14章
「全員一致で決定しました」
統治体が決定を下し,クリスチャンたちの心が一つになる
1,2. (ア)1世紀の統治体はどんな大事な問題を検討していましたか。(イ)結論を出すためにどんなことが役立ちましたか。
どうやらついに結論が出そうです。集まった使徒や長老たちは顔を見合わせ,いよいよ大きな決定が下されるのを感じます。割礼の件で,大事な問題が浮かび上がっていました。クリスチャンはモーセの律法を守らなければいけないのでしょうか。ユダヤ人と異国人は区別されるべきなのでしょうか。
2 使徒や長老たちは幾つもの事実を検討しました。神の預言の言葉を確認し,神の力が働いているのを感じた体験談も聞きました。みんなが自由に意見を出し合いました。証拠は十分に出そろっています。エホバの聖なる力が示している方向は明らかです。兄弟たちはそちらに進むでしょうか。
3. 使徒 15章からどんなことを学べますか。
3 聖なる力の流れに合わせるには,かなりの信仰と勇気が必要でした。ユダヤ人の宗教指導者からより大きな反感を買うことになります。会衆内のモーセの律法にこだわる人たちからの反発に遭うかもしれません。統治体の兄弟たちはどうするでしょうか。現代の統治体はその兄弟たちの手本に倣っています。クリスチャンみんなにとっても,何かの決定をしたり問題にぶつかったりしたときにぜひ見習いたい手本です。
「預言者の言葉はこのことと一致しています」(使徒 15:13-21)
4,5. ヤコブはどんな預言の言葉を引き合いに出しましたか。
4 イエスの弟ヤコブが話します。a ヤコブはこの会合の司会者だったようです。ヤコブは,話し合いの結論と思われる点を言葉にしていきます。みんなにこう言います。「シメオンは,神が初めて異国の人々に注意を向けて,その中からご自分の名のための民を取り出した次第を十分に話してくれました。預言者の言葉はこのことと一致しています」。(使徒 15:14,15)
5 シメオン(シモン・ペテロ)の体験談や,バルナバとパウロの話を聞いて,ヤコブは関係のある聖句を思い出したようです。(ヨハ 14:26)「預言者の言葉はこのことと一致しています」と言ってから,アモス 9章11,12節の言葉を引用します。アモス書はヘブライ語聖書中の「預言者」と呼ばれていた部分に含まれています。(マタ 22:40。使徒 15:16-18)ヤコブが引用したアモスの言葉は,今のアモス書の言い回しといくらか異なっています。ヤコブは,セプトゥアギンタ訳(ヘブライ語聖書をギリシャ語に翻訳したもの)から引用したようです。
6. 聖書によってどんなことがはっきりしましたか。
6 エホバは預言者アモスを通して,「ダビデの天幕」(ダビデの家系を継いだ王朝)を建てる時が来る,と預言していました。メシア王国の誕生を示唆していたわけです。(エゼ 21:26,27)エホバは再び,ユダヤ国民だけと特別に関わるのでしょうか。いいえ,そうではありません。アモスの預言には,「全ての国の人々」が集められ,「[神]の名で呼ばれる」とありました。ペテロもこう言ったばかりでした。「[神は]私たち[ユダヤ人のクリスチャン]とその人たち[異国人のクリスチャン]との間に何の差別も設けず,彼らの心を信仰のゆえに清めました」。(使徒 15:9)ユダヤ人も異国人も同じく神の王国で王になれると神は考えている,ということです。(ロマ 8:17。エフェ 2:17-19)異国人のクリスチャンは割礼を受けたりユダヤ人と同化したりしなければ王になれない,という預言は聖書のどこにもありませんでした。
7,8. (ア)ヤコブはどんなことを提案しましたか。(イ)ヤコブは独断で決定しようとしていましたか。
7 聖句を確認し,説得力のある証言を聞いたヤコブは確信を深め,こう提案します。「ですから,私の決定は,神を崇拝するようになる異国の人々を煩わさず,偶像によって汚された物と性的不道徳と絞め殺された動物と血を避けるよう書き送ることです。モーセの書は安息日ごとに会堂で朗読されていて,それを教える人が昔からどの町にもいます」。(使徒 15:19-21)
8 「ですから,私の決定は……です」と言ったヤコブは,司会者として勝手に話を進め,独断で決定しようとしていたのでしょうか。そんなことはありません。「私の決定は……です」と訳されるギリシャ語の表現には,「私は……と判断します」や「私は……という意見です」という意味もあります。ヤコブはみんなを威圧して従わせようとしていたわけではありません。挙げられた証拠や聖句に基づいて,どうするとよいかを提案していました。
