解放を告げる使者
「身を起し頭をもたげなさい。あなたがたの解放される時が近いのだから」― ルカ 21:28,新英訳聖書。
1 解放に関してどんな異なる見方がありますか。しかし最も必要なのは,何からの解放ですか。
自由を喜ばない人はありません。少しでも束縛を感ずるならば,解放されたいと願うのが人情です。今日,解放の余地は大きく,その必要は世界的です。こう言うと,それは余りに漠然としていると考える人があるかも知れません。政治的には,共産主義諸国に対していわゆる「自由諸国」が存在するからです。また共産主義陣営の唱える,いわゆる帝国主義支配からの解放を考える人があるかも知れません。これは結局ひとつの支配体制が他の支配体制を望ましくないものときめつけているだけのことで,批判するほうも批判されるほうと同じく全知全能ではありません。このような解放を告げる使者は革命の使者であり,革命政府が外国に送った運動員でありましょう。一方で「自由世界」の使者は「帝国主義者のスパイ」と見なされます。更に異民族の支配下にある民族の解放の必要を感ずる人があるかも知れません。しかし世界的な規模で解放の必要なことは,次の言葉から明らかです。19世紀前に述べられたこの言葉は,今日なお真実です。「全世界は悪しき者の配下にある」。(ヨハネ第一 5:19,新口)この悪しき者から解放されない限り,正義の行なわれる,健全で平和な世界に住むことはできません。
2 全き解放の近づいたことをどうして確信できますか。
2 世界を支配しているこの悪しき者から全く解放されるときが近づいています。1914年以来,そのことを示す証拠がますます明らかになっているゆえに,私たちは大預言者の次の言葉に力を得て,その言葉通りにすることができます。「これらの事が起りはじめたら,身を起し頭をもたげなさい。あなたがたの救が近づいているのだから。……いちじくの木を,またすべての木を見なさい。はや芽を出せば,あなたがたはそれを見て,夏がすでに近いと,自分で気づくのである。このようにあなたがたも,これらの事が起るのを見たなら,神の国が近いのだとさとりなさい」― ルカ 21:28-31,新口。
3 (イ)サタンから全く解放されるのは何時のことですか。(ロ)いまどんな解放が行なわれていますか。
3 見えないさまで世界中の人々を支配し,圧迫している悪しき者すなわちサタン悪魔は神の国によって無力にされます。サタンの政治組織を滅ぼすハルマゲドンの宇宙的な戦争の直後に,サタンは全世界に及ぼしているその力を奪われます。この事は,イエス・キリストの教え通り「御国がきますように」と祈り,神の国と神の義を第一に求める敬虔な人々にとって解放を意味します。(マタイ 6:9,10,33,新口)しかしこの人々はいまでも解放されています。これはきたるべきハルマゲドンの戦いの前に始まる解放です。それはこの人々の永遠の将来にかかわる重大なものです。それは独裁と全体主義を含む政治体制がなお存在する時に行なわれる宗教的な解放です。このような解放にはいま大きな意義があります。
4 (イ)どんな人は解放の必要を感じないかも知れませんか。(ロ)イエス時代のアブラハムの子孫の中には,これと似てどんな態度を示した人々がいましたか。
4 憲法あるいは人権宣言によって「宗教の自由」が保証されている国に住む人は,このような解放の必要を感じないかも知れません。そこでは無宗教もまた自由であって,無神論者になるのも勝手です。しかし今日の人は,1900年前すなわち西暦32年のエルサレムの人々にならわないように注意しなければなりません。宮においてイエス・キリストは,族長アブラハムを先祖とする人々を教え,次のように言葉をつゞけました,「もしわたしの言葉のうちにとどまっておるなら,あなたがたは,ほんとうにわたしの弟子なのである。また真理を知るであろう。そして真理は,あなたがたに自由を得させるであろう」。自分たちの民族に誇りを持っていた人々は答えました,「わたしたちはアブラハムの子孫であって,人の奴隷になったことなどは,一度もない。どうして,あなたがたに自由を得させるであろうと,言われるのか」― ヨハネ 8:31-33,新口。
