食中毒に用心してください
「トイレから12時間も出られませんでした」とベッキーは言います。「おなかが激しく痛みました。極度の脱水状態にもなりました。救急処置室で点滴を受けなければなりませんでした。元気を取り戻すまでに,二,三週間かかりました」。
ベッキーは食中毒,つまり食物が媒介する病気にかかっていたのです。ほとんどの患者の例にもれず,彼女も病気を切り抜けました。しかし,苦しかった時の記憶はいまだに鮮明に残っています。「食中毒があんなにつらいとは知りませんでした」とベッキーは述べています。
残念ながら,このような経験だけでなく,もっとひどい経験についても頻繁に耳にします。無数のバクテリア,ウイルス,寄生虫,原生動物が食中毒を引き起こします。工業国では近年,食物が媒介する幾つかのタイプの病気は減少していますが,ワールド・ヘルス誌によれば,「サルモネラ症や他の幾つかの病気は,制圧を試みるあらゆる努力を阻んできた」とのことです。
食中毒の罹患率を調査するのは簡単ではありません。なぜなら,ほとんどのケースが報告されずに終わってしまうからです。米国疾病対策センターのジェーン・コーラー博士は,「知られているのは氷山の一角にすぎない」と述べています。
食物が媒介する病気はなぜ起きるのでしょうか。問題はしばしば食物が市場に届くずっと前に始まることを知り,読者は驚かれるかもしれません。
伝染病を生み出す
家畜の間で病原菌が急速に広まったことは,現代の牧畜技術がもたらした必然的な結果と言ってよいでしょう。例えば,米国の牛肉産業の場合,およそ90万か所の農場から子牛が100か所足らずの屠殺場に集められます。このように集められるので,一つの飼育場の汚染が原因で伝染病が広まり始めることがあるのです。
さらに,全米連邦獣医協会の会長エドワード・L・メニング博士は,米国では「動物用飼料の30%以上が病原菌に汚染されている」と主張しています。時には,動物用飼料に屠殺場から出た残り物を混ぜてたんぱく質を増強することも行なわれています。こうした方法はサルモネラや他の細菌を伝播することがあります。成長促進のために動物に少量の抗生物質が与えられると,細菌が薬剤耐性を獲得することがあります。「そのよい例はサルモネラ菌であり,抗生物質に対する耐性を強めている。そうなったのは,食料源となる動物に抗生物質が与えられたためだと我々は考えている。他のバクテリアの場合も同じかもしれない」と,米国疾病対策センターのロバート・V・トックス博士は語っています。
米国の場合,飼育場を出発して屠殺場に向かう鶏のうち,腸内にサルモネラ菌を持っているのはごくわずかです。しかし,微生物学者のネルソン・コックスは,「輸送中にこの割合は20%ないし25%に跳ね上がる」と公言しています。狭いかごに押し込まれた鶏は容易に感染するのです。高速の食肉加工により危険が増大しています。「最後の段階で鶏は不潔なトイレに浸けられたも同然になる。洗浄したかもしれないが,細菌は依然として付着している」と,微生物学者のジェラルド・カスターは述べています。
同様に,大規模な食肉加工には危険が潜んでいます。「よくある病気の百科事典」は,「現代の加工場では食物が一度に大量に扱われるので,汚染された食物が一,二片入って来ただけで,何トンもの完成品が汚染されることがある」と述べています。例えば腐った一切れの牛肉が,同じひき肉器を使ったハンバーガーすべてを汚染することがあります。さらに,中心となる場所で準備されてから店舗やレストランに配送される食物は,配送中に適切な温度で保存されないとすれば,汚染されやすいと言えるかもしれません。
市場に運び込まれる食物のうち,危険な物はどれくらいあるでしょうか。米国について言えば,「小売店の場合,全商品の少なくとも60%」というのがメニング博士の主張です。しかし,食中毒に用心するための策を講じることができます。FDAコンシューマー誌は,「そのような病気全体の30%は,家庭での食物の扱い方が不適切なことに起因する」と述べているからです。では,どんな予防策を講じることができるのでしょうか。
買う前に……
ラベルを読んでください。材料は何ですか。サラダのドレッシングやマヨネーズに生卵が使われているなら注意が必要です。牛乳やチーズには「低温殺菌済」という表示が必要です。「販売」もしくは「賞味」期限に注目してください。無添加食品と銘打つものは安全が保証されていると考えてはなりません。添加物によって守られていた危険が現われるかもしれません。
食物とその包装の仕方をよく調べてください。新鮮な感じのしない食物は買わないようにします。魚に関しては,丸のままの物なら目は澄んでおり,えらは赤く,傷のない身のしまったものであるべきです。切り身の魚は色が鮮やかでつやがあり,強烈で不快な臭いがあってはなりません。魚は氷の上に置いてあるか,冷凍ボックスの中に入っていなければなりません。生魚の横に調理済みの魚が並んでいると互いに汚染し合うことがあります。さらに,漏れていたり膨れていたり,さもなければ傷が付いたりしている缶や瓶はボツリヌス中毒を引き起こすことがあり,それは,まれながら,中枢神経系に影響を及ぼす致死的な中毒となることもあります。
食べる前に……
