第17章
「ゴグよ,私はあなたに敵対している」
ポイント: 「ゴグ」と,ゴグが攻め込む「土地」は,何を表しているか
1,2. どんな大規模な戦争がまさに起きようとしていますか。その戦争についてどんな疑問が生じますか。(冒頭の挿絵を参照。)
地球は何千年にもわたり,人間の戦争により流された血で染まってきました。とりわけ20世紀に行われた2つの世界大戦では,大量の血が流されました。しかし,人類史上最も大規模な戦争がまさに起きようとしています。その戦争は,単なる人間同士の争いではありません。地上の国々が身勝手な理由で戦うわけではないのです。それは「全能の神の大いなる日の戦争」です。(啓 16:14)ある傲慢な敵がその戦争を引き起こし,神にとって大切な土地に攻め込みます。そのため地上の人々は,主権者である主エホバが破壊をもたらす力をかつてない規模で振るうのを目の当たりにすることになります。
2 幾つかの重要な疑問が生じます。この敵とは誰でしょうか。どんな土地に攻め込みますか。いつ,なぜ,どのように攻め込むのでしょうか。この将来の出来事は,地上でエホバへの清い崇拝を行う私たちに関係があるので,答えを知る必要があります。答えは,エゼキエル 38章と39章に記されている興味深い預言にあります。
敵はマゴグのゴグ
3. マゴグのゴグに関するエゼキエルの預言はどのような内容ですか。
3 エゼキエル 38:1,2,8,18; 39:4,11を読む。この預言を要約してみましょう。「最後の年月」に,「マゴグの……ゴグ」という敵が神の民の「土地」に攻め込みます。その卑劣な攻撃に対してエホバは「非常に激しい怒り」を燃え上がらせ,介入してゴグを打ち負かします。a エホバは勝利した後,敗北した敵とその仲間全てを「あらゆる肉食の鳥と野獣に食べさせ」ます。最後に,エホバはゴグに「墓地」を与えます。この預言が近い将来どのように実現するかを理解するために,まずゴグの正体を知る必要があります。
4. マゴグのゴグは何を表していますか。
4 マゴグのゴグとは誰のことでしょうか。エゼキエルが記した内容から,清い崇拝を行う人たちの敵だと分かります。ではゴグとは,正しい崇拝の最大の敵であるサタンを表す預言的な名でしょうか。長年にわたり,エホバの証人の出版物の中でそのように論じられていました。しかし,エゼキエルの預言をさらに検討した結果,理解が調整されました。「ものみの塔」誌で説明された通り,マゴグのゴグという称号は,人間の目に見えない邪悪な天使ではなく,目に見える敵を指します。それは,清い崇拝を攻撃する,諸国家の連合体です。b そう言える根拠を振り返る前に,ゴグが邪悪な天使ではないことを示す2つのヒントをエゼキエルの預言から調べましょう。
5,6. エゼキエルの預言のどんな点は,マゴグのゴグが天使ではないことを示唆していますか。
5 「私はあなたをあらゆる肉食の鳥……に食べさせる」。(エゼ 39:4)聖書ではよく,神による処罰の警告として,肉食の鳥が死体を食べるという描写が使われます。神はイスラエル国民や他の国々にそのような警告を与えました。(申 28:26。エレ 7:33。エゼ 29:3,5)注目したいのは,そうした警告は天使にではなく,肉体を持つ人間に与えられた,ということです。当然ながら,肉食の鳥や野獣は肉を食べるのであり,肉体を持たない存在を食べることはできません。ですから,エゼキエルの預言に含まれる警告は,ゴグが天使ではないことを示唆しています。
6 「私はゴグに墓地を与える。それはイスラエルの中……にあ[る]」。(エゼ 39:11)聖書によると,天使が地上のどこかに葬られるということはありません。サタンと邪悪な天使たちは底知れぬ深みに1000年間入れられた後,永遠の滅びの象徴である火の湖に投げ込まれます。(ルカ 8:31。啓 20:1-3,10)ゴグは地上の「墓地」を与えられるので,天使ではないと言えます。
7,8. マゴグのゴグと「北の王」はどちらも,どのような結末を迎えますか。
