科学的に測定した先史時代の年代
放射能時計は何百万年という時を告げています。しかし,それはどれほど正確なものでしょうか。
この記事と続く二つの記事は,地質学者が岩石およびかつて生きていた有機体の遺物の年齢を測定するために用いるさまざまな放射性年代測定法を説明し,評価するものです。これらの記事は,放射能の分野の研究と産業に多年の経験を持つ一人の核物理学者によって準備されました。
「陥落穴で考古学的な多くの発見。1万年前の骨は,氷河期のフロリダ半島に人間が生存したことを物語る ― 科学者の見解」。
「大阪近郊で,日本最古の石器時代の家屋が発掘された。家屋は約2万2,000年前のものと考古学者は算定」。
「今から約100万年前,コロナ(カリフォルニア)東部に1本の川が流れており,その堤にはマスタドン・ラクダ・馬・ウサギなど,先史時代の動物が数多く生息していた」。
ここに挙げた最近の主張は,考古学者や古生物学者による発見を知らせる典型的な例です。新たな発見について人々がまず知りたいと思うのは,それがどれくらい古いものかということです。記者団に語る科学者たちは,その答えが証拠に基づいていようと単なる推測であろうと,必ずすかさずに答えを出します。
このような報告を読むと,どうしてそんなことが分かったのだろう,1万年前のフロリダ半島や2万2,000年前の日本に人間が住んでいたとか,百万年前のカリフォルニアの風景の中をマスタドンやラクダが歩きまわっていたというのはどれくらい確かなことなのだろう,という疑問が時々頭をかすめるのではないでしょうか。
古代の遺物の年代を測定するには数種類の異なった科学的な方法があります。比較的信頼性の高いものもありますが,どれも歴史的な記録に基づいて算定された年齢ほど確実ではありません。しかし,人間による歴史的な記録はせいぜい6,000年前にさかのぼるにすぎません。それよりも前のこととなると,科学的な年代測定法に頼るしかありません。
放射性年代測定法
種々の科学的測定法の中で最も信頼が置けるのは放射能時計です。この方法は放射性物質の崩壊率に依存しています。ほかの方法が,気温の変化など,環境的な条件が異なると速度が変わりうる老朽化の過程に依存しているのに対して,放射性物質の崩壊率は極端な外的条件にも左右されないものとされてきました。
ウラン・鉛時計
最初に考案された放射能時計,つまりウランが鉛に崩壊する現象に基づいた方法について説明しましょう。放射性物質の崩壊は統計的な確率の法則に厳密に従って進行してゆきます。一定時間内に崩壊してゆくウランの量は残される量に常に比例しています。そのため,図(19ページ)にあるような曲線が得られます。この曲線は,ある一定時間が経過したあとの残存量を示しています。ウランの半分が崩壊するのに必要な時間は半減期と呼ばれており,残された半分のまた半分は次の半減期に崩壊し,最初の量の4分の1が残されることになります。半減期が3回経過すると8分の1が残されるという具合いに順次進んでゆきます。ウランの半減期は45億年です。
ウランは鉛に壊変するので,鉛の量は絶えず増え続けてゆきます。ある一定期間に蓄積される量が点線で示されています。鉛の曲線とウランの曲線は対になっているので,鉛の原子とウランの原子の総量は常に一定しており,その数字は最初の数字に等しくなります。
では,ウランを含み鉛を含まない岩石があって,何も中に入れないよう,また外へ出ないようその岩石を密封したと仮定してください。しばらくしてその封を解き,その二つの元素の量を計ってみます。この方法によって,その岩石がどれほどの時間封をされていたかが分かります。例えば,鉛とウランの量が等しければ,半減期が一度だけ,つまり45億年経過したことが分かります。ウランの1%だけが鉛に崩壊していれば,曲線に関する数学的な公式を当てはめて,6,500万年が経過したと算定できます。
注目したいのは,最初に岩石の中にどれほどのウランが含まれていたかを知る必要はないということです。なぜなら,測定すべきなのは,その期間の終わりにおける鉛とウランの比率だけだからです。それに,実験の始まった時点に生きていて何かを測定できる人は一人もいなかったからです。
わたしたちが話題にしているのは幾百万年幾十億年という実に長大な期間だと読者はお考えかもしれません。こんなに進み方の遅い時計を何に用いることができるでしょうか。地球自体が数十億年前から存在してきたことをわたしたちは知っていますし,そのうちのかなりの期間存在してきたと思われる岩石も数か所に点在しています。そのため,地質学者は,そうした時計が地史の研究に極めて有用であることに気づいています。
