若い人は尋ねる…
飲酒 ― どうしていけないのか
飲酒について責任ある決定を下すには,アルコールについてのさまざまな事実や,アルコールが自分にどんな影響を及ぼすかを実際に知る必要があります。ところが,アルコールとなると,事実よりも感情のほうを大切にする人が少なくありません。あなたはどうですか。ちょっとしたテストをしてみるのはどうでしょうか。次の文に正,誤を記してみてください。答えは24ページにあります。
正誤を記せ
1. アルコール飲料はおもに興奮剤の働きをする ___
2. アルコールは量の多少にかかわらず人体に害を及ぼす ___
3. アルコール飲料 ― 蒸留酒,ぶどう酒,ビール ― は皆同じ速度で血流中に吸収される ___
4. ブラックコーヒーを飲むか,または冷たいシャワーを浴びると酔いが速く覚める ___
5. 同量のアルコールを飲めば,みんなが同じ影響を受ける ___
6. 酩酊とアルコール中毒は同じである ___
7. アルコールと他の鎮静剤(精神安定剤など)を一緒に飲むと相乗作用がある ___
8. ちゃんぽんに飲むと酔わない ___
9. 体はアルコールを食物と同じように消化する ___
10. 一,二杯飲んだあと車を運転するのは危険である ___
さて,いかがでしたか。何か学ぶところがありましたか。実際にこれは,単なる机上のテストよりもはるかに大きな意味を持っているのです。アルコールについての色々な事実を知るのは大切なことです。落とし穴を知っていれば,それを避けることができます。「それは[ぶどう酒つまりアルコールは,飲み過ぎると]終わりには蛇のようにかみ,まむしのように毒を分泌する」と,聖書は警告しています。―箴言 23:32。
米国の北東部に住むジョンという名前の青年の場合は,誤用するとアルコールが本当に『蛇のようにかみつく』おそれがあることを示すよい例です。ジョンは十代の時に結婚しました。ある晩,ジョンは若い妻とけんかをして家を飛び出しました。そして酔っ払うつもりで酒を飲み始めました。ウオツカを半リットル近くあおった末,昏睡状態に陥りました。もし医師や看護婦の努力がなかったなら,ジョンは死んでいたでしょう。多量のアルコールをがぶ飲みすると命取りになりかねないことをジョンは知らなかったようです。アルコールの影響についての知識がなかったために危うく命を落とすところでした。
そればかりではありません。ジョンは悩みを酒に紛らすことができる,酒を飲めばどこかへ行ってしまう,と考えたようです。そのように考えるのはジョンだけではありません。酒を飲むようになった理由を「目ざめよ!」誌が尋ねたところ,幾人かの若い人たちは『逃避です』と答えました。何から逃避するのでしょうか。家庭で感じる圧力からの逃避です。学校でうまくやれないから,あるいはほかの問題があるから酒を飲む,と言った若者たちもいました。ですからいい気分になることは逃避なのです。
しかし,本当に逃避になるでしょうか。ここでもやはり,アルコールが自分にどう影響する可能性があるか,少し知っておくと役に立ちます。
反動作用
酒を飲むとアルコールは不安な気持ちを少なくする,または静めることによって脳に抑制作用を及ぼします。それはくつろいだ気分になっていることを意味し,酒を飲んでいなかった時よりは,悩みや心配が和らいでいます。そして急に色々な問題が大したことではないように思えてきます。それで聖書は,「あなた方は,滅びうせようとしている者に酔わせる酒を……与えよ」と述べているのです。なぜでしょうか。箴言にあるように,そうするとその人は『自分の難儀を忘れる』からです。a ―箴言 31:6,7。
ポールはこれを経験しました。ポールは家庭の問題から逃れようとして酒を飲んでいた十代の若者です。「僕は酒を飲むことが,自分にのしかかって来る圧力から逃れる一つの方法であることを非常に早いうちに知りました。酒を飲むとくつろいだ気分になりました」と,ポールは思い出して語りました。もしそれだけのことなら,ほっとするために酒を飲むのはそれほど悪いことではない,大した害はない,と考えるかもしれません。結局,アルコールの作用が次第に消えてゆくと,不安の程度は元に戻るだけのことではありませんか。
そうではありません。アルコールには反動作用があります。精神療法医のスタンレー・E・ギトロー博士は次のように説明しています。「短時間の鎮静作用が消失すると,アルコールの他の影響,つまり精神運動性の活動の増加が現われてくる。現在知られている鎮静作用のあるどんな薬物にも,必ずあとに続く興奮作用があり,それが消えるまでにはさらに長い時間がかかり,これを免れ得る人は世の中に一人もいない」。
