聖書は地獄があると教えていますか
聖書の答え
幾つかの古い日本語訳聖書には,「地獄」という言葉が出てきます。(マタイ 11:23,啓示 1:18,「新約聖書 E・ラゲ訳」,中央出版社)この記事の挿絵にあるように,地獄は,悪い人が火で永遠に苦しめられる場所だと考えられています。これは聖書の教えなのでしょうか。
この記事では次の点を取り上げます。
地獄は永遠に苦しめられる場所?
いいえ。幾つかの古い翻訳聖書で「地獄」と訳されている語の1つであるハデス(ギリシャ語)は「墓」を指し,死んだ人たちが眠っている場所の比喩表現です。あくまで比喩であって,実際にそういう場所があるわけではありません。例えば,「墓(ハデス)に入る」とは,死んで存在しなくなるという意味です。
死んだ人は意識がないので,苦しむことはない。聖書には,「墓では,働くことも考えることも学ぶことも理解することもできない」とあります。(伝道の書 9:10)死んだ人はうめき声を出すこともできません。「悪人が恥をかきますように。墓で沈黙しますように」とあります。(詩編 31:17; 115:17)
神はアダムに,神が決めたことを守らないなら死ぬことになると言ったが,地獄の火で苦しむことになるとは言わなかった。(創世記 2:17)神が決めたことをアダムが守らなかった時,神は「あなたは土なので土に戻る」と言いました。(創世記 3:19)これは,アダムは死んで存在しなくなるということです。もし神がアダムを地獄に送るつもりだったとしたら,そう言ったはずです。聖書には「罪の代償は死です」とあり,神は昔も今も,人を罰するために地獄に送ったりはしません。(ローマ 6:23)「死んだ人は自分の罪から放免されている」ので,死以外に罰はありません。(ローマ 6:7)
人を永遠に苦しめるというのは,神にとってはひどく不快なこと。(エレミヤ 32:35)聖書にあるように「神は愛」なので,人を永遠に苦しめることなどありません。(ヨハネ第一 4:8)神は私たちに,恐怖心からではなく愛や尊敬の気持ちから従ってほしい,と思っています。(マタイ 22:36-38)
悪い人だけでなく善い人も「墓(ハデス)」(幾つかの聖書で「地獄」と訳されている)に行く。使徒 2章31節には,「キリストが墓a[ハデス]に見捨てられず,その体も腐敗しない」とあり,イエス・キリストも,死んで復活するまでの間,ハデスにいたということが分かります。イエスが地獄の火で罰せられるはずはありません。それで,ハデスは「地獄」ではなく「墓」を指していると言えます。b
裕福な男性とラザロの話についてはどうか
ルカ 16章19-31節には,イエスが語った裕福な男性とラザロについての話が出てきます。これは例え話です。教訓を伝えるための架空の話であって,現実の話ではありません。(マタイ 13:34)この例え話について詳しく知りたい方は,「裕福な男性とラザロとは誰のことですか」という記事をご覧ください。
地獄は,神から完全に離れた状態のこと?
地獄とは,死者が味わう神との決別状態であるという教理もあるようです。ですが,聖書によると,死んだ人は意識がないので,神から完全に離れてしまったかどうかを理解することはできません。(詩編 146:3,4。伝道の書 9:5)
「墓(ハデス)」から出てきた人はいるか
聖書には,死んで「墓(ハデス)」(一部の訳で「地獄」)に行ったものの,復活して再び生きるようになった人たちのことが書かれています。c もし死んだ後に意識があったのであれば,生き返った時に,死んでいた時のことについて話したはずですが,何も話しませんでした。当然,苦しんだとも言いませんでした。聖書が教えている通り,死んだ人は,深く「眠って」いる人のように意識がありません。(ヨハネ 11:11-14。コリント第一 15:3-6)
a 「我主イイススハリストスの新約」(ハリストス正教会聖書出版事務所)では「地獄」と訳されている。
b 「『地獄』と訳されることがあるギリシャ語」をご覧ください。