十分に調理してください。これは感染予防策として非常に効果的です。コーヘン博士は,「動物から作られた製品はみな汚染されていると考えて,それ相応に扱ってください」とアドバイスしています。卵は黄身と白身が固くなるまで料理してください。液状のままであってはなりません。バクテリアは摂氏4度から60度の間で繁殖するので,肉は中央が71度に達するまで調理してください。鳥肉は82度まで上げてください。
衛生に留意して調理してください。どの道具も使用後は十分に洗ってください。木のまな板はバクテリアの温床になると述べる人もいますが,ある調査によると,プラスチックのまな板よりも安全です。a どんなタイプのまな板を用いるとしても,洗剤とお湯を使って十分に洗うべきです。漂白剤の併用を勧める人もいます。生の肉や鳥肉をさわった後には手を洗いましょう。なぜなら,あなたが触れるどんなものでも汚染されることがあるからです。
時間に注意してください。食料品はできるだけ早く家に持ち帰ってください。「加工品であれ生ものであれ,2時間以上冷蔵庫の外に放置してはならない」と,栄養士のゲイル・A・リービーは述べています。彼女はさらに,「屋外の気温が32度を超えているのなら,その時間を1時間にしてください」と言っています。
保存する前に……
適切な容器を使ってください。温かい食物を小さな容器に分けて入れれば,冷蔵庫の中ですぐに冷えるでしょう。容器の周りに空気循環のスペースを残しておけば,冷蔵庫や冷凍庫の温度は上がりません。相互の汚染を防ぐためにすべての容器にふたをしましょう。
冷蔵庫を点検してください。冷凍庫の温度は零下18度以上に上げてはなりません。冷蔵庫の温度の上限は4度です。肉や鳥肉は冷凍庫で数か月保存できますが,冷蔵庫では数日で腐り出すことがあります。卵は3週間以内に使用してください。卵が割れるのを防ぎ十分に冷やしておくためには,元の容器に入れ,冷蔵庫のドアの裏側にある卵立てにではなく,本来のスペースにしまうのが最善です。ドアの裏は冷蔵庫内で最も温度の高い場所の一つだからです。
上記の対策をすべて講じたにもかかわらず,食物の様子や臭いがおかしければ,捨ててください。食物が媒介する病気が大事に至ることはまれですが,ある場合には,特に子供やお年寄り,それに免疫系に障害を持つ人の命を奪うことがあります。b
数千年前のこと,神はノアに対して,「すべての動物や鳥や魚,……そのすべてを食物としてあなたに与える」と言われました。(創世記 9:2,3,「今日の英語訳」)屠殺を行なう生産ラインや集中加工システム,さらには大規模な分配システムが相まって,上記の言葉に対する不穏な警告が発せられています。ですから,消費者として自分の分を果たしてください。食物を購入したり調理したり保存したりする際には,注意深くありましょう。
[脚注]
a 「目ざめよ!」誌,1993年12月8日号,28ページをご覧ください。
b 万一,食物が媒介する病気にかかったなら,十分に休息を取り,ジュースやスープや気の抜けたソーダ水などを飲んでください。神経に症状が現われたり,発熱やめまい,嘔吐や血便,激痛が持続したりするなら,もしくは,あなたが危険性の高いグループに含まれているなら,医師に診察してもらうのが得策かもしれません。
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家の外で食べる時
ピクニック。断熱性に富むクーラーボックスに氷を詰めて使ってください。それを車のトランクでなく座席に置いておくのが最善かもしれません。ピクニックの食事の時には,クーラーボックスのふたを閉めて日陰に置いてください。生の食品はすべて他の食品と別にしてください。部分的に家で調理しておき,後に網の上で焼いて仕上げる食品は勧められません。部分的な調理によってバクテリアの繁殖が促されるからです。
レストラン。ジョナサン・エドロー博士は,「清潔そうでないレストランは避けること。客席が不潔な感じであれば,厨房も恐らく不潔である」と警告しています。実際には熱くなく,十分に調理されていない“熱い”食品はみな返却しましょう。鳥肉は,ややピンクがかっているものであっても食べてはなりません。目玉焼きは両側を十分に焼くべきです。FDAコンシューマー誌は,「黄身が柔らかければ柔らかいほど,危険も大きい」と警告しています。
サラダバー。サラダバーには異なった調理法や冷蔵法の必要な食物が混在しているので,ニューズウィーク誌(英文)によれば「微生物の完璧な運動場」になっています。サラダバーが清潔かどうかを調べ,冷やしておく必要のある食物が氷の上に載っているかを確かめてください。良い状態が保たれているサラダバーでさえ,細菌が客から客へと伝わることがあります。微生物学者のマイケル・パリッツァが述べたとおり,「ドレッシングの中に浸かっている大さじに最後にさわった人を,あなたは知らない」のです。
社交的な交わり。エドロー博士は,セルフサービスの食事の際に,主人役の人が「食物を長時間外気に触れさせるのではなく,少量をテーブルの上に置き,冷たいものや熱いものを補充しながら供給してゆく」ことを勧めています。冷たい食品は摂氏4度を超えないようにし,熱い食品は摂氏60度以下にならないようにします。後で使うために調理しておいた肉は,直ちに冷却し,運ぶ準備ができるまではそのままの状態にしておくべきです。食べる前には,もう一度よく温めることができます。
[20ページの図版]
新鮮な感じのしない食物は買わないでください
[22ページの図版]
あなたが食事をするレストランの厨房は清潔ですか