調査の仕方
ソロモン王は,『多くの箴言をまとめるために,熟考し,徹底的に調べ』ました。なぜなら,「真実の正確な言葉」を書き記すことに関心を抱いていたからです。(伝 12:9,10)ルカは,キリストの生涯における出来事を論理的な順序で述べるため,「すべてのことについて始めから正確にそのあとをたどり」ました。(ルカ 1:3)これら神の僕はいずれも,調査を行ないました。
調査とは何でしょうか。それは,ある特定の事柄について情報を得るために注意深く調べることです。それには読むことが伴い,研究に関する種々の原則を当てはめることが求められます。また,人々に質問して答えてもらうことが必要な場合もあります。
どんなときに調査が必要になるでしょうか。二,三の例を挙げれば,個人研究や聖書通読をしていて自分にとって重要な質問が生じたとき,自分が証言した人の質問に答えるため明確な情報が欲しいとき,また,話の割り当てを受けたときなどでしょう。
ここに挙げた,話をするという割り当てについて考えてみましょう。扱うべき資料は,かなり一般的なものに感じられるかもしれません。どのように地元に当てはめることができるでしょうか。調査を行なって内容を充実させてください。当たり前と思えた点も,一,二の統計や,資料にかなった,しかも聴いている人たちの生活によくあるような実例を裏づけとして挙げれば,情報に富み,意欲を高めさせるものともなるでしょう。取り上げている資料が全世界の読者を対象に準備されたものであっても,要点を敷衍し,例証し,一つの会衆あるいは一人の人に適用できるものにする必要があります。どのようにしたらよいでしょうか。
急いで情報探しに取りかかる前に,自分の聴衆について考えてみてください。聴衆はすでにどんなことを知っているでしょうか。何を知る必要があるでしょうか。次に,話の目指すところを見定めてください。説明する話ですか。確信を与える話ですか。論駁する話ですか。それとも,意欲を起こさせる話でしょうか。説明するには,物事をはっきりさせるためにさらに多くの情報を提供しなければなりません。基本的な点は理解されているとしても,言明する事柄をいつ,どのように行なうかについて,詳しく述べる必要があるかもしれません。確信を与えるには,証拠を提出することも含め,ある事がなぜそうなのかについて理由を示すことが必要です。論駁するには,一つの争点について双方の見解を十分に知ると共に,挙げられている証拠を注意深く分析しなければなりません。もちろんわたしたちは,単なる強力な論議ではなく,物事を親切に提示する方法を求めます。意欲を起こさせるには,心を動かす必要があります。つまり,聴衆に刺激を与え,論じられている事柄に基づいて行動したい,という気持ちを抱かせることです。困難に直面してもなおそのように行動した人の実例は,心を動かすのに役立ちます。
ではこれで,始めることができますか。いいえ,まだです。どれほどの情報が必要かを考えてください。時間が重要な要素となるかもしれません。その情報を他の人に伝える場合,そうするのにどれほどの時間を使えるでしょうか。5分ですか。45分ですか。持ち時間は,会衆の集会の場合のように,決められていますか。それとも,聖書研究や牧羊訪問の場合のように,融通を利かせられますか。
最後の点として,調査のためにどんな道具が使えるでしょうか。自宅にあるもののほかに,王国会館の図書棚にはもっと多くのものがあるでしょうか。長年エホバに仕えてきた兄弟たちにお願いすれば,調査用の道具を快く使わせてくださるでしょうか。あなたの地域には公共の図書館があって,必要な場合に参考書を使えますか。
最も重要な道具である聖書を使う
調査する事柄に聖句の意味が関係しているのであれば,まず聖書そのものから始めてください。
文脈を調べる。こう自問しましょう。『この聖句の言葉はだれに対して語られたものだろうか。前後の節は,こう述べられるに至った事情,あるいは関係している人々の態度について,何を示しているだろうか』。そのような詳しい点を知ることは,多くの場合,聖句を理解する助けになり,その聖句を使う話も生気のあるものとなります。
たとえば,ヘブライ 4章12節は,心に響き,生活に影響する,神の言葉の力を示すためにしばしば引用されます。文脈を考えると,どうしてそう言えるのかについて認識が深まります。その部分では,エホバがアブラハムに約束しておられた土地にイスラエルが入る前の,荒野で40年を過ごした時の経験が取り上げられています。(ヘブ 3:7–4:13)「神の言葉」,すなわち,アブラハムとの契約どおりこの民を休みの場所に携え入れるという神の約束は,廃れてはいませんでした。生きていて,成就へと向かっていたのです。イスラエル人には,その約束に対する信仰を示すべき理由がそろっていました。しかし,エホバがエジプトからシナイ山へ,次いで約束の地へと導いておられた時,彼らは繰り返し信仰の欠如を示しました。こうして,み言葉を遂行する神の方法に対する反応の仕方で,民の心の内があらわになりました。今日でも同様に,神の約束の言葉は人の心の内をはっきり見えるようにします。