7 清い崇拝を行う人たちに最終的な攻撃を仕掛ける敵,マゴグのゴグが,天使ではないことが分かりました。では,諸国家の連合体だと言える根拠は何でしょうか。2つの聖書預言から考えてみましょう。
8 「北の王」。(ダニエル 11:40-45を読む。)ダニエルは幾つかの預言の中で,自分の時代から現代に至るまでどんな世界強国が現れるかを予告しました。そうした預言の1つに,政治上の敵として張り合う「南の王」と「北の王」が出てきます。人類史においてさまざまな国や勢力が覇権を争う中で,この2人の王の実体は変化してきました。「終わりの時」に北の王が最終的にどういう行動を取るかについて,ダニエル書にはこうあります。「彼は……激怒して出陣します。破壊し,多くの者を滅ぼし尽くすためです」。北の王の主な標的は,エホバを崇拝する人たちです。c しかし,マゴグのゴグと同じように北の王も,神の民に対する攻撃が失敗した後に「終わりを迎えます」。
9. 「全世界の王たち」に起きることは,マゴグのゴグの結末とどのように似ていますか。
9 「全世界の王たち」。(啓示 16:14,16; 17:14; 19:19,20を読む。)「啓示」の書は,「地上の王たち」が天にいる「王の中の王」であるイエスを攻撃することを予告しています。もちろん天に攻め込むことはできないので,その王たちは天の王国を地上で支持している人たちを攻撃します。しかしその後,ハルマゲドンの戦いで敗北することになります。エホバの民を攻撃した後に終わりを迎えるのです。やはりマゴグのゴグの結末と似ています。d
10. マゴグのゴグの正体についてどんな結論を引き出せますか。
10 こうした点を踏まえると,ゴグの正体についてどんな結論を引き出せるでしょうか。第一に,ゴグは天使ではありません。第二に,ゴグは近い将来に神の民を攻撃する地上の国々を指しています。その国々は何らかの形で結託し,連合体を形成するに違いありません。なぜでしょうか。神の民は世界中にいるので,攻撃するには共通の目的意識を持ち,一致した行動を取る必要があるからです。(マタ 24:9)もちろん,攻撃の黒幕はサタンです。サタンは長い年月にわたって世界の国々に影響を及ぼし,正しい崇拝に反対させてきました。(ヨハ一 5:19。啓 12:17)とはいえ,マゴグのゴグに関するエゼキエルの預言は,エホバの民を攻撃する地上の国々の役割に焦点を当てています。e
「土地」とは何か
11. エゼキエルの預言には,ゴグが攻め込む「土地」についてどんなことが述べられていますか。
11 3節で考えたように,マゴグのゴグはエホバにとって大切な土地に攻め込み,エホバの非常に激しい怒りを引き起こします。その土地とは何でしょうか。エゼキエルの預言に再び注目しましょう。(エゼキエル 38:8-12を読む。)預言によるとゴグは,「国々から再び集められた人々」,「連れ戻された人々がいる土地に攻め込」みます。その土地に住み,回復された崇拝を行う人々については何と述べられているでしょうか。彼らは「安心して住んで」おり,「城壁やかんぬきや門に守られていない」居住地にいて,「財産を蓄えて」います。そこにいるのは,エホバへの清い崇拝を行う世界中の人たちです。一体どんな土地でしょうか。
12. 古代にイスラエルの土地でどんな回復が生じましたか。
12 答えを知る上で,古代イスラエルで生じた回復について考えることは役立ちます。そのイスラエルの土地では幾世紀にもわたり,神に選ばれた民が暮らし,働き,崇拝を行っていました。イスラエル人が不忠実になった時,エホバはエゼキエルを通して,彼らの土地が荒廃させられることを予告しました。(エゼ 33:27-29)しかしエホバは,悔い改めた人たちが後にバビロン捕囚から帰還し,その土地で清い崇拝を回復させることも預言しました。エホバの祝福により,イスラエルの土地はすっかり変わり,「エデンの園のように」豊かになるのです。(エゼ 36:34-36)その回復は紀元前537年に始まり,その年に,捕囚にされていたユダヤ人は愛する故国で清い崇拝を回復させるためにエルサレムに帰還しました。