5,6 (イ)彼らに答えたイエスの言葉は,アブラハムの子孫も解放される必要があることをどう示していますか。(ロ)彼らはこんど何と答えましたか。しかしイエスはどのように彼らの父を指摘しましたか。
5 イエスの答は彼らを怒らせるか,あるいはその本当の状態に目ざめさせるものでした。「よくよくあなたがたに言っておく。すべて罪を犯す者は罪の奴隷である。そして,奴隷はいつまでも〔族長アブラハムの〕家にいる者ではない。しかし,子はいつまでもいる。だから,もし子〔イエス・キリスト〕があなたがたに自由を得させるならば,あなたがたは,ほんとうに自由な者となるのである。わたしは,あなたがたが,〔血統によれば〕アブラハムの子孫であることを知っている。それだのに,あなたがたはわたしを殺そうとしている。わたしの言葉が,あなたがたのうちに根をおろしていないからである。……そんなことをアブラハムはしなかった。あなたがたは,あなたがたの父のわざを行っているのである」。これを聞いた人々は,自分たちが人間アブラハムよりも高い者の子孫であるとの主張を持ち出して,イエスにこう答えています,「わたしたちは,不品行の結果うまれた〔父を知らない〕者ではない。わたしたちにはひとりの父がある。それは神である」― ヨハネ 8:34-41,新口。
6 しかし神を愛したならば,神のみ子をも愛し,その言葉に耳を傾けたはずです。この人々はそうしませんでした。そこでイエスは言われました,「あなたがたは自分の父,すなわち,悪魔から出てきた者であって,その父の欲望どおりを行おうと思っている。彼は初めから,人殺しであって,真理に立つ者ではない。彼のうちには真理がないからである。彼が偽りを言うとき,いつも自分の本音をはいているのである。彼は偽り者であり,偽りの父であるからだ。……あなたがたが聞き従わないのは,神からきた者でないからである」― ヨハネ 8:42-47,新口。
7 (イ)そこでアブラハムの子孫であるこれらの人々について,何を結論できますか。(ロ)サタンもひとりの「神」であると言えるのはなぜですか。
7 罪の奴隷! 人殺し,偽り者の父サタン悪魔の子! 神の友となったヘブル人の族長アブラハムの子孫であると自認し,敬虔ぶっていながら,何という人々でしょう。何と大きな宗教的欺きではありませんか。たしかに解放されることが必要です! サタン悪魔が神すなわち「この世の神」と呼ばれているのは,宗教的に見て深い意味があるのです。サタン悪魔は,全人類を盲目にさせて真の神を認めさせまいと努めています。それで「不信の者たちの思いをくらませて,神のかたちであるキリストの栄光の福音の輝きを,見えなくしている」のです。(コリント後 4:4,新口)ゆえにこの悪しき者がその悪鬼もろともに天から追われたことを描いた聖書の句は,次のように述べています,「この巨大な龍,すなわち,悪魔とか,サタンとか呼ばれ,全世界を惑わす年を経たへびは,地に投げ落され,その使たちも,もろともに投げ落された」。(黙示 12:7-9,新口)「この世の神」であるサタン悪魔にはその崇拝者がいます。サタンはその宗教すなわち偽りの神の偽りの宗教を用いてまさに全世界を惑わしています。
8 大洪水後,偽りの宗教はどこで再出発をしましたか。それはどの程度ひろまることになりましたか。
8 大洪水ののちサタン悪魔の偽りの宗数は,バビロンを根城に再出発をしました。聖書の歴史はそのことを明らかにしています。バビロンはユーフラテス河の河畔に建てられた都市です。こゝで人々の言葉が乱されたため,偽りの宗教はこゝから全世界にひろまりました。キリスト前7世紀にバビロンは聖書歴史の上で第3の世界強国となり,ユダヤ人の国をくつがえしました。生き残ったユダヤ人はバビロンに連れ去られ,そこで70年のあいだ捕われの身となりました。しかし紀元前537年,バビロンを征服したペルシャのクロス王の手によって解放され,ユダヤ人の残れる者4万2000人以上が直ちに故国に帰ってエホバ神の宮と聖都の再建にとりかゝりました。イエスの現われた頃までにユダヤ人はローマ帝国の支配を受けるようになりましたが,自分たちの宗教であるユダヤ教を実践する自由を与えられていました。そしてユダヤ人は文字にしるされた神のことばよりも,人間の考え出した宗教的な言伝えを重んじていました。
