世界展望
国連内での論争
● 国際連合の二つの専門機関の間で,利害が明らかに衝突している。問題となっているのは第三世界の国々でのたばこの栽培である。国連食糧農業機関は,その機関誌「セレス」の中で,「たばこは農家に仕事を提供し,産業界の雇用を促進し,国に歳入をもたらす。……実際,たばこは,小さな発展途上国でさえ有形の社会的および経済的恩恵をすぐに生み出すことのできる産物の一つである」と述べている。一方,カナダのトロント市のザ・ジャーナル誌によると,世界保健機関は,「発展途上国において喫煙を抑制することは,『予防医学の分野全体における他のいかなる単一の行動よりも……健康を増進し,寿命を延ばす面でより多くのことをなし得る』とみなしている」。同誌は,ジュネーブで最近開かれたこれら二つの専門機関の合同会議が,「問題に対する取り組み方がかなり異なっていることを明らかにし,支持者層が大きく異なっていることを示した」と評価されていることを伝えている。
ルターは故郷で尊ばれる
● ドイツ民主共和国は今年,カール・マルクスの没後100年を記念することに加えて,同国生まれのマルティン・ルターの生誕500年をも祝っている。ルターは,一つにはナチ政権に人気があったため,一つには1524年から1526年の農民戦争に反対の立場を取ったため,この共産主義国では不評を買っていた。現在のこの立場の変化が宗教復興の兆しと誤解されることを恐れ,東ドイツの指導者エーリッヒ・ホーネッカーはすぐさま,「我が社会主義国は自国の人民の進歩的遺産を顧み,前進させることを崇高な責務とみなしており」,その生誕を祝うことが,「民族意識や故国に対する感情を強める」ものとなることを指摘した。
アフリカでまた干ばつ
● 干ばつと飢きんがアフリカで再び猛威を振るっており,少なくとも20万人が餓死した1970年代初頭のものをはるかにしのぐものとなっている。1970年代の初頭には,被災地は主にエチオピアとサハラ砂漠周辺の他の国々に限られていた。ところが,今年はモロッコから南アフリカまでの約18か国が痛手を受けており,世界銀行の当局者によると,その結果「不気味な様相」を呈する食糧不足が生じた。南アフリカでこの干ばつは「200年来最悪の」ものと言われ,あまりのひどさゆえに産業の歯車をストップさせる恐れさえある。幾つかの被災国の間に見られる国境および国内の不穏な情勢がそれに拍車をかけ,事態は深刻なものになっていると言われている。政府の官僚機構のさまざまな問題と緊急事態における食糧計画の欠如のために,自国民を助ける点でほとんど無力な国もあった。
仏教の尼僧の権利
● 男女同権と女性の叙任は西洋の世界に限られた問題ではないようである。タイの仏教の尼僧2万人のうち,仏教の位階制における自分たちの地位に不満を抱くようになっている人は少なくない。伝統的に,尼僧の役割は,食事を作り,僧侶の住まいをきちんと整とんし,僧侶のために物ごいをしにまで行って,僧侶に仕えることであった。最近の調査の示すところによると,「100人の尼僧のうち80人までが,寺院内の卑しい労働だけに縛られなければ,社会にもっと貢献できると考えている」と,バンコック・ポスト紙は述べている。尼僧たちが求める事態の改善には次のようなものが含まれている。「女性の僧職者の立場を復活させること……聖職の位階制における僧職者としての正当な地位を尼僧に与えること。社会福祉活動にもっとあずかる“新しい尼僧”をはぐくみ,医学や家政学および他の科学の分野での必要な訓練を受けさせること」。
地震が日本を襲う
● 去る5月26日に日本の北部を襲った地震は,マグニチュード7.7を記録し,その震源は日本海の約200㌔沖合いとされている。その結果,高さ3㍍にも達する津波が沿岸部に押し寄せた。死者および死亡したと思われる行方不明者は合計100人を超えると伝えられており,その大半は津波によるものであった。この地震は発電所に損害を与え,約3万戸が停電した。電話および鉄道は不通になった。英文読売の伝えるところによると,「秋田県合川町の合川南小学校の学童43人が近くの男鹿半島の海岸に遠足に来ていて,津波にさらわれた」。ものみの塔協会の日本支部事務所は,秋田と山形にある宣教者の家には被害がなく,その地域のエホバの証人でけがをした人はいなかった,と伝えている。
マフィアの攻勢的行動
● ローマ・カトリック教会としては幾世紀もの間沈黙を守ってきたが,シチリア島のパレルモ市の同教会の大司教はとうとう沈黙を破り,マフィア(暗黒社会)の名前を挙げてその犯罪活動を非難した。その犯罪活動には昨年シチリア島で起きた150人の殺害も含まれている。結果はどうだっただろうか。ナショナル・カトリック・リポーター誌の明らかにするところによると,パレルモ市の刑務所で開かれた例年のミサに,850人の受刑者全員が出席せず,大司教は人のいない中庭の祭壇の前に一人たたずむことになった。なぜだろうか。刑務所当局者の話によると,そのミサに出席する者はすべてマフィアから“望ましからぬ人物”とみなされるという話が広まっていたという。大司教は1時間待った末,「厳しい顔つきで,自分の車に乗り,自らの執務室に戻った」と,このカトリックの雑誌は述べている。
のどの渇きは高くつく
● ロンドンのサンデー・タイムズ紙によると,フォークランド諸島には年間760㍉の降雨があるが,同地に駐留している4,000人の兵士に真水を供給するため英国の納税者は500cc当たり5ペンス(約20円)を支払っている。これは,フォークランド諸島に湖や貯水池がなく,海水を真水に変える工場は,1,500人の地元住民にしか水を供給できないためである。今では,2,700万㍑の真水を載せた3万3,000㌧のタンカー,フォート・トロントがポート・スタンレーの沖合いに恒久的に停泊して貯水池の役割を果たしている。また,少なくとも別の3隻の船がその供給を補うために用いられている。兵士の渇きをいやすために費やされた費用はこれまでのところで250万ポンド(約9億1,200万円)を優に超えている。
