9,10. クレタ島の近くでどんなことがありましたか。
9 船はクニドスからさらに西に向かう予定でしたが,「風のせいで進路を阻まれた」と,船に乗っていたルカは書いています。(使徒 27:7後半)船は本土から離れ,沿岸流を利用できなくなり,北西からの強烈な向かい風を受けて,南へ押し流されます。きっとすごい速さだったでしょう。以前にはキプロス島を風よけにして進んだことがありましたが,今回はクレタ島を風よけにすることにします。クレタ島の東端のサルモネ岬を過ぎると,風が少し穏やかになります。船が島の南側に回り,島で風がいくらか遮られたからです。みんなほっとしたことでしょう。でも,いつまでも安心してはいられません。冬が近づいていました。冬の海は非常に危険です。
10 ルカは,「やっとのことで[クレタ島の]沿岸を進み,良い港と呼ばれる場所に着いた」と書いています。島を風よけにしていても操縦に苦労したことが分かります。でも,ようやく小さな入り江に停泊場所を見つけました。海岸線が北に折れる少し手前だと思われます。ここにいつまでいるのでしょうか。「かなりの時が過ぎ」た,とルカは書いています。でも,待てば待つほど冬に近づき,航海が困難になります。9月や10月の船旅には危険が伴いました。(使徒 27:8,9)
11. パウロはどんなことを勧めましたか。しかし,どうすることになりましたか。
11 パウロは地中海を旅した経験があったので,意見を尋ねられたかもしれません。航海を続けないことを勧めます。もし続ければ,「危険な目に遭い,多くが失われます」。人の命も失われかねません。でも,船長や船主は行きたがり,ユリウスを説得します。冬の滞在に適した場所を早く見つけなければいけない,と思ったのかもしれません。大多数の人が,沿岸を進んだ所にあるフォイニクスを目指してみるべきだと考えます。そこは,冬を過ごせそうな,いくらか大きい港町だったのかもしれません。穏やかな南風が吹いてきて,一見,安全そうに思えた時に船を出発させました。(使徒 27:10-13)
12. 出港後,どんなことが起きましたか。乗組員たちはどのように切り抜けようとしましたか。
12 ところが出港して間もなく,北東から「暴風」が吹いてきます。それで,「良い港」から65㌔ほど離れた「カウダという小さな島」の近くに行って風をよけようとします。それでも,南に流されてアフリカ沖の砂州に乗り上げる危険があります。そうならないよう,乗組員たちは必死で策を講じます。まず,後ろにつながれていた小舟を引き上げます。小舟に水がたくさん入っているので,大変です。それから,船がばらばらにならないよう綱か鎖を船の下に回し,船体を縛ります。そして,索具類,帆や帆綱を降ろし,力を振り絞って船首を風に向け,嵐を切り抜けようとします。本当に恐ろしかったはずです。どんなに対策をしても,船は「嵐にひどくもまれ」続けます。3日目には,用具を海に投げ捨てます。浮力を得るためにそうしたと思われます。(使徒 27:14-19)
13. 嵐の間,船の中はどんな様子だったはずですか。
13 みんな恐怖におびえていたはずです。でもパウロたちは動じていません。パウロはイエスから,ローマで伝道することになるとはっきり言われていました。(使徒 19:21; 23:11)その後,天使も同じことを言いました。猛烈な嵐が2週間,昼も夜も続きます。雨が降り続き,厚い雲に遮られて太陽も星も見えないため,船の位置も方向も確認できません。まともな食事もできません。寒さ,雨,船酔い,恐怖のあまり,何も食べる気になりません。
14,15. (ア)パウロが,前にしたアドバイスに触れたのはどうしてですか。(イ)命が救われることをパウロがみんなに伝えたことから,私たちはどんなことを学べますか。
14 パウロは立ち上がって話し始め,出発前に航海を続けないよう勧めたことに触れます。でも,「だから言っただろ」というふうにみんなを責めているわけではありません。とはいえこうなった今,パウロのアドバイスが正しかったことは確かです。パウロが言うことには耳を傾けた方がよいのです。パウロはこう続けます。「勇気を出してください。誰も命を失いません。失われるのは船だけです」。(使徒 27:21,22)そう聞いて,みんなほっとしたことでしょう。パウロは,みんなの命が救われることをエホバから知らされていました。そのことを伝えられてうれしかったはずです。エホバが一人一人の命を大切に見ていることが分かります。「エホバは……一人も滅ぼされることなく,全ての人が悔い改めることを望んでいる」と,使徒ペテロも書いています。(ペテ二 3:9)命が救われるという希望について,私たちができるだけ多くの人に伝えることは本当に大切です。一人一人の大切な命が懸かっているからです。
15 パウロはこれまで,「神[の]約束の実現を待っている」ことについて,船の中で話してきたはずです。(使徒 26:6。コロ 1:5)船が難破しかけた今,パウロは,命が助かることを神が約束していると話します。「私が崇拝し……ている神から天使が遣わされ,昨夜,私のそばに立って,こう言いました。『パウロ,恐れることはありません。あなたはカエサルの前に立たなければなりません。神はあなたのために,船に乗っている人を皆,救ってくださいます』」。そして,こう勧めます。「それで皆さん,勇気を出してください。神がその通りにしてくださる,と私は信じています。とはいえ,私たちはどこかの島に流れ着くことでしょう」。(使徒 27:23-26)