西暦前468年に,「バビロンから上って来た」ので,彼は西暦前455年にネヘミヤが到着した重要な出来事について何も記していません。ですから,歴代誌はこれらの年代の間の時期に,恐らく西暦前460年ごろエルサレムで書き終えられたに違いありません。(エズラ 7:1-7。ネヘミヤ 2:1-18)エズラの時代のユダヤ人は,歴代誌を『神の霊感を受けたもので,有益な聖書全体』の紛れもない一部として受け入れていました。彼らはこれを「その時代の事績」,すなわちその時代の歴史という意味の「ディブレー ハイヤーミーム」と呼びました。およそ200年の後,ギリシャ語セプトゥアギンタ訳の翻訳者たちもまた,歴代誌を正典の書として含めました。それら翻訳者たちはこの書を二つの部分に分け,これをサムエル記および列王記,もしくは当時の聖書全体の補足となるものと考え,これを「見逃された(語られていない; 省かれた)もの」という意味のパラレイポメノンと呼びました。この名称は特に適切と言えるわけではありませんが,それでも彼らがそのように呼んだということは,歴代誌を信頼の置ける霊感を受けた聖書の一部とみなしていたことを示しています。ラテン語ウルガタ訳の準備に取りかかっていたとき,ヒエロニムスは,「我々は[これを]神聖な歴史全体のクロニコンと呼ぶほうが,一層よく意味を表わせるであろう」と勧めました。「歴代誌」(英語,クロニクルズ)という表題は,ここから来たと考えられています。歴代誌というのは,出来事を年代順に記した記録のことです。歴代誌第一は系図を列挙した後,主に西暦前1077年からダビデ王の亡くなる時までの同王の時代のことを取り扱っています。
歴代誌第一の内容
8 歴代誌第一はどんな二つの部分に分かれていますか。
8 歴代誌第一と呼ばれるこの書は,必然的に二つの部分に分かれます。最初の9章は主に系図を扱っており,後の20章はサウルの死からダビデの治世の終わりまでの40年間の出来事を取り扱っています。
9 歴代誌の書かれた時代をもっと後代とする見方を支持すべき理由がないのはなぜですか。
9 系図(1:1-9:44)。これらの章は,アダムからゼルバベルの家系に至るまでの系図を掲げています。(1:1; 3:19-24)多くの翻訳の訳し方によれば,ゼルバベルの家系が10代ほど後代まで記されています。彼が西暦前537年にエルサレムに戻ってから,エズラが書き終えたと考えられる西暦前460年までの期間は,それほど多くの世代の人々が生まれるには十分ではなかったでしょう。しかし,この箇所のヘブライ語本文は不完全ですから,記載されている人々の大半がゼルバベルとどのように親族関係にあったかを断定することはできません。したがって,一部の人々がしているように,歴代誌の書かれた時代をもっと後代とする見方を支持すべき理由はありません。
10 (イ)まず,どの世代のことが挙げられていますか。(ロ)2章の初めからどんな系図を筋道の通った仕方でたどれますか。(ハ)ほかにどんな一覧表が掲げられ,それはどんな事柄で終わっていますか。
10 まず,アダムからノアまでの10世代,次いでアブラハムに至るまでの10世代が挙げられています。アブラハムの子らと彼らの子孫,エサウおよびセイルの山地に住んだセイルの後裔,そしてエドムの初期の王たちが列挙されています。しかし,2章以降,記録はイスラエルつまりヤコブの子孫のことを扱っており,そのイスラエルの子孫のうち,まずユダから始まって,ダビデに至るまでの10世代の系図をたどれます。(2:1-14)また,ほかの部族に関しても一覧表が掲げられていますが,レビの部族と大祭司たちのことが特に言及されています。この一覧表はベニヤミン人の王サウルを紹介するものとして,最後にベニヤミンの部族の家系を記しています。それから,厳密な意味での歴史的物語がこのサウル王をもって始まります。時には,エズラの系図と聖書のほかの節との間に矛盾する箇所があるように思えるかもしれません。しかし,ある人々はほかの名前でも知られていることや言語は変化すること,また時間の経過と共に,ある名前はつづり方が変化する場合があるということも覚えておかなければなりません。注意深く研究すれば,問題点のほとんどは取り除かれます。