病める教育界
● 米国政府の統計によると,米国の公立高校に入学する生徒の4人に一人は,4年後(米国の高校は4年制)にも卒業証書を受け取っていない。一例として,1981年度の卒業生を調べたところ,4年前に入学したほぼ380万人の生徒のうち,100万人以上が卒業できなかった。全米教育統計センターの専門家たちは,その大半が学校をいともたやすく中退している,と伝えている。
● 落第する生徒は少なくないが,教師はどうだろうか。米国フロリダ州の一校長は,6年生の一グループに,教員資格試験から選んだ,読解力と数学の問題20問から成る試験を受けさせた。結果はどうだっただろうか。「最低点は70点で,最高点は100点であった」と,ニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。ところが,昨年,教員志望者1万4,000人がそのテストを受けたところ,一度でそれに合格した人は85%にすぎなかった。その校長は,「こうしたことをしたのは子供たちを大人と戦わせるためではない。ただ,教師の水準を上げなければならないと思うだけのことである」と述べている。
● 高等教育の段階ではどうだろうか。FBI(米国連邦捜査局)は,「卒業する者に学業はおろか授業に出席することさえ求めず,お金を出せば卒業証書や医学の学位」を提供する,米国,カナダ,そしてヨーロッパの通信販売制“大学”を少なくとも38校摘発した,とカナダ,トロント市のグローブ・アンド・メール紙は伝えている。医学の学位は安いところで600㌦(約14万4,000円)で買うことができるが,少なくとも一つの事例では博士号が5,000㌦(約120万円)している。FBIの話では,これらの“大学”には実在するものがなく,書かれている住所が,ニューヨーク市のマンションを郵便を受け取る住所にしている通信販売会社のものであることが明らかになったケースも多い。“卒業生”にはどんな人がいるのだろうか。その中には,「米国政府高官,ナショナル・フットボール・リーグの選手,米国航空宇宙局の職員,そして米国の国家および地方公務員」がいる,とその報告は述べている。
無価値になる有価証券
● ある人々にとって,債券や有価証券は堅実な投資に思えるかもしれないが,ウォール街の証券会社のエドウィン・S・マークスおよび他の人々にとっては,腹立ちの種になるものもある。それらの人たちは,後に共産主義政体の支配下に置かれるようになった国々が幾十年も前に発行した債券や有価証券類を所有していたが,それらの国々はその契約履行の義務を認めようとしない。ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると,幾億ドルもの損害をめぐるさまざまな訴訟が法廷で審理されているが,ソ連や中国のような国々は支払いをにべもなく拒んでいる。一人の債券所有者は自分の持つ債券についてこう語った。「それには中国の漢字が書いてあり,美しいイラストがついていて,とてもきれいな縁取りがしてある」。ロシア帝政時代の債券を持っている別の男の人は,「友人から,自分の家の浴室の壁紙にそれを使いたいので1枚5㌣で譲ってくれないかと言われたことがあった」と語っている。「車幾台分もの」そのような債券を持っているマークスは,「我々は枚数を数えるのではなくて,重さで量っている」と語った。
政治家に“圧力をかける”諸教会
● オーストリアのウィーンでの三日間にわたる会議を終えた後,キリスト教とイスラム教の指導者たちは一体になって核兵器の禁止を呼びかけた。それら指導者たちは,軍縮のため政治家に圧力をかけるよう仲間の僧職者たちに勧めた。AP通信によると,ノートルダム大学の総長であるセオドア・ヘスバーグは次のように言明した。「我々は初めて,世界中のさまざまな信条を持つ教会指導者たちの間で集まりを持った。政治家たちは一般大衆の圧力と論議には反応する傾向がある」。
天文学的な経済学
● アルゼンチンの膨大な額の外債は国の経済にとって重荷となっているだけでなく,帳簿をつける人々の頭痛の種にもなっている。最近の外債の残高は約2,000兆ペソ(約9兆2,400億円),つまり2の後にゼロが15続くほどの額であった。このように天文学的な扱いにくい数字のために,中央銀行のコンピューターでさえ混乱してしまった。コンピューターは「これ以上もうゼロを扱えなくなった」と,フォルヘ・ウエベ経済相は語った。6月に同国はその通貨のゼロを四つ切り捨てることによって通貨改革を行なった。以前の1万アルゼンチン・ペソは,突如としてわずか1新ペソになってしまった。
高ければ高いほど良いのか?
● 汚染について実に多くのことが言われている昨今,わずかばかりの安心感と引き換えに,健康食品のため余分のお金を払うことをいとわない人は多い。しかも,そのような人々は確かに高いお金を払っている。ニューヨーク市の消費者問題局は,健康食品の店では一般的な30品目のうち11品目が,スーパーマーケットの2倍以上の高値で売られていることを明らかにした。例えば,若どり1羽は244%,キャベツは234.8%,マグロは189.3%の価格だった。このような例はほかにもある。しかし,それらはより安全と言えるのだろうか。「同局の話によると,二つの別個の研究所が行なった殺虫剤の残留量の分析の結果,[健康食品のほうが安全だという]証拠は何一つあがらなかった」と,消費者雑誌のチェンジング・タイムズは伝えている。