女性の更年期
この記事は特に閉経期を迎えた,あるいは閉経期にはどんなことが起こるのだろうと考えている女性に関係のある記事です。しかしその人たちの夫や子供,親族や友人にとっても有益な内容です。
半ば開かれたカーテンの間から柔らかい太陽の光が差し込んでいました。外では小鳥が楽しそうにさえずっています。よく晴れたとてもさわやかな朝でした。
それなのに,まだベッドに寝ていた婦人には,どういうわけかその朝は様子が違うように思えました。彼女は寝たまま悲しそうな目つきで天井を見つめていました。わけもなく泣きたい気持ちでした。
夫が口笛を吹きながら廊下をこちらへやって来る足音が聞こえましたが,それさえも神経にさわるように思えました。
「起きる時間だよ」と夫は明るい声で言います。妻が返事をしないでいると,夫はベッドのそばに来て,笑いながら毛布を少し引っぱります。「さあ,起きた起きた」。
すると妻は急に起き上がってベッドの上に座り,怒ったように叫びます。「ほっといてよ! ほっといてちょうだいったら!」
何事が起きたのかと夫がびっくりしているうちに,妻はまた身を投げ出し,枕に顔をうずめて,身も世もないようにむせび泣きます。
閉経期
その日は,閉経期にあったその婦人にとって調子の悪い日だったのです。一般にはこれほど激しいものではありませんが,実際にひどくなると家族全員に影響が及びます。夫はどうしていいか分からず,子供たちは動揺するかもしれません。しかし,つらい思いをするのは当の母親です。
何が起きているかをよく理解していれば,関係者すべてに役立ちます。閉経期については有ること無いことが色々と言い伝えられています。閉経期を通過したばかりのある婦人は,「人々の言うことを聞いて心配する場合のほうが多く,閉経期自体はそれほど心配したものではありません」と言いました。正しい情報を得ていれば,だれも不必要な心配に悩まされなくてすみます。
英語では閉経期は多くの場合“change of life(人生の変わり目)”と呼ばれます。しかしこの言葉を嫌う人もいます。なぜなら,この言葉はこの時期に人生がどうかして完全に変わってしまうことを暗示しているからです。そうなる必要は少しもありません。なるほど,もう子供が産めなくなったということで喪失感を味わう女性もいます。しかし,仕事や結婚生活,娯楽その他生活の多くの面は,閉経後もほとんど変化がなく,かえって良くなる面さえあります。
それにこの時期をわざわざ“人生の変わり目”と呼ぶと,これだけが唯一の変化のような印象を与えます。それは事実ではありません。女性の生涯には劇的な変化がたくさんあります。思春期の始まり,結婚,出産などがそれです。閉経期は一連の変化の一つなのです。ですからドイツ語にはディー・ベクセルヤーレという,もっと親切な言葉があります。これは“更年期”を意味します。女性の更年期についてわたしたちだれもが知っているべき事柄としてはどんなことがあるでしょうか。
● 更年期とは?
