契約
(けいやく)(Covenant)
ある行為をする,またはそうするのを差し控えることに対する,二人もしくはそれ以上の人々の間の合意; 協約; 約定。ヘブライ語のベリートという言葉の語源は分かっていませんが,この言葉はヘブライ語聖書中に280回以上出ており,そのうち80回以上はモーセの五つの書に出て来ます。この語の基本的な意味が今日の法律用語の「約定」と類似した「契約」であることは,1927年にハマトの南東にある非イスラエル人の都市カトナで発見された,楔形文字の書字板からも分かります。「[発見された15枚のうち]2枚の書字板の内容は簡潔なものである。書字板Aには名前の一覧表が含まれており……書字板Bは配給用の一覧表である。……したがって,一覧表Aは該当者がだれかのもとで奉仕する,あるいは一定の義務を遂行することに同意する……協定である。次に,同じ書記によって書かれた一覧表Bはその協定の性格を説明している。それらの人々は自分たちの奉仕に対する見返りとして,明記された配給を受けることになっていた。……イスラエル人のベリート,つまり“契約”という概念は,ヤハウィストの神学の中心主題であった。この言葉が聖書以外の資料に出て来る初期の時代の最初の例がここにある。それは遅くとも紀元前14世紀の初めの30年ごろまでのものである」―「アメリカ・オリエント研究学会会報」,1951年,2月号,22ページ。
クリスチャン・ギリシャ語聖書の一部の翻訳では,ディアテーケーという言葉が「契約」,「遺言」,「[遺言としての]誓約」(英語,testament; テスターメントゥム,ウル訳)などと様々に訳されています。しかし,マクリントクおよびストロング共編「百科事典」(1891年)は「契約」の項で次のように述べています。「しかし,新しい考えを伝える[「契約」以外の]新しい語を導入する必要性はないように思われる。セプトゥアギンタ訳は[ベリート](この語は決して遺言や[遺言としての]誓約を意味しておらず,常に契約または合意を意味している)を旧約の中で一貫して[ディアテーケー]と訳したのであるから,新約の筆者たちもその語を採用するに当たり,大方ギリシャ語の旧約に親しんでいた読者たちにそれと同じ概念を伝えようとしたと考えるのが自然であろう。その上,大抵の場合,新約の中で言及されているのは旧約の中で『契約』(ベリート)と呼ばれてきたその同じ事柄なのである。(例,コリ二 3:14; ヘブ 7,9章; 啓 11:19)ところが,同じ文脈に出て来るギリシャ語の同じ言葉と同じ事柄が,英語[欽定]では『契約』で表わされていることもあれば,『[遺言としての]誓約』で表わされていることもある(ヘブ 7:22; 8:8-13; 9:15)」。―新世,付録,1776,1777ページも参照。
ヘブライ人への手紙(ヘブ 7:22; 8:6,8,9,10; 9:4,15,16,17,20)の中で,筆者はディアテーケーという言葉を紛れもなく古代ヘブライ語の意味での契約に関連して繰り返し用いており,エレミヤ 31章31-34節の言葉を引用し,「契約の箱」に言及することまでしています。ギリシャ語セプトゥアギンタ訳ではエレミヤ書のこれらの節を訳すのに,「契約」を意味する古代ヘブライ語のベリートに対してディアテーケーが用いられています。また,ヘブライ 9章20節には出エジプト記 24章6-8節の言葉が引用されていますが,その箇所では紛れもなく契約のことが語られています。
その言葉の適用 契約には常に二人かそれ以上の当事者が関係しました。契約は片務契約(一方の当事者だけが条件を遂行する責任を負う)の場合もあれば,双務契約(当事者双方に遂行すべき条件がある)の場合もありました。聖書には,神が一方の当事者となっている契約のほかに,人々の間で,あるいは部族,国民,もしくは人々の集団同士の間で契約が結ばれたことについても記されています。契約を破ることは重大な罪でした。―エゼ 17:11-20; ロマ 1:31,32。
