2章
「あなたたちは……私の証人となります」
伝道に打ち込んで手本となるよう,イエスが使徒たちを励ます
1-3. イエスと使徒たちはどのように別れましたか。これからどんなことを考えますか。
終わってほしくない,と使徒たちは思います。この数週間は素晴らしい日々でした。いっときは落ち込んでいましたが,イエスが復活し,みんな大きな喜びに包まれました。これまでの40日間,イエスは何度も弟子たちに会いに行き,教え,励ましてきました。でも,それも今日で終わりです。
2 オリーブ山に集まった使徒たちが,イエスの話を一言も聞き逃さないようにと耳を傾けています。もっと聞いていたいのですが,話は終わってしまいます。イエスは両手を上げ,使徒たちのために神からの祝福を願います。そして何と,地面から空へと昇っていきます。使徒たちが見上げる中,イエスの姿はやがて雲に隠れて見えなくなります。イエスがいなくなっても,使徒たちはまだ空をじっと見ています。(ルカ 24:50。使徒 1:9,10)
3 使徒たちの人生の新たなページが開かれようとしていました。イエス・キリストが天に昇った今,これからどうしていくとよいでしょうか。前もってイエスからしっかり教えてもらえたので,大丈夫です。イエスはどんなことを伝えてくれたでしょうか。使徒たちはそれを聞いて,どうしたでしょうか。現代の私たちは何を学べるでしょうか。使徒 1章を調べてみましょう。
「多くの確かな証拠」(使徒 1:1-5)
4. ルカはどのように「使徒の活動」を書き始めていますか。
4 ルカはテオフィロへの言葉で「使徒の活動」を書き始めています。ルカは福音書もテオフィロに宛てて書きました。a 福音書の続きであることが分かるように,ルカはまず福音書の最後に書いた内容を振り返っています。簡潔にまとめつつ,新たな情報を加えています。
5,6. (ア)ルカは,クリスチャンの信仰を強めるのに役立つどんなものに触れていますか。(イ)今の私たちの信仰も「多くの確かな証拠」に基づいています。どうしてそういえますか。
5 使徒 1章3節でルカは,クリスチャンの信仰を強めるのに役立つものに触れています。こうあります。「イエスは……自分が生きていることを多くの確かな証拠によって使徒たちに示しました」。ここで「確かな証拠」と訳されている語を聖書中で使っているのは,「医者ルカ」だけです。(コロ 4:14)これは医学書で使われた用語で,明白で決定的で信頼できる証拠という意味があります。イエスが残したのは,まさにそういう証拠でした。弟子たちの前に何度も現れたからです。ある時には1人か2人に,ある時には使徒たち全員に,ある時には500人以上の人たちの前に姿を現しました。(コリ一 15:3-6)
6 今の私たちの信仰も「多くの確かな証拠」に基づいています。私たちは,イエスが人間として生きたこと,人類を救うために死んだこと,そして復活したことを信じていますが,どれにも証拠があります。実際に目撃した人たちからの情報が聖書に載せられています。神が導いてそれを記録させました。そういう記録を読み,よく祈って研究すると,信仰が強まります。信仰とはただ信じることではありません。証拠があって初めて信仰が生まれます。楽園になった地球でいつまでも幸せに暮らすには,そういう本物の信仰が欠かせません。(ヨハ 3:16)
7. 伝道のテーマは神の王国です。イエスのどんな手本からそのことが分かりますか。
7 ルカが言っているように,復活したイエスは「神の王国について話しました」。例えば,預言を説明し,神から選ばれた者は苦しみと死を経験することになっていたと言いました。(ルカ 24:13-32,46,47)イエスは神から選ばれ,将来王になることになっていたので,神の王国について語りました。神の王国はイエスの伝道のテーマでした。クリスチャンも同じテーマを意識して伝道します。(マタ 24:14。ルカ 4:43)
「地上の最も遠い所にまで」(使徒 1:6-12)
8,9. (ア)使徒たちはどんな2つの勘違いをしていましたか。(イ)イエスはどのように使徒たちの勘違いを正しましたか。私たちもそこからどんなことを学べますか。
8 使徒たちがオリーブ山に集まった時は,天に行く前のイエスと話す最後のチャンスでした。こう尋ねます。「主よ,今イスラエルに王国を回復するのですか」。(使徒 1:6)ここから,使徒たちが2つの勘違いをしていたことが分かります。まず,神の王国は当時のイスラエルにつくられると思っていました。さらに,神の王国は「今」その時に統治を始めると思っていました。イエスは何と答えたでしょうか。