13,14. (ア)神の崇拝者たちが導き入れられた比喩的な土地とは何ですか。(イ)その土地がエホバにとって大切なのはなぜですか。
13 現代においても,神への清い崇拝を行う人たちは,同じような回復を経験しました。この本の第9章で学んだように,神の民は長年にわたり大いなるバビロンに捕らわれた状態にありましたが,1919年までに解放されました。その年にエホバは,解放された崇拝者たちを比喩的な土地に導き入れました。その土地とは,比喩的なパラダイスのことです。すなわち,真の神を崇拝することができる,安全で神から豊かに恵まれた環境もしくは状態です。その土地で私たちは一緒に安心して暮らすことができます。(格 1:33)神からの教えという食物を豊富に得て,神の王国について伝えるという有意義な仕事をたくさん行えます。「エホバの祝福が人を富ませる。それに痛みは伴わない」という格言がまさに真実であることを実感します。(格 10:22)私たちは地球上のどこに住んでいても,言動によって清い崇拝を活発に支持している限り,この土地つまり比喩的なパラダイスにいると言えます。
14 この比喩的な土地はエホバにとって大切です。なぜでしょうか。そこに住んでいる人たちは,エホバご自身が清い崇拝に引き寄せた,「あらゆる国の貴重なもの」だからです。(ハガ 2:7。ヨハ 6:44)その人たちは,神の高尚な性質を反映した新しい人格を身に着けようと真剣に努力しています。(エフェ 4:23,24; 5:1,2)清い崇拝を行う者として,神への奉仕に自分を余すところなく差し出し,神をたたえて神への愛を実証します。(ロマ 12:1,2。ヨハ一 5:3)エホバは,ご自分の崇拝者たちが比喩的な土地を美しくするために一生懸命働いているのを見て,心が喜びで満たされるに違いありません。そうです,私たちは生活の中で清い崇拝を優先することにより,比喩的なパラダイスを美しくするだけでなく,エホバの心を喜ばせることができるのです。(格 27:11)
ゴグはその土地にいつ,なぜ,どのように攻め込むのか
15,16. マゴグのゴグは,回復された比喩的な土地にいつ攻め込みますか。
15 間もなく地上の国々の連合体が私たちの大切な土地に攻め込むことを思うと,身が引き締まります。予告されている攻撃は,エホバへの清い崇拝を行う私たちに対するものなので,それがいつ,なぜ,どのように生じるのかを知りたくなります。その3つの点について考えましょう。
16 マゴグのゴグは,回復された比喩的な土地にいつ攻め込むのか。預言はこう答えています。「あなたは最後の年月に……土地に攻め込む」。(エゼ 38:8)ゴグが攻め込むのはこの体制の終わりが近い時である,ということが示唆されています。覚えておきたいこととして,大患難は世界中の間違った宗教全体を表す大いなるバビロンの滅びをもって始まります。間違った宗教組織が滅ぼされた後,ハルマゲドンが始まる前に,ゴグは正しい崇拝を行う人たちに対して最後の総攻撃を仕掛けます。
17,18. エホバは大患難の際にどのように物事を導きますか。
17 エホバへの清い崇拝を行う人たちの土地にゴグが攻め込むのはなぜか。エゼキエルの預言は2つの理由を明らかにしています。(1)エホバの導きと,(2)ゴグの邪悪な動機です。
