世界展望
サイクロンによる破壊
5月24日にバングラデシュ南東部の低地がサイクロン(ハリケーン)で破壊された。同国の大統領であるH・M・エルシャド中将は,その嵐で少なくとも5,000人が死亡したと思う,と語った。(その後の推定では死者は1万人になった。)この嵐のために3ないし5㍍の水の壁が出来上がり,ベンガル湾の奥にあるデルタの小さな島々が冠水した。風速約45㍍の風にあおられた波が残したものは,人間と動物の死,それに土地の破壊であった。
サッカーに伴う暴力
英国人のサッカーファンがイタリア人のファンを襲撃したため,ベルギーの絵のように美しい首都ブリュッセルが死傷者の横たわる醜い場と化してしまった。恐れに取りつかれた幾百万人というテレビの視聴者がなすすべもなく見守る中,その5月の騒動で38人が死亡し,250人以上が負傷した。Z・D・Fテレビ局のニュースキャスターであるリュプレヒト・エゼルは,「欧州史上,これほど恐ろしい事件がサッカーの試合の場で起きたことは一度もなかった」と述べた。その騒動が起こったのは,イギリスとイタリアのチームの間で欧州チャンピオンズ・カップの決勝戦が行なわれる前のことだった。
その結果,英国のサッカー協会は,欧州での競技に出場する資格を持つ同国の六つのサッカークラブに対し,1年間欧州で競技を行なうことを禁じた。その決定は,「我が国の国民の行動の結果,かくも多くの死者と負傷者が出たのであるから,極めて厳しい処置が必要となる」と語った英国のサッチャー首相を「満足させた」。そのあとを追うようにして,34か国の加盟する欧州サッカー協会連合も,英国のサッカーチームが不定の期間欧州での試合を行なうことを禁ずる決定を下した。
安全キャップで命拾い
薬瓶の安全キャップは大人でも外すのが難しいようだが,そのようなキャップは命を救うものとなっている。米国ジョージア州アトランタ市のCDC(疾病対策センター)の推定によると,米国では1974年から1981年までの間,そうしたキャップのおかげで8万6,000人の子供たちが間違って毒を飲んでしまう事態を避けることができた。しかし,多くの大人が毒物を正しく保管しなかったり,緊急事態が発生したときになすすべを知らなかったりしたために子供が中毒を起こすことは今もなお深刻な問題となっている。1983年には,中毒を起こして救急処置室で治療を受けた5歳未満の子供は11万人を超えた。
仕事から得られる満足感
金銭と主体性とでは,仕事の満足感をもたらす上でどちらが重要だろうか。米国ミネソタ大学の社会学の教授,ジェイラン・T・モルティマー博士によると,主体性と答えれば正解である。同女史は,アメリカ科学振興協会の年次総会で行なった報告の際,「仕事における主体性」― 従業員がどの程度自分自身で決定を下し,仕事に関して生ずる事柄に影響を及ぼせるかということ ― は,仕事から得られる満足感の主要な源として,収入よりも優位に立っている,と述べた。
新たな政教条約
ローマ・カトリック教はもはやイタリアの国教ではない。イタリア政府とバチカンは6月3日,カトリック教会が以前イタリアで保持していた権利の一部に終止符を打つ新しい政教条約を批准した。この条約は,ベニト・ムッソリーニと法王庁の国務長官である枢機卿との間で1929年に締結され,バチカン市国を独立国家として,またローマ・カトリック教を唯一の国教として認めたラテラノ条約に代わるものである。この新しい条約により,バチカンの独立的な立場は保たれるものの,「聖都」としてのローマの地位は終わり,同時に公立学校でカトリックの教えを義務教育として施すことも中止されることになる。法王ヨハネ・パウロ2世は,「今日から教会とイタリア国家の間の制度上の関係に関する新時代が始まる」と述べた。
一般名の薬品
米国のテキサス州で処方される薬の約7割は一般名の薬品として入手でき,その気になれば4割も安く消費者の手に渡る。しかし,テキサス大学オースチン校でマーヴィン・D・シェパード博士が最近行なった研究によると,医師,薬剤師,消費者の側に意識が欠けているため,こうした費用の節約は限られたものになってきた。シェパードはこう述べている。「消費者は,登録商標の付いたものの代わりに一般名の薬品を買えばどれほど節約できるかを十分には知らないようだ。我々の調査で分かったことだが,登録商標名の付いた薬の平均販売価格は12㌦(約3,120円)になる。しかし,一般名の薬品を使えば,販売価格は一般に7.5㌦(約1,950円)ほどになる」。
盗まれる自動車が記録的な数に
パリに本部をおく自動車団体,国際自動車連合によると,ヨーロッパで自動車が最も多く盗まれるのは英国である。昨年は英国で,登録された車1万台につき22台が盗まれた。フランスでは登録された1万台につき13台の車が盗まれて第2位。そしてスウェーデンは12台,スペインは11台,イタリアは6台,ベルギーは4台,ドイツ連邦共和国は3.5台と続く。アメリカでは昨年,登録された1万台につき9台の車が盗まれた。ロンドン警視庁は自動車を盗むこうした犯罪の流行を,「極めて深刻」と述べている。