11 系図の記録の中に入れられているほかの有用な情報の例を挙げなさい。
11 エズラはその系図の中の随所に,問題点を解明したり,重要な示唆を与えたりするのに役立つ,歴史的・地理的情報を少しずつ含めています。例えば,ルベンの子孫を列挙する際,エズラは次のような一つの重要な情報を加えています。「そして,イスラエルの長子ルベンの子ら ― 彼は長子であったが,その父の長いすを汚したことにより,長子としての彼の権利はイスラエルの子ヨセフの子らに与えられたので,彼は長子の権利の点では系図に記録されてはならなかったのである。ユダは,その兄弟たちの中で勝った者となり,指導者となる者が彼から出るのであるが,長子としての権利はヨセフのものであったからである」。(5:1,2)このわずかな言葉で多くのことが説明されています。さらに,ヨアブ,アマサ,およびアビシャイが皆,ダビデのおいであるということは,ただ歴代誌だけが教えており,これは彼らを取り巻く様々の出来事を正しく評価するのに役立ちます。―2:16,17。
12 サウルはどのような状況のもとで死にますか。
12 サウルは不忠実な行ないのために死ぬことになる(10:1-14)。物語は,ギルボア山の戦場でフィリスティア人が攻撃を強行するところから始まります。ヨナタンを含め,サウルの3人の息子は討ち倒されます。それから,サウルは傷を負います。サウルは敵の手で命を奪われることを望まなかったので,その武具持ちに次のように促します。「お前の剣を抜き,それでわたしを刺し貫いてくれ。これら割礼を受けていない者どもがやって来て,わたしをむごく扱うようなことが決してないためだ」。その武具持ちがそうすることを拒むと,サウルは自害します。こうして,サウルは,「彼が守らなかったエホバの言葉に関し,エホバに対して不忠実な行ないをし……また伺いを立てるために霊媒に尋ねたことのゆえに死(にます)。しかも,彼はエホバに伺いはしなかった」のです。(10:4,13,14)エホバは王国をダビデにお与えになります。
13 ダビデは王国でどのように繁栄しますか。
13 ダビデの王国はますます固められる(11:1-12:40)。やがて,12部族はヘブロンでダビデのもとに集まり,彼を全イスラエルの王として,これに油をそそぎます。ダビデはシオンを攻略し,『ますます大いなる者となります。万軍のエホバが彼と共におられるからです』。(11:9)力ある者たちは軍をあずかる者として立てられ,エホバはそれらの者により,「大いなる救いをもって」救いを施されます。(11:14)戦人たちが一つの全き心を抱いて群がり集まり,ダビデを王とするに及んで,彼は人々の一致した支持を受けます。イスラエルでは人々は祝宴を設け,歓喜します。
14 ダビデはフィリスティア人との戦いをどのように行なってゆきますか。信仰を鼓舞するどんな出来事が元となって,歓びに満ちあふれた歌が生まれますか。
