12. パウロは相手に合わせてどんな工夫をしましたか。
12 パウロは相手との共通点をベースに話し始めました。では,その後も相手に合わせて話していったでしょうか。相手はギリシャ哲学を学んでいて,聖書については知らない人たちでした。そのことを踏まえて,パウロは3つの工夫をしました。1つ目に,聖書から引用することはせずに,聖書の教えを伝えました。2つ目に,要所要所で「私たち」と言い,聞き手と同じ視点に立って一緒に考えました。3つ目に,自分が教えているのと同じことがギリシャ文学にも出てくることを指摘しました。では,パウロの説得力のある話を分析してみましょう。アテネの人たちがまだよく知らない神について,パウロはどんなことを伝えたでしょうか。
13. 宇宙の起源についてパウロはどんなことを話しましたか。パウロが言いたかったのはどんなことでしたか。
13 神は宇宙の全てを造った。「世界とその中の全ての物を造った神は,天地の主ですから,人が造った神殿などには住[みません]」と,パウロは言いました。 (使徒 17:24)宇宙は偶然に存在するようになったわけではありません。全ての物は神が造りました。(詩 146:6)アテナなどの神々は,神殿や礼拝堂や祭壇があって初めて褒めたたえられますが,天と地を造った神は違います。人間が建てた神殿で暮らすはずがありません。(王一 8:27)本当の神は,人間が建てた神殿にある,人間が作った偶像よりはるかに偉大です。パウロが言いたかったのはそういうことでした。(イザ 40:18-26)
14. 神は人間に助けてもらう必要がないことを,パウロはどのように説明しましたか。
14 神は人間に助けてもらう必要はない。偶像を崇拝する人たちは,偶像に派手な衣装を着せ,高価な供え物をし,食べ物や飲み物を捧げました。まるで偶像がそういう物を必要としているかのようでした。でも,聞いていたギリシャの哲学者の中には,神は人間に助けてもらう必要はないと考える人もいたかもしれません。そういう人は,「[神は]人間に世話してもらう必要もありません」というパウロの言葉に同意したはずです。神は全ての物を造ったので,人間から何かをもらう必要がないのは当然です。神が人間に「命と息」を与えています。太陽や雨,豊かな大地など,人間が生きるのに必要な「全ての物」も与えています。(使徒 17:25。創 2:7)人間が神に助けてもらう必要があるのであって,神が人間に助けてもらう必要はありません。
15. ギリシャ人であることに優越感を持っていた人たちに,パウロはどう話しましたか。パウロにどのように倣えますか。
15 神は1人の人から全ての人を造った。アテネのギリシャ人たちは,自分たちがほかの人種より優れていると思っていました。でも,聖書によれば,国籍や人種で優越感を持ってよい理由はどこにもありません。(申 10:17)こういう問題は感情が絡みやすいものです。でも,パウロは上手に話します。「[神は]1人の人から全ての国の人を造っ……た」と言い,相手に考えてもらいました。(使徒 17:26)そうやって創世記に出てくるアダムを引き合いに出し,アダムが全ての人間の先祖であることを指摘しました。(創 1:26-28)人類がみんな1人の人の子孫であるなら,どの人種や国籍の人も,別の人種や国籍の人より優れているとは言えません。聞いていた人たちは,パウロの言いたいことがよく分かったはずです。私たちもパウロに倣いたいと思います。相手が受け入れやすいように話しますが,聖書の教えをゆがめたり曖昧にしたりはしません。
16. 神は人間にどう生きてほしいと思っていますか。
16 神は人間に,自分のことを知ってもらいたいと思っている。アテネの哲学者たちは長年,人間が生きる意味について議論していました。でも,答えはなかなか見つかりませんでした。そこでパウロは,神が人間にどう生きてほしいと思っているかを話します。神が人間を造ったのは,「人々が神を知ろうとするため」,「神を探し求めて本当に見つけるため」です。「実のところ神は,私たち一人一人から遠く離れてはいません」。(使徒 17:27)アテネの人たちが崇拝していた「知られていない神」は,知ることのできない神では決してありません。本当に知りたいと思ってよく学べば,必ず知ることができます。(詩 145:18)パウロは「私たち」と言いました。自分も「神を知ろうと」し,「神を探し求め」なければいけない,ということを伝えたかったのです。
17,18. 人間は神と親しくなれるとどうしていえますか。パウロの教え方からどんなことを学べますか。
17 人間は神と親しくなれる。「私たちは神によって命を持ち,動き,存在しています」とパウロは言いました。ここでパウロはエピメニデスの言葉にそれとなく触れていた,と言う学者もいます。エピメニデスは紀元前6世紀のクレタの詩人で,「アテネの宗教的な伝統における重要人物」でした。パウロは,人間は神と親しくなれるということを分かってもらうため,さらにこう言います。「皆さんの詩人の中にも,『われわれもその子供である』と言っている人たちがいます」。(使徒 17:28)神は1人の人を造り,人間はみんなその人の子孫なので,人間は誰もが神の子供といえます。そのことを納得してもらえるよう,パウロはギリシャの詩人の言葉を引用しました。それは当時の人たちに評価されていた詩だったと思われます。 パウロのように,私たちも時には,歴史書や百科事典など権威のある文献から引用することができます。例えば,間違った宗教的な習慣や祝いの起源について,そういう資料を使って説明できるかもしれません。
18 このようにしてパウロは,聞き手に合わせて言葉を選びながら,神について大事なことを伝えました。では,それを知った上でどうすることが大切でしょうか。パウロは次にそのことを話します。