相互参照を調べる。相互参照の付いた聖書があります。あなたの聖書にも付いていますか。そうであれば,それが役立つかもしれません。「新世界訳聖書」から一つの例を取り上げましょう。ペテロ第一 3章6節は,クリスチャンである妻の見倣うに値する模範としてサラを挙げています。相互参照聖句の創世記 18章12節はその裏づけとして,サラがアブラハムを「自分のうちで」主と呼んでいたことを明らかにしています。ですから,サラの柔順は心からのものだったのです。相互参照を調べれば,そのような洞察が得られるだけでなく,聖書預言の成就や,律法契約で型となっていた事柄の成就を示す聖句にたどり着くかもしれません。しかし次の点も覚えておきましょう。中には,そのような説明を意図していない相互参照もあります。単に,類似している考えや伝記的または地理的情報に言及しているだけの場合もあります。
聖書用語索引で調査する。聖書用語索引は,聖書で使われている言葉をアルファベット順もしくは五十音順に挙げた索引です。これは,調査中の論題と関係のある聖句を見つけるのに役立ちます。それらの聖句を探ってゆけば,参考になる他の詳細な点も知ることができます。神の言葉にある真理の「型」を示すものを見ることもできます。(テモ二 1:13)「新世界訳」には,基本的な語を挙げた「聖書語句索引」が載せられています。「総合語句索引」(英語)は,さらに詳細にわたる索引です。聖書中の主立った語句一つ一つについて,それを含む聖句すべてを知ることができます。
調査用の他の道具の使い方を学ぶ
33ページの囲みには,「忠実で思慮深い奴隷」が提供してきた調査用の他の幾つかの道具が挙げられています。(マタ 24:45-47)その多くには目次があり,巻末には特定の情報を見つけるための索引が付いているものが少なくありません。毎年の終わりには,「ものみの塔」誌にも「目ざめよ!」誌にも,1年間に掲載された記事の題目索引が載せられます。
これら聖書研究用の出版物の中にどんな種類の情報が提供されているかに精通すれば,調査は手早く行なえます。たとえば,預言,教理,クリスチャンとしての振る舞い,聖書の原則の適用法について知りたいとしましょう。その種の情報は,「ものみの塔」誌にあると思われます。「目ざめよ!」誌は,昨今の出来事,時事問題,宗教,科学,様々な国や地域の人々などを扱っています。福音書のそれぞれの記述を年代順に並べ,それに説明を加えたものは,「これまでに生存した最も偉大な人」にあります。聖書中の一つの書全体の節ごとの注釈は,「啓示の書 ― その壮大な最高潮は近い!」,「ダニエルの預言に注意を払いなさい」,2巻から成る「イザヤの預言 ― 全人類のための光」などの出版物に見いだせます。「聖書から論じる」には,野外奉仕でよく提起される,聖書に関連した幾百という質問に対する,納得のゆく答えがあります。他の様々な宗教,その教えや歴史的背景などをより明確に理解するには,「神を探求する人類の歩み」をご覧ください。エホバの証人の現代史に関する詳細な記述は,「エホバの証人 ― 神の王国をふれ告げる人々」に収められています。良いたよりを宣べ伝える世界的な業の現在の進展に関しては,最新の「エホバの証人の年鑑」を調べてください。「聖書に対する洞察」は,聖書の百科事典および地図帳<アトラス>です。聖書に関連のある人々や場所,事物,言語,歴史上の出来事などについて詳細を知りたい場合,これは優れた情報源となります。
「ものみの塔出版物索引」。この「索引」は20余りの言語で出版されており,これを使えばわたしたちの多様な出版物の中から情報を探し出すことができます。その中は,事項索引と聖句索引に分かれています。事項索引を使うには,詳しく調べたい事柄のかぎとなる語句を探します。聖句索引を使うには,理解を深めたいと思う聖句を,列挙されている中から探します。「索引」が扱っている何年かの期間に,その事項もしくは聖句に関してその言語で何か掲載されていれば,参考資料のリストが見つかるはずです。挙げられている出版物名の略号を理解するために,「索引」の初めの部分にある略称の一覧表を参照してください。(これを参考にすれば,たとえば,塔99 3/1 15とは,「ものみの塔」誌,1999年3月1日号,15ページであることが分かります。)「野外宣教の経験」とか「エホバの証人のライフ・ストーリー」といった主な見出しは,会衆の意欲を高める話を準備するのに有用です。
調査は熱中させる面があるので,脇道にそれないよう注意しましょう。当面の課題に必要な資料を探すという目標に注意を集中しましょう。「索引」がどれかの情報源を指し示しているなら,そこに参照されているページを開き,副見出しや幾つかの節の冒頭にある二,三の文を読んで,必要にかなった資料を見つけます。聖書の特定の節の意味を探求しているのであれば,指し示されているページのどこにその聖句があるかをまず探しましょう。そのあとで,周囲の注解を調べます。
