これが強大なレビヤタン
「わたしはこれが全身と,その著しい力と,その美しい構造について黙っていることはできない。……だれがその顔の戸を開くことができるか。そのまわりの歯は恐ろしい。……つるぎがこれを撃っても,きかない,やりも,矢も,もりも用をなさない」と,レビヤタンについての古代の記述は述べています。―ヨブ 41:12-26,口。
恐れを抱かせる一そろいの歯と,古代の剣,やり,矢,またもりも用をなさないほど硬い皮を持っているのは,どんな動物ですか。それは,は虫類,それも現存する最大のは虫類のひとつです。レビヤタンに関する古代の記録が中東で書かれたことからすれば,ここに述べられた動物は,疑いもなくナイルワニでした。このワニは,体長4ないし5㍍にまで達します。
ワニの底力は,三角形の口先に秘められています。66本の鋭い歯をほとんどすべてむき出して,下あごを大きく開くその光景は何とすさまじいのでしょう。あごが固く閉じられるときの圧力は恐るべきものです。F.W.レインは,自著「自然の行進」の中でこう述べています。「フランスで行なわれた実験では,54㌔のワニの上下両あご間に働いた圧力は698㌔であった」― 83,84ページ。
ワニの甲の硬さは全く驚くべきものです。動物学者R.L.ディトマーズは次のように述べています。「その皮には,やりでも矢でも歯が立たないことは明白である」。(「世界のは虫類」第22版,16ページ)皮は防弾になってはいませんが,斜めから撃たれた場合,弾丸を跳ね返してしまいます。(博物学文庫,第5巻,2381ページ)一体,ワニの皮の構造はどのようになっているのですか。
骨質板に埋め込まれた硬い角質の鱗は,背中の上方と尾とを覆っています。角質の鱗は列をなして並んでおり,その大部分には隆起あるいは竜骨があります。
腹面は平らな角質の鱗でできており,普通その下に骨質板はありません。しかし,特別に咽喉のあたりには骨質小板が幾つかあります。
ワニの体の両側面は,でこぼこのある小さな鱗で覆われています。この鱗のおかげで両側面は伸びたり広がったりするのです。それは,呼吸のため,また雌の場合には,妊娠の結果伸びた体を調節するために必要なことです。
ワニは,その皮が高価であるため,素早く利益を得ようとする人々によって容赦なく殺されてきました。皮製品のためには,腹面のみが使用されます。腹面に小さな骨質小板がある場合には,皮の商品価値は下がります。
生存に適した装備
ワニは,水陸どちらでも生きてゆくために理想的な装備をしています。潜水艦の形をした体と,かいのように強力な尾は,速く泳ぐのに適しています。ワニの目と耳の穴,また外鼻孔は頭部の最も高いところに位置しているので,頭部のその他の箇所を水中に隠していても,その部分だけを水面に出しておくことができます。ほとんど全身が水中にあるときでさえ,ワニが見ることや息をすることができるのはそのためです。
ワニが完全に水中にもぐっているときには,特殊な筋肉,あるいは弁が外鼻孔をふさぎます。同様に,鱗状の弁がこのは虫類の耳をふさぎます。半透明になった内側のまぶた(瞬膜)のおかげで,ワニの眠球の表面は水から保護され,それと同時に,水中でもある程度視力を保てます。
ワニの長い鼻孔の端にある内鼻孔は,口蓋に向かってではなく,咽喉に向かって開いています。ワニが水中で口を開いても,呼吸系に水が流れ込まないようにしているものは何ですか。特別な弁の働きがその役割を果たします。一枚の垂下物が,内鼻孔の開口部のすぐ手前の口蓋から下がっており,舌の上には,それに対応するくぼみがあります。ワニが潜水するときには,下のくぼみが上の垂下物にぴったり押し当てられ,それによって水が咽喉へ入るのを防ぎます。こうしてワニは,鼻孔が水面上にあり,口が水中で開いていても,呼吸をすることができるのです。
生き物の中での重要な役割
ワニの食習慣に関する科学的な調査が明らかにしたところによると,ワニは食肉動物であっても,特に有害であるわけではありません。成長したワニは,比較的不精な動物であるため,わずかな活力しか費やしません。必要とされる食物は,多くの人々が考えるよりもはるかに少量です。研究者の一人,ヒュー・コットはこう述べています。「ワニが魚を主食とするのは,その生活環の一時期だけであり,やがては他の多くの食物をも取るようになるという事実を念頭に置いておくなら,一頭のワニが一日に食べる魚の総量は,カワウ(一日に最低一㌔の魚を食べる)のそれよりはるかに少ないという驚くべき結論に達する」。
ワニは多くの場合,他の魚を捕食する魚や,人間にとってはあまり価値のない魚を食べます。ワニがある地域から姿を消すと,様々な種類の魚が即座にやって来て,他の種類の魚の生存を脅かします。若いワニは,水中の大きな甲虫類やトンボの幼虫,またカニなど,ふ化したばかりの魚を食用とする生物を食べるので,多くの魚が成長するのを助けます。
ワニの一族であるアメリカ・アリゲーターに関する研究は,これら強大なは虫類が動植物の保存に大いに貢献していることを示しています。
例えば,米国フロリダ州南部にあるエバーグレーズでは,アリゲーターのいるおかげで,骨質の鱗でおおわれたはん点のある魚が増えすぎることはありません。この魚の数が制限されないと,バスやコイ科の魚をはじめ貴重な釣魚すべてが食い尽くされてしまうでしょう。
アリゲーターは,地下水面が大幅に変動する地域にため池のような穴を掘ることによって,生物の保存に貢献しています。エバーグレーズでは,これらの“アリゲーターの穴”が最深の水たまりとなっています。そうした穴は,干ばつの際に最後まで干上がらないので,様々な魚,両生類やは虫類の避難所となります。干ばつが終わると,“アリゲーターの穴”の中で保護された生物は繁殖し始めるのです。これらの穴はまた,鳥類や哺乳類に食物や水を供給します。
アリゲーターのふん,および食べかすから得られる滋養分は,土壌を肥やし,草木をうっそうと茂らせます。“アリゲーターの穴”からさらった泥でできている土手には,周囲の隣接した地域のものとは異なった植物が育ち始めます。
生息地におけるアリゲーターの動きでさえ,地形の点で有益な結果をもたらします。大きなは虫類であるアリゲーターは,植物の間を通ってみぞを作るので,池が沼地に変化する過程を遅らせます。
確かに,強大な“レビヤタン”は印象的な動物です。その防護用の甲とあごの力とは,恐れを抱かせるものです。このは虫類は,驚くほど生存に適しており,生物間に現在見られる均衡を保つのに貴重な役割を果たしています。恐らくこの強大なレビヤタンは,多くの人々にとって特に魅力的でないとはいえ,どんな動物の価値をも軽んじるのは愚かであるということを教えています。現在特に,このは虫類が多くの地域で乱獲され,絶滅してしまったために,その重要性が認識されるようになりました。