ペレアでの伝でん道どう

イエスはユダヤとエルサレムで人ひと々びとを教おしえ，癒いやしを行おこなった後のち，ヨルダン川がわを渡わたり，ペレア地ち域いきの町まちから町まちへ教おしえていきます。しかし間まもなくして，エルサレムへ戻もどります。

ペレアでのこと，1人ひとりの男だん性せいがイエスに，「主しゅよ，救すくわれる人ひとは少すくないのですか」と尋たずねます。この人ひとは，救すくわれる人ひとたちが多おおいか少すくないかという宗しゅう教きょう指し導どう者しゃたちの議ぎ論ろんを知しっていたのかもしれません。イエスはその質しつ問もんには答こたえず，救すくわれるためには何なにをすべきかこう教おしえます。「狭せまい戸と口ぐちを通とおって入はいるため，精せい力りょく的てきに励はげみなさい」。そこまでの努ど力りょくが必ひつ要ようなのはなぜですか。イエスは，「あなた方がたに言いいますが，入はいろうとしても入はいれない人ひとが多おおいからです」と説せつ明めいします。（ルカ 13:23，24）

精せい力りょく的てきに励はげむ必ひつ要よう性せいを，イエスは例たとえで説せつ明めいします。「家いえの主しゅ人じんが立たち上あがって戸とに鍵かぎを掛かけると，あなた方がたは外そとに立たって戸とをたたき，『主しゅよ，開あけてください』と言いいます。……しかし主しゅ人じんは言いいます。『あなた方がたがどこの人ひとか知しりません。悪あくを行おこなう者ものたちよ，皆みな，私わたしから離はなれ去さりなさい！』」（ルカ 13:25-27）

この例たとえでは，ある人ひとが遅おくれて来くると戸とが閉しまり鍵かぎが掛かかっているという惨みじめな状じょう況きょうが描びょう写しゃされています。自じ分ぶんの都つ合ごうの良よい時じ間かんに来きたのでしょう。しかし都つ合ごうが悪わるくても，もっと早はやくに来くるべきでした。これは，イエスがいる間あいだにイエスから学まなべたはずの人ひとたちに当あてはまります。彼かれらは，真しんの崇すう拝はいを人じん生せいの主おもな目もく標ひょうとする機き会かいを逃のがしてしまいました。救すくいのために遣つかわされたイエスを，大たい半はんの人ひとは受うけ入いれませんでした。イエスはその人ひとたちが外そとに放ほうり出だされ，「泣なき悲かなしんだり歯はぎしりしたり」すると言いいます。しかし，「東ひがしや西にしから，北きたや南みなみから」来くるさまざまな国くにの人ひとたちが「神かみの王おう国こくで食しょく卓たくに着ついて横よこになります」。（ルカ 13:28，29）

さらにイエスは，「最さい後ごの人ひと[ユダヤ人じん以い外がいの人ひとや痛いためつけられてきたユダヤ人じんなど]が最さい初しょになったり，最さい初しょの人ひと[アブラハムの子し孫そんであることを誇ほこりにしている宗しゅう教きょう指し導どう者しゃたち]が最さい後ごになったりします」と説せつ明めいします。（ルカ 13:30）「最さい後ご」になるというのは，そうした感かん謝しゃの欠かけた人ひとたちが神かみの王おう国こくに入はいることは決けっしてないという意い味みです。

そこへ何なん人にんかのパリサイ派はの人ひとたちがやって来きて，「ここから出でて，去さっていきなさい。ヘロデ[･アンテパス]があなたを殺ころそうとしています」とイエスに忠ちゅう告こくします。ヘロデ王おうはイエスに自じ分ぶんの領りょう土どから出でていってほしいと思おもい，自じ分ぶんでこのうわさを広ひろめたようです。彼かれはすでにバプテストのヨハネを殺さつ害がいしていたので，イエスという別べつの預よ言げん者しゃの殺さつ害がいにも関かかわりたくないと思おもったのかもしれません。しかしイエスはパリサイ派はの人ひとたちにこう言いいます。「行いって，あのきつねに言いいなさい。『私わたしは今日きょうと明日あす，邪じゃ悪あくな天てん使しを追おい出だし，人ひと々びとを癒いやしています。そして3日か目めに終おえます』」。（ルカ 13:31，32）イエスはヘロデのことを「きつね」と呼よんで，彼かれが悪わる賢がしこいことを示しめしていたようです。とはいえイエスは，ヘロデやほかの人ひとの言いいなりになったり，せき立たてられたりはしません。父ちちからの任にん務むを，人ひとに従したがってではなく神かみである父ちちが定さだめた予よ定ていに従したがって果はたしていきます。

イエスはエルサレムへの旅たびを続つづけます。イエスの言こと葉ばによると，「預よ言げん者しゃがエルサレムの外そとで殺ころされることはあり得えない」からです。（ルカ 13:33）メシアがエルサレムで死しぬことになるという聖せい書しょ預よ言げんは一ひとつもありません。では，イエスが自じ分ぶんはエルサレムで殺ころされると言いったのはなぜでしょうか。エルサレムは，71人にんの成せい員いんで構こう成せいされるサンヘドリンの高こう等とう法ほう廷ていがある首しゅ都とで，その法ほう廷ていでは偽にせ預よ言げん者しゃが裁さい判ばんにかけられることになっていたからです。さらに，エルサレムでは動どう物ぶつの犠ぎ牲せいがささげられました。ですからイエスは，自じ分ぶんがエルサレム以い外がいの場ば所しょで殺ころされることはあり得えないと知しっていたのです。

イエスは悲かなしんでこう言いいます。「エルサレム，エルサレム，預よ言げん者しゃたちを殺ころし，遣つかわされた人ひと々びとを石いし打うちにする者ものよ，私わたしはめんどりが翼つばさの下したにひなたちを集あつめるようにあなた方がたを集あつめたいと何なん度ど思おもったことでしょう。しかし，あなた方がたはそれを望のぞみませんでした。聞ききなさい，あなた方がたの家いえは見み捨すてられます」。（ルカ 13:34，35）神かみの子こを退しりぞけたイスラエル国こく民みんには，悲ひ惨さんな将しょう来らいが待まち受うけています。

エルサレムに到とう着ちゃくする前まえ，イエスは安あん息そく日びにパリサイ派はのある指し導どう者しゃから家いえでの食しょく事じに招まねかれます。そこには水すい腫しゅ（脚あしに水みずがたまりやすい重おもい病びょう気き）の人ひとが来きており，他たの客きゃくたちはイエスがどうするかじっと見みています。そこでイエスは，パリサイ派はの人ひとたちと律りっ法ぽうに通つうじた人ひとたちに，「安あん息そく日びに病びょう気きを治なおすのは正ただしいでしょうか。正ただしくないでしょうか」と質しつ問もんします。（ルカ 14:3）

人ひと々びとは黙だまったままです。それでイエスはその男だん性せいを癒いやし，人ひと々びとにこう尋たずねます。「あなた方がたのうち，息子むすこや牛うしが井い戸どに落おちた場ば合あい，安あん息そく日びだからすぐに引ひき上あげないという人ひとがいるでしょうか」。（ルカ 14:5）このイエスの明めい快かいな教おしえに，彼かれらは何なにも答こたえられません。