「契約」という語は,供えのパンに関する定めのような揺るぎない規定(レビ 24:8),あるいは昼と夜の一定不変の継続のような,神の法則によって支配されている神の創造のみ業に適用されています。(エレ 33:20)また,「死との契約」という表現のように,比喩的な意味でも用いられます。(イザ 28:18)エホバは野獣に関連した契約についても語っておられます。(ホセ 2:18)結婚の協約は契約と呼ばれています。(マラ 2:14)「契約の所有者(主人)たち」という表現には,創世記 14章13節の場合のように,「同盟者」という意味があります。
結局,エホバのなさった約束はどんなものであれ契約です。それは必ず成し遂げられます。それは履行されるという確信をもって頼ることのできる契約です。(ヘブ 6:18)契約の条件に効力があり,当事者の一方もしくは双方に履行義務がある限り,契約は有効です。契約によってもたらされる結果や祝福は,永久に続く場合があります。
契約を正式に確認する方法 神が証人として引き合いに出されることも少なくありませんでした。(創 31:50; サム一 20:8; エゼ 17:13,19)誓いも行なわれました。(創 31:53; 王二 11:4; 詩 110:4; ヘブ 7:21)人々は時には贈り物をしたり(創 21:30),柱または石の小山を築いたり(創 31:44-54),場所に名前を付けたりして(創 21:31),しるし,もしくは証しとしたりしました。エホバは一度,虹をお用いになりました。(創 9:12-16)ある方法では動物を殺して切り分け,契約当事者が切り分けられたものの間を通りました。この習慣から,『契約を切る』という,よく使われるヘブライ語の慣用句が生まれました。(創 15:9-11,17,18,脚注; エレ 34:18,脚注,19)提携関係を結ぶ際に宴が伴う場合もありました。(創 26:28,30)律法契約を結ぶことに関連して行なわれたように,共与の食事にあずかることも行なわれました。(オバ 7; 出 24:5,11)上位の当事者が相手方に自分の衣服のある品や武器を贈ることもありました。(サム一 18:3,4)中には(すべての人に対する創世記 9章4節の神の禁令や律法下のイスラエルに対する禁令を破って)互いの血,もしくはぶどう酒と混ぜた血を飲むという習慣に従っていた異教の国民もあり,契約者たちはあとで契約を破るような当事者に対して最も激しいのろいの言葉を述べました。
聖書では契約の永続性と不変性を表わすのに「塩の契約」という表現が用いられています。(民 18:19; 代二 13:5; レビ 2:13)古代の諸民族の間では,一緒に塩を食べることは友情のしるしであり,永続的な忠信と忠節を表わしました。共与の犠牲と共に塩を食べることは,とわの忠節を象徴しました。
書き記された書類 十のおきては「神の指」によって石に書かれました。(出 31:18; 32:16)エレミヤは証書を書き,封印を付し,証人を立てました。(エレ 32:9-15)約定の条件を述べた古代の諸民族の粘土板も見つかっています。それらの粘土板は封筒代わりに粘土製の容器に入れられて封印されることが少なくありませんでした。
エデンの約束 創世記 3章15節によれば,エホバ神はエデンの園においてアダムとエバと「蛇」のいるところで,ご自分の目的を預言的な意味を込めて話されました。
この約束と預言に関係している者たちの実体については,使徒ヨハネに与えられた幻により,「蛇」は悪魔サタンであることが啓示 12章9節で知らされています。義なる人々にとって待望久しい「女」の胤の実体はアブラハムの「胤」,つまりイエス・キリストであることを証拠は示しています。(ガラ 3:16; マタ 1:1)その「胤」は蛇によってかかとを砕かれることになっていました。イエス・キリストは殺されましたが,その死は永続する打ち傷とはなりませんでした。神はイエスを死からよみがえらせたからです。しかし,今度はその「胤」が蛇の頭を砕いて,永遠に打ち負かすことになっています。
