6ハ ご自身のみ子の血をもって
使徒 20:28 ― ギ語,διὰ τοῦ αἵματος τοῦ ἰδίου
(ディア トゥー ハイマトス トゥー イディウー)
1903年 |
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現代英語聖書,F・フェントン訳,ロンドン。 |
1950年 |
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クリスチャン・ギリシャ語聖書 新世界訳,ブルックリン。 |
1966年 |
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今日の英語聖書,アメリカ聖書協会,ニューヨーク。 |
文法的に言えば,この句は,ジェームズ王欽定訳やドウェー訳がしているように,「ご自身の血をもって」と訳すことができるでしょう。これは多くの人にとって難解な句とされてきました。アレ写,エフ写,ベザ写,シリ訳ヘ(欄外)(モファットの訳はこれらに基づいている)が,「神の会衆」とではなく,「主の会衆」と読んでいるのは恐らくそのためです。本文をそのように読むなら,「ご自身の血をもって」という読み方には少しの困難も伴いません。しかし,シナ写,バチ写,ウル訳は「神」(定冠詞を伴う)と読んでおり,ここを普通に訳せば,『神の血』となります。
「血をもって」という句のあとに,τοῦ ἰδίου(トゥー イディウー)というギリシャ語が続いており,この句全体は「ご自身の血をもって」とも訳せます。この「ご自身」という語のあとに単数形の名詞が省かれているものと考えられます。それは,恐らく,神と最も近い関係にある,独り子イエス・キリストであると思われます。J・H・モールトンは「新約ギリシャ語文法」(A Grammar of New Testament Greek,第1巻[序文],1930年版,90ページ)の中でこの点にふれ,次のように述べています。「ἴδιος(イディオス)について話を終える前に,明確に示された名詞を伴わないὁ ἴδιος[ホ イディオス]の用法について述べておかねばならない。これはヨハネ 111 ; 131,使徒 423; 2423に見られる。我々はパピルスに,近い関係にある者に対する愛称語としてこうした単数形の用いられている例を見いだす。……Expos.VI.iii.277ページで,わたしはあえてこのことを取り上げ,使徒 2028を『ご自身のものである方』と訳したいと思う人々(B・ワイスを含む)への励ましとした」。
ホートも,「ギリシャ語原語による新約聖書」(The New Testament in the Original Greek,ウェストコットおよびホート編,第2巻,ロンドン,1881年,付録,99,100ページ)でこう述べました。「現在あるすべての文献に影響を及ぼすようなごく初期の写しを作るさい,ΤΟΥΙΔΙΟΥ[トゥー イディウー,『ご自身の』]のあとのΥΙΟΥ[ヒュイウー,『み子の』]が脱落したと考えられなくはない。これを挿入すればこの句は少しも難解でなくなる」。
新世界訳聖書はこの句を字義通りに訳出し,ἰδίουのあとに角かっこに入れた「み子」を加えて,「ご自身の[み子]の血をもって」と読んでいます。