世界展望
教会が略奪される
「かつて中世の法律違犯者たちの避難所だった英国の教会が,犯罪者グループの間で急速に人気を取り戻しつつある」とエコノミスト誌は報じている。ただ昔と違うのは,夜盗犯や放火犯や破壊者による犯罪の波が,教会の建物そのものの中で高まっていることである。1990年だけでも,財産の紛失または破壊による英国国教会の被害額はおよそ740万㌦(約10億3,600万円)に上った。同誌によれば,現在問題になっているのは,「プロの骨董品泥棒である。多くの場合彼らは注文を受けて盗みを働く。盗品の多くは海外に持ち出される。海外では,取り戻すのは困難だが,言葉巧みに言い逃れるのは簡単である」。教会の銀細工品は金庫の中に保管してあるが,泥棒たちはオルガンのパイプ,寄付箱,棺を置く台,窓のステンドグラス,そしてドアまでそっくり盗んでゆくようになった。図太い泥棒は役人風を装って現われ,「礼拝者たちの[すぐ]目の前で」盗みをやってのける。今ほとんどの教会は,開いている時には警備員を置き,それ以外の時間には鍵が掛けられている。最も大きな被害を受けた教会は,「入口をガラスで仕切り,訪問者にはポーチから祭壇に向かって礼拝を行なわせるようにした」。警察の防犯パンフレットには,啓示 3章2節の言葉をもじって,「油断なく見張り,残りの物を強めよ」と書いてある。
命取りの所持品
ブラジルはサンパウロの警察署長ネルソン・シルベイラ・ギマレインスは,護身用に銃を持ち歩く多くの市民について,「一般市民は銃を手にすると大胆になり,自分の身は安全だと考えるが,実は犯罪者になりかねない大きな危険をも冒している」と言う。「大多数の人は銃を所持する資格が全くない。彼らは,極度に緊張した状況に,感情をコントロールして対応することなどできない人たちだ」と言うのは捜査官ロビンソン・ド・プラド。自制心は容易に失われる,とブラジルの新聞「ジョルナル・ダ・タルデ」は述べている。「挑発されたり,言い争いになったり,挙動が制御されなかったりすると,犠牲者を通り越して殺人者になる恐れはだれにでもある」。
これは特に子供たちについて言えることだ。「[米国]ではどこでも簡単に銃が手に入るため,日常のささいな争いが殺人事件に変わるケースは記録的な数に上る」とUS・ニューズ・アンド・ワールド・リポート誌は伝えている。「理由は明白である。今の子供たちは暴力に対してかつてないほど無感覚になっているのだ。周囲ではしょっちゅう発砲事件が起き,子供たちの頭は,思いのままに人を殺しまくる,メディアが描くランボー風の人物像で一杯になっているからだ」。
マラリアの予防
簡単な予防法で,マラリアによる死を大幅に減らすことができた。西アフリカのガンビアにある73の村で最近行なわれた調査の結果,殺虫剤で処理した蚊帳でベッドを保護した村では,マラリアで死ぬ幼い子供たちの数が,蚊帳を使わなかった村よりも70%低いことが分かった。マラリアをうつす蚊はおもに夜,人を刺すので,蚊帳は人が最も無防備な時,つまり眠っている時に保護してくれる。蚊帳はパーメトリンという殺虫剤で処理されているため,ちょっとしたほつれや破れ目があっても,使うほうがはるかに効果的である。世界保健機関によると,マラリアによる死者は毎年200万人に上る。死者の約25%は子供である。
“巨大教会”
「“巨大教会”の世界へようこそ」とエコノミスト誌は述べている。「現在,日曜ごとに1万人以上の人々を引き寄せている米国の教会は六つ,少なくとも5,000人を集めている教会は35ある」。米国インディアナ州ハモンドにある第一バプテスト教会は最大の会衆を有し,日曜日の礼拝の出席者は2万人を超えるという。ほとんどすべての“巨大教会”は根本主義者で,信仰治療または異言,あるいはその両方を信じている。焦点になっているのは子供たちである。ハモンドの教会には日曜学校だけでなく,リトルリーグの野球も,夏期キャンプもある。「善悪についての強力なメッセージと,組織力に恵まれた有能な説教師と大きな講堂がそろうだけで,巨大教会を築くことができる」と同誌は伝えている。「中西部やサンベルトで,退屈しながらちりぢりに住んでいる郊外の居住者たちに,そのような教会はありきたりの祝福を差し伸べるだろう」。
大急ぎでオプス・デイの“聖人”を列福