14 ダビデと,エホバの箱(13:1-16:36)。ダビデは国の指導者たちと相談し,彼らはその箱を約70年間とどまっていたキルヤト・エアリムからエルサレムへ移すことに同意します。その途中で,ウザは不敬にも神の指示を無視したために死にます。その箱はしばらくの間,オベデ・エドムの家に置いたままにされます。(民数記 4:15)フィリスティア人は侵入しはじめますが,ダビデは2度,つまりバアル・ペラツィムとギベオンで彼らに大敗北を被らせます。レビ人はダビデの指示を受けて,今度は神権的な手順に従って,その箱を無事にエルサレムに移します。エルサレムでは箱は,人々が踊ったり歓喜したりしている中で,ダビデがそのために張った天幕の中に安置されます。そこでは犠牲をささげたり歌を歌ったりすることが行なわれ,ダビデ自身もその時のためにエホバにささげる感謝の歌を献じます。その歌は次のような主題をもってそのすばらしい最高潮に達します。「天は歓び,地は喜びに満ちよ。諸国民の中で言え,『エホバが王となられた!』と」。(歴代第一 16:31)信仰を鼓舞する,なんと感動的な出来事なのでしょう。後に,ダビデのこの歌は幾つかの新しい歌のための基礎として改作されますが,その一つは詩編 96編です。もう一つは詩編 105編の最初の15節に記されています。
15 エホバは統一された崇拝のための家を建てたいというダビデの願いに,どんな驚くべき約束をもって答えられますか。
15 ダビデと,エホバの家(16:37-17:27)。今や,イスラエルでは異常な取り決めが行なわれています。契約の箱はアサフとその兄弟たちの仕えているエルサレムの天幕の中にとどまっている一方,エルサレムの北西数キロの所にあるギベオンでは,大祭司ザドクとその兄弟たちが規定された犠牲を幕屋でささげています。常にエホバの崇拝を高め,統一することを考えていたダビデは,エホバの契約の箱のための家を建てたいとの願いを表わします。しかしエホバは,ダビデではなく,その息子がご自分のための家を建てることになり,また父が息子に表わすような愛ある親切を示して,「必ず彼の王座を定めのない時までも堅く立てる」であろうと言明されます。(17:11-13)エホバのこの驚くべき約束 ― 永遠の王国のためのこの契約 ― はダビデの心を動かします。その感謝の念はあふれ,彼はエホバのみ名が「定めのない時までも信頼できるものであって,大いなるものとなり」,またその祝福がダビデの家の上にあるようにと祈願します。―17:24。
16 エホバはダビデを通してどんな約束を遂行されますか。しかし,ダビデはどのように罪を犯しますか。
16 ダビデの行なった征服(18:1-21:17)。エホバは今や,約束の地全体をアブラハムの胤に与えるというご自分の約束をダビデを通して遂行されます。(18:3)一連の迅速な軍事行動において,エホバは,ダビデがどこへ行っても,「彼に……救いを」施されます。(18:6)ダビデは軍事的な大勝利を博してフィリスティア人を屈服させ,モアブ人を討ち倒し,ツォバ人を打ち破り,シリア人には貢ぎを払うことを余儀なくさせ,アマレクはもとより,エドムやアンモンを征服します。しかし,サタンはダビデを唆して,イスラエルの数を数えさせて,罪を犯させます。エホバは罰として疫病を送りますが,その疫病によって7万人が処刑されたのち,オルナンの脱穀場で憐れみ深くもその災いを終わらせます。
17 ダビデはエホバの家を建てるためにどんな準備をしますか。彼はどのようにソロモンを励ましますか。
17 神殿のためのダビデの準備(21:18-22:19)。ダビデはガドを通して,「エブス人オルナンの脱穀場にエホバのために祭壇を立てるよう」にとのみ使いからの知らせを受けます。(21:18)ダビデはオルナンからその場所を購入した後,そこで従順に犠牲をささげ,エホバを呼びます。するとエホバは,「焼燔の捧げ物の祭壇の上に天から火を下して」彼にお答えになります。(21:26)ダビデは,エホバがその家をそこに建てるよう望んでおられると結論し,材料を整えたり集めたりする仕事に取りかかり,こう言います。「我が子ソロモンは若くて,か弱い。しかも,エホバのために建てられる家は全地に対し,麗しい栄誉の点で並外れて壮大なものとなるべきである。それで,わたしは彼のために用意をしておこう」。(22:5)彼は自分が戦人で,血を流してきたので,その家を建てるのをエホバから許されていないことを息子ソロモンに説明し,この事業に際して勇気を出し,強くあるようにと勧めて,こう述べます。「立ち上がって,行ないなさい。エホバがあなたと共におられるように」― 22:16。