それはこういう意味です。2時間ほどたって,アルコールの鎮静作用が消失するころ,不安の程度はまた逆戻りし,しかも酒を飲む前よりもひどくなります。ですから,アルコールが一滴も入っていなかった時よりも不安が一層強くなるか,または緊張の度合いが一層高くなります。これはアルコールの禁断症状で,酒を飲んでいた時から12時間ほど続くでしょう。
そういう時にまた酒を飲めば楽な気分になる,つまり不安の程度がまた下がるでしょう。しかし2時間ほどするとそれはまた上がり,今度は前よりも高くなります。そしてこの状態が繰り返されるでしょう。アルコール中毒でなくてもこの反動作用は生じます。沢山飲むとだれでもこれを経験します。
ですから全体的に言えば,アルコールは実際に不安を和らげるものではなく,不安を増すものと言えるかもしれません。そればかりでなく,アルコール分が消失しても問題はやはりそのまま残っており,むしろ前よりも一層大きくなっています。そういうわけで,逃避のためにアルコールを用いることは,実際には名案とは言えません。
もちろん,これは,法定年齢に達した人が時折節度を保ちながら酒をたしなむことが悪いということではありません。聖書には,飲酒について非常に平衡の取れた見方が示されています。例えば,聖書はぶどう酒が心を「楽しい気分」にさせることを認めていますが,これはもっともなことです。(エステル 1:10)それと同時に聖書は率直に,「酒を飲み過ぎると,人は騒がしく愚かになる。酒に酔うのは愚鈍なことである」と助言しています。―箴言 20:1,今日の英語聖書。
[脚注]
a これは,悩みをアルコールに紛らすという考えを聖書が支持しているという意味ではありません。この聖句はただ,死にかけている人に酔わせる酒を与えて,難儀を忘れるよう助けることの妥当性を語っているにすぎません。前のほうの節で,執務中にぶどう酒や,酔わせる酒を飲まないように,という助言が王たちに与えられていることに注目してください。それは王たちが,「布告されたことを忘れ,苦悩の子らの言い分を曲げることのないため」でした。―箴言 31:4,5。
[24ページの囲み記事]
正誤テストの解答
1. 誤り。アルコールはおもに抑制剤。アルコールは不安の程度を抑制もしくは引き下げ,酒を飲んでいなかった時よりもくつろいだ,心配の和らいだ気持ちにさせる。
2. 誤り。節度を保って,つまり少量のアルコールを飲む分には,体には重大な影響はないようである。しかし,長期にわたる深酒は,心臓や脳,肝臓その他の器官を損なうことがある。
3. 誤り。蒸留酒もしくは火酒は一般にぶどう酒やビールよりも吸収が速い。
4. 誤り。コーヒーを飲むと眠けが取れ,冷たいシャワーを浴びると体がぬれるだけで,アルコールは肝臓によって代謝されるまで血流中にとどまる。その代謝速度は1時間にアルコール約14㌘である。
5. 誤り。体重とか,物を食べていたかどうかなどのさまざまな要素が,アルコールの影響を左右することがある。
6. 誤り。「酩酊」は飲み過ぎた結果を示す。「アルコール中毒」は,飲酒に対する抑制力を失った状態を特徴とする障害。しかし,酩酊する人が皆アルコール中毒であるというわけではなく,アルコール中毒の人がみな酩酊するわけでもない。
7. 正しい。ある薬物とアルコールを混ぜると,アルコールや薬物だけの場合のいつもの反応よりも,はるかに大きな反応を引き起こす。例えば,アルコールと精神安定剤つまり鎮静剤を一緒に飲むと激しい禁断症状を示したり,昏睡状態に陥ったりすることがあり,悪くすると死ぬことさえある。したがって,1杯の酒と1個の錠剤は,2杯の酒あるいは2個の錠剤の影響に等しいということにはならない。むしろその薬物の影響は3倍,4倍,10倍,あるいはそれ以上になる。
8. 誤り。酩酊しているかどうかは,ジンであろうと,ウイスキーやウオツカなどであろうと,飲んだ酒のアルコールの総量によって決まる。
9. 誤り。ほとんどの食物はゆっくり消化されなければならないが,アルコールにはその必要がない。約20%は胃壁を通ってすぐに血流の中に入る。残りは胃から小腸に行き,そこで血流中に吸収される。
10. 正しい。特定の状況のもとでは,1杯だけでも判断に影響を及ぼし,普通の反応ができなくなり,不必要な危険を冒す原因になる。しかし,大抵の人は,普通の量のアルコール飲料を2杯飲んだだけで数分以内に運転能力を損なわれる。
[23ページの図版]
誤用するとアルコールは『蛇のようにかみつく』ことがある