9 1つ目の勘違いはすぐに正されることになっていました。イエスはそれを知っていたはずです。使徒たちはわずか10日後,イスラエル国民とは違う,新しい国民の誕生を目にしました。それは,神に選ばれた人たちから成る国民で,イスラエル人ではない人もたくさん含まれています。もうイスラエル国民は神の特別な国民ではなくなりました。2つ目の勘違いについては,イエスはこう言いました。「天の父の権限で定められた時や時期について,あなたたちが知る必要はありません」。(使徒 1:7)以前にもイエスは,終わりが来る「日と時刻」は自分も知らず,「父だけが」知っていると言いました。エホバは決めたタイミングを必ず守ります。(マタ 24:36)それで私たちも,今の体制が終わるタイミングについて考え過ぎるなら,知る必要のないことを知ろうとしていることになります。
10. 弟子たちに倣って,どんな姿勢でいたいと思いますか。どうしてですか。
10 勘違いをしたとはいえ,弟子たちは信仰のあつい人たちでした。イエスに指摘されて,間違いを素直に認めました。それに,勘違いをしたのは,鋭い関心があったからこそでした。イエスから何度も「ずっと見張っていなさい」と言われていたので,エホバが行動するタイミングを見逃さないようにしたいと思っていました。(マタ 24:42; 25:13; 26:41)私たちも同じような姿勢でいたいと思います。今は「終わりの時代」なので,特にそういえます。(テモ二 3:1-5)
11,12. (ア)イエスはクリスチャンたちにどんな任務を与えましたか。(イ)イエスが聖なる力について話したのはどうしてですか。
11 イエスは使徒たちに,何に集中すべきかを教えました。こう言いました。「聖なる力があなたたちに働く時,あなたたちは力を受け,エルサレムで,ユダヤとサマリアの全土で,また地上の最も遠い所にまで,私の証人となります」。(使徒 1:8)イエスが復活したことはまず,イエスが杭に掛けられたエルサレムで知らされます。そこからユダヤ全域に,そしてサマリアに,さらにはもっと遠くに広められていきます。
12 イエスはここで,「聖なる力があなたたちに働く」とまず言ってから,伝道する任務に触れています。ここを含め,「使徒の活動」には「聖なる力」という語が60回も出てきます。エホバの望むことを行うには,聖なる力のサポートが絶対に必要だということが伝わってきます。エホバに祈って,「聖なる力を下さい」とお願いすることは,とても大切です。(ルカ 11:13)今は伝道に特に聖なる力が必要です。
13. 今,「地上の最も遠い所」はどこまで広がっていますか。一生懸命伝道することが大切なのはどうしてですか。
13 今では,「地上の最も遠い所」は世界中にまで広がっています。エホバは,「あらゆる人」が良い知らせを聞いて救われることを願っています。(テモ一 2:3,4)前の章で見たように,エホバの証人は一生懸命に良い知らせを伝えています。あなたはどうですか。これほどやりがいのある仕事はほかにありません。エホバからのサポートもあります。どうやって伝道すればよいか,どんな心構えが大切か,「使徒の活動」から学べます。
14,15. (ア)天使たちは,イエスがどのように来ると言いましたか。それはどういう意味ですか。(脚注も参照。)(イ)イエスは天に行った時と「同じ仕方で」再び来た,といえるのはどうしてですか。
14 この章の初めで取り上げたように,イエスは空へと昇っていき,やがて見えなくなりました。それでも,11人の弟子たちは立ったまま,じっと空を見つめていました。すると,2人の天使が現れ,こう言って考えさせます。「ガリラヤの人たち,なぜ空を眺めて立っているのですか。空へ上げられたこのイエスは,空に入っていくのをあなたたちが見たのと同じ仕方で来ます」。(使徒 1:11)これはイエスが人間の肉体を着けて再び来るという意味だ,と教える人もいます。でも,本当はそういう意味ではありません。どうしてそういえるでしょうか。
15 天使たちが,「同じ姿で」ではなく「同じ仕方で」と言っていることに注目してください。b イエスはどんな仕方で天に行ったでしょうか。天使たちが現れた時,イエスはすでにいませんでした。限られた数の使徒たちだけが,天へと旅立つイエスを見て,エホバのもとに戻っていったのを理解しました。天使たちによれば,イエスは「同じ仕方で」再びやって来ます。そして,実際にそうなりました。現在,聖なる力に頼って学ぶ人たちだけが,イエスがすでに来ていて,王になっていることを理解しています。(ルカ 17:20)イエスが王位についている証拠を調べて信仰を強め,今がどんな時代かについて伝道することはとても大切です。
「どちらを選ばれたかをお示しください」(使徒 1:13-26)
16-18. (ア)使徒 1章13,14節から,クリスチャンの集会についてどんなことが分かりますか。(イ)イエスの母親マリアの手本から何を学べますか。(ウ)集会がとても大切なのはどうしてですか。
16 その後,使徒たちは「大きな喜びを抱いてエルサレムに帰」りました。(ルカ 24:52)イエスに励ましてもらった彼らはどうしたでしょうか。使徒 1章13,14節によると,「階上の部屋」に集まりました。当時,パレスチナの家の上の階にはよく,外階段から入れる部屋がありました。この「階上の部屋」は,使徒 12章12節に出てくるマルコの母親の家の部屋だったかもしれません。いずれにしても,そこは集まりやすい場所でした。誰が集まり,何をしていたのでしょうか。