どれほど確かなものか
わたしたちは年代測定の過程がここで述べたほど単純ではないことを認めなければなりません。最初の時点で岩石に鉛が含まれていてはならないことはすでに述べましたが,普通はそのようなことはありません。初めから多少の鉛が含まれています。そのため,岩石には,ゼロを超える幾ばくかの,ビルトイン・エイジ(すでに組み込まれている年齢)と呼ばれるものが含まれることになります。さらに,何の出入りもないように岩石中のウランを密封したと仮定しましたが,そうできる時があるとしても,常にそうできるわけではありません。長い時間がたつうちに,鉛やウランの一部は地下水に染み込むかもしれません。また,特に堆積岩の場合にはウランや鉛がさらに入り込んでくることもあります。このような理由で,ウラン・鉛時計は火成岩の測定に最も効果を発揮します。
鉱物中に含まれているかもしれないもう一つの元素,トリウムにも放射性があり,徐々に鉛に壊変してゆくことから,別の複雑な問題が生じます。それに加えて,ウランには,化学的性質は同じでも質量の異なる第二同位元素があって,崩壊率は異なるものの,やはり鉛を生成します。これらはいずれもそれぞれ異なった鉛の同位元素となるので,試験管を使う化学者だけでなく,種々の同位元素,つまり質量の異なる鉛を選別するための特殊な装置を用いる物理学者が必要となります。
これらの問題をさらに掘り下げなくとも,ウラン・鉛時計を用いて道理にかなった程度の信頼に値する答えを得ようとする地質学者たちは,幾つもの落とし穴に警戒しなければならないということが分かります。彼らは喜んで他の放射測定法を用い,自分たちの年齢測定の正しさを確証します。ほかにも,同じ岩石にしばしば用いられることのある二つの方法が開発されてきました。
カリウム・アルゴン時計
非常に広範に用いられてきたのはカリウム・アルゴン時計です。カリウムはウランよりも一般的な元素で,塩化カリウムは普通の塩の代用品として食料品店の店頭に置かれています。カリウムはおもに質量39と41の二つの同位元素からなっていますが,質量40の第三同位元素にはわずかに放射性があります。カリウムが崩壊してできる物質の一つは,大気中の約1%を占めている不活性の気体アルゴンです。質量40のカリウムの半減期は14億年で,数千万年から数十億年までの年代を測定するのに適しています。
ウランと比べてカリウムは地殻の広い範囲に見られます。火成岩・堆積岩の別を問わず,ごく普通の岩石に含まれる多くの鉱物の成分となっています。カリウム・アルゴン時計が効果を発揮するために求められる条件は先の説明と同じで,時計が時を刻み始める時点,つまり鉱物が形成された時点でカリウムとアルゴンが混じっていてはなりません。さらに,カリウムやアルゴンが漏れたり入ったりしないよう,その期間中ずっと鉱物を密閉したままにしておかなければなりません。
実際にこの時計はどれほどの効果を発揮するのでしょうか。非常に優れた効果を発揮する時もあり,さほどではない時もあります。この方法によって割り出した年齢がウラン・鉛時計による年齢と大きく異なっていることもあるのです。普通はこちらのほうが数値が小さくなります。アルゴンが失われたためにそうなるのです。しかし,ほかの岩石の場合,カリウムによる年齢とウランによる年齢は非常に近似しています。
カリウム・アルゴン時計を用いたことが非常に大きく報道されたのは,アポロ15号の宇宙飛行士が月から持ち帰った石の年代を測定した時です。この石の断片を取り,科学者たちはカリウムとアルゴンの量を測定し,石の年齢を33億年と決定しました。
ルビジウム・ストロンチウム時計
より最近になって,鉱物の放射能時計がもう一つ開発されました。それは,ルビジウムがストロンチウムに崩壊する現象に基づいています。ルビジウムの崩壊速度は信じ難いほど遅く,半減期は500億年です。したがって,最も古い岩石の場合でさえ,崩壊はほとんど進んでおらず,最初から存在するストロンチウムと,後に生成されたストロンチウム87とを区別するには測定に細心の注意を払わなければなりません。その鉱物にはルビジウムの百倍のストロンチウムが含まれているかもしれず,10億年たっても,崩壊するルビジウムは1%にすぎません。こうした難問にもかかわらず,崩壊によって生成されたストロンチウムの量が細かく算出された例も幾つかあります。この時計は他の方法を用いて割り出された年齢を確かめるのに有益です。