18 どんな目的で人口調査が行なわれますか。
18 ダビデはエホバの崇拝のための組織化を図る(23:1-29:30)。この度は,神のご意志に従い,祭司およびレビ人の奉仕を再組織するために,人口調査が行なわれます。そのレビ人の奉仕はここでは,聖書の他のどこよりも非常に詳細に説明されています。それから,王の奉仕の組の大要が述べられています。
19 ダビデはどんな言葉を述べて,ソロモンを任命しますか。ダビデはどんな計画を知らせますか。彼はどんなすばらしい手本を示しますか。
19 ダビデはその波乱に富んだ治世の終わりに近づいたころ,全国民つまり「エホバの会衆」の代表者たちを召集します。(28:8)王は立ち上がり,「わたしの兄弟たち,わたしの民よ,わたしの言うことを聞きなさい」と語ります。それから,その心の願い,つまり「まことの神の家」のことについて彼らに話します。そして,彼らの前でソロモンを任命し,こう語ります。「それで,我が子ソロモンよ,あなたはあなたの父の神を知り,全き心と喜ばしい魂とをもって神に仕えるように。すべての心をエホバは探り,すべての考えの傾向をわきまえておられるからである。もしあなたが神を求めるなら,ご自分をあなたに見いだされるようにされるが,もしあなたが神を捨てるなら,あなたを永久に捨て去られるであろう。それで,気をつけなさい。エホバが聖なる所となる家を建てさせるため,あなたを選ばれたのだ。勇気を出して行ないなさい」。(28:2,9,10,12)ダビデはエホバからの霊感によって受けた詳しい建築計画を若いソロモンに授け,そのために蓄えてきた膨大な私財 ― 金3,000タラント,および銀7,000タラント ― をその建築事業のために寄進します。このようなすばらしい手本を前にして,君たちや民も5,000タラント1万ダリク相当の金と1万タラント相当の銀,それに大量の鉄や銅を寄贈してこたえ応じます。c (29:3-7)民はこの特権にあずかって大いに喜びます。
20 ダビデの最後の祈りはどんな崇高な頂点に達しますか。
20 それから,ダビデは祈りの中でエホバをたたえ,そのおびただしい捧げ物はみな実際にはエホバのみ手から出たものであることを認め,民とソロモンとの上に神の祝福が引き続きあるよう祈願します。ダビデのこの最後の祈りは,次のようにエホバの王国とその輝かしいみ名を高めることによって,崇高な頂点に達します。「私たちの父イスラエルの神エホバよ,あなたが定めのない時から定めのない時までほめたたえられますように。エホバよ,偉大さと力強さと麗しさと卓越性と尊厳とは,あなたのものです。天と地にあるものは皆あなたのものだからです。すべてのものの頭として自らを高めておられる方,エホバよ,王国も,あなたのものです。富と栄光はあなたによるものです。あなたはすべてのものを支配しておられます。あなたのみ手には力と力強さがあります。あなたのみ手にはすべてのものを大いなるものとし,強さを付与する能力があります。それで今,私たちの神よ,私たちはあなたに感謝し,あなたの麗しいみ名を賛美しております」― 29:10-13。
21 歴代誌第一はどんな高潔な調子を帯びて終わりますか。
21 ソロモンは2度目に油そそがれ,年老いたダビデに代わって「エホバの王座」に座るようになります。40年の治世の後,ダビデは「かなりの高齢で,よわいや富や栄誉にも満ち足りて」死にます。(29:23,28)それから,エズラは諸国民のすべての王国に勝ってダビデの王国が優れていることを強調しながら,高潔な調子で歴代誌第一を結びます。