9. ヤコブの提案にはどんな利点がありましたか。
9 ヤコブの提案が妥当なものだったので,使徒や長老たちはそれを採用しました。その提案はまず,異国人のクリスチャンたちを「煩わさ」ない(新国際訳[英語]では,「困らせ」ない)ものでした。モーセの律法に縛られなくてよくなるからです。(使徒 15:19)また,ユダヤ人の気持ちにも配慮した提案でした。ユダヤ人たちは,「モーセの書[が]安息日ごとに会堂で朗読され」るのを長年聞いていたからです。b (使徒 15:21)この提案の通りにすれば,ユダヤ人と異国人のクリスチャンの間に絆が生まれるはずです。何より,エホバの考えと合っていたので,エホバに喜んでもらえる提案でした。いっときは会衆がばらばらになりそうでしたが,見事に問題を乗り越えることができました。現代のクリスチャンも見習いたい素晴らしい手本です。
10. 現代の統治体は,1世紀の統治体にどのように倣っていますか。
10 前の章でも見たように,現代のエホバの証人の統治体も,いつでも最高主権者エホバと,会衆のリーダー,イエス・キリストに頼り,導いてもらおうとします。c (コリ一 11:3)どのようにそうするのでしょうか。1974年から統治体で奉仕し,2006年3月に亡くなったアルバート・D・シュローダーはこう言っています。「水曜日の統治体の会合は,エホバの聖なる力に導いてもらえるよう,祈りで始めます。一つ一つの話し合いや決定が神の言葉 聖書に沿っているかどうか,真剣に確かめます」。また,2003年3月に亡くなるまで統治体で長年奉仕したミルトン・G・ヘンシェルは,ものみの塔ギレアデ聖書学校の第101期卒業生に,こう問い掛けました。「統治体は重要な決定をするとき,必ず神の言葉 聖書を確かめます。そういう人たちが物事を決めるグループが果たしてほかにあるでしょうか」。答えは言うまでもありません。
「選んだ人たちを……遣わす」(使徒 15:22-29)
11. 統治体の決定はどのように各会衆に伝えられましたか。
11 エルサレムの統治体は,割礼の件で全員一致の決定をしました。では,その決定を各会衆の兄弟たちにどう伝えるとよいでしょうか。みんなに受け入れてもらえるよう,前向きなトーンで分かりやすく伝えることが大切です。どうしたかがこう記録されています。「使徒や長老たちは会衆全体と共に,自分たちの中から選んだ人たちをパウロとバルナバと一緒にアンティオキアに遣わすことに決めた。バルサバと呼ばれるユダとシラスであり,兄弟たちの中で大きな責任を担っている人たちだった」。さらに,手紙を作成してその人たちに託し,アンティオキア,シリア地方,キリキア地方の全ての会衆で読まれるようにしました。(使徒 15:22-26)
12,13. (ア)ユダとシラスを遣わしたのが良い判断だったといえるのはどうしてですか。(イ)統治体の手紙によってどんなことが伝えられましたか。
12 ユダとシラスは「兄弟たちの中で大きな責任を担っている人たち」で,統治体の代わりに決定を伝えるのに適任でした。統治体に遣わされた人がやって来れば,会衆の人たちは,話されることが統治体からの明確な指示だと理解したでしょう。相談した事への回答をただ伝えに来ただけ,とは思わなかったはずです。また,その人たちが現地に赴けば,エルサレムのユダヤ人のクリスチャンと,各会衆の異国人のクリスチャンとの間の距離が縮まるでしょう。これは,配慮の行き届いた,とても親切なやり方でした。きっとクリスチャンたちみんなの心が一つになるはずです。
13 手紙によって,異国人のクリスチャンに明確な指示が与えられました。割礼についてだけでなく,エホバに喜ばれるために必要なほかの事柄についても,はっきりとした指示がありました。手紙にはこうありました。「聖なる力によって私たちは,次の必要な事柄以外,皆さんに何の重荷も加えないのがよいと考えたからです。すなわち,偶像に犠牲として捧げられた物,血,絞め殺された動物,性的不道徳を避けていることです。これらのものから注意深く身を守っていれば,皆さんは穏やかに暮らせます。健やかにお過ごしください」。(使徒 15:28,29)
14. 分断が進んだ世の中で,エホバの証人が一致団結しているのはどうしてですか。
14 現在,800万人を超えるエホバの証人が世界各地の10万以上の会衆で奉仕しています。みんなが心を一つにして同じ活動をしています。分断が進んだこの世の中で,どうしてそんなことが可能なのでしょうか。1つには,会衆のリーダー,イエス・キリストが「忠実で思慮深い奴隷」(統治体のこと)を通して,明確な指示を与えているからです。(マタ 24:45-47)また,世界中の兄弟たちが統治体の指示に喜んで協力しているからです。