この方法が用いられた例で興奮を誘ったのは,ある隕石の場合です。天文学者たちはこの石を,理論上はどこからか一緒に落ちてきて太陽系の諸惑星になったとみなされる岩塊のような,太陽系生成の元となった物質の残存物ではないかと考えています。算出された46億年という年齢はこの見解と一致しています。
ルビジウム・ストロンチウム時計が効を奏した顕著な例は,前述の月の石の年代測定でした。石の中の異なった五つの鉱物が分析され,カリウム・アルゴン法による年齢と同じ33億年という年齢が算定されました。a
ある場合には,これら三つの地質学的な時計を用いて得られる相対的な年齢はほぼ一致し,そのような場合の年齢は正しそうだとの確信を与えてくれます。しかし,強調しておかなければならないのは,どんな点で一致できるかは示されていますが,それは理想的な条件下での話にすぎないということです。付け加えて言えば,その条件は一般に理想的ではありません。互いに矛盾する点を比較しながら挙げてゆけば,はるかに長い表ができあがります。
古生物学者は化石の年代測定を試みる
古生物学者は,わずか数百万年前の岩石の年代測定に成功を収めた地質学者にあやかろうとしました。古生物学者の扱う化石は一部そのあたりの時代のものかもしれない,と彼らは考えます。ところが残念なことに,カリウム・アルゴン時計はそれほど彼らの役に立ちません。もちろん化石は堆積岩からのみ発見されるもので,火成岩の中からは発見されませんし,堆積物に関しては,放射測定法を用いたこれらの年代測定はおおむね信頼できません。
そのことを例証するのは,分厚く積もった火山灰の中に化石が埋没し,その灰がのちに固まって凝灰岩になった場合です。それは実際には堆積岩ですが,空中で固体化した噴出物からできています。その年代を算定できれば,その中に閉じ込められた化石の年齢を割り出すのに役立つでしょう。
タンザニアのオルドゥバイ・ジョージの場合がまさにそうでした。猿に似た動物の化石が非常な注目を集めましたが,それは発見者がその化石と人間との関連を主張したためです。化石が発見された凝灰岩のアルゴンを測定したところ,最初は175万年という年齢が算出されました。ところが後日,別の正式な研究所で測定したところ,50万年少ない数値が出たのです。その上下にある凝灰岩の層の年齢が一貫していないことが判明し,進化論者たちを大いに落胆させました。上の層には下の層よりもアルゴンが多く含まれていることがありました。しかし,地質学的に言うと,これはあり得べからざることです。上の層は当然下の層よりも後に堆積したので,アルゴンの量は少ないはずです。
結論から言えば,“相続したアルゴン”が測定を妨げています。以前に形成されたアルゴンがすべて溶岩から放出されたわけではありません。この時計の場合,針はゼロにセットされていないのです。岩石が噴火口で溶解した際,以前にカリウムから生成されたアルゴンが1,000分の1でも中に残っていれば,この時計は約100万年というビルトイン・エイジをもって始まることになります。ある専門家が述べている通りです。「ある年代は間違っているに違いない。そして,あるものが間違っているとしたら,すべてが間違っているのかもしれない」。
これらの年代は全く無意味なものかもしれないという専門家の意見にもかかわらず,オルドゥバイの化石に関する175万年という当初の年齢は,進化論に傾倒する人気雑誌の中に今なお引用されています。平信徒とも言うべき読者に対して,それらの年齢が実際には推測にすぎないという警告は与えられていないのです。
[脚注]
a ルビジウム時計に関して注意を一言。ルビジウムの崩壊速度は極めて遅く,その崩壊の際に生じるベータ線を計測してもその半減期が正確に測定できません。半減期は他の長命の元素と比較することによって決定されます。ですからこのような意味において,ルビジウム時計は完全に独立した方法ではありません。
[18ページの拡大文]
ウラン・鉛時計を用いる地質学者たちは,幾つもの落とし穴に警戒しなければならない
[20ページの拡大文]
そうした年齢は推測にすぎないという警告は与えられていない
[19ページのグラフ]
(正式に組んだものについては出版物を参照)
ウランの減少はそのまま鉛の増加に対応する
100%
50%
25%
12.5%
半減期 1 2 3
鉛(アルゴン)
(カリウム) ウラン
[18ページの図]
(正式に組んだものについては出版物を参照)
ウラン
鉛
この岩石には当初どれほどのウラン(あるいは鉛)が含まれていたか
後にこの岩石にどれほどのウラン(あるいは鉛)が入り込んだか
トリウムの崩壊によってどれほどの鉛が発生したか