9 「すべて罪を犯す者は罪の奴隷である」と述べたイエスの言葉が当時のユダヤ人の場合に真実であり,彼らも解放を必要としていたことを述べなさい。
9 聖書と相容れない宗教的な言伝えに束縛されていただけでなく,ユダヤ人は悪魔を父とする宗教指導者の権力下におかれ,圧迫されていました。エルサレムの宮で行なわれた宗教儀式は罪の真実の許しを与えるものではなく,罪の束縛から人々を解放するものではありません。罪の結果すなわち罪の払う値である死が支配していました。(ロマ 6:23; 5:12-17)ユダヤ人が奴隷であって解放を必要としていると述べたイエスの言葉は,ありのままの事実を述べたものです。
10 パウロがユダヤの人々をハガルの子にたとえ,クリスチャンをサラの子にたとえた理由を説明しなさい。
10 自分たちは自由の女サラがその夫アブラハムに生んだ子なのだと,ユダヤ人はうぬぼれて考えました。しかしユダヤ人でありながら改宗してクリスチャンとなった使徒パウロは,サラの仕え女でエジプト人の女ハガルにユダヤ人をたとえ,彼らが奴隷であることを示しています。パウロは次のように述べました,「さて,この物語は比喩としてみられる。すなわち,この女たちは二つの契約をさす。そのひとりはシナイ山から出て,奴隷となる者を産む。ハガルがそれである。ハガルといえば,アラビヤでは〔律法契約の十戒が与えられた〕シナイ山のことで,今のエルサレムに当る。なぜなら,それは子たちと共に,奴隷となっているからである。しかし,上なるエルサレムは,自由の女であって,わたしたちの母をさす。だから,兄弟たちよ。わたしたちは女奴隷の子ではなく,自由の女の子なのである」。
11 (イ)ガラテヤ人への手紙はどんな種類の手紙ですか。(ロ)今日,自由なのはどの人々だけですか。
11 ガラテヤ人に宛てた手紙にあるこの言葉によって(4:24-26,31; 5:1),パウロはそれが解放の手紙であることを示しています。これはバビロンに始まった異教のみならず,言伝えと抑圧的な指導者を特色とするユダヤ教からの解放です。パウロの時代と同じく今日でも自由を享受しているのは,イエス・キリストによってサタン悪魔,罪,罪のもたらした死から解放された人々だけです。このような人々は「天にあるエルサレム」「上なるエルサレム」の子です。上なるエルサレムすなわち神の聖なる天の組織はこの人々の母です。天にあるこの組織は,アブラハムの妻であった自由の女サラによって表わされていました。
エルサレムよなんじ身の塵をふりおとせ
12,13 どんな質問に直面しますか。どんな解答が与えられていますか。
12 使徒パウロはロマ人に宛てた手紙の中に(10:15),イザヤの預言(52:7)を引用しています。「上なるエルサレムは,自由の女であって,わたしたちの母をさす」と述べたパウロの言葉は,「捕われたエルサレムよ,あなたの身からちりを振り落せ,起きよ。捕われたシオンの娘よ,あなたの首のなわを解きすてよ」と述べたイザヤ書 52章2節の預言と矛盾してはいませんか。そうではありません。なぜならば天のシオン,上なるエルサレムは地上にいるその子たちによって表わされているからです。それは献身してバプテスマを受け,霊に生み出されたクリスチャン,すなわちイエスの霊的な兄弟であり神の霊的な子となった人々です。
13 シオンは地上にあるその霊的な子たちのおかれた状態またその経験に等しく与ることが描かれています。イザヤ書 63章8,9節にはエホバの民に関して,「主は言われた,『まことに彼らはわが民,偽りのない子らである』と」述べられています。そこで主は彼らの救い主となられました。彼らの悩みのとき,主も悩まれました。さてイエス・キリストは天のシオン,上なるエルサレムの主要なかたです。イエスはマタイ伝 25章31から46節までにしるされたたとえの中で,「わたしの兄弟であるこれらの最も小さい者のひとりにしたのは,すなわち,わたしにしたのである」と言われました。それでシオンすなわち上なるエルサレムの子たちが捕われているとき,シオンも捕われていると言えるのです。
14 (イ)紀元前537年,バビロンの捕われから解放されたにもかかわらず,イスラエルはその後何世紀にもわたってどんな束縛を受けましたか。(ロ)従ってバプテスマのヨハネ,イエスと使徒たちは何をすることができましたか。