「人々は……励ましの言葉を喜んだ」(使徒 15:30-35)
15,16. 割礼の件はどんな解決を見ましたか。良い結末になったのはどうしてですか。
15 エルサレムを出発した兄弟たちは,アンティオキアに着くと,「皆を集めて手紙を渡し」ます。アンティオキアの兄弟たちは,統治体の指示をどう受け止めたでしょうか。「人々は[手紙]を読んで,励ましの言葉を喜んだ」とあります。(使徒 15:30,31)それからユダとシラスは,「何度も話をして兄弟たちを励まし,力づけ」ました。2人が「預言者」と呼ばれているのはそのためです。「預言者」は,神の考えを広めたり知らせたりする人を指します。バルナバやパウロなどもそう呼ばれています。(使徒 13:1; 15:32。出 7:1,2)
16 こうして,エホバからの後押しがあり,順調に物事が進みました。とても気持ちの良い解決でした。良い結末になったのはどうしてでしょうか。統治体がぴったりのタイミングで明確な指示を出しました。その指示は神の言葉に基づいていて,聖なる力に導かれたものでした。そして,配慮の行き届いた方法で指示が各会衆に伝えられました。
17. 巡回監督がしていることは,1世紀に行われたこととどのように似ていますか。
17 1世紀のクリスチャンに倣って,エホバの証人の統治体も世界中の兄弟たちに,その時々で必要な指示を与えます。明確な指示をはっきり分かるように各会衆に伝えます。例えば,巡回監督を通してそうします。巡回監督は各会衆を回り,明確な指示を伝え,温かい言葉を掛けます。パウロとバルナバのように宣教にたくさん時間を使い,「ほかの多くの人と一緒にエホバの言葉の良い知らせを広め」ます。(使徒 15:35)ユダとシラスのように,「何度も話をして兄弟たちを励まし,力づけ」ます。
18. エホバに後押ししてもらうためには何が欠かせませんか。
18 会衆としてはどうでしょうか。分断が進んだ世の中とは異なり,みんなで心を一つにするために,どんなことを覚えておくとよいでしょうか。ヤコブはしばらく後にこう書いています。「天からの知恵を持つ人は,第一に清く,次いで平和を求め,分別があり,進んで従い[ます]。さらに,正しさの実は,平和をつくり出している人たちのために,平和な状態の中でまかれた種から生じます」。(ヤコ 3:17,18)こう書いたヤコブが,エルサレムでの話し合いのことを思い出していたかどうかは分かりません。でも,使徒 15章の出来事から,みんなが一致協力して初めてエホバからの後押しがある,ということが分かります。ヤコブが書いた通りです。
19,20. (ア)アンティオキアの会衆の人たちの心が一つになっていたのは,どんなことから分かりますか。(イ)パウロとバルナバは再びどんなことに打ち込めるようになりましたか。
19 アンティオキアの会衆の人たちの心は一つになっていました。エルサレムから来た兄弟たちに反発したりせず,訪問してくれたことに感謝しました。こう書かれています。「2人はそこでしばらく過ごした後,兄弟たちから温かく見送られ,自分たちを遣わした人々のもと[つまり,エルサレム]に戻っていった」。d (使徒 15:33)エルサレムの兄弟たちも,戻ってきた2人から良い報告を聞いて喜んだはずです。エホバの惜しみない親切のおかげで,全てうまくいきました。
20 パウロとバルナバはアンティオキアにとどまります。再び,先頭に立って良い知らせの伝道に打ち込めそうです。現代の巡回監督も会衆を訪問する時,そうします。私たちはそういう姿勢を見ると,自分も頑張ろうと思います。(使徒 13:2,3)パウロとバルナバがこの後どのように活躍することをエホバは願っているでしょうか。次の章で見てみましょう。
b ヤコブが「モーセの書」に触れたことには大きな意味がありました。「モーセの書」には律法以外のことも書かれていたからです。律法より前の時代に神がどんなことをしたか,どんな考えを持っていたかをそこから読み取れます。例えば,血,姦淫,偶像崇拝をどう見ていたかが創世記からよく分かります。(創 9:3,4; 20:2-9; 35:2,4)エホバは,ユダヤ人か異国人かを問わず,全ての人に関わる行動指針を明らかにしていたわけです。
c 「統治体と6つの委員会」という囲みを参照。
d シラスがアンティオキアにとどまることにしたという趣旨の言葉が34節に入っている聖書翻訳もあります。(ジェームズ王欽定訳[英語])とはいえ,それは後代の加筆と思われます。