この契約に関係している「女」とはだれでしょうか。神の敵となったエバでないのは確かです。霊の被造物である悪魔サタンを打ち負かす,つまり「無に帰せしめる」ためには,その「胤」は人間ではなく,霊者でなければなりません。(ヘブ 2:14)イエスはお生まれになった時には人間であり神の子でしたが,バプテスマをお受けになった時,神はイエスの上に聖霊を送り,イエスをご自分の子として認められました。イエスはこの時,霊によって生み出された神の子となられました。(マタ 3:13-17; ヨハ 3:3-5)後に,イエスは復活させられた時,「霊において生かされ」ました。(ペテ一 3:18)では,人間のみどりごの時のイエスではなく,この霊によって生み出された神の子の「母」となったのはだれでしたか。使徒パウロは,アブラハム,サラ,イサク,ハガル,およびイシュマエルが象徴的な劇に登場し,その中でイサクはパウロ自身も含め,天的な希望を持つ人々を表わしていたと語っています。次いでパウロは,それらの人々の「母」とは「上なるエルサレム」であると述べています。イエス・キリストはそれらの人々をご自分の「兄弟たち」と呼んで,彼らがご自分と同じ母を持っていることを示しておられます。(ヘブ 2:11)このことは,創世記 3章15節の「女」の実体が「上なるエルサレム」であることを示す根拠となっています。―ガラ 4:21-29。
その約束の条件には時の経過することが暗示されており,その期間に「蛇」は「胤」を生み出し,二つの「胤」の間には敵意が生じます。この約束が述べられてからおよそ6,000年がたちました。キリストの千年統治の直前に,「蛇」は無活動の底知れぬ深みに投げ込まれ,その千年が終わった後に蛇は永久に断ち滅ぼされます。―啓 20:1-3,7-10; ロマ 16:20。
ノアとの契約 エホバ神はノアの時代の邪悪な世を滅ぼす一方,人間と動物を保護するご自分の目的に関して,家族を代表していたノアと契約を結ばれました。(創 6:17-21; ペテ二 3:6)ノアは500歳になってから子供を持つようになりました。(創 5:32)神がその目的をノアに啓示された時には,ノアの子らは大人になって結婚していました。ノアは箱船を建造し,自分の妻と息子たちとその妻たち,それに動物と食糧を携え入れることになり,エホバは地の肉なるもの,つまり人間と動物の両方を保護されることになりました。ノアが契約の条件を従順に守った結果,エホバは人間と動物を保護されました。大洪水の後,西暦前2369年にその契約は完全に履行され,人間と動物は再び地上に住んでそれぞれの種族を増やすことができるようになりました。―創 8:15-17。
虹の契約 虹の契約は西暦前2369年にアララトの山地で,ノアとその家族によって代表されるすべての肉なるもの(人間と動物)とエホバ神との間で結ばれました。エホバはすべての肉なるものを洪水によって再び滅ぼすことは決してしないと言われました。それから,契約のしるしとして虹が与えられました。その契約は人間が地上に生きている限り,すなわち永遠に存続します。―創 9:8-17; 詩 37:29。
アブラハムとの契約 アブラハムとの契約はアブラム(アブラハム)がカナンに向かう途中,ユーフラテス川を渡った時に発効したようです。それから430年後に律法契約が結ばれました。(ガラ 3:17)エホバはアブラハムがメソポタミアのカルデア人のウルに住んでいた時,彼に話しかけ,ご自分が示す国に行くよう告げておられました。(使徒 7:2,3; 創 11:31; 12:1-3)出エジプト記 12章40,41節(七十訳)によれば,エジプトで奴隷の身となっていたイスラエルはエジプトとカナンの地に住んだ430年の期間の終わりに,「ちょうどその日に」出国しました。彼らがエジプトから救出された日は西暦前1513年のニサン14日,過ぎ越しの日でした。(出 12:2,6,7)このことはアブラハムがカナンに向かう途中,ユーフラテス川を渡ったのが西暦前1943年のニサン14日であったことを示しているように思われます。そして,アブラハム契約が発効したのはその時であったようです。アブラハムがカナンに入ってシェケムまで進んだ後,神は再びアブラハムに現われ,「あなたの胤にわたしはこの地を与えよう」と述べてその約束の範囲を拡張されました。神はそのようにして,この契約がエデンでの約束と結び付いていることを示し,「胤」が人間としての経路をたどる,つまり人間の家系を通して来ることを啓示されたのです。(創 12:4-7)創世記 13章14-17節,15章18節,17章2-8,19節,22章15-18節に記されているように,ほかにもエホバによってその約束の範囲が広げられたことが後に明らかにされました。
