歴史のひとこま
アル-フワーリズミー
多くの国では,体重をはかったり買い物の計算をしたりする際,インド・アラビア数字(算用数字)を用います。なぜ,算用数字をインド・アラビア数字と言うのでしょうか。0から9までの数字を用いる現代の記数法は,もともとインドで発達し,アラビア語を使う中世の学者たちを経由して西洋に達したと思われるからです。その学者たちの筆頭に挙げられるのが,ムハンマド・イブン-ムーサー・アル-フワーリズミーです。西暦780年ごろに現在のウズベキスタンで生まれたアル-フワーリズミーは,「アラビア数学の偉大な英雄」と呼ばれています。なぜこれほど称賛されているのでしょうか。
「アラビア数学の偉大な英雄」
アル-フワーリズミーは,十進法を実際にどう活用できるかについて書き記しました。また,ある種の数学的問題を解くための計算方法を解説し,それを普及させました。著書「約分と消約の計算の書」の中で,その方法を解説しています。アラビア語の原題「ヒサーブ・アル-ジャブル・ワル-ムカーバラ」のアル-ジャブルという語は,英語のアルジェブラ(代数学)のもととなった言葉です。科学評論家のエサン・マスードによると,「代数学は,これまで考案された最も重要な数学的ツールで,科学をあらゆる面で支えている」と考えられています。a
ある著述家は冗談交じりに,「どの時代の高校生も,[アル-フワーリズミー]の書いた本さえなければこんなに苦労しないのに,と嘆いてきた」と述べています。それはともかく,アル-フワーリズミー自身は,商売や,遺産分配,測量などにおいて計算を簡単にする方法を説明することが目的であると述べています。
幾世紀も後,ガリレオやフィボナッチなどの西洋の数学者たちは,方程式に関する明確な解説ゆえにアル-フワーリズミーを高く評価しています。アル-フワーリズミーの著書は,代数学,算術,三角法に関するさらなる研究の道を開くものとなりました。この三角法により,中東の学者たちは三角形の角と辺の値を算出でき,天文学の研究がさらに進歩しました。b
代数学: 「これまで考案された最も重要な数学的ツール」である
アル-フワーリズミーの著書をもとに,小数の新たな使用法,また面積や体積を求める新しい技法が編み出されました。中東の設計家や建築家たちはそうした最新の手法を,西洋の同業者たちが知るはるか昔から使っていました。西洋の人たちは,十字軍の遠征の際にこうした知識に通じるようになり,後に,学識を備えたイスラムの捕虜や移住者の助けを借りて,その知識を故国に持ち帰りました。
アラビア数学が広まる
やがて,アル-フワーリズミーの著書はラテン語に翻訳されます。レオナルド・ピサーノとしても知られるイタリアの数学者フィボナッチ(1170年ごろ-1250年)は,インド・アラビア数字を西洋に広めた人物と言われています。フィボナッチは,地中海世界を旅した際にインド・アラビア数字を学び,後に「算盤の書」を記しています。
アル-フワーリズミーの数学が広く知られるようになるまで幾世紀もかかりました。しかし,彼が提唱した計算法やそれに関連した数学は現在,商工業のみならず,科学技術の分野においても不可欠なものとなっています。
a 現代の代数では,未知数はxやyといった文字を用いて表わされます。例えば,x+4=6の方程式の場合,両辺から4を引くとxが2であることが分かります。
b ギリシャの天文学者が三角形の辺と角の計算の先駆者でした。イスラムの学者はメッカの方角を算出するために三角法を用いました。イスラム教徒はメッカの方角を向いて礼拝を行なうことを望みます。伝統により,死者の顔をメッカの方角に向けて埋葬します。また,食肉処理をする際にもメッカの方向を向いて行ないます。