14 昔のシオンの都すなわち実際のエルサレムは,紀元前607年に宮と共に滅ぼされ,その市民すなわち子たちは捕われてバビロンにひかれて行きました。彼女がそれから救われたのは,その市民が解放されて町と崇拝の宮を再建した紀元前537年のことです。しかし続く世紀中にイスラエルの人々は,バビロンの捕われにも似た宗教的な束縛につながれるようになりました。この理由で,バプテスマのヨハネ,イエス・キリストとその使徒たちは,ユダヤ人がバビロンに捕われ,やがて解放されたことに関連する数多くの聖書の預言を成就したのです。この人々は解放を告げる使者でした。しかしそれはとうの昔に滅びた古代バビロンからの解放よりも大きな解放です。
15 五旬節のとき,どんなすばらしい解放が行なわれましたか。
15 たしかにイエス・キリストはご自身の使徒と弟子たちを解放することが必要でした。そしてイエスの言葉に留まることによって,人々は何時までも自由でした。この中には最も貴重な自由すなわち唯一の生ける真の神を崇拝する宗教の自由も含まれていました。西暦33年の五旬節の日,天において神の右に座したイエス・キリストは,エルサレムで待つ弟子たちの上に聖霊をそゝぎ,弟子たちは神の天の組織,天のシオン,上なるエルサレムの霊的な子となりました。そのとき彼らはたしかにシオンの自由の子となり,神から与えられた宗教の自由を行使して神の国の福音を伝道しました。
16 (イ)ペテロはヨエル 2:28-32を引用してのち,何をするべきであると告げましたか。解放を告げるその音信に人々はどう応じましたか。(ロ)後日,使徒たちは宗教の自由を持つことをどのように大胆に表明しましたか。
16 使徒ペテロは,シオンの山とエルサレムに,「のがれる者」と「残った者」があることを述べたヨエルの預言(2:28-32)を引用しています。ついでペテロは解放を告げるその音信を聞いた人が実際にどうすべきかを明らかにし,耳を傾ける何千人のユダヤ人にむかって次のように述べました。「悔い改めなさい。そして,あなたがたひとりびとりが罪のゆるしを得るために,イエス・キリストの名によって,バプテスマを受けなさい。そうすれば,あなたがたは聖霊の賜物を受けるであろう……この曲った時代から救われよ」。この五旬節の日に3000人が解放の音信を受け入れました。(使行 2:14-42,新口)その後ペテロと他の使徒たちは自分たちの持つ信教の自由を臆することなく表明し,エルサレムのユダヤ人最高法廷においてユダヤ人の大祭司や長老たちの前で次のことを言明しました。「人間に従うよりは,神に従うべきである……わたしたちはこれらの事の証人である。神がご自身に従う者に賜わった聖霊もまた,その証人である」― 使行 5:27-32,新口。
17 (イ)聖書の預言によれば,霊的な自由の子たちの前途に何がありますか。(ロ)何に捕われますか。それは何時起きますか。そのときだれが現われますか。
17 しかしバビロンに捕われた昔のユダヤ人の経験と聖書の預言の示す通り,シオンすなわちその霊的な子を主張する地上の人により表わされた上なるエルサレムは,やがて自由を失いました。シオンの子たちは昔のバビロンではなく全世界にわたる大いなるバビロン,すなわち宗教組織に捕われることが預言されていました。忠実な12使徒の時代から1世紀の終りに至るまで天のシオン,上なるエルサレムはずっと自由でした。聖書の巻末にあるいくつかの本が年老いた使徒ヨハネの手で書かれたのは,その時です。ついで使徒パウロの預言通り,「阻止しているもの」が取り除かれると,自由に導くクリスチャンの信仰から離れた背教の者が出ました。こうしてクリスチャンの信仰を持つと公言した人の多くが,大いなるバビロンと呼ばれる宗教組織に捕われ,神に対する「不法の者」「滅ぶべき者」がキリスト教国の教職者となって現われました。―テサロニケ後 2:3-8,新口。
18 事態はどのように発展しましたか。