契約としてのこの約束はイサク(創 26:2-4)とヤコブ(創 28:13-15; 35:11,12)を通してアブラハムの後裔に伝えられました。使徒パウロは,キリスト(主要な方)およびキリストと結ばれた者たちが真の「胤」であると述べています。―ガラ 3:16,28,29。
神はアブラハム契約の目的とその契約によって成し遂げられる事柄を啓示し,約束の胤はアブラハムを通して来ること,その胤は敵の門を手に入れること,イサクを通して来るアブラハムの胤は数が増え,当時の人間には数え切れないほどになること,アブラハムの名は大いなるものとされること,その胤は約束の地を手に入れること,地上のすべての家族はその胤によって自らを祝福するようになることを話されました。(上記の創世記の聖句を参照。)これらの事柄は文字通り成就しましたが,その成就はキリストを通して起きる,より大きな成就の予型でした。パウロはアブラハム,サラ,イサク,ハガル,およびイシュマエルが象徴的な劇を演じたことを述べ,この契約の条件の象徴的,預言的な性格に関して付加的な情報を提供しています。―ガラ 4:21-31。
アブラハム契約は「定めのない時に至る契約」です。その条件によると,この契約は神の敵がすべて滅ぼされ,地のもろもろの家族を祝福することが成し遂げられるまで存続しなければなりません。―創 17:7; コリ一 15:23-26。
パウロはアブラハム契約と律法契約について論じた際,『ただ一人の者しか関係していない場合には,仲介者はいない』という原則について述べ,次いで「神はただひとりなのです」と付け加えました。(ガラ 3:20。「仲介者」を参照。)エホバはこの契約をアブラハムと一方的に結ばれました。それは実際には一つの約束であり,エホバはその約束が履行されるためにアブラハムが満たさなければならない条件を示されませんでした。(ガラ 3:18)したがって,仲介者は必要ではありませんでした。一方,律法契約は双務契約でした。それはモーセを仲介者としてエホバとイスラエル国民との間で結ばれました。イスラエル人はその契約の条件に同意し,律法に従うという神聖な約束をしました。(出 24:3-8)この後者の契約はアブラハム契約を無効にするものではありませんでした。―ガラ 3:17,19。
割礼の契約 割礼の契約はアブラハムが99歳であった西暦前1919年に結ばれました。エホバはアブラハムとその生来の胤を相手方としてこの契約を結ばれました。奴隷を含め,家の者に属する男子はすべて割礼を受けなければならず,そうするのを拒む人はだれでも民の中から絶たれねばなりませんでした。(創 17:9-14)神は後に,過ぎ越しの食事をしたいと思う外人居留者(イスラエルと共にエホバの崇拝者になりたいと願う人)は自分の家の者に属する男子に割礼を施さねばならないと述べられました。(出 12:48,49)割礼はアブラハムが無割礼の状態で得ていた,信仰による義の証印としての役割を果たしました。それはまた,ヤコブを通してアブラハムの子孫となった人々が持っていたエホバとの契約関係を示す物理的なしるしでした。(ロマ 4:11,12)神は西暦33年に律法契約が終わる時まで割礼を認めておられました。(ロマ 2:25-28; コリ一 7:19; 使徒 15章)律法のもとで行なわれていたのは身体的な割礼でしたが,エホバはそれ以上に割礼の象徴的な意義のほうに関心を抱いていることを繰り返し示し,『心の包皮に割礼を施す』ようイスラエルに助言なさいました。―申 10:16; レビ 26:41; エレ 9:26; 使徒 7:51。