更年期とは女性の月経周期が閉止に近づき,それに伴って子供を産む能力がなくなる時期を言います。このことは“メノポーズ(閉経期)”という語によく表われています。メノポーズは,“月”および“閉止”という意味の二つのギリシャ語に由来する言葉です。
● 更年期とはどんなものではないか
更年期は老化の始まる時期ではありません。老化は徐々に進むものです。筋肉の正常な状態は25歳にして早くも衰え始めます。30になると筋肉や骨組織を失い始め,白髪が増え始めます。この過程は閉経期を通して続き,閉経期によって速度が速められることはあっても,その原因は閉経期にあるわけではありません。閉経期にある40歳や50歳の女性にとって老年はまだ何年も先のことです。
さらに閉経は,その症状が病気のように感じられることがあっても,病気ではありません。
● 原因は何か
体が新しい状況に適応しつつあるのです。思春期に入ると少女の体はホルモンを作り始めます。そしてそのホルモンが卵巣を刺激し,定期的に排卵が起こります。
更年期にはその逆のことが生じます。体はホルモンを作るのをやめ,成熟した卵の供給は次第に減少してゆきます。これに関係しているホルモンの一つはエストロゲンです。もしエストロゲンの供給が徐々に停止するなら閉経期は楽なものになるでしょう。もし急速に減少するなら,閉経期は前者の場合よりも困難になるのが普通です。
● いつ始まるか
ほとんどの女性の場合,45歳から55歳までの間に始まるでしょう。40歳にならないうちに更年期を迎える人も幾らかいます。平均よりも遅く,例えば60代になって更年期を迎える人の数はさらに少なくなります。手術を受けたり,一般に健康が優れない人の場合には閉経期が早く来ることがあります。
閉経が近づいたしるしとしては,生理が不規則になるのが普通です。人によっては,月経が完全に閉止する時まで生理はますます不規則になってゆくこともあります。かと思うと,月経が突然閉止し,そのあと何もないという恵まれた人たちもたまにあります。あるいは,回数が普通よりも多くなる人,月経が完全に閉止するまで出血量が交互に,少なくなったり多くなったりする人もいます。
● 更年期は女性にどんな影響を及ぼすか
婦人科医のヨハンナ・パールムッター博士は,「ほとんどの女性は症状があるとしても比較的に軽い状態で閉経期を通過するということを知っていると安心できる」と述べています。(「閉経期の本」)これは明るいニュースですが,もし自分が『比較的に軽い症状』ではすまない人の一人であるとしたらどうでしょうか。「より重い更年期障害を経験する人でもほとんどの場合医師の助けを得ることができる」とパールムッター博士は言います。ではその「より重い更年期障害」にはどんなものがあるのでしょうか。
よくあるのは熱感です。熱感とは上半身が急にほてってくる状態と説明されています。顔が紅潮し,時にはその後で汗がたくさん出ることもあります。熱感は度々起こることがあり,日に何十回も生じることがあります。ほんの一,二秒の時もあれば,何分か続く時もあります。夜などは汗びっしょりになって目を覚ますことがあります。
熱感の生じる物理的な原因については確かなことは知られていません。それは精神的な痛手となるものでしょうか。ほとんどの場合そうではありません。女性たちはこれを説明するのに「不愉快」,「やっかい」あるいは「いらいらさせられる」といった言葉を使います。
だれもが経験するわけではありませんが,他の症状として不眠とか突然の疲労感などがあります。しびれ,めまい,吐き気,心悸高進,腰痛,胸部の痛み,緊張による頭痛,膣の乾燥,いらいらなども挙げられています。このように症状を列挙されると恐ろしくなるでしょうか。でもご安心ください。ほとんどの女性は,更年期障害を仮に経験するとしてもこのうちのほんのわずかしか経験しないのです。それに,症状が重い場合でもそれを和らげる方法はあるものです。
● 抑うつ状態はどうか
更年期の間に軽い抑うつ状態になる女性も確かにいます。でも大抵,自分や身近な家族以外にはそれと気が付かないほど軽いものです。これにかかる人は,わけもなく泣くようになるかもしれません。あるいは,きのうまで深く愛していた夫や子供たちが急にうるさい,いらいらさせられる存在に思えてくるかもしれません。また,普段きちんと事を行なう女性が,一時的に物忘れがひどくなったり,混乱したりすることもあるでしょう。あるいは突然にわけの分からない恐怖を感じたりするかもしれません。
もしこのような経験をするなら,それは精神だけの問題ではないということを忘れないようにしましょう。それには普通生物学上の理由があります。ですから,自分を制することができなくなっているのではないかと考えないことです。自分に時間を与えることです。そうした症状があると,ざ折感を感じたり,意気阻喪したりするかもしれませんが,大抵一時的なものです。気持ちを楽にしていればそのような気分はやがてなくなります。a
[脚注]
a 妻の抑うつ状態が長く続き過ぎているように思えるなら,あるいは自尊心を失うとか自殺を考えるといった憂慮すべき兆候があるなら,夫は専門家の援助を求めるよう妻に勧めるのが賢明でしょう。時には閉経期が,女性の生活の中の他の問題に起因するうつ病の引き金になることもあるからです。
[17ページの拡大文]
更年期は老年の始まりではない
[16ページの図版]
「私はもう若くない」
「体力もなくなってきている」
「夫も失うのだろうか」