18 キリスト教国の起源は主としてローマのコンスタンチン大帝の時代すなわち4世紀にさかのぼります。a 明らかに天のシオン(上なるエルサレム)の子たちは地上において激しい迫害にあい,地下に潜ることを余儀なくされました。麦と毒麦に関するイエスのたとえ話に示されているように,麦のあらわす少数のシオンの子と毒麦,すなわち子にみせかけた者たちとは同じ畑,つまり人類の世界に育ちます。(マタイ 13:30)キリスト教国の教職者は天のシオンを代表するものと主張しながらバビロン的になり,大いなるバビロンの一部となりました。こうして地上にいる本当の子たちによって代表されていた天のシオンは大いなるバビロンに捕われました。
19 (イ)どんな興味深い質問に直面しますか。(ロ)解放を求める努力は何時始まりましたか。しかし1914年にはどんな事態になりましたか。
19 聖書の最後の本,黙示録 16章13節から16節に預言されたハルマゲドンの戦いに至るまで,シオンは大いなるバビロンに捕われているのですか。ハルマゲドンの前に,解放を告げる良いたよりを携えた使者がシオンに遣わされますか。黙示録 9章13節から15節によれば,かつて古代バビロンのあった「大ユウフラテ川のほとりにつながれている」者たちは解放されることになっていました。前世紀の最後の30年間に,エホバ神を崇拝する,献身してバプテスマを受けたクリスチャンは,宗教的な大いなるバビロンの主要な部分を占めるキリスト教国から自由になろうとして誠実な努力をしていました。そのとき第一次世界大戦が勃発し,戦争の立役者であるキリスト教国はこれに乗じて天のシオンの子たち,献身したクリスチャンを捕われの状態に陥れました。それは70年にわたったエルサレムの荒廃期間中,イスラエル人が古代バビロンに捕われていたのと同様でした。
20 (イ)聖書預言の成就によって1914年およびその後に何が起きましたか。(ロ)どんな質問が出ますか。その答は何ですか。
20 しかし聖書の預言と聖書にしるされた時の予定,また1914年以来の世界の出来事が証明しているように,神の女つまり天のシオンは約束されたメシヤすなわちキリストの国を生み出し,王となったイエス・キリストはやがて敵を完全に滅ぼすためにその只中で支配し始めていました。(黙示 12:1-5。詩 110:1-6。ヘブル 1:13; 10:12,13)見えない天の戦争はサタン悪魔と悪鬼が天から地に追い落されてから中止され,ハルマゲドンの戦いは全能の神の定めの時がきてから行なわれます。古代バビロンを征服したクロス大王によって予影された勝利の王イエス・キリストは,エホバのクリスチャン証者を今日の大いなるバビロンから解放することをハルマゲドンの時まで待つのですか。聖書の預言によればそうではありません。
21 1914年,どんな預言の成就する時となりましたか。しかしどんな問題に直面しましたか。
21 全能の神エホバは1914年,メシヤによる約束の御国を設立し,ご自身の権を執って王となり,地に対する支配をお始めになりました。そこで「この世の国は,われらの主とそのキリストとの国となった」のです。(黙示 11:15-18)従ってキリストの次の預言が成就する時となりました。「そしてこの御国の福音は,すべての民に対してあかしをするために,全世界に宣べ伝えられるであろう。そしてそれから最後が来るのである」。(マタイ 24:14,新口)この最後はハルマゲドンの時に来ます。しかし王エホバの証者がバビロンに捕われているならば,約束された神の国の支配が始まったことをどうして宣明できますか。全能の神エホバの支配が始まったことと,地上のエホバの証者が敵である大いなるバビロンに捕われていることとは,どうして調和しますか。捕われのクリスチャン証者が神の天の「女」の自由をうたい,「上なるエルサレムは,自由の女であって,わたしたちの母をさす」(ガラテヤ 4:26,新口)とどうして言えますか。捕われの状態ではそれは不可能です。
22 天から追われてのち,サタン悪魔は御国に対する反対をどのように示しましたか。
22 黙示録 12章7節から17節は前以て次のことを明らかにしていました。すなわち天の戦争によって地に落されたサタンは,メシヤの治める国を生み出した神の女を迫害し,怒りに燃えて「女の残りの子ら,すなわち,神の戒めを守り,イエスのあかしを持っている者たちに対して,戦いをいどむために,出て行った」(新口)のです。これらの事が起こるには,必然的に他のある事柄も要求されます。それはどんな事ですか。「この組織制度の神」サタン悪魔は,この組織制度の一部である大いなるバビロンの神でもあるという事です。「〔シオンの〕残りの子ら」は1918年に第一次世界大戦の終るまで,この大いなるバビロンに捕われていました。天から追われたサタン悪魔は,地上にいる残りの子らを迫害することによって神の「女」を迫害しました。