律法契約 エホバと生来のイスラエル国民との間の律法契約は西暦前1513年,イスラエルがエジプトを去った後の第3の月に結ばれました。(出 19:1)それは国家的な契約でした。生来のイスラエル人として生まれた人は生まれながらにして律法契約に入っており,こうしてエホバとのこの特別な関係に入りました。律法は秩序立った仕方で整えられ,法令が類別して集められた法典の形式になっていました。み使いたちを通し,仲介者モーセの手によって伝えられた律法は,シナイ山で動物の犠牲(仲介者もしくは「契約締結人」であるモーセに代わるもの)により効力を発しました。(ガラ 3:19; ヘブ 2:2; 9:16-20)その時,モーセは犠牲の動物の血の半分を祭壇に振り掛けてから,契約の書を民に読み聞かせ,民は従うことに同意しました。その後,モーセはその書と民に血を振り掛けました。(出 24:3-8)律法の下で,祭司職はレビの部族のコハトの家族に属するアロンの家のものとして定められました。(民 3:1-3,10)大祭司の職はアロンの跡をエレアザルが,エレアザルの跡をピネハスが継ぐという具合に,アロンの血統を通してその子らに伝えられました。―民 20:25-28; ヨシュ 24:33; 裁 20:27,28。
律法契約の条件は,イスラエル人が契約を守るなら,彼らはエホバのみ名のための民,祭司の王国,および聖なる国民となって神の祝福を受け(出 19:5,6; 申 28:1-14),契約を破るなら,のろわれるようになるということでした。(申 28:15-68)その目的は,違犯を明らかにし(ガラ 3:19),ユダヤ人をキリストに導き(ガラ 3:24),来たるべき良い事柄の影となり(ヘブ 10:1; コロ 2:17)偽りの異教の宗教からユダヤ人を保護してエホバの真の崇拝を存続させ,約束の胤の家系を守ることでした。アブラハムとの契約に付け加えられた律法契約は(ガラ 3:17-19),イサクとヤコブを通してアブラハムの生来の胤となった国民を組織するものとなりました。
律法契約の益は生来のイスラエルに属していない他の人々にも及びました。それらの人々は改宗者となり,割礼を受けて,律法のもたらす益の多くを受けることができたからです。―出 12:48,49。
律法契約はどのように「廃れたもの」となりましたか
しかし,神が預言者エレミヤにより,新しい契約が設けられることを発表された時,律法契約はある意味で「廃れたもの」となりました。(エレ 31:31-34; ヘブ 8:13)西暦33年に,律法契約は苦しみの杭の上でキリストが遂げられた死に基づいて取り消され(コロ 2:14),新しい契約がそれに取って代わりました。―ヘブ 7:12; 9:15; 使徒 2:1-4。
レビの部族との契約 エホバはレビの部族全体が取り分けられ,祭司職を含め,幕屋における奉仕のための組織となることを定めた契約をレビの部族と結ばれました。それは西暦前1512年,シナイの荒野でのことでした。(出 40:2,12-16; マラ 2:4)コハトの家族のアロンとその子らは祭司となることになっており,レビの残りの諸家族は幕屋を立て,移動し,他の事柄を行なうなど,そのほかの務めを果たすことになっていました。(民 3:6-13; 4章)後に,彼らは神殿で同様に奉仕しました。(代一 23章)祭司を職に任ずるための式は西暦前1512年のニサン1-7日に行なわれ,祭司たちはニサン8日に奉仕を始めました。(レビ 8,9章)レビ人にはその地で相続地はありませんでしたが,彼らは他の部族から什一を受け,居住のための飛び地の都市を有していました。(民 18:23,24; ヨシュ 21:41)ピネハスがエホバに全き専心を示すことに熱心であったために,神は平和の契約,つまり彼とその子孫のための定めのない時に至る祭司職の契約を彼と結ばれました。(民 25:10-13)レビとの契約は律法契約が終わるまで効力を保ちました。―ヘブ 7:12。
モアブにおけるイスラエルとの契約 イスラエルが約束の地に入る直前の西暦前1473年に,エホバはモアブで生来のイスラエルと契約を結ばれました。(申 29:1; 1:3)律法の多くがそこでモーセにより再び述べられ,説明されました。この契約の目的はエホバに忠実であることを励まし,放浪生活から約束の地の定住生活に移行するに際してイスラエル人に必要となる調整を加えたり,特定の律法を定めたりすることでした。(申 5:1,2,32,33; 6:1。レビ 17:3-5を申 12:15,21と比較。)この契約は律法契約が廃止されると共に終わりました。それは律法の肝要な部分だったからです。
