『神の言葉は生きていて力を及ぼす』
1,2 (イ)クリスチャンになる人々の生活に変化を生じさせるものは何ですか。(ロ)聖書は人にどれほど強い影響を及ぼすことができますか。
西暦1世紀の半ば,使徒パウロはローマのクリスチャン会衆に手紙を書き送り,その中で,真のクリスチャンは変化を遂げなければならないという必要条件を強調しました。パウロはこう述べました。「この事物の体制に合わせて形作られるのをやめなさい。むしろ,思いを作り直すことによって自分を変革しなさい。それは,神の善にして受け入れられる完全なご意志を自らわきまえ知るためです」。(ローマ 12:2)何がイエスの追随者たちを変革し,彼らの考え方そのものを変化させるのでしょうか。それは基本的には神の言葉つまり聖書の力です。
2 パウロは,聖書がどれほど強い影響力を及ぼし得るかを示し,このように書きました。「神の言葉は生きていて,力を及ぼし,どんなもろ刃の剣よりも鋭く,魂と霊,また関節とその骨髄を分けるまでに刺し通し,心の考えと意向とを見分けることができるのです」。(ヘブライ 4:12)実際,人々にこれほどの変化を生じさせる聖書の驚くべき力は,この書物が単なる人間の言葉以上のものであることを示す,説得力のある証拠となっています。
3,4 クリスチャンの人格はどれほど変化しましたか。
3 ローマ 12章2節で『変革する』と訳されているギリシャ語の語源はメタモルフォオーです。この語は,毛虫から蝶への変態のような,完璧な変化を指しています。その変化が余りに完璧なので,聖書はそれを人格の変化と呼んでいるほどです。聖書の別の節にはこう記されています。「古い人格をその習わしと共に脱ぎ捨て,新しい人格を身に着けなさい。それは,正確な知識により,またそれを創造した方の像にしたがって新たにされてゆくのです」― コロサイ 3:9,10。
4 パウロはコリントの会衆に手紙を書き,1世紀にどれほどの人格の変化が生じたかを示しました。パウロはこう述べました。「淫行の者,偶像を礼拝する者,姦淫をする者,不自然な目的のために囲われた男,男どうしで寝る者,盗む者,貪欲な者,大酒飲み,ののしる者,ゆすり取る者はいずれも神の王国を受け継がないのです。とはいえ,あなた方の中にはそのような人たちもいました。しかし,あなた方は洗われて清くなったのです」。(コリント第一 6:9-11)そうです,不道徳な生活をしていた人,けんか好きな人,盗む者,大酒飲みなどが変革を遂げ,模範的なクリスチャンになったのです。
今日における人格の変化
5,6 一人の若者の人格は,聖書の力により,どのように完璧な変化を遂げましたか。
5 同様な人格の変化は今日も見られます。例えば,南アメリカのある少年は9歳の時に孤児になりました。親の導きを受けずに育ったため,少年は人格上の難しい問題を抱えるようになりました。こう述懐しています。「18歳になるまでに,私はすっかり麻薬の常用癖がつき,それを続けるために盗みを働いて刑務所に入れられたこともありました」。しかし少年のおばはエホバの証人で,後にそのおばが少年を助けることができました。
6 その若者はこう説明しています。「おばは私のために聖書研究の機会を設けてくれるようになり,7か月後には麻薬の常用癖を断つことができました」。少年はそれまでの仲間との付き合いもやめて,エホバの証人たちの中に新しい友を得るようになりました。彼はさらにこう述べています。「定期的な聖書の研究と共に,これら新しい友が私の進歩を助けてくれ,ついに私は献身して神に仕える者となることができました」。そうです,以前は麻薬中毒者であり盗みを働いていたこの人が,今は活発で清い生活を送るクリスチャンです。どんな影響力が働いて,人格がこのように徹底的に変化したのでしょうか。聖書の力が働いたのです。
7,8 人格上の難しい問題が聖書の助けによってどのように解決されたか,説明してください。
7 もう一つは南ヨーロッパから寄せられた例です。一人の若い男性は,難しい人格上の問題を抱えて成長しました。非常に激しい気性の持ち主で,けんかに明け暮れていたのです。ある時,家族と口論になり,自分の父親を地面に殴り倒してしまいました。ところがやがてエホバの証人と聖書を研究し,ローマ人への書にある神からの命令,つまり「だれに対しても,悪に悪を返してはなりません。……できるなら,あなた方に関するかぎり,すべての人に対して平和を求めなさい。わたしの愛する者たち,自分で復しゅうをしてはなりません。むしろ神の憤りに道を譲りなさい」という命令を心に留めるようになりました。―ローマ 12:17-19。
