エホバの証者が困難な状態下で働く国々からの報告
(1963年のエホバの証者の年鑑より)
ポーランド
クリスチャンには互いに集まり合う命令があります。この命令に従って兄弟の家で行なわれる集まりに警官の来ることがあります。普通,こうした警官が来るのは,エホバの証者に敵意を抱く近所の人の知らせによります。そんな場合,一人一人に身分証明書の提示が求められ,遠くから来ている人がいなければ,警官はそこに巡回の僕はいないと見なして帰って行きます。警察は巡回の僕を探しているのです。しかし,エホバの証者に対し良い印象を持っている警官もあります。最近の事,ある警官は謝罪の気持を表わしながら,「わざわざ他の人からの通報があるので,やむなく見に来なければならないのです」と言いました。こんな場合伝道者が逮捕されることはありませんが,家を提供している人は時に簡単な裁判に付され,9000円位の罰金を科せられます。ポーランドにおいてこの額は約2ヵ月分の収入に相当します。
今年も未割当の区域で多くの伝道がなされました。普通はバスを1台借りて行きます。朝早く出発し,予め予定した所にバスを止め,附近一帯をまわります。他の人と一緒に働けば力づけられますから,この活動は弱い人たちが奉仕に参加する良い機会にもなります。
このような伝道者のグループがある警察署の前を通った時,警官はただちょっとうなずいて見せただけでした。「おお,空襲に来たぞ」と言った人もありました。あるグループは全部で1100軒の家を訪ね,そのなかから,特に関心を抱く人40人を見つけました。今年の活動によっても,新しい奉仕の中心地がいくつも成長するでしょう。そして,未割当の区域である事を示す地図上の白いしるしはさらに減ってゆくでしょう。
色んな種類の人々に真理の音信が達しています。16歳になる一人の少年はおじさんと共にある村に住んでいました。この子供は母を亡くし,養母とも死に分かれて,自分の家庭がありませんでした。ある伝道者がその村で働いた時,この少年に会いました。少年はおじさんに警戒しながら勉強しなければなりませんでしたが,伝道者が住んでいるところを探し,自分の沢山の疑問に答を得ようと訪ねて来ました。今この少年は兄弟たちと定期的に勉強し,自分自身も良いたよりの伝道者になることを目指しています。
10歳になる二人の女の子は,音信をたずさえて家から家の伝道に参加しました。一人の人はそれを見て非常に腹を立て,二人の前で玄関の戸を閉めてしまいました。その妻はどうしてそんなに不親切な仕うちをするのですかと夫にたずね,同じ年頃の自分の娘の手を引いて,二人をさがしに外に出ました。二人はまだ,家の通路に立っていました。二人の小さな姉妹は近づいてきた婦人が何しに来たのか分からなかったので,ちょっと緊張したたたずまいになりました。ところが女の子の一人が婦人に向かって言いました。「かわいらしいお子さんですね」。この簡単で,親しみのある言葉によってその場の雰囲気はかわり,二人は家の中に招き入れられ,ゆっくり証言できました。二人は兄弟に再訪問をたのみ,その結果,今この家族は喜んで家庭聖書研究を続けています。
一人の伝道者はカトリックの一婦人に聖書を配布しました。婦人は非常に喜び,クリスマスの朝には,その聖書をテーブルの上に置いておきました。村人をまわって来る司祭が聖書を見てなにか言ってくれるだろうと思ったからです。ところが,司祭は聖書を見つけるなり,床の上に投げつけ,その上足でけりつけました。そんなことを考えもしなかった婦人はすっかり驚いてしまいました。婦人は司祭にその場を引きさがる事を求め,それ以来,聖書を配布した伝道者の助けを得てする聖書の研究にいっそうの努力を注ぐようになりました。数ヵ月もするうちに,婦人はエホバに献身する心の準備をすっかりととのえ,それとともにバプテスマを受けました。このように,司祭が聖書に嘲笑的な態度をとった事が,かえって助けとなり,この婦人はエホバの側に自分の立場をはっきりと定めました。
エホバの証者の間に見られる一致とお互いに対する愛情とは,外部の人たちに対し強い印象を与え,証者が真のクリスチャンとして生活していることを多くの人々に知せます。蔵書の中にエホバの証者の出版物を持っていたとの理由で一人の兄弟は逮捕されました。ちょうど秋の取り入れの時期で,この兄弟も自分の農場の仕事をしなければならぬ立場にありました。しかし,周囲の人々が驚いたことにも,その週の土曜日には,35人の人が来て兄弟の農場で働き,日曜日の朝,人々が教会に行くころには50人もの伝道者が来て収穫物のとり入れのために働いており,その日の昼ごろまでに,仕事は全部終わっていました。司祭もこれこそ愛の模範であると語り,教区民に「なぜ我々の場合はこのようでないのか」と問いかけました。
この奉仕年度中にも,逮捕され,服役を命ぜられた伝道者はかなりありました。敵対する者たちは,先に自ら述べた言葉,すなわち,「やがて証者を消し去る」をなし遂げようと努めたに違いありません。一人の兄弟は当局者に宛てた手紙の中でこう書きました。「私たちは命をねらわれた獲物のごとく狩り立てられ,しかもこの場合には禁猟期さえありません」。明日を保証されているエホバの証者は一人もありません。国家に危険な者のごとく見なされ,いつなんどき,逮捕され,法廷に引き出されるか分からないからです。
昨奉仕年度中に法廷で裁判に付された者は,兵役拒否による場合を別にしても140人でした。そのうち11人は放免されましたが,すでに,約100の宣告が言い渡されています。