ダビデ王との契約 ダビデとの契約はエルサレムでのダビデの治世中(西暦前1070-1038年)のある時に,エホバと家族の代表者としてのダビデを契約当事者として結ばれました。(サム二 7:11-16)ダビデの家系の一人の子が王座を永久に所有することと,その子がエホバのみ名のための家を建てることがこの契約の条件でした。この契約における神の目的はユダヤ人のための王朝を設け,ダビデの相続人としてのイエスにダビデの王座,つまり「エホバの王座」に就く法的権利を与え(代一 29:23; ルカ 1:32),メシアとしてのイエスに身分証明となるものを与えることでした。(エゼ 21:25-27; マタ 1:6-16; ルカ 3:23-31)この契約には祭司職のことは含まれておらず,レビ族の祭司たちはダビデの家系の歴代の王と協力して奉仕しました。祭司職と王権は律法のもとで厳格に分離されていました。エホバはこの王権を認め,その王権を通して永久に事を行なわれるので,この契約の存続期間は永遠に及びます。―イザ 9:7; ペテ二 1:11。
メルキゼデクのような祭司となるための契約 この契約は詩編 110編4節で述べられており,聖書のヘブライ人への手紙の筆者はヘブライ 7章1-3,15-17節でそれをキリストに適用しています。それはエホバがイエス・キリストとだけ結ばれた契約です。イエスはご自分の追随者たちと王国のための契約を結ばれた時,この契約に言及されたようです。(ルカ 22:29)神の天的なみ子イエス・キリストは,エホバの誓いによりメルキゼデクのさまにしたがって祭司となることになっていました。メルキゼデクは地上における王ならびに神の祭司でした。イエス・キリストは地上ではなく天で,王と大祭司の両方の職務を保持されることになりました。そして,昇天された後,恒久的に職務に就けられました。(ヘブ 6:20; 7:26,28; 8:1)イエスはエホバの指示を受けて王ならびに大祭司として永久に行動されますから,この契約は永久に効力を発揮します。―ヘブ 7:3。
新しい契約 西暦前7世紀に,エホバは預言者エレミヤを通して新しい契約について予告し,それはイスラエルの破った律法契約のようなものにはならないと言われました。(エレ 31:31-34)イエス・キリストは亡くなる前の夜,西暦33年ニサン14日に主の晩さんの祝いを制定した際,ご自分の犠牲によって有効なものとされる新しい契約を発表されました。(ルカ 22:20)そして,復活させられてから50日目,父のもとに昇ってから10日後に,エホバから受けた聖霊を,エルサレムの,ある階上の部屋に集まった弟子たちに注がれました。―使徒 2:1-4,17,33; コリ二 3:6,8,9; ヘブ 2:3,4。
新しい契約の当事者の一方はエホバであり,他方は「神のイスラエル」,すなわちキリストの会衆もしくは体を構成する,キリストと結ばれ,霊によって生み出された人々です。(ヘブ 8:10; 12:22-24; ガラ 6:15,16; 3:26-28; ロマ 2:28,29)新しい契約はイエス・キリストの流された血(人間の命の犠牲)により有効なものとされています。その血の価値はイエスが昇天された後,エホバに差し出されました。(マタ 26:28)人が神により選ばれて天の召しを受けると(ヘブ 3:1),神はキリストの犠牲に基づいてその人をご自分の契約に入れられます。(詩 50:5; ヘブ 9:14,15,26)イエス・キリストは新しい契約の仲介者であり(ヘブ 8:6; 9:15),アブラハムの主要な胤です。(ガラ 3:16)イエスは新しい契約の仲介者という職務により,契約に入っている人たちが罪を許されてアブラハムの真の胤の一部となるよう助けます。(ヘブ 2:16; ガラ 3:29)エホバは彼らを義と宣せられます。―ロマ 5:1,2; 8:33; ヘブ 10:16,17。