18 エホバの導き。(エゼキエル 38:4,16を読む。)エホバはゴグに対し,「あなたの顎にかぎを引っ掛けて」,「私の土地をあなたに攻めさせる」と言います。これは,エホバが国々に,ご自分の崇拝者たちを無理やり攻撃させるということでしょうか。もちろんそうではありません。エホバがご自分の民に悪い事柄が降り掛かるようにすることは決してありません。(ヨブ 34:12)しかしエホバは,敵たちが清い崇拝を行う人々を憎み,その人たちを一掃する機会に飛び付く,ということを知っています。(ヨハ一 3:13)ですから,あたかもゴグの顎にかぎを引っ掛けて引っ張るかのように物事を導き,ご自分の意志や予定の通りに事態が進展するようにします。大いなるバビロンが滅ぼされた後のある時点で,エホバは国々がすでに心に決めていることを実行に移すよう,何らかの方法で仕向けると考えられます。そのようにして国々による攻撃のお膳立てをし,それがきっかけで人類史上最大の戦争であるハルマゲドンが起こるのです。それから,ご自分の民を救い,ご自分の主権を至上のものとして示し,ご自分の聖なる名を神聖なものとします。(エゼ 38:23)
国々は清い崇拝とそれを行う人たち全てを憎み,清い崇拝を私たちから奪おうとする。
19. ゴグはどんな動機で,清い崇拝を私たちから奪おうとしますか。
19 ゴグの邪悪な動機。国々は「邪悪な計画を立て」ます。エホバを崇拝する人たちに対し,積もり積もった怒りや憎しみをぶつけようとします。エホバの民は,「城壁やかんぬきや門に守られていない居住地に住んでいる」かのように無防備に見えます。国々はまた,「財産を蓄えて」いるその民から「多くの戦利品や略奪品を手に入れようとし」ます。(エゼ 38:10-12)「財産」とは何でしょうか。エホバの民である私たちは,神から比喩的な財産をたくさん与えられています。最も貴重なものは,エホバに対してのみ行う清い崇拝です。国々は清い崇拝を私たちから奪おうとします。その価値を認めるからではなく,清い崇拝とそれを行う人たち全てを憎むからです。
20. ゴグは土地つまり比喩的なパラダイスにどのように攻め込みますか。
20 ゴグは土地つまり比喩的なパラダイスにどのように攻め込むか。国々は,私たちがクリスチャンとして生きるのを妨害し,崇拝をやめさせようとするでしょう。その目的で,神からの教えという食物を得られないようにしたり,集会を禁止したり,私たちの一致を乱そうとしたり,神からのメッセージを伝えるのをやめさせようとしたりすることが考えられます。神からの教え,集会,一致,伝道はどれも,比喩的なパラダイスに欠かせないからです。サタンに唆された国々は,清い崇拝とそれを行う人たちを地上から根絶しようとします。
21. 間もなく生じる事柄についてエホバが警告してくださっていることに感謝できるのはなぜですか。
21 マゴグのゴグによる将来の攻撃は,神から与えられた比喩的な土地で正しい崇拝を行う人たち全てに影響を及ぼします。間もなく生じる事柄についてエホバが私たちに警告してくださっていることに,本当に感謝できます。大患難が来るまでの間,清い崇拝を支持し,生活の中で優先することを決意しましょう。そうすることにより,回復された比喩的な土地の美しさに貢献できます。そして,近い将来に起きる驚異的な出来事を目撃することになるでしょう。ハルマゲドンでエホバがご自分の民とご自分の聖なる名のために行動を起こすのを見ることができるのです。その点は次の章で取り上げます。
a マゴグのゴグに対するエホバの激しい怒りがいつ,どのように燃え上がるか,また,清い崇拝を行う人たちがどうなるかは,この本の次の章で取り上げます。
b 「ものみの塔」2015年5月15日号29-30ページ「読者からの質問」を参照。
c 北の王が神の民を攻撃することは,ダニエル 11章45節から分かります。そこには,北の王は「自分の壮麗な天幕を,大きな海[地中海]と『美しい地』の聖なる山[かつて神の神殿があり,神の民が崇拝を行っていた場所]との間に張」る,とあるからです。
d 聖書には,現代の「アッシリア人」が神の民を攻撃して滅ぼそうとすることも述べられています。(ミカ 5:5)マゴグのゴグ,北の王,地上の王たち,またアッシリア人が神の民を攻撃すると予告されているのです。4つの異なる言い方で,同じ攻撃を表現しているのかもしれません。
e 啓示 20章7-9節に出てくる「ゴグとマゴグ」が何を表しているかについては,この本の第22章で取り上げています。