なぜ有益か
22 エズラの仲間のイスラエル人は歴代誌第一の書によってどのように励まされましたか。
22 エズラの仲間のイスラエル人はこの書から多くの益を得ました。そのざん新で楽観的な見方をもって記された,この簡潔な歴史の記録を持った彼らは,エホバがダビデ王との王国契約に対するご自分の忠節さのゆえに,またご自分のみ名のために彼らに示された愛ある憐れみを正しく評価しました。励ましを受けた彼らは,新たな熱意を抱いてエホバの清い崇拝に携わることができました。記された系図は,再建された神殿で職務を行なう祭司団に対する彼らの確信を強めるものとなりました。
23 マタイ,ルカ,およびステファノは歴代誌第一をどのように利用しましたか。
23 歴代誌第一はまた,初期のクリスチャンの会衆にとっても大変有益でした。マタイやルカは,イエス・キリストが「ダビデの子」で,法的権利を持つメシアであることを明確に立証する際に,その系図を利用することができました。(マタイ 1:1-16。ルカ 3:23-38)ステファノは最後の証言を結ぶに際し,ダビデがエホバのために家を建てたいと願い出たことや,ソロモンがその建築を行なったことについて話しました。それからステファノは,「至高者は手で造られた家などに住まれるのではありません」と述べて,ソロモンの時代の神殿がそれよりもはるかに栄光のある天的な事物を表わしていたことを示しています。―使徒 7:45-50。
24 今日,わたしたちはダビデの輝かしい模範のうちに何を見倣えますか。
24 今日の真のクリスチャンについてはどうですか。歴代誌第一は,わたしたちの信仰を築き上げ,鼓舞するに違いありません。ダビデの輝かしい模範のうちには,わたしたちの見倣える多くのことがあります。常にエホバに物事を伺うという点で,ダビデは不忠実なサウルとは何と異なっていたのでしょう。(歴代第一 10:13,14; 14:13,14; 17:16; 22:17-19)ダビデはエホバの箱をエルサレムに運び上ったり,賛美の詩を作ったり,レビ人を奉仕のために組織したり,またエホバのために輝かしい家を建てたいと願い出たりして,エホバとその崇拝を第一に考えていたことを示しました。(16:23-29)彼は不平家ではありませんでした。彼は自分自身のための特権を求めることなく,ただエホバのご意志を行なうことを求めました。ですから,エホバがご自分の家の建築をダビデの息子に割り当てたとき,ダビデは心をこめてその息子を教え,自分の死後に始められる業の準備をするに際し,自分の時間と精力と富とを与えました。(29:3,9)確かに,専心の見事な模範です!―ヘブライ 11:32。
25 歴代誌第一はわたしたちを感動させて,エホバのみ名と王国に対するどんな感謝の念を抱かせるに違いありませんか。
25 それから,最高潮をなす結びの章があります。ダビデがエホバを賛美し,その「麗しいみ名」の栄光をたたえたときに用いた気高い言葉遣いは,エホバの栄光とキリストによるその王国とを知らせるわたしたちの現代の特権に対する喜びに満ちた感謝の念をわたしたちの内に起こさせるに違いありません。(歴代第一 29:10-13)エホバへの奉仕で自分自身を注ぎ出すことにより,エホバの永遠の王国に対する感謝の気持ちを言い表わすとき,わたしたちの信仰と喜びがいつまでもダビデのそれのようでありますように。(17:16-27)確かに,歴代誌第一は,胤によるエホバの王国という聖書の主題をかつてないほどに美しくきらめかせ,エホバの目的が感動的な仕方でさらに明らかにされることを,わたしたちに期待させるものです。
[脚注]
a クラーク著,「注解」(英文),第2巻,574ページ。
b 「聖書に対する洞察」(英文)第1巻,444,445ページ。
c 「聖書に対する洞察」(英文),第2巻,1076ページ。