17 集まったのは,使徒たちだけでも,男性たちだけでもありませんでした。「何人かの女性」もいて,その中にはイエスの母親マリアもいました。聖書中でマリアが出てくるのは,ここが最後です。マリアは目立とうとしたりせず,ほかの兄弟姉妹たちと一緒に崇拝のために集まりました。イエスが生きていた頃は信者でなかった4人の息子もその場にいたので,うれしかったはずです。(マタ 13:55。ヨハ 7:5)イエスが亡くなって復活した後,息子たちは信仰を持つようになりました。(コリ一 15:7)
18 みんなが集まっていたのは,「思いを一つにしてひたすら祈り続け」るためでした。(使徒 1:14)このように,クリスチャンが集まるのは崇拝のためです。もちろん,仲間との絆を強めたり,大事なことを学んだりしますが,何よりエホバを崇拝するために集まります。エホバに喜んでもらうために,心から祈り,賛美の歌を歌います。神を畏れ敬う気持ちで集まり,みんなで励まし合える集会は,本当に大切です。(ヘブ 10:24,25)
19-21. (ア)ペテロの活躍からどんなことを学べますか。(イ)ユダの代わりが必要だったのはどうしてですか。その選び方からどんなことを学べますか。
19 さて,使徒たちには,検討しなければいけないことが1つありました。ペテロがみんなをまとめるために発言します。(15-26節)ペテロといえば,数週間前に大きな失敗をし,イエスのことを知らないと3度言ったばかりです。(マル 14:72)でも今は見事に立ち直り,エホバからも仲間からも信頼されています。私たちは誰もが間違いをしますが,心から反省してやり直すなら,エホバは「快く許してくださいます」。(詩 86:5)
20 ペテロは,イエスを裏切った使徒ユダの代わりを選ばなければいけないと考えます。誰がよいでしょうか。イエスの宣教にずっと付いてきていた人で,復活したイエスに会った人です。(使徒 1:21,22)イエスも以前,こう言っていました。「私に従ってきたあなたたちも12の座に座り,イスラエルの12部族を裁きます」。(マタ 19:28)エホバは,イエスの宣教に付いていった12使徒が新しいエルサレムの「12の土台石」になる,と考えていたようです。(啓 21:2,14)それでペテロに,「監督の職にほかの人が就きますように」という預言がユダに当てはまることに気付かせました。(詩 109:8)
21 代わりの1人をどうやって選んだでしょうか。くじを引きました。昔,くじを引くのは一般的なことでした。(格 16:33)しかし,聖書にくじを引くことが出てくるのはここが最後です。この後,ペンテコステで聖なる力が注がれてからは必要なくなったようです。ここで注目したいのは,どうしてくじを使ったかです。使徒たちはこう祈りました。「全ての人の心を知っておられるエホバ,この2人のうちどちらを選ばれたかをお示しください」。(使徒 1:23,24)彼らはエホバが選んだ人を選びたいと思っていました。結果,マッテヤが選ばれました。マッテヤは,イエスが伝道に遣わした70人の弟子の1人だったと思われます。こうして,マッテヤが「12人」の1人になりました。c (使徒 6:2)
22,23. 先頭に立ってくれる監督たちに従い,進んで協力することが大切なのは,どうしてですか。
22 この記録から,クリスチャンの活動にはまとめ役がいることが分かります。現代でも会衆では,責任を担える兄弟たちが選ばれて,監督として奉仕します。監督たちはそういう兄弟を選ぶ時,聖書に書かれている監督の資格を慎重に検討し,聖なる力に導いてもらえるよう祈ります。それで,選ばれた兄弟たちは聖なる力によって任命されたといえます。先頭に立ってくれる監督たちに従い,進んで協力することが大切です。そうすると,会衆みんなが一つになってエホバに仕えられます。(ヘブ 13:17)
23 使徒たちは,復活したイエスに励ましてもらい,12使徒に新たな人を迎え,今後に向けて準備が整いました。これからどんな展開が待っているでしょうか。次の章で学びましょう。
a ルカは福音書で,テオフィロを「閣下」と呼んでいます。ここから,テオフィロが著名な人物で,その時は信者ではなかったことがうかがえます。(ルカ 1:3)しかしルカは,「使徒の活動」では「テオフィロ様」と呼び掛けています。学者によると,「閣下」と呼ぶのをやめたのは,テオフィロが福音書を読んだ後に信者になり,クリスチャンの仲間になったからかもしれません。
b ここで使われているギリシャ語は,「姿」を意味するモルフェーではなく,「仕方」を意味するトロポスです。
c パウロは「異国の人々への使徒」に選ばれましたが,12使徒の1人ではありませんでした。(ロマ 11:13。コリ一 15:4-8)イエスの宣教に付いていってはいなかったからです。