9,10. 批評家の中には,ステファノの話についてどんなことを言う人がいますか。これから調べるに当たり,ステファノが問われていたどんな罪を覚えておくとよいですか。
9 冒頭で見たように,告発の内容を聞いても,ステファノの表情は穏やかで天使のようでした。カヤファはステファノを見て,こう言います。「その通りなのか」。(使徒 7:1)自分が話す番になり,ステファノは熱く語ります。
10 批評家の中には,ステファノの話を批判し,長い割に答えになっていないと言う人もいます。でも,それは違います。ステファノの話は,自分の信じていることを「弁明」する素晴らしい手本です。(ペテ一 3:15)ステファノが問われていた罪は,神殿のことを悪く言って神を冒瀆したことと,律法に逆らうことを語ってモーセを冒瀆したことでした。ステファノはイスラエルの歴史の3つの時代を要約しながら,ポイントを突いた弁明をします。では,3つの時代を1つずつ見てみましょう。
11,12. (ア)ステファノはどうしてアブラハムのことを話しましたか。(イ)ステファノはどうしてヨセフのことを話しましたか。
11 族長時代。(使徒 7:1-16)ステファノはまず,聞き手がよく知っている人を取り上げ,相手の視点に立とうとします。ユダヤ人から尊敬されていた信仰のあつい人アブラハムについて話しました。そして,「栄光の神」エホバがアブラハムに最初に語り掛けたのは,メソポタミアでのことだったと指摘します。(使徒 7:2)アブラハムは約束の地では外国人だったわけです。神殿もモーセの律法もありませんでした。であれば,そういうものがなければ神に仕えられない,と言うことはできません。
12 聞いていたユダヤ人たちは,アブラハムの子孫ヨセフのことも尊敬していました。ステファノが指摘した通り,ヨセフは何も悪いことをしていないのに,兄弟たちに捕まって奴隷として売られてしまいました。やがてはイスラエルの諸部族の父祖になった人たちから,ひどい仕打ちを受けたのです。それでもエホバはヨセフを通して,イスラエルの家族を飢饉から救いました。ステファノは,ヨセフとイエス・キリストの共通点を意識していたはずです。でも,相手の聞く気をそがないために,そのことにはあえて触れません。
13. ステファノがモーセについて話したことが弁明になったのは,どうしてですか。そうやって,どんな問題点に迫っていきましたか。
13 モーセの時代。(使徒 7:17-43)ステファノはモーセについて詳しく話します。サンヘドリンの多くはサドカイ派で,聖書のうちモーセが書いたものだけを認めていたからです。それに,ステファノはモーセを冒瀆した罪に問われていたので,モーセと律法への敬意を表すことで,弁明しました。(使徒 7:38)さらに,モーセが,自分が助けようとした人たちから拒絶されたことにも触れました。モーセは40歳の時に仲間から突っぱねられ,40年以上たって指導者になってからも何度も非難されました。 このように,人々はエホバから任命された人たちを繰り返し拒絶してきました。ステファノは話を進めながら,その大きな問題点に迫っていきました。
14. ステファノはモーセについて話すことにより,どんな大切なポイントを指摘しましたか。
14 ステファノが続けて話したように,モーセは自分のような預言者がイスラエル国民から生まれると予告しました。それは誰で,どんなふうに迎えられるのでしょうか。ステファノがそのことに触れるのは,話の最後です。その前に別の大切なポイントを指摘します。どんな場所も聖なる場所になり得る,ということです。エホバが,燃え盛るいばらの木の中からモーセに話し掛けた時もそうでした。であれば,エルサレムの神殿のような1つの建物だけでしかエホバを崇拝できないと考えるのは,おかしいのではないでしょうか。
15,16. (ア)ステファノが幕屋について話したのは,何が言いたかったからですか。(イ)ソロモンの神殿を引き合いに出すことで,ステファノは何を伝えようとしましたか。
15 幕屋と神殿。(使徒 7:44-50)ステファノは,エルサレムに神殿ができる前に神がモーセに幕屋を造らせたことに言及します。幕屋はテントのようなもので,移動させることができました。モーセが幕屋で崇拝したのであれば,幕屋が神殿より劣っているとはいえないはずです。
16 後代にソロモンはエルサレムに神殿を建てた時,祈りの中でもっともなことを言いました。ステファノはそれに触れ,「至高者は人が造った家には住みません」と言います。(使徒 7:48。代二 6:18)エホバが物事を進めていく上で,神殿は役に立つかもしれませんが,どうしても必要なわけではありません。そうであれば,神殿のような建物だけでしかエホバを崇拝できない,と考えるのは間違っています。ステファノはイザヤ書から引用して畳み掛けます。「エホバは言う。天は私の王座,地は私の足台である。あなたたちは私のためにどんな家を建てるのか。また,私が休む場所はどこか。私の手がこの全てを造ったのではないか」。(使徒 7:49,50。イザ 66:1,2)
17. (ア)ステファノの話からすると,裁判官たちはどこが間違っていましたか。(イ)ステファノの弁明が的確だったといえるのはどうしてですか。
17 こうして見てくると,裁判官たちの間違いをステファノが見事に明らかにしていったことが分かるのではないでしょうか。ステファノの言う通り,エホバのやり方は,決まりきったものでも伝統に縛られたものでもなく,いつも柔軟で臨機応変です。裁判官たちは,いかにも立派な神殿や,モーセの律法に加えられてきた習慣にこだわるあまり,大事なことを見落としていました。神殿や律法だけしか見えておらず,エホバの考えや気持ちが分かっていませんでした。ステファノはこう考えさせたかったのです。「一番重要なのはエホバに従うことではないか。たとえ神殿や律法を重んじていても,エホバに従っていないとしたら,意味がないのではないか」。まさに的確な弁明でした。ステファノは,訴えられるような間違ったことを何もしていませんでした。エホバにずっと従ってきたからです。
18. ステファノにどのように倣えますか。
18 ステファノの弁明からどんなことを学べるでしょうか。ステファノは聖書に通じていました。私たちも,「真理の言葉を正しく用いることができ」るよう,聖書をよく学びましょう。(テモ二 2:15)ステファノの話し方は物柔らかで,機転が利いていました。相手は敵対心むき出しでしたが,ステファノは聞き手が大事にしているものを引き合いに出して,同じ視点に立とうとしました。そして,敬意を込めて話し,「年長の方々」と呼び掛けることもしました。(使徒 7:2)私たちも,聖書について「語る時には,温和な態度と深い敬意を示しましょう」。(ペテ一 3:15)
19. ステファノは最後にどのように核心を突きましたか。
19 敬意を忘れないようにしますが,相手の反応を恐れて,聖書に書かれている真実を語らないでおく,ということはしません。エホバからの警告を和らげて伝えることもしません。ステファノもそうはしませんでした。どれほど言っても,かたくなな裁判官たちは態度を変えない,ということが分かったのでしょう。聖なる力に動かされ,恐れずに核心を突いて話を締めくくります。あなたたちはヨセフやモーセや預言者たちを迫害した父祖たちと同じだ,と指摘しました。確かにそうです。サンヘドリンの裁判官たちは,モーセや預言者たちがずっと期待を掛けていたメシアを殺しました。一番やってはいけないことをして,モーセの律法を破ったのです。(使徒 7:51-53)