減量は財布の中味
「あらゆる年齢層のアメリカ人が,固定自転車,漕力強化台,足踏み車,および,ぜい肉を取り筋力をつける他の高価な器具を,寝室や地下室に所狭しと置いている」と,ウォールストリート・ジャーナル紙が伝えている。同紙はまた,「走ったり泳いだり,それに庭の手入れをしたりするといった昔ながらの方法でも,機械を使った場合と同量のカロリーをはるかに安い値段で燃焼させることができる」と述べている。定期的に運動をするほうが安全でもあると言えよう。機械が粗末に作られていたり操作を誤ったりしたため,また監督不行き届きのために生ずるけがが近年急激に増加している。
子供とビタミン
普通の親なら,「ビタミンは安全なもので,子供に“栄養保険”を掛けるための簡便な方法である」と考えるに違いない。しかし,カナダ医師会ジャーナル誌に掲載された一研究は,「多種のビタミンの過剰投与は,それによって防げるとされる幼い子供たちの栄養学的な種々の問題以上に子供たちを危険にさらす可能性が強い」と,カナダのCP通信は述べている。その調査の示すところによると,過剰投与の主要な原因となっていたのは,ビタミンの価値に関する両親の誤解である。少し効き目があると,沢山飲めばずっと良くなると考えてしまうのはだれもが陥りやすい過ちである。
子供の結婚
1929年以来不法行為とされているにもかかわらず,インドでは子供同士の結婚の習慣が続いている。最近の調査は,農村地帯に住む少女の約13%が10歳から14歳までの間に結婚していることを示している。ヒンズー教徒は伝統に従い,結婚するのに最も良い日はアクハ・ティージュの日であると信じている。タイムズ・オブ・インディア紙の報道によれば,ラージャスターン州ではその日に4万人もの幼い花嫁と花婿が結婚して結ばれた。結婚した人の中には,占星術家たちの力で性別が決まるとされている,おなかの赤ちゃんも含まれている。
下水の力
英国のグレーター・ブリストル地方に住む50万人から出る下水が,現在有効に用いられている。地元の水道局のアボンマウス工場は,下水から1日1万5,000立方㍍のガスを生産している。そのガスがエンジンを動かして発電をする。英国のロンドン・タイムズ紙によると,この工場で1日に生産されるガスの4分の1強の量で,一つの小さな村の需要全体を賄うに足る電気を生産することができる。この下水処理工場から出るメタンも,ガスで動くように作り直された水道局の12台の車を動かすことができる。
老化に関するゼミナール
イタリアのローマで最近開かれた国際大会で,老化の原因が論議の的になった。イタリアとイスラエル両国の分子生物学者,生理学者,生化学者,生理病理学者が集まった。ラ・レパブリカ紙はこのゼミナールについて報道し,「世界中から集まった多くの研究者たちは,我々が老化と呼ぶ過程の根本原理は細胞の研究によって得られると確信している」と述べた。一部の研究者たちは,人体の細胞の更新力を知り,「細胞のレベルで言えば,我々は想像する以上に長く生きるよう設計されている」と結論を下した。
逆反応
塩分は高架橋や高架道路のコンクリートに埋め込まれている鉄筋を腐食させる。その結果鉄筋が膨張し,コンクリートが割れ,大きな塊が崩れ落ちることさえある。ニュー・サイエンティスト誌によると,塩分が電解槽の機能を生じさせ,腐食が起きるということである。オンタリオ州キングストンにあるクィーンズ大学の研究者たちは,電流を通して電解槽の機能を逆転させることが解決策になると述べている。必要な量は4ボルトだけなので,自動車の運転手に危険が及ぶこともない。北アメリカではこれまでに約100基の橋にそうした処置が施された。新たに作られる橋は,鉄筋にエポキシ樹脂を塗って保護している。
感情が原因で生ずる痛み
感情が原因で生ずる痛みを,単なる身体的な病気として治療するなら,患者は不治の,また慢性の病気を抱え込むことになりかねない,とオランダの医師ヴァウタス・オスタハイスは述べている。同医師は,痛みの身体的な原因が見いだされなかった500人の患者の症例を研究し,痛みの生じる部位と感情的な問題との間に強力な関係があることを発見した。ロンドンの「サンデー・タイムズ」紙の報道によると,攻撃的傾向を持つほとんどすべての人が首の痛みを経験していた。恐れの気持ちを持つ人々は腹痛を訴えた。腰が痛むという訴えは,絶望感にとらわれている人々の大多数に見られた。同医師は,彼らの問題を解決するには心理学的な支えと助けが必要である,と述べた。
犯罪発生率が上昇
定期刊行物カナディアン・バンカーは「北アメリカの武装強盗」に関する報告の中で,「人々がどのように考えようと,統計は,犯罪の発生率が近年急激に上昇したことを証明している」と述べている。カナダと米国では,1962年から1980年までの間に,人口10万人当たりの強盗の被害者の割合は4倍になった。