カトリック教会内のエリートの秘密集団オプス・デイは,カトリックの司祭ホセ・マリア・エスクリバ・デ・バラゲルによって1928年にスペインで設立された。彼が1975年に没して以来,オプス・デイの支援者たちは彼の列福を求める運動を行なってきた。ロンドンのカトリック・ヘラルド紙は,「オプス・デイ“聖人”に幻滅」という見出しを掲げ,オプス・デイの創立者の「列福をめぐる動きが『不可解なほど』急速であった」ことに関する,元マドリードの大司教で現在スペインの枢機卿であるエンリケ・タラコンと,イエズス会の管区長マイケル・キャンベルジョンソンの反応を伝えた。今回の急ぎようは,1890年に亡くなったニューマン枢機卿や,1963年に亡くなった法王ヨハネ23世を列福する時の遅々とした動きと対照的であると同紙は述べている。オプス・デイの元メンバーで,エスクリバを個人的に知っていたウラジーミル・フェルスマンは,「私は……彼が模範的な人物であったとは言わない」と述べた。「彼には時代錯誤的なところが多々あった。問題は,彼は何の模範としてあげられているのか,ということである」。
肝炎と移植
移植によって感染する恐れのあるものとしてリストアップされる病気は増え続けているが,死の危険を伴う肝臓疾患であるC型肝炎もそのリストに加えられた。そのリストには他の型の肝炎,エイズ,サイトメガロウイルスも挙げられている。ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に発表された研究結果は,移植手術後に長期の肝臓疾患を起こす患者が非常に多い理由の説明となるかもしれない。C型肝炎ウイルスを持つ人からの臓器移植を受けた29人の移植患者を対象にした調査によると,14人がC型肝炎を発病し,6人が死亡している。C型肝炎のウイルスを持つ人ならほとんどの場合,医師はその人に臓器を提供させるべきではない,と調査に当たった人々は考えている。
リビアの人工河川
「リビア西部の砂漠のオアシスから海沿いの都市ベンガジまでの,昔からある隊商ルートを歩くラクダの道案内になる新しい目印ができた」とニュー・サイエンティスト誌は伝えている。「ラクダの横には,車が中を走れるほど大きな送水管が1,000㌔以上にわたって延びている」。ライン川とほぼ同じ長さのこの人工河川は,7年の間,世界最大の土木工事計画だった。この河川は,スルトの内陸部に掘り抜かれた井戸から,地下の水源が涸れてしまった海岸沿いの農地に1日200万立方㍍の水を運んでいる。このほか,リビアを横断する他の四つの巨大送水配管網の敷設計画がこれから実施される。サハラ砂漠の地下からこの水を運ぶには莫大な費用がかかる。場所によっては,ポンプを使って高さ100㍍以上ある丘を幾つか越えさせなければならない。技師たちは,50年以内に井戸が干上がることを懸念している。水の専門家トニー・アレンはこの計画を,「国家的な幻想 ― 補充不可能なこの水を農業用に使うという狂気」と呼んだ。
人よりネズミのほうが多い
世界保健機関の推定では,ブラジルのサンパウロには7,000万匹,つまり一人につき数匹の割合でネズミがいる,とジョルナル・ダ・タルデ紙は伝えている。その結果,洪水が町を襲うと,ネズミの尿から感染するレプトスピラ症などの病気にかかる人が多い。サンパウロにある,げっ歯類・疾病媒介動物管理局長のミネカズ・マツオは,「ネズミ対策を毒薬だけに頼って行なえば,非常に簡単に駆除できるだろう」と言う。しかし食料と水がたくさんある場合,毒薬は役に立たない。ネズミはそれを食べないからだ。ネズミを退治するには,えさになる食べ物を取り除くことが肝心だとマツオは言う。
理想郷ではない
米国勢調査局によると,現在3,400万人に近いアメリカ人が貧困生活を送っている。貧困者の割合は7年ぶりに増加し,1989年の人口の12.8%から1990年は13.5%になった。4人家族で収入が1万3,359㌦(約187万260円)以下というのが1990年の貧困の定義である。貧困線以下の人々の3分の2は白人だ。しかし黒人の貧困者の割合は32%で,他のどんな人種あるいは民族よりも高い。子供たちの5人に一人は貧困線を下回る暮らしをしている。
エイズと母乳による育児
エイズ患者の母親は,子供に母乳を与えることによって,以前考えられていたよりはるかに高い割合で赤ん坊にエイズをうつす危険があると研究者たちは言う。ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に掲載された報告は,中央アフリカにあるルワンダの首都キガリに住む母親たちを対象に行なわれた調査に基づいている。乳幼児が感染する確率は50%に上るが,粉ミルクを溶かすのに使われる汚染された水が原因で乳幼児が死ぬ危険はもっと大きい。そのため,これらの地域では母乳で育てることがいまだに勧められている。エイズに感染した女性すべてが母乳を通してウイルスを伝染させるわけではない。また,感染率が高かったのは,この調査が出産から3か月以上たった後のエイズ検査で初めて陽性と判定された女性に基づいているためかもしれない。体内のウイルスの数は感染時が最も多い。