CD-ROMの“Watchtower Library<ワッチタワー ライブラリー>”。コンピューターを利用できる人は,CD-ROMのWatchtower Libraryから益を得られます。これには,膨大な量の出版物が収められています。使いやすい検索プログラムが組み込まれているので,そこに収められているどの出版物についても,その中の単語,語の組み合わせ,あるいは引照聖句を探すことができます。この調査の道具が自国語で利用できないとしても,広く使われていて,あなたの読める言語の版から益を得られるかもしれません。
他の神権的な図書
パウロは,霊感のもとに書いた,テモテへの第二の手紙の中で,ローマにいる自分のところに「巻き物,特に羊皮紙のもの」を持って来てくれるよう若いテモテに頼みました。(テモ二 4:13)パウロはある特定の書物を高く評価し,自分の手元に置きました。あなたも同じようにすることができます。あなたは,「ものみの塔」誌,「目ざめよ!」誌,「王国宣教」などの個人用のものを,会衆の集会で扱われた後も保管していますか。もしそうなら,自分の持つ他のクリスチャン出版物と併せて,それらを調査の道具として備えておけるでしょう。大抵どの会衆にも,王国会館の図書棚に神権的な出版物がそろっています。それらは,会衆全体のためのもので,王国会館にいる時に使うためのものです。
個人用ファイルを保つ
話したり教えたりする際に使える,興味深い話題に目ざとくあってください。新聞や雑誌の中に,宣教奉仕で使えるニュースや統計あるいは実例を見つけたら,それを切り抜くか,その情報をコピーしておきましょう。その日付,刊行物の名称,できれば著者または発行者の名前も含めておきます。会衆の集会でも,聞いた論点や例えが,真理を他の人に説明するのに役立ちそうであれば,メモしておきましょう。良い例えを考えついたのにすぐに使う機会がなかった,ということはありませんか。それも書き留めて,ファイルに保管してください。神権宣教学校に入ってしばらくたっている人なら,これまでに何度か話を準備したことでしょう。それらの話の筋書きを捨てるのではなく,取っておきましょう。行なった調査は,後で役立つかもしれません。
人々に話しかける
人々は豊かな情報源です。ルカは,福音書の記述をまとめるに際して,目撃証人たちに会って多くの情報を集めたようです。(ルカ 1:1-4)仲間のクリスチャンは,あなたが調査するよう努めてきた事柄に光を当ててくれるかもしれません。エフェソス 4章8,11-16節によれば,キリストは「人々の賜物」を用い,「神の子についての正確な知識」において成長するようわたしたちを助けてくださいます。神に仕える点で経験のある人たちに質問してみれば,役に立つ考えが得られるかもしれません。人々と話してみれば,どんなことを考えているかも分かり,実際的な内容を準備できるようになります。
調査の結果を評価する
小麦を収穫したら,殻を除いて穀粒を取り出さなければなりません。あなたが調査して得た実についても同じです。使えるようにする前に,価値あるものを余分のものからえり分ける必要があります。
ある情報を話の中で使う場合は,こう自問してください。『使おうと思う点は,この論題の話に価値あるものを付与するだろうか。それとも,興味深いだけで,話すべき論題から注意をそらしてしまうだろうか』。時事問題,あるいは科学や医学など変化の激しい分野の資料を使うつもりなら,必ず最新の情報を用いてください。また,わたしたちの以前の出版物に出ている点が改められている可能性を考え,その話題に関する最新の説明について考慮してください。
一般の情報源から資料を集める場合は,特に用心する必要があります。神の言葉こそ真理である,ということを決して忘れてはなりません。(ヨハ 17:17)イエスは,神の目的の成就において重要な役割を果たします。ですから,コロサイ 2章3節は,「彼のうちには,知恵と知識とのすべての宝が注意深く秘められている」と述べています。自分が調査して得た実をその観点から評価しましょう。一般資料からの調査結果については,こう自問してください。『この資料は,誇張されたもの,推測に基づくもの,あるいは近視眼的なものではないだろうか。利己的もしくは商業主義的な動機で書かれたものではないか。他の権威筋の見解もこれと一致しているだろうか。何よりも,聖書の真理と調和しているだろうか』。
箴言 2章1-5節は,知識,理解,識別力などを,『銀を求めるように,隠された宝を求めるように』尋ね求めつづけるよう勧めています。この言葉は,骨の折れる作業と豊かな報いの両方を暗示しています。調査には努力が要りますが,そうすることは,物事に関する神のお考えを知り,間違った考えを正し,真理をしっかり把握する助けになります。また,あなたの話は内容の濃い,生気のあるものとなり,話して楽しく,聞いて喜ばしいものとなるでしょう。