23 サタンがキリストのすえの残れる者に戦いをいどんだ事は,何を証明していますか。
23 この事から何がわかりますか。サタンは天から追われたために神の女の残りの子らを支配できなくなり,サタンの崇拝者である大いなるバビロンもこのような支配の力を失いました。サタンと大いなるバビロンとがなおこれらの子らを束縛し,支配しているならば,彼らに「戦いをいどむ」必要はありません。彼らがいまや解放され,「神の戒めを守り,イエスのあかしを持つ」自由を得たからこそ,戦いをいどむことが必要になったのです。戦いをいどんだのは,彼らを再び大いなるバビロンに束縛しようとする悪魔の企てでした。
24 神の民は大いなるバビロンから何時,解放されましたか。これはどんな重要な事実を証明していますか。
24 私たちは事実に基づいて事件の審理をすすめなければなりません。悪魔を崇拝する大いなるバビロンからクリスチャン証者が解放されたのは何時ですか。事実は何を証明していますか。それは1919年の春のことです。その時から彼らは,諸国民へのあかしとして,メシヤによる神の国を全地に伝道することを大胆に始め,こうして今の時代に対する神の戒めを守ると共に即位したメシヤ,イエスをあかしするわざを始めたからです。この解放は,大いなるクロス,メシヤなる王イエス・キリストを用いてエホバがもたらしたものです。この解放を他のものに帰することはできません。これは何を意味しますか。これはどんな重大な事実を証拠だてるものですか。次の事実です。大いなるバビロンの神サタン悪魔が天から追い落されただけではありません,大いなるバビロン自体が倒れました。
25 (イ)なぜこれは大いなるバビロンの滅びを意味しませんか。どんな例を考えれば,倒れたことの意味をよく理解できますか。(ロ)大いなるバビロンの最終的な滅びは何世紀も先のことですか。
25 大いなるバビロンは1919年までに倒れましたが,それは滅びではありません。大いなるバビロンは今日なお存在しており,なお地の王たちを支配しています。それにもかゝわらず,エホバのクリスチャン証者は大いなるバビロンから解放されました。昔の歴史をしらべると,この事を更によく理解できます。紀元前539年,ペルシャのクロス大王が古代バビロンを倒したとき,バビロンはその存在を抹消されて全く滅び去ったわけではありません。バビロンはその後何世紀にもわたって存在し,クリスチャン使徒ペテロでさえも,さびれたこの町を訪れ,2通あるいは少なくとも1通の手紙をそこから書いています。(ペテロ前 5:13)しかし今日のバビロンは1899年に発掘が始まった癈虚となっています。同じく,宗教的な大いなるバビロンは1919年までに倒れましたが,その完全な滅びは将来のことです。そういっても,何世紀も将来に滅びるのではありません。時代は急速に動いて大いなるバビロンの滅びの時に近づいています。その滅びはこの時代のうちにきます! 解放を告げる使者にとってそれは大きな喜びの時となります!
[脚注]
a マクリントック,ストロング百科事典(1891年版)第2巻268頁に次の記述が見えます。「キリスト教国,地上の人類のあいだにひろまった形で存在するキリストの国……コンスタンチンの改宗によって最初のキリスト教国家が成立した……現在キリスト教の領域は世界の5大区分の3つを占め,残りの2つのかなりの部分にもわたっている……キリスト教国の版図が全世界に拡大される時も間近いものと思われる。最新の(1889年)国家および教会統計によって推定した世界のキリスト教徒の数は次の通りである。総人口: 14億4754万8000。ローマカトリック: 2億100万。プロテスタント: 1億600万。キリスト教徒: 3億9322万5000」。しかし1964年の現在,世界人口は30億6080万〔1963年度世界年鑑259,719頁〕。いわゆるクリスチャンは9億433万2500。
[297ページの図版]
「真理は,あなたがたに自由を得させるであろう」