8 青年はこの言葉によって,自分の弱点がどんなに悪いものかを悟りました。聖書の原則についてさらに多くの知識を得たので良心が練り清められ,それがこの人の短気を抑制する力になりました。この青年が研究の面で幾らか進歩したときに,見知らぬ人がその青年を大声で罵倒したことがありました。青年は,いつもの激しい怒りが自分の中でわき上がって来るのを感じました。それと同時に別のもの,つまり恥ずかしさを感じました。その気持ちが,怒りに屈しないよう青年を押しとどめたのです。この人は重要な霊の実である自制を培っていたのです。(ガラテア 5:22,23)青年の人格は,神の言葉の力により,以前とは変わりました。
9 パウロによれば,わたしたちの人格はどんな力を通して変化しますか。
9 しかし,聖書はどうしてそれほど強力な影響を及ぼすのでしょうか。パウロはコロサイ 3章10節で,わたしたちの人格は,聖書中に見いだされる正確な知識を通して変化すると述べています。では,どのように知識が人々を変化させるのでしょうか。
正確な知識の役割
10,11 (イ)聖書を研究する時,わたしたちは人格上の望ましい特質と望ましくない特質について,何を学びますか。(ロ)自分の人格に変化を生じさせるには,知識のほかに何が必要ですか。
10 まず第一に,聖書は脱ぎ捨てるべき望ましくない人格上の特質を明らかにしています。その中には,「高ぶる目,偽りの舌,罪のない血を流している手,有害な企てをたくらむ心,急いで悪に走る足,うそを吐く偽りの証人,そして兄弟の間に口論を送り出す者」が含まれます。(箴言 6:16-19)第二に,聖書はわたしたちが培うべき望ましい特性について述べています。その中には,「愛,喜び,平和,辛抱強さ,親切,善良,信仰,温和,自制」が含まれます。―ガラテア 5:22,23。
11 誠実な人々はそのような正確な知識に助けられて自分自身を調べ,自分はどんな人格特性を培い,どんな特性を除去するよう努力すべきかを理解します。(ヤコブ 1:25)しかし,それは始まりに過ぎません。知識に加えて,動機付け,つまり変化を望むよう人を動かすものが必要です。この場合にも,聖書の正確な知識が必要とされます。
善良であるための動機付けを得る
12 神のご性格に関する知識は,わたしたちが変化する上でどのように役立ちますか。
12 パウロは,望ましい新しい人格は「それを創造した方の像にしたがって」形造られると述べました。(コロサイ 3:10)ですから,クリスチャンの人格は神ご自身の性格に似ていなければなりません。(エフェソス 5:1)神のご性格は,聖書を通してわたしたちに啓示されています。わたしたちは,神が人間を扱う時の方法を理解し,神の愛,親切,善良さ,憐れみ,義といった優れた特質を観察します。正しい心を持った人はそうした知識に動かされ,神を愛し,神が是認されるような人になりたいと思います。(マタイ 22:37)わたしたちは愛ある子供として,天の父を喜ばせたいと願いますから,弱く不完全な状態にあっても,できる限り神のご性格に倣うよう努めます。―エフェソス 5:1。
13 わたしたちはどんな知識を通して,『義を愛し,不法を憎む』ことを教えられますか。
13 わたしたちの動機付けは,良い人格特性と悪い人格特性がそれぞれどんな結果を招くかを教える聖書の知識によって強化されます。(詩編 14:1-5; 15:1-5; 18:20,24)わたしたちは,ダビデが敬虔な専心と義に対する愛ゆえに祝福を受けながらも,自制を失った時には苦しみを味わったことを学びます。また,ソロモンの優れた特質がその晩年になって損なわれ,悲惨な結末を迎えたことも知ります。ヨシヤとヒゼキヤが廉直であった結果もたらされた祝福とは対照的に,アハブの弱さとマナセのかたくなな背教は災いを招きました。(ガラテア 6:7)ですからわたしたちは,『義を愛し,不法を憎む』ことを学びます。―ヘブライ 1:9。詩編 45:7; 97:10。
14 この世とその中に住む人々に関して,エホバはどんな目的を持っておられますか。
14 この動機付けは,神の目的に関する正確な知識によってさらに一層強化されます。そのような知識は,『わたしたちの思いを活動させる力』そのものを変化させるのに役立つのです。その力とは,わたしたちの考えと行動に動機付けを与える霊のことです。(エフェソス 4:23,24)わたしたちは聖書を研究する時,エホバが邪悪な事柄をいつまでも許されないことを学びます。まもなくエホバは,この不義の世を滅ぼし,『義の宿る新しい天と新しい地』をもたらされます。(ペテロ第二 3:8-10,13)この新しい世に住むのはだれでしょうか。「廉直な者たちが地に住み,とがめのない者たちが地に残され(る)。邪悪な者たちは地から断ち滅ぼされ,不実な者たちは地から引き抜かれるのである」― 箴言 2:21,22。