霊によって生み出され,油そそがれたこれらキリストの兄弟たちは大祭司に従属する祭司,「王なる祭司」となります。(ペテ一 2:9; 啓 5:9,10; 20:6)これらの人々は祭司としての仕事,つまり「公の奉仕」を行ない(フィリ 2:17),「新しい契約の奉仕者」と呼ばれています。(コリ二 3:6)召されたこれらの人々は死んで命をなげうつまでキリストの歩みにしっかりと忠実に従わなければなりません。その後,エホバはそれらの人たちを祭司の王国とし,神の性質にあずかる者とし,天におけるキリストと共同の相続人として不滅性と不朽性という報いを彼らにお与えになります。(ペテ一 2:21; ロマ 6:3,4; コリ一 15:53; ペテ一 1:4; ペテ二 1:4)この契約の目的はアブラハムの「胤」の一部としてエホバのみ名のための民を取り出すことです。(使徒 15:14)彼らはキリストの「花嫁」となる人々で,キリストがご自分と共に支配するよう,王国のための契約に入れられる人々の集団です。(ヨハ 3:29; コリ二 11:2; 啓 21:9; ルカ 22:29; 啓 1:4-6; 5:9,10; 20:6)新しい契約の目的からすると,この契約は「神のイスラエル」全員が復活させられて天で不滅性を受けるまで効力を保持しなければなりません。その目的が達成されたことによる益は永遠に続きます。そのような理由で,「永遠の契約」と呼ぶことができます。―ヘブ 13:20。
イエスがご自分の追随者と結ばれた契約 イエスは西暦33年ニサン14日の夜,主の晩さんを祝った後に,この契約をご自分の忠実な使徒たちと結ばれました。そして,11人の忠実な使徒たちに対し,彼らが座に着くことを約束されました。(ルカ 22:28-30。テモ二 2:12と比較。)後に,イエスはこの約束が霊によって生み出された『征服者』すべてに及ぶことを示されました。(啓 3:21。啓 1:4-6; 5:9,10; 20:6も参照。)ペンテコステの日に,イエスはエルサレムの階上の部屋にいたそれらの弟子たちに聖霊で油そそぐことにより,彼らに対してこの契約を発効させました。(使徒 2:1-4,33)試練に遭いながらイエスに付き従い,イエスのような死を遂げる人たちは(フィリ 3:10; コロ 1:24),王国の支配をイエスと共有し,イエスと共に統治することになります。この契約はイエス・キリストとそれら共同の王たちとの間で永久に効力を保ちます。―啓 22:5。
他の様々な契約 (イ)ヨシュアおよびイスラエルの長たちとギベオンの都市の住民との間で結ばれた,それら住民に生きることを許すための契約。この人々はイスラエル人が滅ぼすことになっていた,のろわれたカナン人でしたが,契約は強い拘束力を持つものとみなされたため,ギベオン人は生きることを許されました。しかし,のろいは履行され,彼らはイスラエルの集会のためにまきを集めたり水をくんだりする者とされました。(ヨシュ 9:15,16,23-27)(ロ)エホバに仕えるための,ヨシュアとイスラエルの契約。(ヨシュ 24:25,26)(ハ)エホバがアンモン人に対する勝利をエフタにお与えになるならエフタをギレアデの住民の頭にするという,ミツパで結ばれたギレアデの年長者たちとエフタとの契約。(裁 11:8-11)(ニ)ヨナタンとダビデの間の契約。(サム一 18:3; 23:18)(ホ)祭司エホヤダと,カリ人の護衛と走者の長たちとの契約。(王二 11:4; 代二 23:1-3)(ヘ)異国の妻たちを去らせるためのイスラエルとエホバとの契約。(エズ 10:3)(ト)エホバがご自分の僕を民の(ための)契約としてお与えになるための契約。(イザ 42:6; 49:8)(チ)ヘブロンで結ばれた,ダビデとイスラエルのすべての年長者との契約。(代一 11:3)(リ)アサの治世に結ばれた,心をつくし,魂をつくしてエホバを求めるための民の契約。(代二 15:12,13)(ヌ)律法にしたがってエホバのおきてを守るためのヨシヤとエホバとの契約。(代二 34:31)(ル)エルサレムを支配した「自慢する者たち」は,自分たちは『死との契約』に入っているので安全だという誤った考え方をしていました。―イザ 28:14,15,18。