9. イエスの教え方について下役たちは何と言いましたか。そう感じたのも当然だと言えるのはどうしてですか。
9 イエスの教え方にも,神の知恵が表れています。ある時,イエスを捕まえるために遣わされた下役たちがイエスを連れずに戻り,「あのように話した人はこれまでいませんでした」と言いました。(ヨハネ 7:45,46)そう感じたのも当然です。「天の領域の者」だったイエスは,どんな人よりも豊かな知識と経験があり,それに基づいて話せたからです。(ヨハネ 8:23)イエスほど上手に教えられる人はいません。イエスが優れた教師だったことが分かる2つの点を考えてみましょう。
「群衆はその教え方に大変驚いていた」
10-11. (ア)イエスが見事に例えを使ったと言えるのはどうしてですか。(イ)例え話を使ったことで,イエスの教えは人々の心に響きました。どんな例がありますか。
10 分かりやすい例えを使った。聖書にはこう書かれています。「イエスは……例えで群衆に話した。実際,例えを使わずに話そうとはしなかった」。(マタイ 13:34)イエスは実に見事に例えを使いました。深い真理を教えるために,日常生活でよく見る事柄を引き合いに出しました。例えば,種をまく農家の人,パンを焼く準備をする女性,広場で遊ぶ子供,網を引き上げる漁師,迷い出た羊を捜す羊飼いなどです。どれも,話を聞いていた人たちにとってなじみ深い光景でした。そのように身近なものと結び付けられると,重要な真理が理解しやすくなり,心に残ります。(マタイ 11:16-19; 13:3-8,33,47-50; 18:12-14)
11 イエスは例え話もよく使いました。短い物語を語って,善悪や真理について教えたのです。抽象的な概念について話すよりも,例え話の方が分かりやすくて覚えやすいので,イエスの教えは人々の心に響きました。イエスが天の父について語る時に使った生き生きとした例えはどれも,忘れ難い印象を与えました。一例として,いなくなっていた息子の例え話から,エホバが温かいお父さんであることがよくイメージできます。悪いことをした人が心から悔い改めるとき,エホバはその人のことをかわいそうに思い,優しく迎え入れてくれます。(ルカ 15:11-32)
12. (ア)イエスは何のために質問を使いましたか。(イ)宗教指導者たちがイエスの権威に疑問を投げ掛けた時,イエスはどうしましたか。
12 質問を上手に使った。イエスは質問することによって,相手が自分で結論を出したり決定をしたりするのを助けました。また,その人自身の本当の気持ちに気付かせることもありました。(マタイ 12:24-30; 17:24-27; 22:41-46)宗教指導者たちがイエスに,あなたには一体どんな権威があるというのかと尋ねた時,イエスは「ヨハネによるバプテスマは天からのものでしたか,それとも人からのものでしたか」と質問で返しました。宗教指導者たちは動揺し,こう論じ合います。「『天から』と言えば,『では,なぜ彼を信じなかったのか』と言うだろう。かといって,『人から』と言えるだろうか」。彼らは,「ヨハネは確かに預言者だったと思っていた」群衆の反応を「恐れていた」のです。それで結局,「私たちは知らない」と答えました。(マルコ 11:27-33。マタイ 21:23-27)イエスのシンプルな質問によって,宗教指導者たちは言葉を失い,彼らの不誠実さが明らかになりました。
13-15. 親切なサマリア人の例え話には,イエスの知恵がどのように表れていますか。
13 イエスは例えと質問を組み合わせて使うこともありました。律法に通じたユダヤ人の男性から,永遠の命を受けるには何をする必要があるかと尋ねられた時,イエスはモーセの律法に注意を向け,神と隣人を愛するよう命じられていることを思い起こさせました。するとその男性は自分の正しさを示そうとして,「私の隣人とはいったい誰でしょうか」と質問します。イエスは答えとして1つの物語を話します。あるユダヤ人の男性が一人旅をしていたところ,強盗たちに襲われて半殺しにされ,置き去りにされます。そこへ2人のユダヤ人,まずは祭司,次いでレビ族の人が通り掛かりますが,見て見ぬふりをして行ってしまいます。次にやってきたのはサマリア人でした。その人は半殺しにされたユダヤ人をかわいそうに思い,傷の手当てをし,宿屋に連れていって世話をします。話の締めくくりにイエスは,質問をした男性にこう尋ねました。「この3人のうち誰が,強盗に襲われた人にとって隣人になったと思いますか」。男性は,「その人に対して憐れみ深く行動した人です」と答えざるを得ませんでした。(ルカ 10:25-37)
14 この例え話には,イエスの知恵がどのように表れているでしょうか。当時,ユダヤ人にとって「隣人」とは自分たちの伝統を守る人のことで,サマリア人など論外でした。(ヨハネ 4:9)もしイエスの話の中で,半殺しにされたのがサマリア人で助けたのがユダヤ人だったとしたら,偏見を打ち砕くことはできなかったでしょう。イエスは知恵を働かせ,サマリア人がユダヤ人を優しく世話する話にしました。結びにイエスがした質問にも注目できます。その質問は,「隣人」という言葉を違う観点から見るよう促すものでした。律法に通じた男性が尋ねていたのは,「私の隣人にふさわしいのは誰ですか」ということでした。でもイエスは,「この3人のうち誰が,……隣人になったと思いますか」と質問しました。親切にしてもらった側のユダヤ人ではなく,親切にした側のサマリア人に注意を引いたのです。そのようにして,本当の隣人とは,民族の違いなどに関わりなく自分の方から愛を表す人だ,ということを示しました。これ以上ないほど要点がよく分かる教え方です。
15 多くの人がイエスの「教え方に大変驚いて」,イエスに引き付けられたのもうなずけます。(マタイ 7:28,29)ある時には「大勢の人」が,食べる物がなくても3日間イエスのそばを離れようとしませんでした。(マルコ 8:1,2)