15 エホバの目的に関して聖書が述べている事柄を本当に信じているなら,わたしたちの人格はそのことからどんな影響を受けますか。
15 もしこの目的を本当に信じているなら,わたしたちの考え方全体が影響を受けることになります。使徒ペテロは邪悪な者たちの滅びについて預言した後,こう述べています。「これらのものはこうしてことごとく溶解するのですから,あなた方は,聖なる行状と敬虔な専心のうちに,エホバの日の臨在を待ち,それをしっかりと思いに留める者となるべきではありませんか」。(ペテロ第二 3:11,12)わたしたちの人格は,邪悪な者たちが滅ぼされる時に残される廉直な者たちの一人に数えられたいという強い願いによって形造られるはずです。
16 新しい世には,どんな種類の人格が占める場はありませんか。またこの知識は,わたしたちにどんな影響を与えるはずですか。
16 啓示の書は廉直な者たちに対して,この世が終わった後に生じる事柄を次のように約束しています。「神は彼らの目からすべての涙をぬぐい去ってくださり,もはや死はなく,嘆きも叫びも苦痛ももはやない。以前のものは過ぎ去ったのである」。しかし同書はその後で,「憶病な者,信仰のない者,不潔で嫌悪すべき者,殺人をする者,淫行の者,心霊術を行なう者,偶像を礼拝する者,またすべての偽り者」は退けられると警告しています。(啓示 21:4,8)神が新しい世では決してお許しにならない,望ましくない特質を避けるのは,何と賢明なことなのでしょう。
外部からの助け
17 聖書はわたしたちがどんな助けを求めるよう諭していますか。
17 それでも人間は弱いので,変化を遂げたいなら,情報と動機付けに加えて,別のものを必要とするのが普通です。人間には個人的な助けが必要です。聖書はどこからこの助けが得られるかを教えています。例えば,聖書はこう述べています。「賢い者たちと共に歩んでいる者は賢くなり,愚鈍な者たちと交渉を持つ者は苦しい目に遭う」。(箴言 13:20)同様に,もしわたしたちが,自分の培いたい特質を表わしている人たちと交わるなら,そういう人たちによく似た人となるための大きな助けが得られるでしょう。―創世記 6:9。箴言 2:20。コリント第一 15:33。
18,19 自分の思いと心が神の霊の影響を受けるようにするためには,何をする必要がありますか。
18 それに加えて,エホバご自身,聖霊という形の助けを備えてくださいます。それは,以前にエホバが奇跡を行なう際に用いられたのと同じ霊です。実際,「愛,喜び,平和,辛抱強さ,親切,善良,信仰,温和,自制」という極めて望ましい特質は「霊の実」と呼ばれています。(ガラテア 5:22,23)この聖霊の助けはどうしたら得られるのでしょうか。聖書は聖霊の霊感によるものですから,聖書を読んだり聖書について他の人に話したりする時に,わたしたちはその霊が持つ,人を動かす力の影響を自分の思いと心に受けているのです。(テモテ第二 3:16)実際イエスは,わたしたちが自分たちの抱く希望について他の人に話す時,その霊の直接的な働きかけを経験できる,と約束されました。―マタイ 10:18-20。
19 それに加え,聖書は「たゆまず祈りなさい」と勧めています。(ローマ 12:12)わたしたちは祈りにより,エホバに語りかけ,エホバを賛美し,エホバに感謝し,エホバに助けを求めます。怒りっぽい性格,頑固,短気,誇りなど,望ましくない人格特性を克服するための助けを願い求めるなら,神の霊は,その祈りに調和してわたしたちが払うどんな努力をも支えてくれるのです。―ヨハネ 14:13,14。ヤコブ 1:5。ヨハネ第一 5:14。
20 なぜクリスチャンは,新しい人格を着けるための努力を続けるべきですか。
20 パウロは「思いを作り直すことによって自分を変革しなさい」と書いた時,バプテスマを受けた,油そそがれたクリスチャンの会衆に宛てて書いていました。(ローマ 1:7; 12:2)また,原語のギリシャ語を見ると,パウロは行為の継続を意味する動詞を用いています。このことは,聖書の正確な知識の働きによってわたしたちが変革してゆく過程は漸進的なものであることを示唆しています。今日のわたしたちも,パウロの時代のクリスチャンのように,腐敗的な影響力に満ちた世に囲まれています。それに,わたしたちも彼らのように不完全で,悪を行ないやすい傾向を持っています。(創世記 8:21)ですから,彼らが行なったように,古い利己的な人格を克服し,新しい人格を着けるための努力を続けなければなりません。初期クリスチャンは,周囲の世とは全く異なる者として目立つほどの成功を収めました。今日のクリスチャンも同じようにしています。
