イエスの敵たちは動揺しています。イエスが彼らの邪悪さを暴く例え話をしたからです。そこでパリサイ派の人たちは,イエスをわなにはめようとたくらみます。人を雇ってイエスの所に派遣し,ローマ総督に引き渡す口実となることをイエスに言わせるのです。(ルカ 6:7)
その人たちはこう言います。「先生,私たちは,あなたが正しく話して教え,不公平な扱いをせず,真理に沿って神の道を教えることを知っています。カエサルに人頭税を払うのは良いことでしょうか,良くないことでしょうか」。(ルカ 20:21,22)イエスはそういうお世辞にはだまされません。その裏に偽善やずる賢さがあることを見破ります。ここで,「良くありません」と答えれば,ローマに対する反逆の罪で訴えられるかもしれません。逆に,「良いことです」と言えば,ローマの支配を嫌っている人々は,イエスを誤解し,敵意を示すかもしれません。イエスはどう答えるでしょうか。
イエスは,「なぜ私を試すのですか,偽善者たち。人頭税の硬貨を見せなさい」と言います。すると,デナリ硬貨が持ってこられたので,イエスは,「これは誰の像と称号ですか」と聞きます。「カエサルのです」という返事に対し,「それでは,カエサルのものはカエサルに,しかし神のものは神に返しなさい」と巧みに答えます。(マタイ 22:18-21)
その人たちはイエスの言葉に驚きます。答え方が見事だったので言い返せず,その場を去ります。しかし,イエスをわなに掛けようとするたくらみはこれで終わりません。パリサイ派の人たちの計画は失敗しましたが,別のグループの指導者たちがイエスの所にやって来ます。
復活はないと主張するサドカイ派の人たちです。彼らは,復活と義兄弟結婚に関する質問を持ってきました。こう尋ねます。「先生,モーセは,『男が子供を持たずに死んだなら,彼の兄弟が残された妻と結婚して,兄弟のために子孫をもうけなければならない』と言いました。さて,私たちの所に7人の兄弟がいました。長男は結婚して死にましたが,子孫がおらず,妻を兄弟に残しました。次男,三男,結局7人全員が同じようになりました。最後にその女性が死にました。そうすると復活の際,この女性は7人のうち誰の妻なのでしょうか。全員が妻にしたのです」。(マタイ 22:24-28)
イエスは,サドカイ派の人たちが受け入れているモーセの書を引用し,こう答えます。「そのような考え違いをするのは,聖書も神の力も知らないからではありませんか。生き返る時,男性も女性も結婚しません。天使のようになります。死者が生き返ることに関しては,モーセが書いたいばらの木に関する記述の中で,神がモーセに『私はアブラハムの神,イサクの神,ヤコブの神である』と言ったのを読まなかったのですか。この方は死んだ人の神ではなく,生きている人の神です。あなた方はひどく間違っています」。(マルコ 12:24-27。出エジプト記 3:1-6)群衆はその答えに非常に驚きます。
パリサイ派の人たちもサドカイ派の人たちも,イエスに全く言い返せませんでした。そこで今度はイエスを試すためにこの2つのグループが一緒にやって来ます。その中の1人の律法学者が,「先生,律法の中で最大のおきてはどれですか」と質問します。(マタイ 22:36)
イエスは答えます。「第一はこうです。『聞きなさい,イスラエル,私たちの神エホバはただひとりのエホバであり,あなたは,心を尽くし,知力を尽くし,力を尽くし,自分の全てを尽くして,あなたの神エホバを愛さなければならない』。第二はこうです。『あなたは隣人を自分自身のように愛さなければならない』。これらより大きなおきてはほかにありません」。(マルコ 12:29-31)
律法学者はその答えを聞いて,こう言います。「先生,『神はただひとりであり,そのほかにはいない』と,真理に沿ってよく言われました。心を尽くし,理解力を尽くし,力を尽くして神を愛すること,また,隣人を自分自身のように愛することは,全焼の捧げ物と犠牲全部よりはるかに価値があります」。イエスは,この人が的確に答えたのを見て,「あなたは神の王国から遠くありません」と言います。(マルコ 12:32-34)
イエスは神殿で3日間(ニサン9日から11日)教えています。その間,この律法学者のようにイエスの話を喜んで聞いた人たちもいますが,宗教指導者たちは違います。彼らには「それ以上イエスに質問する勇気は」ありません。