「エホバに教えられる」人々
21 この終わりの日に神の民に成就している預言には,どのようなものがありますか。
21 実際,神の霊は今日,個人個人に対して働くだけではなく,幾百万を数えるクリスチャンたちの組織全体の上に働いています。この組織に関して,次のイザヤの預言的な言葉が成就しています。「そして多くの民は必ず行って,こう言う。『来なさい。エホバの山に,ヤコブの神の家に上ろう。神はご自分の道についてわたしたちに教え諭してくださる。わたしたちはその道筋を歩もう』」。(イザヤ 2:3)その後に記されている,「あなたの子らは皆エホバに教えられる者となり,あなたの子らの平安は豊かであろう」というイザヤの預言も,その民に成就してきました。(イザヤ 54:13)エホバに教えられるゆえに平和を享受するそれらの人々とはだれですか。
22 (イ)今日,だれがエホバに教えられていますか。(ロ)外部の人たちが,エホバの証人は他の人たちと異なっているということを認めている例を幾つか挙げてください。
22 では,北アメリカのニュー・ヘイブン・レジスター紙に寄せられた手紙からの抜粋に注目してください。「私もそうであったように,皆さんも彼らの改宗活動にいら立ちや怒りを覚えたことがあったにしても,彼らの献身ぶりと健全さ,また人間味のある振る舞いや健康的な生活の面ではっきり模範となっていることについては称賛せざるを得ないだろう」。この筆者はだれのことを述べていたのですか。それは,アルゼンチン,ブエノスアイレスのヘラルド紙が論じているのと同じグループの人々です。同紙はこう書きました。「エホバの証人は,多年にわたり,勤勉で,まじめで,つつましく,神を恐れる市民であることを実証してきた」。同様に,イタリアのラ・スタンパ紙も,やはりエホバの証人のことを取り上げ,「彼らは……税金逃れをせず,自分たちの利益のために不都合な法律の網をくぐろうともしない。隣人への愛,権力を求めないこと,非暴力的な態度,私事における正直さなどの道徳上の理想は……彼らにとっては“日常の”生き方の中に入っている」と述べました。
23 一つの組織としてのエホバの証人が,他とは異なるものとして目立っているのはなぜですか。
23 初期クリスチャンと同様,グループとしてのエホバの証人が,他の人々とは異なる者として目立っているのはなぜですか。証人たちは多くの点で他の人々と同じです。他の人と同じ人間としての不完全さをもって生まれ,同じ経済上の問題を抱え,基本的に必要とするものも同じです。しかし,一つの世界的な会衆として,エホバの証人は神の言葉が自分たちの生活に力を及ぼすようにしています。その結果として生じた,真のクリスチャンの国際的な兄弟関係は,聖書が霊感を受けた神の言葉であることの強力な証拠となっています。―詩編 133:1。
聖書は霊感を受けたもの
24 さらに多くの人のために,わたしたちはどんなことを祈り求めますか。
24 わたしたちはこの二つの記事で,聖書が神の言葉であり,人間の言葉ではないことを実証する2種類の証拠だけを検討しました。誠実な人々なら,聖書に含まれる類ない知恵や,人を変える聖書の力について考慮したとしても,あるいは聖書を類例のない書物とする他の多くの特色について考慮したとしても,聖書が神の霊感を受けているに違いないことを必ず理解できるでしょう。わたしたちはクリスチャンとして,さらに多くの人がこの真理を認めるようになることを祈り求めます。その時,彼らもまた,喜びに満ちた詩編作者の次の言葉に和することでしょう。「ああ,わたしがあなたの命令を愛したことを見てください。エホバよ,あなたの愛ある親切にしたがってわたしを生き長らえさせてください。あなたのみ言葉の本質は真理であり,義にかなったその司法上の定めはすべて,定めのない時にまで及びます」― 詩編 119:159,160。
覚えていますか
□ 聖書は真のクリスチャンにどんな影響を及ぼしますか
□ 自分を変革するために,正確な知識はどのように役立ちますか
□ 聖書は,わたしたちが良い特質を培い,悪い特質を克服するための動機付けを得る上で,どのように役立ちますか
□ 敬虔な特質を培うために,どんな助けを活用できますか
□ エホバの民の間には,聖書が霊感を受けたものであることを示すどんな証拠が見られますか
[18ページの図版]
ソロモンが晩年に不忠実になり,悲惨な結末を迎えたことは,義を愛し,不法を憎むようわたしたちを動かすはずである
[20ページの図版]
もしエホバに助けを願い求めるなら,悪い特性を克服するためのわたしたちの努力は,どんなものでもエホバの霊によって強められる